弾道ミサイルを乱れ撃ちする北朝鮮の狙い

今日はこの話題です。
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1.弾道ミサイルを乱れ撃ちする北朝鮮


防衛省は10月1日午前6時42分ごろと午前6時58分ごろ北朝鮮の西岸付近から合わせて2発の弾道ミサイルが東の方向に発射されたと発表しました。いずれも日本のEEZ(排他的経済水域)の外側に落下したと推定され、変則的な軌道で飛行した可能性があるとのことです。

このうち1発目は、最高高度が50キロ程度、飛行距離はおよそ400キロ、2発目は最高高度が50キロ程度、飛行距離はおよそ350キロで、いずれも変則的な軌道で飛行した可能性があるとみられています。

北朝鮮は、アメリカ軍と韓国軍が9月下旬に日本海で共同訓練を行ったことなどに対して反発を強めていて、9月25日と28日、それに29日にも弾道ミサイルを発射し、この1週間で4回目の発射となります。

北朝鮮が1週間で弾道ミサイルを4回発射したのは過去に例がなく、北朝鮮による発射は巡航ミサイルも含めて今年で22回目です。

北朝鮮は今年になって、1月に7回、2月に1回、3月に3回、4月に1回、5月に4回、6月は1回、8月に1回、9月に3回の計21回、それぞれ弾道ミサイルなどの発射を繰り返しているのですけれども、この21回のうち、18回は弾道ミサイルと推定され、さらにもう1回も弾道ミサイルの可能性があるとし、残りの2回は長距離巡航ミサイルなどと推定されています。

防衛省は、引き続き情報の収集と分析を進めています。


2.日米韓の抑止力強化に反発


9月26日、北朝鮮の金星(キムソン)国連大使は、国連総会の一般討論演説で、米韓両海軍がこの日から日本海で始めた合同軍事演習を「危険極まりない行為だ……アメリカの敵視政策と軍事的な恐喝が加重されればされるほど、これを抑制する我々の力も引き続き強化される」と発言。アメリカなどに軍事力で対抗する姿勢を鮮明にしています。

一連のミサイル連続発射も日米韓の「抑止力強化」の動きに対し、不満と反発を見せつける意図があるとも見られています。

25日以降に発射されたミサイルは複数の場所から発射され、時間帯も朝や夜とバラバラなのですけれども、これについて、梨花女子大の朴元坤(パクウォンゴン)北韓学科教授は「米韓の合同軍事演習などが行われているさなかにミサイルを発射するのは極めて異例で、非常に攻撃的だ。北朝鮮は自らの核能力に自信を持ち、日米韓がいくら訓練をしても関係ないということを見せつけてきている」と指摘しています。

そして、更に遡ること9月8日、北朝鮮は最高人民会議を開いて、核兵器の使用条件を定めた法令を採択。「国家の重要戦略的対象に対する致命的な軍事的な攻撃が差し迫った場合」や「国家の存立と人民の生命安全に破局的な危機を招く事態が発生して、核兵器で対応せざるを得ない不可避な状況が生じる場合」などを使用条件として挙げ、核兵器の先制使用もちらつかせています。

北朝鮮はすでに、北東部・豊渓里(プンゲリ)の核実験場で坑道の復旧作業を終え、核実験の準備を完了させたとされ、韓国国家情報院は、10月16日の中国の党大会開幕から、11月8日のアメリカ中間選挙までに、北朝鮮が核実験を強行する可能性があると国会に報告しています。


3.変則軌道で飛翔した北朝鮮のミサイル


10月1日午前、この日発射された2発の弾道ミサイルについて、井野俊郎副防衛相が臨時記者会見を行い「当該弾道ミサイルは変則軌道で飛翔した可能性があり、飛翔距離等については以下のとおりと推定されますが、引き続き分析中であります」と明らかにしています。

冒頭発言後の記者質問では、弾道ミサイルの詳細に関する質問が集中しました。そのやり取りは次の通りです。
Q:代表して2つお伺いします。まず、今回のミサイルに関して、北朝鮮に抗議はされたのかどうかというのと。あと、今週になって4回発射というふうにおっしゃってましたが、これだけの短い間隔での発射というのは過去あったのかどうか。もし分かれば教えてください。

A:現時点において、すでに北朝鮮に対しては、北京の「大使館」ルートを通じて、すでに抗議をしているところであります。2点目の、過去の例についてでありますけども、1週間で4回という例は過去ございません。

Q:変則軌道で飛翔した可能性があるとのことでしたけれども、こちらは1発目、2発目ともにでしょうか。

A:はい、ともに。今も分析中ではありますけども、その可能性は否定できないという状況であります。

Q:韓国軍は、短距離弾道ミサイル2発と言ってますが、弾種については分析いかがでしょうか。

A:弾種についても依然、現時点において、あらゆる可能性を含めて分析中ということであります。

Q:この1週間に4回のミサイルですけども、どれも同じような高度、飛距離だと思いますけれども、それぞれの関連性だとか、あとはこうしたミサイルを連続して発射している意図をどのように分析しているかお願いいたします。

A:まず、北朝鮮の意図については、我々の方から確たること、申し上げることができないという状況であります。その上で、西岸付近から発射というところでは、共通しているところはあるのかなというふうに感じるところであります。
1日に発射された弾道ミサイルについて、井野副防衛相は二発とも変則軌道だった可能性があると述べたものの弾種については明らかにしませんでした。


4.精密誘導弾の検証実験説


今回を含む最近4回のミサイルについて、軍事ブロガーのJSF氏は、韓国軍発表のミサイル飛行性能含め次のように述べています。
韓国軍発表の北朝鮮ミサイル飛行性能(最近のもの)
泰川:9月25日朝 水平距離600km、最大高度60km、速度マッハ5
順安:9月28日夕 水平距離360km、最大高度30km、速度マッハ6
順川:9月29日夜 水平距離350km、最大高度50km、速度マッハ5
順安:10月1日朝 水平距離350km、最大高度30km、速度マッハ6
※速度と高度については若干不正確である可能性。
※9月25日のみ発射数1、他は発射数2ずつ。

最近発射されたものはどれも滑空が可能な機動式の短距離弾道ミサイルのKN-23(北朝鮮版イスカンデル)と推定されていますが、北朝鮮は4月16日に発射された新型小型SRBMを最後に公式発表によるミサイル発射の説明を行っていません。もし今日の発射についても同様ならば、北朝鮮が説明をしなくなってから発射機会9回(推定発射数24発。発射23発、失敗1発)は連続して説明無しということになります。
このように、JDF氏は最近発射されたミサイルはどれも滑空可能な機動式短距離弾道ミサイル、北朝鮮版イスカンデルだろうと推定していますけれども、北朝鮮は5月以降ミサイル発射の説明を行っていないと付け加えています。

立て続けの発射に説明もないなど、いつもの「チャーハン」とは違う感じがあるのですけれども、これについて嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、自身のYoutubeチャンネルで、技術検証には試射を重ねる必要があることから「技術検証の側面が強いのではないか」と指摘しています。

技術検証という意味では、ジャーナリストの山口敬之氏はもっとはっきりと、ロシアがウクライナにイスカンデル型の弾道ミサイルを撃ちこむための精密誘導の代理実験をしているのではないかと述べています。

なるほど、たしかにそう考えると、複数の場所から、時間帯も朝や夜とバラバラに何度も発射したというのも実験だったというのなら辻褄が合います。

また、北朝鮮が発射説明をしなかったというのは、政治的パフォーマンスの意味は薄いという意味にもなりますから、検証実験説にも合点がいきます。




5.イスカンデルによる斬首攻撃


では、ロシアの弾道ミサイル「イスカンデル」とはどのようなミサイルなのか。

イスカンデルは、ロシア陸軍が2006年に制式採用した最大射程500キロの戦術ミサイル「イスカンデルM」と、射程を280キロ以下に落とした輸出向けの「イスカンデルE」とがあります。誘導は慣性航法装置と電子光学誘導システムを併用して、移動目標の追尾も可能で、敵の司令部、車列、防空システムなどほぼすべてのターゲットを破壊できるとされています。

巡航ミサイルであるかのような複雑な軌道を描いて飛び、敵に打撃を加える前にデコイをばらまいて唯一の弾頭を敵の防空システムが破壊できないようにしているそうです。

命中率を示す円形半数必中界(複数の弾頭を同一目標に発射した場合、その半数が命中するエリアの広さ)は半径5~7メートルとされており、超高速で飛翔する弾道ミサイルとしては驚異的な精度です。

イスカンデルMは10種類もの弾頭を搭載でき、着弾すると54発の爆弾に分かれるクラスター爆弾やフガス榴弾、地中貫通爆弾、燃料気化爆弾、さらには核弾頭も含まれています。

もし、山口氏が指摘するとおり、ロシアが北朝鮮に依頼してイスカンデルの精密誘導検証の実験をしていたとするならば、かなりピンポイントに絞った攻撃を考えている可能性があります。

例えば、キエフの独立広場とか、ウクライナ軍司令部とか、一撃でウクライナの心を折るか中枢機能を破壊するといった、いわゆる斬首攻撃です。

現在、イスカンデルMはカリーニングラード州、レニングラード州、北コーカサスとクリミアに配備されているとされています。

ただ、これら地域は、ウクライナの首都キエフから遠く、一番近いクリミヤでも580キロ以上ありイスカンデルMの射程外です。

8月22日のエントリー「ロシアは負け始めたか」で筆者は、ロシアの軍事情報を追跡する「ベラルーシアン・ハジュン」プロジェクトが、ベラルーシからウクライナ領土へのロケット攻撃の可能性および大規模なミサイル攻撃をおこなう準備を進めているらしい兆候があると警告していることを紹介しましたけれども、ベラルーシの首都ミンスクからウクライナのキエフまでは430キロ程度でイスカンデルMで十分届く距離です。

もし、キエフを狙わないのであれば、ザポリージャ原発などクリミヤに近い射程内の重要施設を狙ってくることも考えられます。

その意味では、ロシアがイスカンデルMをどこに配備、または移動させているかは、重要な意味を持ってくるかもしれませんね。



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