首の皮一枚で生き残るノルドストリームと破壊工作説

今日はこの話題です。
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1.ガス漏れ止まったノルドストリーム


10月3日、ロシアのガスプロムは、ロシア産天然ガスを欧州に送る海底パイプライン「ノルドストリーム」について、損傷した3本のパイプラインからのガスの流出が止まったと発表しました。

ノルドストリームは1と2で各々2本づつのパイプラインを持っているのですけれども、損傷を受けたのは「ノルドストリーム1」の2本と「ノルドストリーム2」の1本で、ノルドストリーム2の残った1本は影響を受けなかった事も明らかにしました。

ガスプロムは影響を受けていないノードストリーム2のパイプラインBの圧力を下げ、損傷や漏れの可能性がないかどうかを検査し、こちらのラインでガス輸送を再開することができるとしています。

ガスプロムは「ノルドストリーム2のBラインでの輸送開始が決定されれば、当局の設備等の点検を経てパイプラインにガスを送り込むことになる」と説明していますけれども、ノードストリーム2の開始にはEUからの承認が必要で、目下の状況では開始の目途は立っていません。

そして、この前日の10月2日、ロシアのノバク副首相は、ノルドストリームのパイプライン損傷について、技術的に修復は可能だと表明しています。

もっとも、ノバク副首相は「修復には時間やそれなりの資金がかかる……自分は適切な方法の可能性が見つかると確信している」とも述べています。修復は可能だといいながら、「修理の方法が見つかると確信している」などと、実に希望的観測に溢れた文言が付け加わっています。この発言からだけでは、どこまで確実に修復できるのかはちょっと分かりません。

通常、修復は、損傷した部分を交換する必要があるため、パイプラインの修理には推定3ヶ月から6ヶ月かかるそうですけれども、過去に別のパイプラインが損傷した際には、9ヶ月を要したそうです。

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2.パイプラインはそう簡単に壊れない


そもそも、パイプラインはそうそう簡単に損傷しないように作られています。

例えば、「ノルドストリーム1」のパイプラインは、202000本の巨大なパイプで構成されているのですけれども、一つのパイプは長さは12メートル、厚さ約4センチの鋼鉄で出来ており、それらは厚さ11センチのコンクリートで覆われています。

これが突然、何件も同時にガス漏れを起こす。自然な"事故"だとは、ちょっと考えられません。

9月27日、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、ノルドストリームのガス漏れは破壊工作によるものだとし、欧州のエネルギーインフラが攻撃された場合には「可能な限り強力な対応」を取ると述べていますけれども、やはり破壊工作を疑われても仕方ないと思います。

実際、9月30日には、スウェーデンとデンマーク両政府は「パイプラインの損傷は爆薬数百キログラム相当の爆発力を持つ水中爆発によって意図的に引き起こされた」との見方を示しています。要するにそこまでの爆発力がないと破損させられないということです。

3件のガス漏れは、いずれもバルト海に浮かぶデンマークのボルンホルム島付近で、それぞれ比較的近い場所で起きています。ボルンホルム島は西をデンマーク、北をスウェーデン、南をドイツとポーランドに囲まれています。

ガス漏れが起きているのは国際水域だけではなく、デンマークやスウェーデンの排他的経済水域でも起きているのですけれども、ヘルムート・シュミット大学およびドイツ国防戦略研究所の研究員であるジュリアン・パウラック氏は、「この地域はかなり浅く、平均して水深50メートル前後です……爆発の原因が何なのか、どこから来たのか、パイプラインの外側からなのか内側からなのか、まだわかっていません」と解説しています。

安全保障関係者は、もし攻撃が意図的なものであれば無人の水中ドローンによって実行されたか、ボートにより地雷が投下または設置されたか、ダイバーによって実行されたか、パイプ内部から実行された可能性があると見ているそうですけれども、ロシアはドイツ方面向かって、パイプ内部に、洗浄機や検査機を送り込むことができます。

砲弾または球形の樹脂を水圧や気体圧でパイプ内を走行させ、配管をより一層有効利用するピギングと呼ばれる作業があるのですけれども、これを転用すれば、パイプ内からの破壊はできるそうです。

一方、ノルドストリームのパイプ周辺の水深は比較的浅いことから、簡単に発見できる大型潜水艦が近くで活動していた可能性は低く、先述のパウラック氏は、同じ地域にいた船舶なら、被害を引き起こした可能性のあるほかの船舶を検知できた可能性があると、指摘しています。

ただ、海中となると検知はずっと難しく、パウラック氏は、「バルト海全体がセンサーで埋め尽くされ、NATOがすべての動きを把握できるというわけではありません……海面はもちろん、特に海底では何が動いているのか、何が起きているのかをいつでもどこでも把握することは、まだ不可能なのです」とコメントしています。

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3.誰がやったのかは誰が一番儲けたかを見れば容易に推測できる


今回、ノルドストリームが破壊工作を受けた疑いがあることを受け、欧州各国は、石油・ガス関連施設周辺のセキュリティーを強化するとしています。

欧州最大のガス供給国であるノルウェーのヨーナス=ガール・ストーレ首相は記者会見で、石油・ガス関連施設に軍を「より目立つように」配置すると表明。海軍は海上施設の保護のため配備され、陸上施設では警察がプレゼンスを高めることになるとし、いかなる攻撃にも同盟国と共同で対処すると述べています。また、ノルウェーの国営エネルギー企業エクイノールも安全対策を強化したと発表しています。

西側諸国の情報機関当局は「冬場が近づく中でガス供給の途絶で電気代が上がり、欧州諸国が背負う負担が大きくなるため、ロシアにとって今回のようなパイプライン破壊工作は相応の価値がある」と見ていて、西側の主要メディアもそう主張しているようです。

これに対し、ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ロシアによる破壊工作だとする非難の声が上がるのは「当然に予想されていた主張だが、愚かだ」と一蹴しています。

実際、「ガスを武器として利用している」と西側諸国から批判されるロシアですけれども、ノルドストリーム1の稼働再開に向けての準備をしていたのも事実です。今回ガス漏れが起こったのも輸送再開に向けてパイプラインにガスが充填されていたからです。

イギリス・オックスフォード大学エネルギー研究所のマイク・フルウッド上級研究員は「沖合に設置されたパイプラインが破裂するのはまれで、それが18時間の間に3回起きるというのはかなりの偶然といえる」と、ガス漏れの原因として可能性が最も高いと考えられるのは破壊工作だと指摘した上で、もし本当にロシアによる破壊工作だとすれば、すでにガス供給は停止しているので「奇妙な」行動だと指摘しています。

ロシアのプーチン大統領は、9月30日の演説で「ノルドストリームを爆発させたのは、制裁だけでは足りないと思ったアングロサクソン達だ。誰がやったのかは、誰が一番儲けたかを見れば容易に推測できる」と述べていますけれども、欧州ではアメリカからのガス輸入量がロシアからの輸入量を上回っていて、ノルドストリームの稼働停止が長期化すれば、今後ますます欧州のアメリカ産ガスへの依存が強まるであろうことは明らかです。

9月29日、ロシア外務省のザハロワ報道官は親ロシア派の放送局を通じ、ガス管の損傷は「デンマークとスウェーデンの貿易・経済圏で起きた……これらはアメリカの情報機関によって完全に管理された国々だ」と述べ、アメリカ情報機関の管理下にある圏域で発生したと表明。

そして、翌30日には、ロシア対外情報局のナルイシキン長官は「ノルドストリームの爆発は国際テロであり、この犯罪に西側諸国が関与した形跡があることを示す資料がある。西側諸国は真の実行犯をあらゆる手段で隠蔽しようとしている」と述べました。

ただ、ロシアはデンマークとスウェーデンがアメリカの情報機関の支配下にある証拠を示しておらず、ノルドストリームの爆発は西側が関与した形跡がある資料があるといっても、それを公開した訳ではありません。

これに関して、アメリカ軍当局者は、9月28日に「我々の同盟国の多くは何者かによる破壊工作だとの見方をしているが、どちらか一方だと結論付ける段階ではない」とし、アメリカが関与したかについても「明らかに我々は、全く関与していない」と否定しています。

まぁ、ロシアの主張ですから、今のところは話半分でもよいかもしれません。


4.ノルドストリーム2は終わらせる


ただ、アメリカ国内からもアメリカが破壊工作をしたのだという声が無い訳ではありません。

9月27日、FOXニュースの司会タッカー・カールソン氏は自身の番組で、「もしあなたがプーチンなら、自分のパイプラインを爆破する自暴自棄な大バカ者にならなければならない。それだけは絶対にやらないことだ……天然ガスは権力と富、何よりも重要なのは、他国に対するレバレッジだからだ……ヨーロッパは、冬を前にエネルギーを今まで以上に必要としている。君がエネルギーを供給しないならば、ドイツのような国々は、君が欲するものに目もくれないだろう」と述べました。

そして、カールソン氏は「ノルドストリームを爆破することは、プーチンにとって何の助けにもならない。彼はやらないだろう。だからといって、他の国が考えないということではない」と、ロシア以外の可能性を示唆した上で、アメリカのバイデン大統領が2月に行なった記者会見の一幕を放送しました。

バイデン大統領はこの中で「ロシアが侵略すれば、つまり戦車や兵士らがウクライナの国境を越えるということだが、その時はノルドストリーム2はなしだ。われわれはそれを終わらせる」と明言。記者から、ドイツが管轄しているノルドストリーム2をアメリカが変更できるのかと問われると「約束しよう。われわれはそれができる」と曖昧に答えています。

更にカールソン氏は加えて、ヌーランド国務次官が1月の記者会見で「ロシアがウクライナに侵攻した場合、いずれにせよノルドストリームの前進はない」と話す映像も紹介し「8ヶ月が経った今、振り返ると、これらの発言には身が凍る思いだ……バイデン政権がこのようなことをしたのか、問わなければならない。確かなことはわからない」と語りました。

カールソン氏はその他にも、ポーランドのシコルスキ元外相が、9月27日に、ガス漏れの海面の画像とともに「ありがとう。USA」とツイートしたことにも言及し「おそらく偶然ではないが、本日、新たなパイプラインが開通したことにも触れなければならない。ロシア以外の天然ガスをほぼ同じ地域で運ぶパイプラインだ。バルトパイプと呼ばれ、ポーランドが開通した」と関連を匂わせています。

カールソン氏の番組はケーブルニュース番組で最高の視聴数を記録しており、昨年の1回あたりの平均視聴者数は310万人と報じられていますから、それなりの反響を呼んでいると思われますけれども、もし、これが本当であれば、自作自演でパイプラインを破壊して、その罪をロシアに着せていることになります。

これは、今後同じことがまた起こる可能性も示唆しています。それは何もパイプラインの損傷だけではありません。

つまり、でっち上げで相手に非があるとイチャモンをつけて制裁をやるということですから、例えば、ロシアが核ではない通常の大規模破壊兵器か何かでキエフなどを攻撃したら、核を使ったと難癖をつけて、核ミサイルで報復することだって考えられなくもありません。

もちろん、そんな事態など起こってはならないのですけれども、可能性としては考慮しておくべきではないかと思いますね。




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