

1.北朝鮮の変則軌道弾道ミサイル
10月6日、防衛省は、北朝鮮から合わせて2発の弾道ミサイルが発射されたと発表しました。いずれも日本のEEZ(排他的経済水域)の外側に落下したようです。
この日、浜田防衛相が臨時記者会見を行い、次のように発言しました。
北朝鮮は本日6時台、北朝鮮内陸部から、2発の弾道ミサイルを、東方向に向けて発射いたしました。詳細については現在分析中ですが、落下したのは北朝鮮東岸付近及び日本海であり、いずれもわが国の排他的経済水域外と推定されます。今回発射された弾道ミサイルは変則軌道で飛翔した可能性あるとのことですけれども、それは2発目のミサイルで、1発目は分析中とのことです。
飛翔距離等については以下のとおりと推定されますが、引き続き分析中であります。1発目が、6時頃ですね、北朝鮮内陸部から東方に向けて発射し、最高高度約100km程度で、約350km程度飛翔、2発目が、6時15分頃、北朝鮮内陸部から東方向に向けて発射し、最高高度約50km程度で、約800km程度飛翔、また、当該弾道ミサイルは変則軌道で飛翔した可能性があります。
今回の発射について、防衛省から、政府内及び関係機関に対して、速やかに情報共有を行いました。現在までのところ、航空機や船舶からの被害報告等の情報は確認されておりません。北朝鮮は、特に今年に入ってから、かつてない高い頻度で、かつ新たな態様でのミサイル発射を繰り返しております。ここ数日も立て続けに弾道ミサイルを発射しており、9月末からの短期間でも6回目と、挑発を執拗かつ一方的にエスカレートさせています。
一連の北朝鮮の行動は、わが国、地域及び国際社会の平和と安全を脅かすものであり、断じて容認できません。関連する安保理決議に違反するものであり、わが国として、北朝鮮に対し、北京の「大使館」ルートを通じて厳重に抗議し、強く非難しました。
総理には、本件について直ちに報告を行い、①情報収集・分析に全力を挙げ、国民に対して、迅速・的確な情報提供を行うこと、②航空機、船舶等の安全確認を徹底すること、③不測の事態に備え、万全の態勢をとることの3点について指示がありました。これを受け、私からは、①米国等と緊密に連携しつつ、情報収集・分析に全力を挙げること、②不測の事態の発生に備え、引き続き警戒監視に万全を期すこと、について指示を出しました。防衛省としては、引き続き関連情報の収集と分析に努めるとともに、警戒監視に万全を期してまいります。
米国、韓国を始めとして、関係国と緊密に連携しながら、国民の生命、そして平和な暮らしを断固守り抜く決意であります。 こうした状況を踏まえ、いわゆる「反撃能力」も含めあらゆる選択肢を排除せず検討し、今後とも防衛力の抜本的な強化に取り組んでまいります。
2.平壌は明らかに自信を深めている
今回のミサイルは、北朝鮮の弾道ミサイルに対する国連安保理が緊急会合を開いていた最中に発射されています。
この会合は、4日のミサイル発射を受けてアメリカなどの要請で開かれたものです。
会合で、アメリカのトーマス・グリーンフィールド国連大使は「北朝鮮は安保理の2つのメンバー(中露)から全面的な保護を受けている。つまり、安全保障理事会の2つの常任理事国が金正恩氏を可能にした……平壌は明らかに自信を深めている。北朝鮮は今年だけで39発の弾道ミサイルを発射しており、これまでの記録である25発をはるかに上回っている」と北朝鮮を非難していたのですけれども、北朝鮮は今回、それを嘲笑うかのように発射してみせた訳で、ある意味、グリーンフィールド国連大使の発言を証明した形です。
これに対し、中国の耿爽国連次席大使は、安保理は強い言葉や圧力だけに頼るのではなく、建設的な役割を果たす必要があると主張し、ロシアのアンナ・エフスティグニエワ次席大使も、北朝鮮に対する追加制裁は行き詰まりを意味し、何も結果を得られないと指摘するなど北朝鮮を擁護しています。
3.総理が寝ていてもミサイルは迎撃される
度重なる北朝鮮のミサイル発射について、筆者は10月5日のエントリー「日本列島を飛び越えた北朝鮮の弾道ミサイル」で、発射からわずか5分かそこらで着弾することを考えると、官邸はほぼ即断で迎撃命令を出さなければならないと述べましたけれども、軍事ブロガーのJSF氏によると、既に日本は「ミサイル迎撃は例え首相が寝ていても自衛隊の現場判断で実施される」とのことです。
注)この点については調査が足りませんでした。お詫びして訂正します。
JSF氏によると、2005年に自衛隊法が改正されていて、ミサイル迎撃については実質的に自衛隊の現場判断で行えるようになり、2016年8月8日から破壊措置命令は常時発令状態に移行しているとのことですけれども、これは自衛隊法第八十二条の三の3項に定められています。
自衛隊第八十二条の三は次の通りです。
(弾道ミサイル等に対する破壊措置)このように自衛隊法八十二条の三の3項で緊急対処要領に従い、あらかじめ、自衛隊の部隊に対し破壊措置命令を出せるとなっていますけれども、この「緊急対処要領」は2009年7月14日の閣議決定「自衛隊法第82条の3第3項に規定する弾道ミサイル等に対する破壊措置に関する緊急対処要領」で次のように定められています。
第八十二条の三 防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。
2 防衛大臣は、前項に規定するおそれがなくなつたと認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、速やかに、同項の命令を解除しなければならない。
3 防衛大臣は、第一項の場合のほか、事態が急変し同項の内閣総理大臣の承認を得るいとまがなく我が国に向けて弾道ミサイル等が飛来する緊急の場合における我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため、防衛大臣が作成し、内閣総理大臣の承認を受けた緊急対処要領に従い、あらかじめ、自衛隊の部隊に対し、同項の命令をすることができる。この場合において、防衛大臣は、その命令に係る措置をとるべき期間を定めるものとする。
4 前項の緊急対処要領の作成及び内閣総理大臣の承認に関し必要な事項は、政令で定める。
5 内閣総理大臣は、第一項又は第三項の規定による措置がとられたときは、その結果を、速やかに、国会に報告しなければならない。
1 防衛大臣が法第82条の3第3項の規定による命令を発する場合及びこの場合において同項に規定する緊急の場合に該当することの認定に関し必要な事項(令第104条の2第1号関係)このように、緊急対処要領では破壊措置の条件から破壊方法まで、かなり細かく決められています。
(1)防衛大臣が法第82条の3第3項の規定による命令を発する場合
防衛大臣が法第82条の3第3項の規定による命令を発する場合は、次のいずれかに該当する場合とする。
ア 外国において弾道ミサイルが発射された疑いがあり、又は発射されるおそれがあると認める場合であって、その時点では、発射の目的、その能力等が明らかでないため、当該弾道ミサイルが我が国に飛来するおそれがあるとまでは認められないとき。
イ 外国において打ち上げられた人工衛星打上げ用ロケットその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体(航空機を除く。)が事故その他により落下するおそれがあると認める場合であって、その時点では、事故の場所、態様等が明らかでないため当該物体が我が国に飛来するおそれがあるとまでは認められないとき。
(2)緊急の場合に該当することの認定に関し必要な事項
緊急の場合に該当することの認定は、我が国の弾道ミサイル防衛システムにより弾道ミサイル等が我が国に向けて飛来することを確認することにより行うものとする。
2 法第82条の3第3項の規定による措置の対象とする弾道ミサイル等の範囲及びその破壊方法(令第104条の2第2号関係)
(1)弾道ミサイル等の範囲
次に掲げるもののいずれかに該当するものであって、1(2)の定めるところにより我が国に向けて飛来することが確認されたものとする。
ア 弾道ミサイル
イ 人工衛星打上げ用ロケット
ウ 人工衛星
エ その他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であって、航空機以外のもの
(2)弾道ミサイル等の破壊方法
法第93条の3の規定に基づき、スタンダード・ミサイルSM-3又はペトリオット・ミサイルPAC-3を発射し、我が国領域又は我が国周辺の公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。以下同じ。)の上空において破壊するものとする。
3 法第82条の3第3項の規定による措置を実施する自衛隊の部隊の行動の範囲(令第104条の2第3号関係)
防衛大臣から法第82条の3第3項の規定による措置をとるべき旨を命ぜられた自衛隊の部隊(以下「実施部隊」という。)の行動の範囲は、我が国領域並びに我が国周辺の公海及びその上空とする。
ただし、スタンダード・ミサイルSM-3が搭載されている護衛艦又はペトリオット・ミサイルPAC-3が配備されている高射部隊の行動の範囲については、上記の範囲のうち、防衛大臣がこれらの部隊の態勢、弾道ミサイル等が落下した場合の被害の程度等を勘案して、法第82条の3第3項の規定による命令で定めるものとする。
4 法第82条の3第3項の規定による措置を実施する自衛隊の部隊の指揮に関する事項(令第104条の2第4号関係)
実施部隊は、スタンダード・ミサイルSM-3が搭載されている護衛艦又はペトリオット・ミサイルPAC-3が配備されている高射部隊、航空警戒管制部隊その他事態に応じ防衛大臣が必要と認める部隊とし、航空総隊司令官の指揮下に置かれるものとする。
実施部隊の運用に係る防衛大臣の指揮は、統合幕僚長を通じて行い、これに関する防衛大臣の命令は、統合幕僚長が執行するものとする。
5 関係行政機関との協力に関する事項(令第104条の2第5号関係)
防衛省は、1(2)に定めるところにより弾道ミサイル等が我が国に向けて飛来することを確認した場合には、関係行政機関(内閣官房、警察庁、消防庁、外務省、水産庁、経済産業省、国土交通省、海上保安庁その他事態に応じ防衛大臣が必要と認める行政機関をいう。以下同じ。)に対し、直ちにその旨並びに当該弾道ミサイル等の落下が予測される地域及び時刻を伝達するものとする。
また、防衛省は、実施部隊が当該弾道ミサイル等を破壊する措置をとった場合には、関係行政機関に対し、直ちにその破壊の状況を伝達するものとする。
このほか、防衛省は、関係行政機関の求めに応じ所要の協力を行うものとする。
6 法第82条の3第3項の規定による命令が発せられている場合において同条第1項に規定する弾道ミサイル等が我が国に飛来するおそれが認められたときにとるべき措置に関する事項(令第104条の2第6号関係)
防衛大臣は、法第82条の3第3項の規定による命令が発せられている場合において同条第1項に規定する弾道ミサイル等が我が国に飛来するおそれが認められたときは、同項の規定により、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し弾道ミサイル等を破壊する措置をとるべき旨を命ずるとともに、同条第3項の規定による命令を解除するものとする。
対処要領によると、現時点ではSM-3とPAC3との二段階の迎撃で対応するとなっています。

4.SM-3ブロック1Aでは対応できない
ただ、実際にミサイルが日本を狙って撃たれたとき、いまの迎撃態勢で破壊できるのかどうかという問題があります。
PAC3は地対空誘導弾パトリオットミサイルで、発射機のほか、レーダー、管制装置などで構成され、車両に積載して飛来情報に応じた発射地点に移動展開して運用します。というのは、射程が半径約20キロしかないからです。
畢竟その防護は、重要施設や要人を中心になります。4日に発射され青森上空を通過した弾道ミサイルではJアラートで頑丈な建物や地下に避難するようアナウンスされていましたけれども、地下鉄や地下街がない地方ではいかんともできません。
ではSM-3ならどうかというと、これも問題ないとは言い切れません。
原子力・核兵器問題を扱う独立アナリストの田窪雅文氏は、従来型のSM-3ブロック1Aには、加速する標的を追うだけの機動性がないため、弾道ミサイルの燃料が燃焼し終わるのを待ってから迎撃することになる。しかし、その頃にはミサイルは高度数百キロ、速度は毎秒7キロメートルに達する。この高度と速度の標的を迎撃することは不可能で、新型のSM-3ブロック2Aになって初めて迎撃の可能性が出てくると指摘しています。
現在、自衛隊がSM-3ブロック2Aをどれだけ保有・配備しているか分かりませんけれども、弾薬が全然足りないと指摘されている現状では、十分保有できていない可能性は高いと思います。
昨年6月、アメリカのヒックス国防副長官は、SM-3ブロック2A、11基を太平洋あるいは欧州に展開するアメリカ海軍の軍艦に配備する方向で研究・開発段階から移行するよう命じていますけれども、アメリカにしてこれですからね。日本は推して知るべしではないかと思います。

5.防衛力強化は待ったなし
10月5日、韓国軍合同参謀本部は北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射を受け、アメリカの原子力空母「ロナルド・レーガン」を中核とする空母打撃群が、日本海に再展開すると発表しました。
横須賀基地を拠点とする空母「ロナルド・レーガン」は、9月26~29日に米韓海軍の演習を行い、30日には日本も加わった対潜水艦作戦の訓練に参加し、その後は日本海を離れていたのですけれども、4日に行われた韓国の李鐘燮国防相とアメリカのオースティン国防長官との電話会談で再展開が決定したとのことです。勿論、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への牽制が狙いです。
これに対し翌6日、北朝鮮外務省は空母「ロナルド・レーガン」が日本海に再び展開したことについて、「朝鮮半島の情勢安定に重大な脅威を与えている」として今後の対応を注視していると警告する談話を発表しました。
空母「ロナルド・レーガン」は通常、F/A-18E/F「スーパーホーネット」戦闘攻撃機およびEA-18G「グラウラー」電子戦機が5個飛行隊約50機、ほかE-2C「ホークアイ2000」早期警戒管制機、C-2A「グレイハウンド」輸送機、MH-60R「シーホーク」哨戒ヘリコプター、MH-60S「ナイトホーク」多用途ヘリコプターなど、平時でおよそ66機前後の艦載機を搭載しています。
北朝鮮情勢に詳しい 峨山政策研究院の車斗鉉(チャドゥヒョン)首席研究委員は、電子戦機「EA18Gグラウラー」が北朝鮮のレーダーや通信機器を妨害し、「短時間で北朝鮮軍の防空網をほぼ無力化する」と述べています。
電子戦機とは敵のレーダーや通信等を電波妨害し、これを無力化するための航空機で、EA-18Gは、F/A-18F「スーパーホーネット」戦闘機を原型に電子戦機としての能力を付加した派生型です。
EA-18Gは戦闘機としての高い性能を活かし友軍の戦闘機や攻撃機に帯同し敵地へ侵攻し、電波妨害を行うことで友軍を護る能力に優れるだけでなく、AGM-88AARGM(先進対レーダー誘導ミサイル)によって、敵のレーダーサイトや地対空ミサイル陣地を破壊する能力を持っています。
北朝鮮の金正恩総書記は、有事が起きれば首都平壌の地下に建設した深さ100メートルともいわれる指揮所に滞在するとされていますけれども、米韓両軍の事情に詳しい関係筋によれば、ロナルド・レーガンの一部の艦載機には、地中貫通型爆弾「バンカーバスター」を搭載できるとされ、北朝鮮では米空母が近海に展開するたびに、全軍が警戒態勢に入り、軍内部の通信が頻繁になるなど、最高度の警戒監視を行うため「兵士らは毎回、かなり疲弊する」のだそうです。
アメリカの空母を日本海に展開するだけで、北朝鮮軍が疲弊して大人しくなるのなら、こんな簡単な話はありません。
実際、北朝鮮はビビったのか、8日、北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)が、ミサイルの発射実験は米国の直接的な軍事的脅威からの自衛のためであり、近隣の国や地域の安全は阻害していないと報じています。
現状の日本の防衛体制では、北朝鮮および中国からのミサイル攻撃を完全に防ぐことが不可能であることを考えると、日米同盟強化は勿論のこと、防衛予算を増やして防衛力強化を図るのは、もはや義務だと捉えるべきではないかと思いますね。
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