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1.ロシアの占領から集落を解放したウクライナ軍
ロシアのウクライナ侵攻において、ウクライナ側の優勢が伝えられています。
10月13日、ウクライナの被占領地域再統合省がウクライナ軍が過去1ヶ月で600以上の集落をロシアの占領から解放したと明らかにしました。
戦略的に重要な南部ヘルソン州では75の集落を解放。北東部ハリコフ州では実に約502の集落を解放し、東部のドネツク州では43、ルガンスク州では7つの集落を解放したとしています。
更に前日の12日には、ウクライナ軍の特殊作戦軍司令部がヘルソン州にてロシア軍の多連装ロケットシステム「ウラガン」を鹵獲したと報告。司令部は、作戦時に殲滅したロシア兵からのプレゼントとして手に入れたものだとし、「私たちの戦士のおかげで、この多連装ロケットシステムは、今後は被害を出すためではなく、ウクライナ人の利益のために使われていくことになった。標的となる、敵ロシアが今のところ占領しているウクライナの地に設置した陣地までの距離にも、簡単に対応できるものだ」と説明しています。
ただ、10、11日の両日にエネルギー施設などが標的となったミサイル攻撃の影響は依然解消されておらず、ウクライナのデニス・シュミハリ首相は12日、午後5~10時の電力消費を25%削減するよう国民に呼びかけています。
国営電力会社ウクルエネルゴによれば、東部ハルキウ、スムイ両州と中部ポルタワ州の計3州で当面、計画停電が必要になるようです。
2.ハルマゲドン将軍
10、11日のロシアによるウクライナ全土への大規模ミサイル攻撃を指揮したとみられるのが、ウクライナでの軍事作戦を統括するセルゲイ・スロビキン司令官です。
タス通信によると、スロビキン氏は、ソ連崩壊後に独立運動が起きた南部チェチェン共和国への軍事介入に参加。シリアでのロシアの軍事作戦でも指揮を執った経歴の持ち主で、イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙は、スロビキン氏をその残忍さから「ハルマゲドン将軍」と呼ばれていると報じています。なんでも、1991年にスロビキン氏の指揮下にある部隊が非武装のデモ参加者3人を殺害したとして6ヶ月間投獄された後、起訴は取り下げられたことや、1995年には武器密売で有罪判決を受けたが、後に覆されたなどとも報じています。
スロビキン氏について、筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「強硬派のスロビキン氏を起用したことでロシア軍は、ミサイルや火器を用いた激しい戦闘に持ち込み、ウクライナを焦土化させる狙いだろう。プーチン氏は責任をショイグ氏やゲラシモフ氏に負わせる流れを作りたいのではないか。上層部が混乱する中で、現場の兵士の士気は高まらず、もはや軍組織としての体をなしていない」と分析しています。
3.戦争研究所のレポート
では、実際のところ戦局はどのようになっているのか。
アメリカのシンクタンク、戦争研究所は、ほぼ毎日ウクライナ情勢をレポートしているのですけれども、10月10日から13日の4日間のレポートの主要ポイントを拾うと次の通りです。
〇10月10日上記で筆者が気になったものに下線を引いてみたのですけれども、
・ロシア軍は、ウクライナの20以上の都市に対して大規模なミサイルの一斉攻撃を行った。
・プーチン大統領は、このミサイル攻撃はケルチ海峡橋の爆破に対する報復であると主張し、「戦争賛成派」の機嫌を取る狙いもあったと見られる。
・ロシアとベラルーシの地上軍は、北側のベラルーシ領からウクライナを攻撃する可能性は依然として低い。
・ウクライナ軍は10月10日現在、ルハンスク州西部の200平方キロメートル以上の地域を解放した模様だ。
・ロシア軍は、ケルソン州北西部で最近失った領土を取り戻す試みは失敗し、損傷した部隊や急遽動員された部隊で付近の陣地を強化する一方、継続した。
・ロシア軍はドネツク州で地上攻撃を続けている。
・ロシアと占領行政当局は、最大4万人の住民をケルソン州からロシア占領下のクリミアとロシア連邦に移動させるための条件を整えつつある。
・ロシア軍は動員された部隊に補給できない。契約兵士や司令官による長年の補給物資の盗難が原因であろう。
〇10月11日
・ロシア軍は2日連続でウクライナ全土に大規模なミサイル攻撃を実施した。
・セルゲイ・スロヴィキン陸軍大将のシリア駐留ロシア軍司令官としての経験は、ここ数日のウクライナ全域での大規模なミサイル攻撃とは無関係であろうし、ウクライナでのロシアの能力や戦略の軌道修正を示唆するものでもないだろう。
・ロシア連邦はベラルーシの貯蔵基地から弾薬やその他の資材を抜き出しているようだが、これはロシア軍がベラルーシからウクライナに対する地上攻撃の条件を整えているという考えとは相容れない。
・ロシア情報筋は、ウクライナ軍がオスキル川の東側とクレミナ・スバトベの方角で反撃活動を続けていると主張した。
・ロシア情報筋は、ウクライナ軍がケルソン州の北部と西部で地上攻撃を継続したと主張した。
・ウクライナ軍は、ケルソン州のロシアの軍事、技術、兵站の資産と集中地域を標的とした阻止作戦を継続している。
・ロシア軍はドネツク州で地上攻撃を継続している。
・クリミアのジャンコイで爆発があったとのロシア側の報道は、ケルチ海峡橋の爆発に続き、クリミアでの更なる兵站能力を失うことへのパニックを示唆した。
・ロシア連邦主体は、特定の地域における動員の新たな延長と段階を発表しているが、これは動員枠を満たしていないことを示唆している可能性がある。
・ロシア占領地では、ロシア政府および占領軍当局が引き続き検閲活動を実施している。
〇10月12日
・ロシアは、最近のロシアをテロ国家に指定する要請をそらすために、ウクライナをテロ国家と偽るための情報条件を設定する努力を強めている。
・ロシア軍は、イラン・イスラム革命防衛隊(IRGC)系の人員をウクライナの占領地域に動員し、ロシア軍にシャヘド136無人機の使用法を訓練させた可能性がある。
・ロシア情報筋は、ウクライナ軍がスバトベとクレミンナに向けて反攻作戦を続けていると主張。ロシア軍は、この地域で防衛作戦を継続している。
・ロシア情報筋は、ウクライナ軍がケルソン州北西部と西部で地上攻撃を実施していると引き続き主張した。
・ロシア軍は、バフムトとアヴディウカ周辺で地上攻撃を行った。
・ロシア軍は、ザポリジア州西部の前線を強化しているようだ。
・ロシア軍は、個々のロシア人兵士に基本的な個人装備を与えるという問題に引き続き直面している。
・ロシア軍と占領軍当局は、ロシア占領地の住民に対して強制的な手段を取り続ける。
〇10月13日
・ウクライナでロシア軍兵士が初めて死亡したという報道は、ロシア軍司令部に対する新たな批判を引き起こした。
・10月13日、ロシア軍はウクライナの重要インフラへの攻撃を継続した。
・ウクライナの戦闘地域にいるロシア軍の士気、規律、戦闘能力がますます低下しているため、限られた地域での攻撃作戦が一時的に停止している可能性がある。
・ウクライナ軍はスバトボの北西に進攻した。
・ロシア軍は、クレミンナ方面へのウクライナ軍の攻撃の可能性を想定し、防衛作戦を継続している。
・ウクライナとロシアの情報筋によると、ロシア軍はケルソン州の北部と北西部で陣地奪還を試みている。
・ケルチ海峡橋の損傷により、ウクライナ南部へのロシアの物資や人員の移動が引き続き妨げられている。
・ロシア軍はドネツク州で地上攻撃を続け、バフムトの南で限界的な前進をしたと主張した。
・ロシアの無能さは、動員された兵士が前線に到着する前に損害を与え続け、すでに低下している士気をさらに悪化させているようである。
・ロシア当局は、動員可能な人々を維持し、国外脱出を防ぐために、ロシア国内の移動の自由をますます制限しているようだ。
・ロシア占領当局は、占領下のケルソン州から民間人を避難させるよう呼びかけた。
「契約兵士や司令官による長年の補給物資の盗難によって動員兵に補給できない」とか「スロヴィキン陸軍大将の経歴にミサイル攻撃に関するものはない」とか「イラン・イスラム革命防衛隊(IRGC)系の人員をウクライナの占領地域に動員した可能性がある」とか「動員された兵士が前線に到着する前に損害を与え士気をさらに悪化させている」とか、もうボロボロの状況のようです。
10月12日、ロシアの独立系調査報道メディア「IStories」は、ロシア情報機関「連邦保安局(FSB)」当局者らの話として、2月24日の侵略開始以降、露軍の戦死者や行方不明者、負傷による戦闘不能者の人数が「9万人を超えている」と伝えていることを考えると相当損害を受けているようです。
実際、ロシアは南部ロストフ州や西部クルスク州で、ウクライナへの兵員補充を目的にした部分的動員の「第2弾」を始めたと伝えられていますし、モスクワでは、徴兵当局者がホームレスの支援施設などで招集を始めたとの情報まで飛んでいます。
4.自国民を大砲の餌として使っている
こんな、兵をわざわざ死地に送りこむような、ロシアのやり方で勝てるとはとても思えないのですけれども、それでも、ウクライナにとっては、少なからず脅威になっているようです。
10月13日、ウクライナのゼレンスキー大統領は夜のビデオ演説で、次のように述べました。
今、ロシアは何千人もの動員兵を前線に送っている。彼らは大した軍事訓練も受けていないが、指揮官はそれを全く必要としていない。彼らは、動員されたロシア人が少なくとも数週間は戦場で生き残ることができ、彼らが死んだら新しい兵が前線に送られてくる。このようにゼレンスキー大統領は、ロシア軍の兵士に対する扱いに不快感を示す一方で、こうした戦法が防衛するウクライナ軍を疲弊させていることを認めています。
しかし、この間、ロシアの将軍が自国民を「大砲の餌」として使うことで、わが国の防衛軍にさらなる圧力をかけることが可能になるのだ。目に見える圧力だ。
私は、それに耐えているすべての戦士たちに感謝している。
また、このような状況下では防衛支援の拡大が必要であることを理解してくれるパートナーにも感謝する。
ウクライナを守るために戦い、働き、助けてくれるすべての人に感謝する。
5.交渉にオープンであると表明している
ロシアもこんな戦い方をしていたら、いつか兵か弾薬が底を尽きます。いつまでも続けられる筈がありません。
10月13日、ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は、ペスコフ大統領報道官はロシア紙イズベスチヤに対し、「方向性は変わっておらず、われわれの目標達成に向け特別軍事作戦は続いている」としつつも、「ロシアは目標達成のために、交渉にオープンであると繰り返し表明してきている」と語りました。
けれども、その一方で、ペスコフ報道官はカザフスタンのテレビインタビューで「対話には双方が必要だ。西側は現在、私たちに対して非常に敵対的な立場を取っているため、近い将来、そのような見通しについて話す必要はほとんどない」と答え、トルコが他の多くの国と同様に、この問題の仲介者になろうとしているとも明かしています。
ただ、セルゲイ・ラブロフ外相は、西側諸国との協議に前向きな姿勢を示しながらも「ロシアは協議に向けた真剣な申し出を受けていない」と述べ、13日にはイズベスチヤ紙に対し「具体的で真剣な提案があれば、われわれはそれを検討する用意がある……何らかのシグナルがあれば、検討する用意がある」とも語っています。
更に、14日、セルゲイ・ナリシュキン外国情報局(SVR)局長は「交渉は、特定の条件下であれば、ロシアと西側の間で行うことができる」と述べています。
一体、交渉したいのかしたくないのか、西側からアプローチがないなどと煮え切らない態度に見えますけれども、内心では交渉したいのだろうなと思います。
ただ「ウクライナのNATO加盟申請とエスカレーション・ラダー」のエントリーでも述べたように、いまのロシアとウクライナはグラスルのエスカレーションモデルでいえばレベル5乃至6であると思われ、両国間で解決できる段階はとうに超えています。
だからこそ、多くの国が仲介の労を取ろうとしている訳ですけれども、双方の落としどころが見つかるのか祈るしかないですね。
この記事へのコメント
mony
中東やインド系の情報も加味しないといつかの
大本営発表にしかならないと思いますがね。
この手の戦争の真実は何十年か後に出てくるものでしょうから。