後悔していないプーチンと面目を潰されたバイデン

今日はこの話題です。
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1.更なる大規模な攻撃は必要ない


10月14日、ロシアのプーチン大統領は、訪問先のカザフスタンの首都アスタナで開かれたアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)後、ロシアメディアなどに対して記者会見を行いました。

プーチン大統領は、この中で併合したウクライナ南部のクリミア大橋で起きた爆発への報復だとして、行った大規模ミサイル攻撃について、「少なくとも現時点ではさらなる大規模な攻撃は必要ない」と当面は行わないという考えを示しました。

一方、ウクライナへの軍事支援を続けているNATOについて「ロシア軍と直接衝突する何らかの部隊が展開されたら、世界的な大惨事につながりかねない非常に危険な段階に入る。そのような分別のない行動に踏み切らないことを願っている」と強く牽制しました。

更なる攻撃は必要ないという言葉がどこまで信用できるか分かりませんけれども、一部ではミサイルの在庫が少なくなっていて、これ以上バカスカ打てないのではないかとか、戦略的に全く意味がなかったなどという声もあるようです。

ただ、筆者は、プーチン大統領がミサイル攻撃をした意図は単なる報復だけではなく、インフラ破壊するのみならず、やはり対NATOへの牽制あるいは威力偵察の意味合いもあったのではないかと見ています。

つまり、NATO自身が参戦してこないか、あるいはどこまで攻撃すればNATOが介入するのかを探ったのではないかということです。

この段階でNATO軍が本格参戦したら、ロシアに勝ち目は無くなりますからね。介入するならNATO諸国の都市にミサイル攻撃するぞ、と脅してみせた訳です。

実際、キエフにミサイル撃ちこんでも、NATOは、ウクライナ支援を強化するとはしたものの、軍を送り込みはしませんでした。

プーチン大統領はそれをみて、NATOが介入する可能性は低いと判断したが故に、これ以上のミサイル攻撃は必要ないと発言したのではないかということです。

ただ、ミサイル攻撃は必要ないといっても攻撃しないとはいってませんし、昨日あたりから各国政府がウクライナに居る自国民に退避勧告を慌てて出しているところを見ると、ミサイル攻撃が無いなんて大嘘で、内部では次の攻撃の情報を掴んでいるのかもしれません。


2.後悔していないか


また、プーチン大統領は、予備役の動員について、政権側が公表した30万人のうち、すでにおよそ22万人を招集し、今後2週間で完了するという見通しを示した上で、追加の動員の可能性について「国防省から提案はうけておらず、当面は必要だとみていない」と明らかにしています。これについては、動員をめぐって国内で広がる市民の動揺を抑えたい思惑もあるとみられています。

更に、プーチン大統領はロシアには協議を行う用意があると改めて表明。ただ、ウクライナが協議に参加する場合は、国際的な調停が必要になると述べました。

プーチン大統領は、この会見で記者から、ウクライナへの軍事侵攻をめぐり「後悔していないか」と質問されたのですけれども、これにプーチン大統領は、「ウクライナに対する行動を起こさないのは悪いことだった」として、後悔は「ない」と答えた後「現在起きていることは控えめに言っても不愉快だが、若干遅かったとしても、われわれにとって条件が悪いだけで、同様の事態になっていたはずだ。つまり、われわれは正しく、時宜を得た行動を起こしている」と回答しました。

遅かれ早かれ同じ事態になっていたなんて、侵攻当初に言われていた、キエフを一週間で落とすとかナントカは一体何だったのかと思わなくもないですけれども、この会見を受け、米市場は地政学的な緊張が和らぐとの観測から株価が上昇するなどの動きがあったところをみると、ここから急速なエスカレーションは多少遠ざかったかもしれません。


3.ベラルーシは参戦しない


一方、ウクライナ侵攻にベラルーシが参戦するのではないかという見方もあります。

10月15日、ベラルーシ国防省はロシア軍が合同部隊に参加する名目で同盟国ベラルーシ領内に入ったとタス通信が伝えています。

10日にベラルーシのルカシェンコ大統領がロシア軍との合同部隊の展開でプーチン大統領と合意したと説明していたのですけれども、活動場所・目的について不明な点が多く、ウクライナ侵攻にベラルーシが参戦する隠れ蓑ではないかという観測も浮上しています。

これについて、在ベラルーシ日本大使館での勤務経験もある北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授は、「ロシアとベラルーシは似たような民族だと思われがちだが、戦争への意識は全く違う。ウクライナとの戦争に巻き込まれたくないというのは、独裁者・ルカシェンコと国民との唯一と言っていいくらいの共通項だ。それを踏みにじって参戦するようなことがあれば、いくら強権的な独裁者といえども立場が持たないだろう。実は2国間では国家統合に関する条約が結ばれていて、"情勢が緊迫した時に合同軍を編成する"という規定がある。ベラルーシ軍がウクライナに行って戦うというよりは、ベラルーシにロシア兵を置くための1つの手立てではないかとみている」と、実際に参戦する可能性は低いとの見解を示しています。

服部教授によると、合同軍の編成はロシアとベラルーシ間の条約に規定されているというのですね。

また、アメリカのシンクタンク、戦争研究所は10月14日のレポートで、ベラルーシの参戦可能性について次のように報告しています。
・ウクライナと西側の当局者は、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領が「対テロ作戦」体制を導入したというベラルーシの情報空間での憂慮すべき報道にもかかわらず、ベラルーシのウクライナ侵攻準備の指標を観測していないことを繰り返し述べている。

・ベラルーシのウラジミール・マケイ外相は、10月14日にロシアのイズベスチアのインタビューに応じ、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領がいくつかの法執行機関との会議の後に「対テロ作戦体制」を導入したと主張した

・マケイは、不特定の近隣諸国がベラルーシの領土の領域の占有に関する挑発行為を計画している懸念を挙げている。

・この主張は、いくつかのウクライナ、ベラルーシ、ロシアの情報源によって増幅され、彼らは「対テロ作戦体制」の一環として、ルカシェンコはロシア軍によって補完されたベラルーシ軍のグループを配置し始めたと主張した。 しかし、ルカシェンコは報道機関へのコメントで、「テロ対策作戦体制」の導入はなく、代わりに「テロの脅威が高まった体制」を導入したと強調している。

・ベラルーシにおける準備体制がエスカレートしているという矛盾した主張にもかかわらず、ホワイトハウスの国家安全保障会議報道官ジョン・カービーは、ベラルーシ軍がウクライナに入る準備をしているという指標はないとボイスオブアメリカに語った。

・ISWはベラルーシとロシアの共同軍がベラルーシの領土からウクライナに侵入しないと評価し続けている。ロシア軍はドンバスの小さな村を占領する試みに没頭し、自らの戦闘能力を落とし続けており、ウクライナ北部へのベラルーシの侵攻を補完する戦闘効果のある機械化部隊を単に持っておらず、キエフへの機械化侵攻を確実に行うことができないのである。

・ISWが以前報告したように、ルカシェンコは、政権の存続に関わる国内リスクとベラルーシ軍の質の低さから、ロシアのために参戦する可能性は依然として低い。
このように現場レベルではベラルーシ参戦の兆候はないとしているようです。


4.へルソンから退避せよ


ウクライナ軍は、ロシアに支配された領土の奪還に向けて反転攻勢を強めています。ウクライナ政府は、南部ヘルソン州について13日までに、75の集落を解放したとし、ゼレンスキー大統領は14日の演説で「今後、南部のすべての都市にもウクライナの旗を取り戻し、クリミアを取り返し、領土の一体性を回復する」としていることから、南部での戦闘がいっそう激しくなることが予想されています。

目下の戦況を受け、南部ヘルソン州では、一般住民の退避を促す動きが出ています。

10月15日、ヘルソン州を支配する親ロシア派の幹部はSNSに投稿し「これからウクライナ側との戦いが本格化する……子供とその親に対しては、土地を離れる機会を与える」と、住民にロシアへの事実上の退避を呼びかけました。

へルソン州は先月28日、住民投票によってロシアへの編入を決めましたけれども、79%の投票率で賛成は87%と9割近くありました。一部にはこの住民投票はインチキだという声もあるようですけれども、あるいは、このロシアへの退避勧告に住民がどのくらいの割合で従うのかをみれば、その住民投票が本当か嘘だったのかを測る目安になるかもしれません。

ただ、ロシアにしてみれば、へルソン州を含む4州を編入した結果、その住民を保護する義務を負うことになりました。退避の呼びかけもその義務を果たそうとしているのだと見ることも出来ますけれども、軍事的には重みになっていることは否めないと思います。


5.我々はこの男に何の借りもない、何一つもだ


ウクライナはロシア占領地域全てを奪還すると反転攻勢を続けていますけれども、そのためには西側諸国の支援が絶対的に必要になります。

ただ、その西側諸国も全てが全て、ウクライナに全乗りしているとは限りません。

7月中旬に、アメリカのFoxニュースが登録有権者を対象に実施した世論調査では、ロシアのウクライナ侵攻を「懸念している」と答えた人は69%。3月の82%から減少と、関心が薄れており、ウクライナ問題に対するバイデン大統領の対応を「支持する」人は42%。「支持しない」の55%を下回っています。

また、クイニピアック大学が6月に行った調査では、この問題へのアメリカの対応が「ほぼ適切」だと答えた人は38%で、残る約6割は、「関与しすぎ」が26%、「関与が足りない」が27%と二分しています。

更に、ハーバード大学アメリカ政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスが登録有権者を対象に6月下旬に行った調査では、「ロシアが侵攻を続け、さらに多くの地域を併合しようとするなら、アメリカはウクライナにさらに数十億ドル規模の兵器支援を行うべきだ」が53%、「すでに十分な寄付を行っており、これ以上は不要だ」は47%と拮抗しています。

これについて、FOXニュースの名物キャスターのタッカー・カールソン氏は、アメリカの経済や国境が崩壊しているのに、ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカ議会を金を寄越せとゆすりたかりをしているとブチ切れています。

もっとも、8月24日に公表されたロイター/イプソスの世論調査によると、ロシア軍がウクライナの領土から完全撤退するまでウクライナへの支援継続を支持する人の割合が53%と支援反対の18%を大きく上回っています。

これらをみると、アメリカとてウクライナ支援継続を巡って世論が二分している可能性があります。




6.調停者サウジアラビア


そんな中、ロシアとウクライナの調停者として存在感を高めているのがサウジアラビアです。

10月14日、ウクライナのゼレンスキー大統領はサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と電話会談を行ったと明かしました。

サウジアラビアはロシアによるウクライナの4州併合を認めないとする国連決議案に賛成票を投じたのですけれども、ゼレンスキー大統領は電話会談でムハンマド皇太子に対しこれに謝意を表しました。

先月、サルマン皇太子はロシアとウクライナの間の捕虜交換プロセスの一環として10人の捕虜の解放の仲介をしたのですけれども、ゼレンスキー大統領とサルマン皇太子は、より多くの戦争捕虜を解放することを目指して意思疎通を継続することに合意しています。

更に、サウジアラビアは会談後、ウクライナに対する4億ドルの人道的総合援助計画を発表。サルマン皇太子は調停努力を継続し、緊張緩和に寄与する全てのものを支援する用意ができていると述べました。

これだけを見ると、サウジアラビアはウクライナ側にいると見えなくもないのですけれども、ウクライナにチップを全賭けしている訳でもありません。

7月15日、アメリカのバイデン大統領は、サウジアラビアのサルマン皇太子と初会談を行っていますけれども、その目的はサウジアラビアに原油増産の要請でした。

会談後、バイデン大統領は「世界の経済成長を支えるためのエネルギー安全保障や適切な原油供給について良い議論をした」と言及した。「私は米国への原油供給を増やすために全てのことをする。サウジとはその緊急性を共有した」と指摘。「我々の議論を踏まえて数週間で追加措置があると期待する」と増産の確約を得られなかったことを白状しました。

この時、増産があるかどうかは秋のOPECプラスの会合にまでずれ込むだろうと見られていたのですけれども、OPECプラスは、10月5日の閣僚級会合で、増産どころか逆に減産を決定。11月から日量200万バレルの減産を実施することで合意しました。

減産幅は世界需要の2%に相当し、2020年の武漢ウイルスのパンデミック以来、最も大幅なものです。

減産について、サウジアラビア外務省は需給のバランスを考慮しコンセンサスで決定し、市場のボラティリティー抑制も意図したとして、消費国と産油国双方の利益に沿っていると主張、更に、この決定の前にアメリカとの協議で、アメリカ側から減産を1ヶ月遅らせるよう求められたことにも言及。「あらゆる経済的分析に鑑み、減産を1か月先送りすれば経済上のマイナスの影響をもたらすと一連の対米協議で明確に伝えていた」と暴露しています。

冬を前にしてこの時期に原油の大幅減産。当然ながら、これは制裁下にあるロシアをサポートするもので、アメリカの面目は丸つぶれです。

このサウジの動きにアメリカはブチ切れました。

10月11日、バイデン政権のジャンピエール報道官は今回の減産決定について「ロシアと連携していることは明らかだ。今はロシアと連携すべき時ではない」と批判。バイデン政権がサウジアラビアとの関係を見直していることを明らかにしました。

ウクライナに人道支援する裏で、原油制裁でロシアをサポートする。サウジアラビアは強かに動いています。

こうなると、今年の冬は世界的なエネルギー危機を迎える可能性が高くなってきます。とりわけ、ロシアからの天然ガス供給がほぼ途絶えている欧州は相当な苦境に陥ることが予想されます。

冒頭取り上げた会見で、プーチン大統領は、ロシアには協議を行う用意があるが、ウクライナが協議に参加する場合は、国際的な調停が必要になると条件を付けました。果たしてサウジアラビアが、ロシアとウクライナの調停者として動くのか、注目です。


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