答弁を翻した岸田総理

今日はこの話題です。
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1.民法の不法行為も入り得る


10月19日、参院予算委員会で岸田総理は、立憲民主党の小西洋之氏に対する答弁で、旧統一教会の問題を巡り、宗教法人法に基づく解散命令請求の要件について「改めて関係省庁集まり、議論を行った。そして昨日の議論も踏まえ、改めて政府としての考え方を整理した。民法の不法行為も入り得るという考え方を整理した」と述べました。

岸田総理は前日18日の衆院予算委員会で、旧統一教会への宗教法人法に基づく調査を巡り、政府の相談窓口に寄せられた相談の中に「警察につないだ案件が含まれている。刑法をはじめとするさまざまな規範に抵触する可能性があると認識している」とし、解散命令請求が認められる法令違反の要件として「民法の不法行為は入らないという解釈だ……刑法等で定める禁止規範や命令規範に違反するものとの考え方を踏襲している」と話していましたから、その発言を修正した形です。

この解釈変更について、官邸関係者によると「民法の不法行為を含めることは可能だ」という解釈について、関係省庁の幹部をはじめ、専門家や弁護士などを交えて、夜通し詰めていた」ようで、最終的な決断は19日朝、国会が始まるギリギリに行われたとのこといです。

ただ、自民党の閣僚経験者からは「こんな重要な判断をコロコロ変えて大丈夫か」と懸念する声が挙がり、岸田総理をサポートする官邸の体制に問題があるのではないかという見方も出ているようで、政治ジャーナリストの田崎史郎氏は「解散命令の前提に関する質問があると想定していなかった」「手元の資料をそのまま読んだ」「答弁後、違和感を覚え、考えを整理するよう各省庁に指示」とコメントしています。


2.昭和31年の衆院法務委員会


一方、小西洋之議員の質問が良かったのだという見方もあります。

元参院議員の有田芳生氏は「一夜にして政府が法解釈の変更をしたのは、小西洋之議員が昨日提出した法と解釈についての緻密な質問要旨を見て、観念したということに尽きます」とツイートしています。

ネットにアップされた質問要旨を見ると、宗教法人法第八十一条の解釈について、昭和31年の衆院法務委員会で、「法令違反は、宗教法人法に限ったことではない」という答弁を挙げ、岸田総理が18日に答弁した「民法の不法行為は入らない」とは矛盾している点を突いています。

件の答弁のやり取りを引用すると次の通りです。
○猪俣委員 たとえば、具体的事実として、当法務委員会が調査いたしております交成会という問題について、一体文部省は調査権がないのに解散請求ができるのかどうか。そこで、この八十一条の二号のような、法令に違反して著しく公共の福祉を害するようなことを交成会がやっていると当委員会は認められるが、そういうことが起ったらというのですが、起っておるのかおらぬのか、調査権がなくてわかるのか。ちょっとあなたの答弁ははっきりしないのだが、八十一条の、法令に違反して著しく公共の福祉を害することが明らかに認められる行為をしたときに解散請求権が発生することは当然のことです。ただ、そういうふうなことがどうしたらできるかという問題なんです。立正交成会なんか、どうもインチキだと思う。しかし、文部省はしからばそれへどんな調査をするかといえば、できない。やればじき憲法違反とやられるかもしれません。そこで、結局、解散請求権を持っておりますが、どうも積極的に発動することができないから、十分な監督ができないということです。この二号に当っておるかおらぬかをどうしてきめるかということです。当っておることがはっきりして初めて請求権を発動することが法文上明らかなんです。犯罪があるかないかは捜査してみなければわからない。その捜査権があるかないかの問題はどうなりますか。

○福田政府委員 文部省に一応の調査権のないのは非常に不便だということを申し上げたのであります。この法令に違反して云々というような文言は、何も宗教法人法ばかりに限ったことではありませんで、他の一般のいろいろな法規に違反するという場合をさしているわけであります。違反の事実その他につきましては、それぞれの諸官省で、たとえば今御指摘の問題でありますならば、法務省あるいは人権擁護委員会でいろいろお調べになっておりまして、将来そういうところで客観的にはっきりした事実が確認できれば、それは文部大臣としてもその事実を認めて必要な措置はとられる、かように私どもは考えております。

○猪俣委員 そうすると、文部省としては、八十一条の解散請求権はあるが、自分みずから調査しないで、どこかで調査して法令違反であることがはっきり出てきて、そのとき請求するかしないかを決定するのがいいのだという御見解というふうに承わっておきます。これではどうも直接の監督官庁としては少し足りないのではなかろうか。他力依存みたいに、あなたの方は何もしないでいて、他人からあれは法令違反をしているぞと指摘されたらおみこしを上げようというやり方になっていると思います。そのままで一体いいかどうか。それでいいということになれば、そういうふうに承わっておきます。監督官庁としては権能が足りないのではないか。役所の方にあまり権能を持たせることは賛成ではないけれども、こういうインチキ宗教がばっこすると、何とか少し取り締ってもらわなければならぬと思うが、文部省は何もやっておらぬ。今の法制から言えばやれぬから仕方がないかもしれませんが、こういうことでは直接の監督官庁の役目は果せないのではないか。文部省が第一次の監督官庁になっているのに調査権がない。文部省の所管である宗教の問題はそうなっている。ほかの省は、自分本来の仕事が忙しいから、なおさらそんなことはやりはしませんよ。それだから、こういう新興宗教が自由に羽を伸ばしてばっこするというふうに考えられる。そこで、もう少し何とか宗教法人を監督しなければならぬとすれば、とにかくその事務をつかさどっている文部大臣にさような調査権を与えた方がいいのではなかろうかというふうに私どもは考えるのですが、あなたは現状のままでよろしいという御感想ですか。もう一度承わっておきたい。

○福田政府委員 重ねて申し上げますが、現状のままで決していいと申し上げたわけではございません。宗教法人法の個々の規定をいろいろ研究いたしましても、これは御承知の通り占領下におきましてできた法律でございますので、いろいろ不備な点もございます。従って、現在、私どもといたしましては、この法律に基いた宗教法人審議会というのがございまして、しかも先月委員が改選になりまして、ちょうど先月中ごろでございましたが、第一回の会合を開きました際にも、いろいろかような問題を取り上げました。また、文部大臣から、宗教法人法について、将来の実情に即さない、あるいは改正を要するような点があれば、そういう点も一つ特に研究してほしいというような要望もありまして、宗教法人審議会でそういった点を十分今後検討いたしまして、結論が出れば、それに従って宗教法人法についても事務当局としては考えていきたい、かように考えておるわけでございまして、今お話しのように、調査権がなくて何もできなくてよろしい、さように申し上げたわけではございません。
太平洋戦争後の占領下で出来たとか、実に歴史を感じさせる宗教法人法ですけれども、当時は、1938年(昭和13年)設立の立正佼成会すら「インチキ」呼ばわりされていたのですね。この手の話は昔からされていたということです。

マスコミの一部は、解釈変更は「世論の反発が、今後も政権に重くのしかかってくることに危機感を持ち、傷が浅いうちに方針を転換した方が良いと判断したのだ」とも報じていますけれども、過去の答弁との矛盾は流石に拙いと思ったようです。




3.小西洋之の質問主意書


有田氏は小西洋之議員が提出した質問要旨が決め手になったと述べていますけれども、小西議員はこの質問を10月4日提出の質問主意書で行っているのですね。

件の質問主意書の内容は次の通りです。
   文化庁が宗教法人法第八十一条の解散命令の請求を裁判所に行わないことが違法であることに関する質問主意書

一 政府が認識する旧統一教会による民事裁判、刑事裁判の例について示されたい。このうち、宗教法人としての旧統一教会の民法上の不法行為責任及び使用者責任が認定された例、信者などの刑事犯罪が認定された例について何件ぐらい存在すると認識しているか、示されたい。

二 文化庁が所轄する宗教法人において、旧統一教会は民事裁判、刑事裁判で違法責任が認定された件数は飛び抜けて多く、また、その被害額も桁違いに甚大ではないのか、政府の認識を示されたい。

三 故安倍元総理への襲撃事件以前及び以後において、文化庁が旧統一教会について宗教法人法第八十一条の解散命令の請求を裁判所に行っていない理由について示されたい。端的に、安倍元総理を始めとする旧統一教会と自民党の国会議員ら政治家との癒着のために解散命令の請求を行っていなかったのではないか。

四 政府は旧統一教会について文化庁が裁判所に解散命令の請求を行うことが法的に可能であると考えているのか。法的に出来ないと考える場合はその理由を示されたい。

五 政府は、宗教法人であったオウム真理教に対する解散を命じた平成七年十二月十九日の東京高等裁判所決定にある宗教法人法第八十一条に関する東京高等裁判所の見解を理由に旧統一教会について裁判所への解散命令の請求を行うことは出来ないとの旨を繰り返し説明しているが、同見解にある「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」との文言の趣旨についてどのように理解しているのか。

六 宗教法人であったオウム真理教に対する解散を命じた平成七年十二月十九日の東京高等裁判所決定にある宗教法人法第八十一条に係る東京高等裁判所の見解における「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」との文言について、「刑法等」の「等」には民法など刑法犯罪を定めた法令も含まれると解しているのか、「実定法規」には民法などの刑法犯罪を定めた法令も含まれると解しているのか、「禁止規範」及び「命令規範」の意味をどのような意味と理解しているのか、「~してはならない」、「~しなければならない」と日本語で明記された条文以外はこの「禁止規範」及び「命令規範」には該当しないと考えているのかについて、政府の見解を具体的に示されたい。

七 数多くの民法の基本書の不法行為の説明においては、「行為者の権利にも配慮しつつ設定した禁止・命令規範に違反すると評価されるものをいう」、「その侵害行為が法秩序の禁止・命令に違反する態様のものであること(禁止・命令規範に対する違反行為)」(野党国対ヒアリングで文化庁に示された潮見佳男教授の基本書からの引用)との趣旨の説明がなされているところ、なぜ、平成七年十二月十九日の東京高等裁判所決定の「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」にある「禁止規範」及び「命令規範」の文言の趣旨について「~してはならない」、「~しなければならない」と日本語で明記された条文以外は該当しないとする政府の主張が正しいと言えるのか。端的に、閣僚等を含む自民党の国会議員らと旧統一教会の癒着から旧統一教会に関する解散命令請求を行いたくないことを理由とする裁判所の決定文の政府による曲解ではないか。

八 平成七年十二月十九日の東京高等裁判所決定には「法の定める禁止規範もしくは命令規範に違反し、公共の福祉を害する行為に出る等の犯罪的、反道徳的・反社会的存在に化することがありうるところから」との文言があるところ、なぜ、この文言の後の「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」との文言における「禁止規範」及び「命令規範」の文言の趣旨について、「~してはならない」、「~しなければならない」と日本語で明記された条文以外は該当しないとする政府の主張が正しいと言えるのか。

九 政府は、文化庁が旧統一教会に関する解散命令の請求を裁判所に行わない理由について、「現在、把握している中で、旧統一教会の役職員が刑罰を受けた事案を承知しておらず、請求の要件を満たしていないと考えている」などとも説明しているが、宗教法人法第八十一条第一項は、裁判所は、「宗教法人について」、「法令に違反して」著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたことに該当する事由等があると認めたときは、所轄庁等の請求等により、その解散を命じることができることを規定しているところ、この「法令に違反して」の解釈について、文化庁が実務で用いているとする宗教法人法の逐条解説においては、「「法令」とは、宗教法人法はもちろん、あらゆる法律、命令・条例などを指す。宗教法人が法令に違反するとは、宗教法人の役員または職員がその業務等の執行に関し、違法行為を行っている場合(責任役員がそのような決議をしている場合も入る。)を指す」(渡部蓊『逐条解説宗教法人法』三百七十八頁)とされ、政府が示すような「旧統一教会の役職員が(刑事裁判で有罪とされ)刑罰を受けた事案」というような要件は何ら示されていないのであり、前記六及び前記七で質問する政府における「禁止規範」及び「命令規範」の文言の理解を含め、政府の主張は宗教法人法の曲解ではないか。

十 前記八に関して、宗教法人法第八十一条の解釈に関する国会答弁においても、「この法令に違反して云々というような文言は、何も宗教法人法ばかりに限ったことではありませんで、他の一般のいろいろな法規に違反するという場合をさしているわけであります。(中略)たとえば今御指摘の問題でありますならば、法務省あるいは人権擁護委員会でいろいろお調べになっておりまして、将来そういうところで客観的にはっきりした事実が確認できれば、それは文部大臣としてもその事実を認めて必要な措置をとられる」(衆議院法務委員会昭和三十一年六月三日福田繁文部省調査局長)とされており、逐条解説の示す通り、刑法犯罪以外の違法行為について適用され、かつ、その事実関係の調査も刑事捜査に限定されているものではないのであり、前記六及び前記七で質問する政府における「禁止規範」及び「命令規範」の文言の理解を含め、政府の主張は宗教法人法の曲解ではないか。

十一 旧統一教会の違法行為については、民事事件では、民法の規定により宗教法人の第七百九条の不法行為責任を認めた判決のほか、第七百十五条の使用者責任を認めた判決が二十件以上存在し、信者・関連会社の行為について、平成十九年以降十件を超える刑事事件で有罪判決が出ているところ、解散命令の事由に該当する疑いは十分にあるのではないか。文化庁においては、解散命令請求の実施のために設けられた宗教法人法第七十八条の二の規定に基づく旧統一教会に対する質問等の権限を行使する必要があるのではないか。なぜ、この質問等の権限を行使しないのかについて説明されたい。

  右質問する。
この質問主意書では、質問6から10で民法の不法行為に触れており、質問10で、思いっきり「法令に違反して云々というような文言は、何も宗教法人法ばかりに限ったことではありません」と過去答弁に言及しています。

この質問主意書に対して、10月14日に政府答弁がされているのですけれども、質問7~10に対しては「裁判所において示された宗教法人法第八十一条第一項第一号及び第二号の解釈を踏まえてその適否を検討することが必要であると考えている」と答えています。

そして関連して質問3、4及び11についての答弁として「憲法の定める信教の自由の保障及び宗教法人法の趣旨を踏まえれば、宗教法人については、所轄庁による関与は抑制的であるべきであり、法人格を剥奪するという極めて重い措置である解散命令の請求については、十分慎重に判断すべきであると考えている」としています。


4.宗教法人法第81条


この政府答弁で言及している宗教法人法第81条というのは解散命令に関するもので、その条文は次のようになっています。
(解散命令)
第八十一条
1 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。
三 当該宗教法人が第二条第一号に掲げる宗教団体である場合には、礼拝の施設が滅失し、やむを得ない事由がないのにその滅失後二年以上にわたつてその施設を備えないこと。
四 一年以上にわたつて代表役員及びその代務者を欠いていること。
五 第十四条第一項又は第三十九条第一項の規定による認証に関する認証書を交付した日から一年を経過している場合において、当該宗教法人について第十四条第一項第一号又は第三十九条第一項第三号に掲げる要件を欠いていることが判明したこと。
2 前項に規定する事件は、当該宗教法人の主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄とする。
3 第一項の規定による裁判は、理由を附した決定をもつてする。
4 裁判所は、第一項の規定による裁判をするときは、あらかじめ当該宗教法人の代表役員若しくはその代務者又は当該宗教法人の代理人及び同項の規定による裁判の請求をした所轄庁、利害関係人又は検察官の陳述を求めなければならない。
5 宗教法人又は第一項の規定による裁判の請求をした所轄庁、利害関係人若しくは検察官は、同項の規定による裁判に対し、即時抗告をすることができる。抗告は、執行停止の効力を生ずる。
6 裁判所は、第一項の規定による裁判が確定したときは、その解散した宗教法人の主たる事務所及び従たる事務所の所在地の登記所に解散の登記の嘱託をしなければならない。
7 前五項に規定するものを除く外、第一項の規定による裁判に関する手続については、非訟事件手続法の定めるところによる。

そして、政府答弁では、81条1項1号、2号を踏まえて法令違反の適否を判断するとし、解散命令の請求については、十分慎重に判断すべきであるとしているのですね。

そして、肝心の民法の不法行為については、「お尋ねの『民法など警報犯罪を定めた法令』の意味するところが明らかでないため、お答えすることは困難である」と回答を避けています。

小西議員は国会質問で主意書のココを再び突いてきた訳ですけれども、内容は同じである以上、質問主意書を受け取った時点で穴がないようにしっかりと詰めていれば、今回のような発言修正は起こらなかったかもしれません。

その意味では、政治ジャーナリストの田崎史郎氏が指摘する「解散命令の前提に関する質問があると想定していなかった」や「手元の資料をそのまま読んだ」の方がより実態に近いのではないかと思います。要は準備不足だったということです。

まぁ、それでも「答弁後、違和感を覚え、考えを整理するよう各省庁に指示」するだけでも、まだマシで、それすらも感じられないようであれば、どこかの「あやつり人形」と化してしまう危険があります。

10月19日のエントリー「アムウェイの営業停止と旧統一教会」で、筆者は、アムウェイの行政処分は旧統一教会を処分する布石になるかもしれないと述べましたけれども、今回岸田総理が、解散命令請求の要件に民法の不法行為も入り得ると発言したことで、その可能性の道が開けたのではないかと思いますね。


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