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1.不適切なことではない
10月20日、岸田総理は参院予算委員に出席し、旧統一教会の問題を巡り解散命令の要件に関する答弁を1日で修正したことについて「関係省庁との協議で、個別の事案に応じて考えなければならないということで19日に考えを整理した……法令の解釈は厳正に見直しや追求をしていかなければならない。法治国家である以上当たり前……決して不適切なことではない」と述べました。
法令の解釈見直しについては、集団的自衛権の行使容認を巡って憲法解釈を変えた云々で当時騒がれましたし、解釈を変えて対応するというのは特段珍しいものでもありませんけれども、解釈を変えたら次にまた解釈を見直す迄は、その解釈が適用されるので、今回の解散命令要件を民事にまで拡大することの波及効果は決して小さくないと思います。
10月16日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演した橋下徹元大阪府知事は、旧統一教会への解散命令について次のように述べています。
旧統一教会にはいろんな問題がありますんでね。違法行為があるとなったら罰すべきことは罰して、正すべきことは正す。これは当たり前なんです……ただ僕が気になってるのは今の世論の風潮からして、何でもかんでも引っくるめて、法律の範囲を超えて旧統一教会に対して何か批判の声が強まっているんじゃないのかなと思います……日本はあくまでも法治国家なんで、法律に基づいてきちっと判断しなければいけません…この時、橋下氏は、今までの裁判例などでは「解散命令」は中枢幹部が刑事罰を受けた場合である述べていたのですけれども、その後、岸田総理は民事も対象になると解釈を見直しましたから、当然状況も変わってくることになります。
…解散命令ということを盛んに言われていますけど、裁判例では組織ぐるみになって違法行為をやった場合に解散命令なんです。特に、組織の中枢幹部が違法行為を繰り返した場合なんです。今、旧統一教会にいろんな問題点あげられていますけど、基本的には信者、メンバーの違法行為が明らかになっているだけであって、中枢幹部の違法行為までは、まだ今のところは明らかになっていません。だから、質問権を行使して世間で言われているような、メディアで騒がれているような信者の違法行為じゃなくて、中枢幹部の違法行為を明らかにしていくのは、質問権の行使は重要だと思うんです…
…今、旧統一教会の中枢幹部は刑事罰、受けていないんです。でもトラブルがあることはある。これで質問権を行使すると、実は他の宗教法人もトラブルはあるんです。自治体で僕、調べてみたら旧統一教会以外にもトラブル相談事例はたくさんあるんで、旧統一教会に質問権を行使する、それはそれでいいんですが、もしこれを認めてしまうと他のトラブルを抱えている宗教団体にも質問権を行使しなければいけない。これを文化庁は嫌がっているんです……今、岸田政権、支持率が低いです。世論を見ると旧統一教会に対して厳しく行けば支持率が上がるんじゃないかと岸田政権、思っているかもしれない。政治家が支持率を上げるために法律の範囲を超えたような権力の行使をやるのは非常に危険だと思います……役人たち頑張ってもらって、政治ときちっと議論をしながら感情、世論に流されずに法律に基づいての判断をしてもらいたい。
2.刑事と民事
刑事裁判は、犯罪者に対して刑罰を与えるか否かという裁判であるのに対し、民事裁判は、私人と私人の間における金銭をめぐる問題や、私人と私人の身分関係をめぐる問題を扱う裁判です。
橋下氏は、解散命令は「裁判例では組織ぐるみになって違法行為をやった場合、特に、組織の中枢幹部が違法行為を繰り返した場合」であり、旧統一教会の中枢幹部は違法行為を犯した訳ではなく、信者、メンバーの違法行為が明らかになっていると述べています。
この通りであれば、これまでの解釈では、中枢幹部の違法行為が明らかにならない限り解散命令は出せないということになるのですけれども、民事に拡大した今回の解釈では、今度は信者、メンバーの違法行為も対象になる可能性があります。
たとえば、相手が嫌がるのに壷を"売りつけた"なんてことが明らかになれば、ひっかかる可能性はかなり高くなると思いますし、なにより先日のアムウェイの業務停止命令という"先例"があります。
更に橋下氏は、自治体では実際に旧統一教会以外にもトラブル相談事例はたくさんあり、旧統一教会に質問権を行使すると他のトラブルを抱えている宗教団体にも質問権を行使しなければいけなくなり、文化庁はこれを嫌がっていると指摘しています。
もちろん、お布施や寄進は「商行為」ではない筈ですから、アムウェイと全く同じ解釈は出来ないとは思いますけれども、最終的には、布教活動そのものが是か非かというところにまで行きつきかねません。これは信教の自由にも絡む問題でもあり、あまり安易にそこまで踏み込んでしまうのは危険なのではないかと思います。
3.旧統一教会の解散請求等を求める声明
9月16日、全国霊感商法対策弁護士連絡会は「旧統一教会の解散請求等を求める声明」を出しました。
その声明の趣旨を引用すると次の通りです。
第1 声明の趣旨このように全国霊感商法対策弁護士連絡会は、文科大臣に対し旧統一教会の解散請求(趣旨2項)などを行っているのすけれども、その理由として次のように述べています。
1 旧統一協会に求めること
旧統一協会は、
(1) 今後の伝道活動においては、被勧誘者に対し、予め、勧誘の主体が旧統一協会であること、及び、勧誘目的が宗教団体への伝道であることを明らかにし、また、文鮮明をメシアと信じさせるまでに、入信後の献金及び伝道など宗教的実践活動の中核部分を明らかにし、被勧誘者の信教の自由、信仰選択の自由を侵害しないようにせよ。
(2)信者や信者であった者への勧誘経緯、従前の献金及び物品購入代金名下に支払わせた金額を全て調査し、当該信者を正体隠しの伝道により信者とした場合、及び先祖の因縁等で不安を殊更煽って献金をさせたり、当該信者の経済状態や生活状況からして過大な支出をさせたりしたことが明らかになった場合には、当該信者または信者であった者に真摯に謝罪し、損害の一切を賠償せよ。
(3)今後、信者から献金その他名目を問わず金銭を受領する場合には、出捐者、及び、金員の受領主体、目的、金額を明記した領収書を交付し、併せて、その一切を記録して会計・財務資料として保管し、献金をした者からの要求があった場合にはその記録を開示せよ。
(4)信者に対し、こどもへの信仰継承を行う際は、我が国が批准している子どもの権利条約第14条2項に基づき、「児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法」によるよう指導せよ。
2 解散請求
文部科学大臣は、旧統一協会に対し、宗教法人法第78条の2に定める報告質問権を行使するとともに、同法第81条1項に基づき解散命令を請求されたい。
3 カルト対策
(1)内閣総理大臣は、フランスなどカルト対策に先進的な諸外国の法制度・諸施策を参考に、基本法の制定も視野に入れた上で、被害抑止・救済のための法制度を整備し諸施策を講じられたい。
(2)文部科学大臣は、旧統一協会による過去の諸々の被害(金銭被害、家族破壊、労働力収奪、その他被害)に関し調査の上で、その結果を総括的な報告書をまとめられたい。
4 二世問題
厚生労働大臣、こども政策担当大臣及び各都道府県知事は、
(1)いわゆる「二世」と呼ばれるこどもが抱える問題について児童虐待と位置づけて、適切なこども施策を策定・実施されたい。
(2)その前提として、担当職員(特に児童相談所職員)に対し、専門家を招致して研修などを実施し、カルト団体の問題点及び「二世」が抱える問題点等についての知見を周知されたい。
5 学校における対策及び教育
(1)文部科学大臣は、大学生、高校生、中学生がカルト団体から被害を受けることを防ぐため、また、学校等に在籍する二世について適切に対応するため、学校等の関係各所に対し、必要な措置を講じるよう通知されたい。
(2)法務大臣は、こどもがカルト団体による被害を受けることを防ぐため、学校教育における法教育においてカルト団体及び二世問題を取り上げるよう関係各所に通知されたい。
6 サポート体制
内閣府特命担当大臣(消費者庁)は、カルト問題に苦しむ者やその家族へのサポートを行う宗教者や社会学者、心理学者ないしカウンセラーに対し、持続的、効果的な活動が可能となるようなあらゆる支援をされたい。
第2 声明の理由全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、国が信教の自由を盾に宗教法人への介入に消極的であったのは、過去の宗教弾圧の歴史に遠因があるとした上で、旧統一教会に対して介入に消極的なのは妥当でなく、彼らの行為は、国民の信教の自由を侵害することにより、教団を維持拡大してきたものであるから、解散命令を出してしかるべきである、と主張しているのですね。
2 声明の趣旨2項「解散請求」について
(1)はじめに
旧統一協会は、①その伝道・教化活動、②献金・物品購入に対する勧誘活動、③そしてその教義において救いの中核となる、原罪を脱ぐための祝福式(合同結婚式)のいずれについても違法(③については違法ないし無効)とする判決が確定している宗教法人である。旧統一協会は、①なぜ信じるのか、②なぜ献金するのか、③なぜ結婚するのかという、その中心的活動の全てについて司法によって繰り返し問題があると判断された、極めて稀有な宗教法人ということができる。当連絡会のホームページには旧統一協会の責任を認めた約30件の民事裁判情報を掲載しているが、その中には旧統一協会の組織的不法行為を認定して民法第709条に基づく法人の不法行為責任を認めた事例も存在する(民事裁判情報No27、東京地判平成28年1月13日、東京高判平成28年6月28日)。また、2007年から2010年にかけて特定商取引法や薬事法違反による全国的な刑事摘発が続いたが、その手口は同様であり、とりわけ新世事件では「役員も販売員も全員が統一教会信者」「手法が信仰と渾然一体となっているマニュアルや講義」「統一教会の信者を増やすことをも目的として違法な手段を伴う印鑑販売を行っていた」「相当高度な組織性が認められる継続的犯行の一環」などと認定されている。
このような団体に国が法人格を認め、税制上の優遇措置を享受させているのは明らかにおかしいのではないか。このことは、国民の皆様にも、広くご賛同頂けるのではないかと考える。
(2)解散命令請求、報告質問権の定め
宗教法人法には、解散命令請求や報告質問権の定めが置かれている。具体的には下記のとおりである。このような定めが置かれているのは、宗教法人の設立について認証主義をとったことに伴い、生じやすい弊害の是正を図る趣旨とされており(逐条解説宗教法人法第4次改訂版375頁)、公益の確保の要請による。法が所轄庁に権限を与えているということは、裏を返せば、所轄庁には、公益に適うように権限を適切に行使する責務があるということに他ならない。
なお、報告質問権の定めは、オウム真理教事件を契機として、平成7年改正にて新設された規定である。所轄庁において、解散命令事由などに該当する疑いがあると考えていても、これを確認する手段がなかったことから、所轄庁の権限を適切に行使するための判断の基礎となる客観的な資料が得られるようにしようという理由で設けられたものである。
【中略】
解散命令は、犯罪行為がないと請求できないなどということはない。第81条1項1号にいう「法令」とは、「宗教法人法はもちろん、あらゆる法律、命令・条例などを指す」とされている(逐条解説宗教法人法第4次改訂版378頁)。解散事由は、条文上、法令違反行為ないし目的逸脱行為と規定されているのであって、刑罰法規違反に限定されていない。とりわけ認証主義により緩やかに宗教法人格を認める建付けを採っていることとのバランスを考えても、解散命令について過度に厳格に解することは妥当ではない。さらに、現行制度上、宗教法人格の取得と税制上の優遇措置とがリンクする建付けとなっているため、解散請求の要件が厳しすぎると、問題のある宗教法人に不当な利益を享受させ続ける結果を容認してしまうという問題もある。
(3)介入消極論とその妥当範囲
ア 介入消極論
しかしながら、所轄庁は、宗教法人法第1条の解釈、端的にいえば信教の自由の保障を理由として、国家が宗教法人に対して介入することについて、極めて消極的な姿勢をとってきた。これは過去の宗教弾圧の歴史、とりわけ我が国における戦前の国家神道の弊害を踏まえたものと考えられる。
【中略(宗教法人法第1条省略)】
イ 妥当範囲
しかしながら、旧統一協会については、そのような消極的な姿勢は妥当ではない。
信教の自由が重要な人権であるとしても、その行為が他人の権利・自由に対して何らかの害悪を及ぼす場合などにおいては、他の基本的人権と同じように、公共の福祉による制約を受けることもまた、憲法の定めるところである。現に、宗教法人法は、その解釈規定において、この理を確認する規定を置いている。
【中略(宗教法人法第86条省略)】
信教の自由は、宗教団体のためにだけ保障されているのではない。他人に対する積極的な働きかけを伴う伝道・教化活動には、自ずから内在的制約がある。伝道の対象となる国民個人の利益がまず最大限に保障されるべきであり、宗教法人法第1条はそのように解釈されるべきである。
そもそも宗教法人法による規制は、専ら宗教団体の世俗的側面だけを対象とし、その精神的・宗教的側面を対象外としているのであって、宗教団体の信教の自由に介入しようとするものではない。解散命令は、宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わず、解散命令に伴う影響は間接的で事実上のものに留まることは最高裁判所も述べるところである(最高裁決定平成8年1月30日)。
(4)当連絡会の意見
旧統一協会の問題は、国によって法人格を付与された宗教団体が、伝道の対象となる国民の信教の自由を侵害する違法な伝道・教化活動を長年にわたり継続的に遂行し、それによっておびただしい経済的・精神的被害を生じさせていることにある。旧統一協会は、国民の信教の自由を侵害することにより、教団を維持拡大してきた。このような行為が社会的に許容されるはずはなく、被勧誘者となった多数の方の信教の自由や財産権を侵害することで、公共の福祉が著しく害されている事実は明らかであって、所轄庁は、旧統一協会に対し、法に基づいて与えられた権限を積極的に行使するべきである。
4.反論する旧統一教会
10月14日、この声明に対し、旧統一教会は抗議と撤回を要求する声明を出しています。全国霊感商法対策弁護士連絡会が解散請求を出した理由に対する旧統一教会の反論は次の通りです。
1.「声明」の要求について以下見出しのみ抜粋
貴連絡会は「声明」の冒頭において、当法人の「最大の問題点」として、その伝道活動において、「勧誘主体が宗教団体であることや、当該活動の目的が宗教勧誘であること、入教後の宗教実践活動を一切秘匿」「宗教の自由や自己決定権を侵害」することにあると主張している。その他、同「声明」において述べられているいくつかの点について、その問題点を指摘し、以下のとおり反論及び抗議を行う。
貴連絡会は、当法人は①伝道・教化活動②献金・物品購入に対する勧誘活動③合同結婚式――のいずれについても「違法」とする判決が確定している宗教法人であると主張しているが、民事訴訟における判決は、各訴訟の原告及び被告に関わる個別具体的な事実について司法判断を下すものであり、裁判所が何らかの普遍的な判断を行うものではない。
即ち、一部の判決を当法人全体に対する司法判断であるかのように曲解する貴連絡会の主張は、一部の判決を自らに都合のいいように拡大解釈しているに過ぎない(当法人の主張が認められなかった判決のほとんどは、当法人の使用者責任が問われたものである)。また、最近でも当法人を被告とする訴訟で原告らの請求が棄却されたものもあり、当法人ないし信者らの伝道・教化活動が違法であるとの判決が確定している事実はない。
(1) 「合同結婚式」について、裁判上、「違法」と判断されたことはない。このように、旧統一教会側は、「過去裁判で違法性が指摘された信者らの伝道・勧誘・教化方法は今は行われていない」、また「過去の民事訴訟における判決は、各訴訟の原告及び被告に関わる個別具体的な事実について司法判断を下すものであり、裁判所が何らかの普遍的な判断を行うものではない」という理屈で反論しています。
(2) 「物品販売」については、当法人はいかなる販売活動も行った事実はない。
(3) 「献金勧誘」については、一部信者らの献金勧誘行為の行き過ぎが不法行為に問われ、さらに当法人の使用者責任が認められたケースはある。
(4) 「伝道・勧誘行為」については、「国民の信教の自由を侵害する違法な伝道・教化活動を長年にわたり継続的に遂行」と貴連絡会は「声明」で述べている。
(5) 当法人が行った2009年のコンプライアンス宣言で、信者らの伝道に関し最初から当法人の勧誘であることを明示して伝道するように、改めて指導した。
したがって、貴連絡会が「最大の問題点」とする「信教の自由と自己決定権に対する侵害」「国民の信教の自由を侵害する違法な伝道・教化活動」などは、現在、当法人ばかりか当法人信者らにおいても一切行われておらず、貴連絡会の主張は現実と完全に乖離するものである。
貴殿らの主張は、過去裁判で違法性が指摘された信者らの伝道・勧誘・教化方法が現在も行われているとの主張であり、極めて不当である。
ただ、今回の政府の解散命令の解釈変更によって、民事も対象になりましたから、今後、政府質問その他で旧統一教会のこれら2つの主張を覆す証拠が出てくるのかどうかが一つのポイントになってくるのではないかと思いますね。
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