編集力が価値になる時代

今日はこの話題です。
画像

 ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。


2022-10-22 120303.jpg


1.取りやめになりましたー


10月20日、沖縄県名護市辺野古での抗議活動に対する、ひろゆき氏の発言を受けて、琉球新報社が取材を申し入れていたのが放送前日にキャンセルになったことが分かりました。

これは、20日にひろゆき氏が「かねてよりお伝えしてましたが、琉球新報から取材依頼があり、金曜日の19時配信予定でした。某メディアがおいらが言ってないことを言ったと報道したので、「言った。言わない」を避けるために、配信しながら取材をする形で進んでいたのですが、琉球新報側の都合で前日ですが取りやめになりましたー。」とツイートしたことで明らかになりました。

これに対し、琉球新報は、ひろゆき氏は19日に他メディアのチャンネルでの配信を必須とする新たな条件を提示され、当日までに結論が出せなかったと、ひろゆき氏に責があるかのような主張をしています。

もっとも、取材対象から条件を出されて、取材をキャンセルしたケースは他にもあるようで、例えば大阪府泉南市の添田詩織市議会議員は、「日曜報道 the prime」からの取材依頼に対し、「①事前の取材要請内容」「②質問に対する答え」「③どの局の誰のインタビューに答えたのか」の3点について放送前にSNSやブログで公開することと、添田市議会議員側でインタビュアーの顔入り動画を取り、事前に動画投稿することの2点を条件として出したところ、取材キャンセルされたということです。

添田議員は、偏見報道から身を守るためには、事前のトラブル回避能力が必要だ、と述べていますけれども、これは、編集の仕方で言ってないことを言ったかのように見せたり、本人の意向とはニュアンスで報じたりなどいくらでも出来るということを示唆しています。





2.可視化される編集


ネットには、俗に「まとめサイト」と呼ばれるサイトがあります。

まとめサイトとは、ネット上に公開されている情報を集めて、整理・再構築したページのことです。まとめサイトには、掲示板の発言をまとめたものや、SNSの発言内容をまとめたもの、更には大きな事件が発生し、関心を集めるものだった場合、事件に関する情報を集める為に作られるものや、画像掲示板に投稿された画像をテーマ別に収集するといったものなど多種多様です。

また、まとめサイトを見る側にとっても、1つのサイトで特定のテーマについての情報を広く得ることができたり、知りたい情報を簡単に見つけることができるなど、手間が省けるというメリットがあります。

逆に、まとめサイトを作る側にしてみれば、膨大なネット情報から個々の情報を拾って、纏める作業をしていることになるのですけれども、これはテレビや新聞でいう「編集」作業に相当すると言ってよいかと思います。

編集では集めた情報を取捨選択して、記事にするわけですけれども、当然ながら、どの情報を「取って」、どの情報を「捨てる」かの判断が入ります。編集者の取捨選択基準というか価値観がそこに現れてくる訳です。

冒頭に述べた、ひろゆき氏の取材の生配信要請だとか添田議員の取材の様子の動画配信などは、いわば、マスコミが、この「編集」をどのように行ったのか、どのような考えで纏めたのかを「可視化」するということだとも言えます。

それが、偏見報道から身を守るのだとすれば、その「編集」における取捨選択が、少なくとも取材された側の意図とは違っているということです。


3.編集権をぶっ壊す


確かに、編集の仕方でその意味やニュアンスが異なって見えるということは意外とあるように思います。

筆者もブログ記事を15年、5000本以上書いてきましたけれども、似たような経験があります。

例えば、2021年4月20日に朝日新聞デジタルは「報道の自由度、67位 『菅氏は改善へ何もしていない』」という記事を配信しました、

その記事は次の通りです。
国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は20日、2021年の「報道の自由度ランキング」を発表した。調査対象の180カ国・地域のうち日本は67位(前年66位)だった。日本の状況について、政権批判をする記者がSNSで攻撃されているなどと指摘。昨年9月に就任した菅義偉首相については、「報道の自由の雰囲気を改善するために何もしていない」と批判した。

クーデターで国軍が権力を握り、批判的なメディアの免許が取り消されているミャンマー(140位)については、治安部隊による大規模な拘束を逃れるため、事実を伝えようとする記者が隠れて働くことを強いられていると指摘した。

1位は昨年と同じノルウェーで、4位までをフィンランドなど北欧諸国が占めた。米国は44位(昨年45位)で、日本は主要7カ国(G7)の中で最下位。中国は昨年と同じ177位だった。(パリ=疋田多揚)
記事では、日本は政権批判をする記者がSNSで攻撃されていると指摘されているなど、いかにも報道の自由がないような印象を受けます。

これについて筆者は、2021年4月23日のエントリー「報道の自由度ランキングと検閲のウイルス」で取り上げました。

筆者は、「報道の自由度ランキング」について、まとめサイトのように、関連記事を集めて纏めるだけでなく、どのように報道の自由度を調査してランキングしているかも調べました。

件のエントリーにも書きましたけれども、その方法は「国境なき記者団が選んだ180の国と地域のメディア専門家、弁護士、社会学者などに行う87の質問から構成されているアンケート結果と、130ヶ国の特派員が評価したジャーナリストに対する暴力の威嚇・行使のデータを組み合わせたものを、独自の評価基準と数式に当てはめ、評価値として算出する」というものでした。

つまり、一般大衆に調査した訳ではなく、ジャーナリストや学者といった、いわば内輪に近い人達のアンケート調査が元になっているのですね。

件の「日本は政権批判をする記者がSNSで攻撃されている」という部分にしても、ランキング報告書の地域分析「アジア太平洋地域」の中のほんの数行で、その殆どは中国に割かれていました。

ところが、先述した朝日新聞の記事は、この中国批判の部分には一切触れていません。

これを知った上で改めて、件の朝日の記事を読むとまた別の景色が見えてくるのではないかと思います。

要するに、これが「編集」の力でもあるということです。

逆にいえば、冒頭のひろゆき氏や、添田議員の例は、この「編集」という力を、メディアに委ねるのではなく、自分の側でもある程度コントロールしようという試みであると言えます。

その意味では、件の事例は「既得権益」と化したマスコミ・メディアの「編集権」が破壊され始める予兆なのかもしれません。


4.編集を読み解け


2021年3月、2003年からネットリサーチ事業を行っているクロス・マーケティング社は「動画の倍速視聴に関する調査(2021年)」を発表しました。

これは、全国20歳~69歳の男女を対象に、動画コンテンツの倍速視聴経験や倍速で見たいと思うもの、動画を倍速で見ることに対する意識について聴取したものです。

倍速視聴とは、その名のとおり、ネット動画を2倍速に早送りして視聴するというもので、視聴時間が半分で済む代わりに、音声、映像が倍速になるため、内容を理解するのが難しくなるというデメリットもあります。

クロス・マーケティング社の調査によると、「20代は他年代に比べ倍速視聴経験者の割合が高く、特に20代男性は54.5%と半数以上が動画コンテンツを倍速で視聴したことがある」と報告しています。

2022-10-22 120302.jpg


この話題はネットを騒がせたそうなのですけれども、敬和学園大学人文学部准教授の松本淳氏は、その理由として「ジェネレーションギャップ」と「昔に比べて若者は時間もおカネもないこと」の2点を挙げています。

前者については、いまの若者は、テレビ放送を前提に制作されてきたドラマは緩慢に感じられ、かったるいものであるものの、実際に飛ばしてしまうと話についていけなくなるので、仕方なく見ているのが実態だとし、後者については、若者は時間もおカネもないので、飛ばして見るどころか、"何を観るか"を相当絞り込んだうえで"最低限のものを観て友だちと話をあわせる"しかない状況になっており、その根本的な問題はもっと深いところにある、と指摘しています。

この松本准教授の指摘、特に後者の指摘が本当だとすると、今後ますます「まとめサイト」が求められ、重要になってくることが予想されます。なぜなら、まとめサイトは「必要最小限の時間」で「必要最小限の情報」を手に入れる手段の一つになるからです。

ただ、そのような情報収集が主流になってくると、これまで以上に問題になってくることがあります。それは「リテラシー」です。

松本准教授は、後者が生む問題として次のように述べています。
大学で講義を行い、学生たちを評価しながら実感するのは、そういった若者たちは、幼少期にいわゆる物語の読み聞かせを起点として蓄積される「リテラシー」が不足しており、物語コンテンツの読み解きを苦手としているということだ。

そこから更に言えば、現実社会も含めた「世界観構築や把握の能力」を高める機会が圧倒的に不足してしまっている。

読み解きができなければ、スキップ・早送りで「わかった」と自分に言い聞かせるようになってしまったとしても無理もない。
松本准教授は、この問題に対し「コンテンツの送り手に求められるのは、実態が伴わない『倍速』という表層をみるのではなく、改めて世代間でのギャップやコミュニティの分断を結び直すような物語を生み出すことなのではないか……彼らをそういう状況に追い込んでしまったのも、また私たちでもあり、その責任を負わなければならないのではないかと考えている。説明過多な『わかりやすい』物語が悪いのではなく、そこから始めなければならないのだ」と述べていますけれども、「スキップ・早送りで『わかった』と自分に言い聞かせる」人達がこれから増えていくのだとすると、情報の出し手が、どういう意図でどういう「編集」をしているかを、十分認識しないまま、その情報を受け取ってしまうと、簡単に「扇動」されてしまう危険があることになります。

情報コンテンツが「読み解くもの」から「消費」されるものへの変化しつつある現在、我々は「情報の編集」が持つ力にもっと注意を払うべきではないかと思いますね。


  twitterのフリーアイコン素材 (1).jpeg  SNS人物アイコン 3.jpeg  カサのピクトアイコン5 (1).jpeg  津波の無料アイコン3.jpeg  ビルのアイコン素材 その2.jpeg  

この記事へのコメント

  • 白なまず

    まさか「まとめサイト」に編集過程を整理し
    不正な編集を見破る能力があるとは思いも寄らない
    話題でした。

    最近の仕事でWindows10のログイン名・パスワードでmicro soft アカウントで、
    個人ユーザーは何でmicor soft のアカウントが必要なんや!と不満爆発でしたが、
    仕事で在宅・サテライトオフィスなどで場所を問わず仕事環境を実現するのに
    いわゆる「グローバルコミュニケーション基盤用アカウント:=グロコミ・アカウント」
    を使うのですが、これがmicro soft アカウントの事でこのアカウント管理により
    企業内部でのアカウント管理だけでなく、企業間でのコミュニケーション(PCでデータ共有、
    Teamsでミーティング等々)可能になり、設計・開発などが企業間でもスムーズに可能
    になっています。まとめサイトは不特定多数のアクセスを許す仕組みなのでアカウント管理
    はあまり厳しくする必要は無いかもしれませんが、これらのサイトがいずれ証拠や事実を
    証明する物に変化する事は十分にあり得る事だとも思います。

    首根っこを micro soft に抑えられている感は否めないので米国政府にも筒抜けになる
    可能性もあり得ますが、データの証明書を発行する企業も存在するので、いずれは
    日本国政府が統括するグロコミ・アカウントやデータの証明書を発行管理する企業(国有?)
    が出来れば暗号通信も含めて日本の情報流出防止の要になるのは必然だと思います。

    編集作業は設計作業や開発作業と内容の違いを除けばデータ管理上差は無く
    現在のネットを最大限に生かす業務形態にマッチする物だし、企業、企業間だけでなく
    個人や小グループ同士の共同作業に於いても必要とされている物だと思います。

    つまり、編集自体に付加価値が有るとのご主旨に賛同しますし、可視化し情報共有する
    事で嘘を見破れるリテラシーが身に付くと同時に、自分たちには何が必要なのかスッキリ
    先が見通せるようになると信じたいですね。
    2022年10月27日 17:20
  • 日比野

    白なまずさん。こんばんは。ご無沙汰してます。

    私もこのエントリーを書くまで、「まとめサイト」の効能には気づいていませんでした。

    例のひろゆき氏の話題から、なにか記事になりそうな予感があり、とりあえず書き始めてみたら、あれこれ気になって、少しづつ情報を集めてなんとか仕上げることができました。

    書き上げてから「編集」の可視化の重要性に気づかされました。

    動画が倍速で見られる時代です。今後増々、「どう編集されたのか」が重要になってくる気がします。
    2022年10月27日 20:17