中間選挙はウクライナ戦争を変えるか

今日はこの話題です。
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1.ウクライナ4州に戒厳令


10月19日、ロシアのプーチン大統領はオンライン形式で開かれた安全保障会議で「ウクライナの政権は交渉を拒否している。砲撃が続き、市民が殺害されている」と述べ、ウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南部のヘルソン州とザポリージャ州の4つの州を対象に戒厳令を導入する大統領令に署名したと明らかにしました。

そしてプーチン大統領は「ロシアのすべての自治体のトップにさらなる権限を与えることが必要だ。人々の安全やテロ対策、特別軍事作戦に必要な製品を製造することなどだ」と述べ、ロシア国内の各自治体の権限を強化する大統領令にも署名。クラスノダール地方やベルゴロド州など、ウクライナとの国境周辺にある自治体のトップに市民の移動の自由の制限や資産の接収など戒厳令に準じた措置をとる権限を与えるとしたほか、他の地域でも必要に応じて住民保護や領土保全のための措置を適用できるとしています。

ロシアの「戒厳令」は、ロシアに対する侵略または侵略される脅威が生じた場合に発動され、国の防衛や国家の安全を確保するために、市民の権利や自由を必要な範囲で制限できるとされ、具体的には、移動の自由の制限に加えて、ほかの地域への強制移住といった措置がとられる可能性があります。

また、当局は、国民の財産や企業の資産を差し押さえることができるほか、必要に応じて市民を最大30日間、拘束できる権限が与えられます。

ロシアのメディアは、戒厳令が発動されたのはソビエト崩壊後初めてだと伝えていますけれども、ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は「4州ではウクライナ側の攻撃が強まっていて、ロシアの占領地域が縮小する可能性が出てきている。このためロシア側からするといま占領している地域が、ウクライナ側に奪還されるのを阻止するねらいがあると思う。ロシアでは戒厳令が出されると大統領の判断で議会の同意なしに超法規的な措置を取ることができ国防上必要な活動に関して住民の動員も可能になる。この4州に関しては、事実上戦争状態にある、戦時体制下にあるということを、公に認めるということになる。この4州はロシアが併合したと主張していてそこにウクライナ側が奪還の動きを見せているので、ロシア本土が攻撃されたとして、今回の戒厳令の導入に踏み切ったのだろうと思う。」とコメント。

更に「もう1つのねらいは、ロシア国内で予備役の部分的な動員が導入されて、反発や動揺の動きが広まっているが、この4州に限っては事実上の戦争状態にあるんだということを、ロシア国内にアピールすることによって、国内の引き締めを図る意図もあるんだろうと思う」と述べ、戦時体制への移行を宣言したことになると指摘しています。

実際、22日になってウクライナ担当のキリエンコ大統領府第1副長官が「特別軍事作戦」と呼んできたウクライナ侵攻について、「戦争」という言葉を連呼。戦争の責任を負うのは北大西洋条約機構(NATO)側と主張していますから、クレムリンは、「戦争」となったと認識してよいように思います。 

また、兵頭氏は、ロシアについて「戦争の出口を見据えた落としどころを見いだしているというよりも、1つずつ強硬な姿勢を引き上げているように見受けられる……この4州に関しては戦争状態にあるということを公的に宣言したことになるので、プーチン大統領からすると譲歩や妥協をする余地はなくなってしまったことになる」と、エスカレーションラダーを上り続けていると警告しています。


2.急激に悪化したロシア世論


10月21日、ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターは21日、プーチン大統領が「部分的動員」を発表して以降の国民の「心理状態」について、「急激に悪化した」との調査結果を発表しました。

調査は、ロシア軍への「部分的動員」が発表されたあとの9月22日から28日にかけて行われたのですけれども、今の気持ちを尋ねたところ、「気分が良い」と答えた人は7月調査の15%から7%に下落、「普通」と答えた人65%から45%に減少しました。

一方で、「緊張・苛立ち」と答えた人が17%から32%に増加し、「恐怖・憂鬱(ゆううつ)」と答えた人も4%から15%と急激に増加したという結果となり、レバダセンターは、「調査を始めてから、これほど劇的に国民心理が悪化したことはない」と分析しています。

レバダセンターは、プーチン大統領の仕事に対する評価も行っていて、9月の肯定的な評価は、前の月から6ポイント下がり、77%となる一方、否定的な評価は6ポイント上昇して21%となり、侵攻後初めて20%を超えたと発表しています。

ウクライナ侵攻後の3月から、肯定的評価は毎月82%~83%で推移していたのですけれども、9月に来て変化があらわれた形です。

レバダセンターは、「評価する数字は高いものの、9月は部分的動員の発表で支持率が低下した」と分析していますけれども、部分的とはいえ「動員」は、ロシア国民に大きなインパクトを与えているようです。

先述の防衛省防衛研究所の兵頭氏は、戦争状態にあることを国内にアピールすることで引き締めを図る意図があると述べていますけれども、筆者もそう思います。


3.ステッドファスト・ヌーン


10月17日、NATO(北大西洋条約機構)は「ステッドファスト・ヌーン」と呼ばれる軍事演習を開始しました。演習は今月30日まで続けられる予定で、アメリカを始め14ヶ国が参加しています。この演習の狙いはロシアを念頭に核抑止の維持を確認することとされています。

一方、ロシアも近日中に核演習を計画していると言われており、NATOは、ロシアが演習と偽って実際に核兵器を使うのではないかと警戒しています。

ここにきて、核兵器使用について懸念の声が挙がっているのは、いうまでもなくドネツク、ルガンスク、へルソン、ザポリージャの4州をロシアが併合したことが影響しています。4つの州を併合したことにより、ロシアのウクライナでの軍事行動は、特別軍事作戦ではなく、自国の領土を防衛することになったからです。

プーチン大統領も9月21日の国民向け演説において「核兵器を含むあらゆる手段を用い祖国の領土一体性を守る」と宣言。ロシアのラブロフ外相も「ウクライナがロシアに編入された地域を攻撃した場合、核兵器での反撃もあり得る」ことを認め、クレムリンの高官の口から「戦争」という単語も飛び出しています。

実際、ロシアは核兵器の使用をちらつかせるとともに、モスクワに設置された核シェルターの点検作業を急ピッチで進めているといわれています。

現在、モスクワに備えられた核シェルターは7000以上あると言われているのですけれども、その一つが「冷戦博物館」として公開されています。そこは、地下65メートルにアリの巣のような空間が張り巡らされ、壁は厚いコンクリートや鋼鉄で覆われており、長い机が備えられた部屋では米ソの核戦争が迫った1962年のキューバ危機の際、幹部会議が連日開かれたとされています。

一方、アメリカも冷戦時代に「政府存続計画」の一環として、ホワイトハウスや軍事施設に核シェルターを設置。ウエストバージニア州のホテル「グリーンブライヤー」の地下に連邦議会の巨大な核シェルターが用意されていたことも明らかになっています。

アメリカでは、一般国民の間でも核戦争に対する警戒感が高まりつつあり、10月10日に公表された世論調査によると、「ロシアとの核戦争に向かいつつある」と回答したアメリカ国民は58%に達したそうです。

8月にアメリカのラトガース大学が「アメリカとロシアの全面戦争という最悪のシナリオでは、人類の半数余りが死亡する」との研究結果を公表。大気中の煤煙が日光を遮ることで農産物の生産が壊滅的なダメージを受け、世界的な饑饉による犠牲者は核兵器爆発による死者数をはるかに上回るとしています。


4.アメリカの核報復のターゲット


では、実際にロシアが核兵器を使用したら、アメリカはどう対応するのか。

オバマ政権の末期の2016年に開かれたアメリカの国家安全保障会議(NSC)で、ロシアのクリミア編入後、ウクライナ東部ドンバス地域への介入を続けるロシアが、隣接するリトアニア、ラトビア、エストニアのいわゆるバルド三国の一つに侵攻した場合、アメリカはどう対応するかについての会議が開かれたことが、アメリカのオンライン誌スレートのフレッド・カプラン氏の調査報道で明らかになりました。

会合の参加者は、国防総省、情報機関を含む政府各省庁の次官級代表で、そのシナリオは、通常戦力で勝るNATOがロシア軍の侵攻を食い止め、優位に戦いを進める中、ロシアがNATO軍またはドイツの軍事基地に対して「低出力」の戦術核兵器を使用するというものでした。7

この時アメリカは報復として、どのような兵器を使って、どこを攻撃すべきかが議論されたのですけれども、当時のバイデン副大統領の国家安全保障問題担当補佐官を務めたコリン・カール氏が、ロシアによる核の使用は1945年の広島、長崎以降、初めての歴史的出来事であり、ロシアを孤立させ、政治的、経済的打撃を与えるため国際社会を結束させる絶好の機会だと説明。核で報復することは「大局観に欠いた」行動であり、核使用の閾値を下げるだけでなく、強力な制裁措置よりも効果は乏しいと主張しました。

結局、その時の議論は、NATO制服組トップである欧州連合軍のブリードラブ最高司令官を含め「最初の対応」は核による報復ではなく、通常戦力によるものとすることで落ち着いたのだそうです。

続いて1か月後に、今度は参加者のレベルを上げた閣僚級のNSC会合が開かれ、同様のテーマで議論されました。この時も、核による報復をしない方が賢明との意見もあったのですけれども、当時のアシュトン・カーター国防長官が、もし敵国が核攻撃すればアメリカは直ちに核で報復するとの同盟国の信頼が崩れれば、アメリカを中心とする世界的な安全保障体制は崩壊してしまうとのの主張が優勢となりました。当時国務副長官だったブリンケン氏は、このとき立場を鮮明にしなかったそうです。

次に議論の対象となったのは、アメリカは具体的にどこに報復するかについてでした。最初に挙がった候補は、ロシア西部の飛び地で、バルト海に面する軍港を持つカリーニングラードだったのですけれども、飛び地とはいえ、ロシア領土に核ミサイルを落とすことは、全面的な核戦争に発展する恐れがあるとして却下。バルト3国に侵攻したロシア軍に対する攻撃も検討されたのですけれども、これも同盟国の市民への被害を考慮し不適当とされました。

結局、最終的に選ばれたのはロシアに隣接する同盟国ベラルーシでした。

演習シナリオで、ベラルーシはバルト3国侵攻には何の関係もなかったのですけれども、ロシアの同盟国と言うだけで、核攻撃の対象となることが決まったのです。

同様の机上演習は、トランプ政権でも、ロシアが欧州のアメリカ軍施設に戦術核攻撃を行ったとの想定で国防総省が行い、核兵器を運用する戦略軍は、核による限定的報復を行うことを決定し、攻撃手段として、当時配備が決まった低出力仕様の潜水艦発射弾道ミサイル、トライデントを使うことも決まりました。

これについてカプラン氏は、米国の原子力潜水艦からロシアに向けミサイルが発射された段階で、それが低出力の戦術核か、破壊力のはるかに大きい戦略核か判定できず、ロシアが大陸間弾道弾で報復する可能性があることや、そうした低出力のミサイル配備は逆に、核使用の閾値を下げ世界の安全保障体制を脆弱にするとして、専門家の間で慎重論が強いことを指摘しています。

10月21日、ベラルーシのルカシェンコ大統領は西部の軍事施設で国産無人機を視察。ウクライナとの国境に配備する可能性があるとする一方、「これらがウクライナで使われるのは望ましくない……結局のところ、同胞なのだ」と述べ、更に「われわれはどこにも行くつもりはない。今現在、戦争は起きていない。われわれに戦争は必要ない」といかなる戦争にも関与しない意向を示しました。

プーチン大統領の盟友である筈のルカシェンコ大統領にして、この発言は、プーチン大統領に愛想を尽かしたのかとも思えなくもありませんけれども、先述した、アメリカの机上演習で、ロシアの同盟国というだけで核攻撃のターゲットになってしまうとなれば、「ベラルーシは関係ない」と予防線を張ることも、当然の発言だともいえます。


5.大砲かバターか


では、このまま核戦争にまでエスカレートするのかというと、別の可能性が出てきました。ウクライナへの支援縮小です。

10月20日、アメリカのバイデン大統領は、11月8日の中間選挙で共和党が上・下院のいずれか、もしくは両院を掌握することになった場合、将来の対ウクライナ支援について「懸念する」と述べました。

というのも、共和党下院のケビン・マッカーシー院内総務が、共和党が中間選挙で下院の過半数議席を奪還すれば、ウクライナに「白紙の小切手を書くことは不本意だ」と述べており、援助の縮小あるいは撤回を示唆したからです。

実際にはいきなり支援を打ち切ることはないでしょうけれども、今のペースでの支援が続けられるかは分かりません。共和党内には「ウクライナに供与する大砲よりも、物価上昇で生活が苦しいアメリカ国民のバターに、予算をもっと振り向けるべきだ」という意見が根強くあり、次の下院議長をめざすマッカーシー院内総務の発言も、そうした意見を反映していると見られています。

ただ、共和党でも支援をやめようという意見で固まっているという訳ではなく、支援を続けるべきだという声もあります。

今回のマッカーシー院内総務の発言に対し、マイク・ペンス前副大統領は、「より広い世界との関わりを断たせる」と非難。ペンシルバニア州のブライアン・フィッツパトリック議員は「誰も白紙委任などとは言っていない。ウクライナに必要なものだ……これは歴史的なことであり、戦争疲労が起こるということだ。実際、ウラジーミル・プーチンはこのことを利用している。新聞の一面を飾ることがなくなり…人々はこのことを忘れ、闇の中で大量殺戮が行われることになるのだ。我々はそれを防ごうとしているのだ」と反対しています。

このように共和党は、ウクライナ支援に疑問を持つマッカーシー陣営と、追加支援に前向きなマコーネル陣営に分かれてきていると見られているようです。


6.中間選挙はウクライナ戦争を変えるか


アメリカからの支援が止まると、ウクライナが窮地に陥るのは目に見えています。現状、ウクライナが反転攻勢に出て占領された街を次々と奪還しているのも、アメリカを初めとするNATO諸国のバックアップがあるからです。

その意味では、ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカの中間選挙の行方を注視しているに違いありません。

現在、中間選挙は、共和党の優位が伝えられていますけれども、もし共和党が上下院とも取ってしまうことになれば、今までのような支援は望めなくなるかもしれません。

となると、改選後の議会が始める来年1月まで、すなわち年内のうちに、ロシア軍をウクライナから追い出せないまでも出来る限り、占領地域を奪還すべく、更なる反転攻勢に出ることも考えられます。

勿論、プーチン大統領もそれは分かっているでしょう。中間選挙で共和党が勝つことを見込んで、ロシアは占領地域を維持することを基本戦略とする持久戦に持ち込むことを狙っているかもしれませんね。
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