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1.三期目を決めた習近平
10月23日、中国共産党は第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で習近平総書記の3期目続投を正式決定しました。
一方、最高指導部の政治局常務委員会は7人体制を維持したのですけれども、常務委員に選出されたのは、習近平主席のほか、李強(新任)、趙楽際(再任)、王滬寧(再任)、蔡奇(新任)、丁薛祥(新任)、李希(新任)の各氏ですけれども、いずれも習主席に忠実と見られています。
習近平主席は異例の3期目続投を決め、常務委員も自分に忠実な人物で固めた訳ですけれども、習近平主席は最初から強大な権力を持っていた訳ではありませんでした。
2012年の第18回党大会で習近平氏が総書記に就いたとき、習氏にはまだ「習派」と呼ぶべき確たる勢力はありませんでした。習氏は党の八大元老の一人である習仲勲氏を父に持つ「太子党」のプリンスだったのですけれども、若い頃から地方生活が長く、他の太子党の友人らと派閥としての強い繋がりはありませんでした。
総書記就任当時、習氏が指導部で心を許せたのは、中央政治局常務委員入りした王岐山氏や中央政治局員・中央弁公庁主任に就いた栗戦書氏ら2人の旧友ぐらいだったとされています。
2017年からの2期目になると、習氏の勢力は中央政治局25人のうち約6割まで拡大しました。1期目は旧友が習氏を支える形だったのが、2期目になると、習氏が福建省や浙江省、上海市に赴任した際に出会った腹心の部下たちが続々と中央政治局に加わりました。
その代表格が上海市党委書記の李強氏や重慶市党委書記の陳敏爾氏、中央弁公庁主任の丁薛祥氏らで、習氏に絶対的な忠誠を誓う忠臣とされていますけれども、習氏に次ぐ党内序列2位となった李強氏は、来年3月に退任する李克強首相の後任となる可能性が高いと見られています。
2.皇帝と臣下
3期目となった習近平指導部は習氏含めて他の常務委員を馴染みの部下で固めるという異例の人事を行った訳ですけれども、異例だったのはそれだけではありませんでした。
共産党が大会閉幕後に公表した指導部上位約200人の中央委員の名簿の中に、党序列2位だった李克強首相と4位の汪洋・全国政治協商会議主席の名前が削除されていました。
中国共産党は、党大会時の67歳以下は現役、68歳以上は引退する「七上八下」という年齢制限の慣例があるのですけれども、李克強氏、汪洋氏の2名はまだ67歳で現役となる筈でした。
ところがこの両氏は党の最高指導部から外れたばかりか、引退に追い込まれたということです。
更に、両氏は、習近平主席が嫌うとされる中国共産主義青年団(共青団)の出身で、李克強氏のあとは汪洋氏が引き継ぐのではないかとの見方もありました。けれども、この重鎮として残るはずの2人は排除されたのですね。
共青団の出身者として有名なのは、前国家主席の胡錦濤氏ですけれども、今回の党大会に出席した胡錦濤氏は、今回の総会の閉幕式で習近平の隣に並んで着席していたところを、突然、関係者に促され、腕をつかまれて途中退席させられる一幕が映し出されました。
国営新華社通信は、「胡氏は体調が優れなかった」とツイートしていますけれども、映像で、胡錦濤氏は背後から習近平に声をかけ、それに習近平が頷くと、その隣に座っていた李克強首相の肩をポンと叩いて去っていきました。李克強首相の名前の消えた中央委員の名簿が公表されたのは、その直後のことでした。
これは、党中央執行部から共青団を排除した、あるいは排除するという習近平主席の宣言のようにも見えます。
その証拠に胡錦濤氏が習近平主席の後継に推していて、常務委員7人のうちの1人に加わるのではないかと見られていた、59歳の胡春華副首相は今回、政治局常務委員に入れませんでした。それどころか党の上位24人の政治局員にも選出されず、事実上降格となっています。
こうしたことから、習近平主席の3期目は、独裁体制だという見方も出ており、評論家の石平氏は習近平主席は「皇帝」となり、他の常務委員は「臣下」の扱いになったと指摘しています。
3.中国共産党員が習近平独裁を容認する3つの理由
中国共産党の慣例を破った習近平主席の3期目続投について、ベトナム・ビングループ主席経済顧問の川島博之氏は、それを9000万人以上とも言われる中国共産党員が容認する理由として「上に対する恐怖」、「下に対する恐怖」、「中国の歴史」の3つを挙げ、次のように述べています。
第1に考えられることは「上に対する恐怖」である。川島博之氏はこれら3つの理由によって、習近平主席はすんなりと第3期に入ることができたとする一方で、中国では「偉大な皇帝」は「偉大な事業を成し遂げた皇帝」と同義語だと述べた上で、これまで何一つ偉大な事績を成し遂げていない習近平主席は偉大な皇帝になることを目指すだろうと指摘しています。
共産党は上から下へ何層にも重なったピラミッド構造になり、各階層の党員には直属の上司がいる。習近平の子分が直属の上司になった場合、下層にいる共産党員はその命令に従わざるを得ない。心の中では習近平に反発していても、習近平を支持しているように振舞わなければならない。
中央政府、地方政府、警察、軍、そして国営企業に働く人々にとって共産党員であることは特権になっている。それは、これらの組織では、たとえ下級でも幹部に昇進するためには共産党員であることが必須条件になっているからだ。共産党員でなければ出世することができない。
一生懸命に習近平思想を学習して党内の地位を向上させる。党内の地位が向上すれば、地方政府や警察での役職も上がる。このような構造になっていれば、共産党のトップに立つ者が地方政府や警察をコントロールすることは容易である。
第2は「下に対する恐怖」である。
現在、地方政府や国営企業の幹部はたとえ下級幹部であっても、現体制の中で利益を享受している。公務員や国営企業の職員の給与は決して高いものではないが、公務員は官舎を、国営企業の職員は社宅を安価で提供されている。住居が高騰している現在それだけでも特権であるが、その他にも各種の手当てを各組織がお手盛りで作っている。公務員であることには、実際にもらう給料以上のメリットがある。
また彼らは医療や年金の面でも特権的な地位にいる。極論すれば日本人のような年金や医療保険システムに入っているのは、公務員と国営企業の職員だけと言っても過言ではない。もちろん、北京や上海に本社を持つ一流企業は公務員並みの年金や医療保険制度に加入している。しかし、農村や田舎の都市に暮らす大多数の人々はその恩恵にはあずかっていない。
そして公務員であれば、地方政府の部課長級であっても、子供の就学や就職において有利である。また、あからさまな汚職は少なくなったとされるが、管理職であればいろいろなことを頼まれる。その度にそれ相応の謝礼をもらうが、これは汚職ではない。中国の習慣である。だから地方で中堅幹部になれば、絶対にその職を失いたくない。
そんな彼らは庶民と直接接しているだけに、庶民が彼らを羨むと同時に心の底で憎んでいることをよく知っている。共産党体制が崩壊すれば、迫害されるのは習近平など中央の幹部だけではない。より一層民衆に近い立場にいる地方幹部は酷く迫害されるに決まっている。それは「下に対する恐怖である」。
そんな共産党の中下級幹部は現状の維持を強く望んでいる。そして最も恐れているのが中国版の「ゴルバチェフの改革」である。中途半端な改革によって共産主義体制を破壊してはならない。現在、多くの中国人は、不動産バブルが崩壊し始めたことに気づき始めたが、多くの党員はそれによって共産党体制そのものが崩壊することを恐れている。
不動産バブルの崩壊は仕方がないとしても、それを体制崩壊に繋げてはいけない。そして、その答えが習近平による独裁の強化である。
上海や深圳に住むインテリ党員は改革開放をより深化させるなどと言っているが、田舎に住む一般党員にしてみれば、それは「ゴルバチェフの改革」にも似た危険な道に見える。現状を維持するためには、習近平による独裁の方が安心できるというわけだ。
そして第3の理由として中国の歴史がある。
春秋戦国時代以来、約4000年の歴史を持つ中国人は自国の歴史に強い自信を持っている。米国の歴史などせいぜい200年でしかない。そして振り返れば中国は常に1人の皇帝によって統治されて来た。もちろん、分裂して争っていた時代も長いが、それは誰が皇帝になるかを争っていた時代であり、皇帝による統治を否定したわけではない。
中国に皇帝が存在しなかったのは清朝が崩壊した1912年から1949年までの間だけと言ってよい。それは混乱の時代であり屈辱の歴史でもあった。
1949年からは毛沢東が皇帝になった。毛沢東は大躍進政策の失敗によって一時期権力が弱体化したが、文化大革命によって復活した。彼は病床に伏しても皇帝だった。彼を継いだ鄧小平も皇帝だった。若き日をフランスで過ごした鄧小平は皇帝になることに否定的だったが、彼自身は皇帝然として振る舞っていた。
多くの民族が暮らす大きな国である中国は1人の皇帝が統治した方が上手く行く。これは漢民族の心の中に強くこびり付いた感覚と言ってよい。
川島博之氏は、そんな習近平主席が3期目にとる道の一つに「台湾解放」があり、これを成し遂げることで、習近平主席は真に偉大な皇帝になり、終身尊敬を勝ち得ることができると述べています。
尤も川島氏は、ウクライナ戦争の推移などを見ると、近い将来に習近平主席が台湾解放を成し遂げることは不可能であり、それでも求心力を保つためには、「極度の監視社会を築き、人民をがんじがらめに縛る」しか方法がないと述べています。
川島氏が、多くの中下級共産党員は習近平独裁を支持し、独裁に反対しているのは上海や深圳に住むインテリ党員に過ぎず、その数は圧倒的に少ないと指摘していますけれども、中国共産党に習近平が皇帝として君臨し、他の常務委員が臣下として仕えるならば、今後、習近平主席がどんな好き勝手をやったとしても誰も止められる者がいなくなるということになります。
習近平主席の3期目について、アメリカのシンクタンク、ジェームズタウン財団のウィリー・ラム上級フェローは「1つの派閥の異常なまでの一方的な勝利は、共産党の伝統から見て珍しい。チェック・アンド・バランスがなくなることを意味しており、習氏は党政治局や中央委員会をも完全に掌握している」と述べ、シンガポールのRBCキャピタル・マーケッツのアジアFX戦略責任者、アルビン・タン氏は「政策決定という点では、習氏自身の意見がより尊重され、『ゼロコロナ』政策がより定着し、『共同富裕』などをさらに推し進めることになると想像できる」とコメントしています。
4.想定より早い台湾有事
これら背景を見ていくと、当然、日本としても台湾有事を想定しなければならなくなります。
10月19日、アメリカのマイク・ギルデイ海軍作戦部長は、アメリカのシンクタンク「大西洋評議会」のオンラインイベントに出席。キャスターから、台湾有事に関して、海軍の即応能力を問われたギルデイ海軍作戦部長は「この20年間を振り返ると、中国はやると言ったあらゆる目標を想定より早く達成してきた…2027年ではなく、私の中では22年、あるいは23年の可能性もあると思っている」と発言しました。
この2027年(Davidson window of 2027)というのは、アメリカインド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官が、2021年に上院軍事委員会で台湾に対する脅威はこの10年間、実際には今後6年間で顕在化すると思うと語ったことに由来していると思われます。
10月17日、アメリカのブリンケン国務長官は、スタンフォード大で開かれたフォーラムで、台湾情勢について、中国が「現状維持はもはや受け入れられないという基本的な決断」を下し、台湾統一を従来考えられていたよりも「ずっと早い時間軸で追求すると決意した」と発言。中国が習近平主席の下で「国内ではより抑圧的、国外ではより攻撃的だ……とてつもなく大きな緊張を生み出した」と習主席を非難しています。
ブリンケン国務長官は、この時、中国が目指す台湾統一の具体的な時期には言及しなかったのですけれども、ギルデイ海軍作戦部長が22年あるいは23年を口にしたということは、アメリカ政府としては、そこまで台湾有事が迫っていると想定していることになります。
前述した川島博之ベトナム・ビングループ主席経済顧問は、「ウクライナ戦争の推移などを見ると、近い将来に習近平主席が台湾解放を成し遂げることは不可能だ」としていますけれども、ウクライナはアメリカを初めとする西側諸国がガッツリと支援しているからそうなっているのであって、台湾に対して同等以上の支援が行われるのかどうかはまだ分かりません。
21日、防衛省は、弾道ミサイル防衛(BMD)で用いる迎撃ミサイルなどの保有数が、必要な数の6割程度にとどまるとの試算を明らかにしていますけれども、日本とて、弾薬も装備も全然足りていない状況でどこまで台湾支援できるのか。
国会も、いつまでもくだらない統一ナンタラで時間を潰していないで、台湾有事、日本有事とその備えについて議論すべきではないかと思いますね。
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