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1.中国軍の人事は台湾シフト
中国の習近平政権で、軍の人事が注目を集めています。
目玉は、軍の最高意思決定機関である中央軍事委員会の副主席に就任した何衛東氏。党の幹部でなかった何氏がいきなり指導部入りするのは異例の抜擢と言われています。
何衛東氏は、台湾と向き合う福建省の出身で、福建省に拠点を構える第31集団軍に所属していました。直近まで台湾や沖縄県・尖閣諸島方面を担当していた東部戦区の司令官を務め、台湾情勢を熟知しているとされています。
何衛東氏はアメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問した際に行われた大規模な軍事演習を立案したといわれています。
そして、何氏のほかに新たに軍事委メンバーに昇格したのは、李尚福・装備発展部長と劉振立・陸軍司令官です。
李尚福氏は、革命時代の老幹部の子弟を指す、いわゆる「紅二代」で、軍内で習氏の信頼が厚いとされています。また彼は、はアメリカから制裁の対象になった人物なのですけれども、軍最高幹部へ仲間入りしました。
劉振立氏の方は「習氏の子飼い」と囁かれ、首都防衛の責任者を長年勤め、陸軍で最も優秀な精鋭部隊を任された経験の持ち主です。
また、現軍事委メンバーの中でも異例の人事がありました。
本来なら党大会時に68歳以上は引退する慣例に該当する72歳の中央軍事委員会副主席の張又俠氏も異例の続投となりました。習近平主席の父親である習仲勲元副首相と張氏の父親は国共内戦時代の戦友で、習氏と張氏も昔から親密な関係にあるとみられています。
更に、現軍事委メンバーである苗華政治工作部主任も続投が決定。彼も福建省にある第31集団軍の出身で習主席が福建省勤務時代に知り合った仲で、軍の関係者は「両氏は30年来の仲で強い信頼関係で結ばれている」と話しています。
習近平主席は、2015年に陸軍偏重だった軍を陸・海・空軍などが一体になって戦える体制に改める軍改革に着手。白羽の矢を立てたのが、この陸軍出身の苗氏で、海軍に転籍して軍の縦割りの打破に協力したとされています。
これについて、中国軍事に詳しい防衛研究所の杉浦康之主任研究官は「米中対立や台湾問題への危機感を強める習氏は忠誠心を重視し、信頼できる陣容を敷いた」と指摘しています。
2.有事に備える台湾
これらの人事、特に何衛東氏が軍事委員会の副主席に起用したことは「台湾シフト」だと見られているのですけれども、当然ながら台湾は警戒心を露わにしています。
8月24日、台湾の邱国正・国防部部長は、今回の中国軍事委員会の人事について、年齢層が下がってきており、航空宇宙や科学技術のバックグラウンドを持っているとして、将来的には軍事技術戦が発展するだろうとの見解を示しています。
邱部長は、中国共産党の人員配置がどのように変化しても、国軍の戦備に影響はないとし、国軍は引き続き着実に戦備を整えていくとした上で、「我々は動員についての練習を長年行ってきた。台湾の動員の最大の特徴は、動員令が下された後24時間以内に出頭できる。これが我々には可能だ。動員をかけるかどうか、すでに戦闘レベルに達している場合は、平時から戦時への手順がある。長くも短くも。タイミングを計る。何かあればすぐに報告し、すぐに動員する。」と話しました。
そして、邱部長は、国軍は常に平時と戦時の切り替えについて、速度や人員移動など演習を行ってきたと明かし、動員後、兵力を整えた上で戦うかどうかは国民の意思にかかっていると指摘。国民全体が戦争に臨む準備ができているかということでもあると述べています。
これは、ウクライナが国民一丸となってロシアと戦っていることをみれば明らかなように、戦争においては、軍の士気はもとより国民の意思が非常に大事であることを強調した訳です。
また、国防部は大型兵器備蓄庫を建設する計画があるのかと問われた邱部長は、台湾は島国であり、戦争になれば閉ざされてしまうため、戦略資源を多く備蓄する必要があるとしながらも、備蓄する方法は多数あり、必ずしも倉庫を建設する必要はないと答えました。
もっとも、台湾経済部の曽文生政務次長は、ロイターの取材に台湾の強靭性を強化する蔡英文総統の取り組みの一環で天然ガスと石炭の在庫を増やすと答えています。
現在、台湾はエネルギーの98%を輸入に依存しているのですけれども、曽文生政務次長は、台湾に新たな貯蔵施設を建設することにより、天然ガスの在庫を現在の11日分から2030年までに20日分以上に増やす計画を表明。石炭在庫も今後数年で増やし、原油在庫は今後も100日分以上に維持するとしています。
3.逃げ出す中国市場
今回の中国共産党大会の結果に市場は鋭く反応しました。
10月24日、中国本土の人民元は対ドルで下落。オフショア人民元は一時0.7%安の1ドル=7.2782元と、先週付けた過去最安値に接近し、オンショア人民元も一時0.4%安の7.2552元と08年1月以来の安値となりました。
また、香港株式市場も中国本土銘柄から成るハンセン中国企業株指数(H株)も5%余り下げ、2008年の世界金融危機以来の安値となり、中国株の指標、CSI300指数も一時約2%安を付けました。
この日、中国国家統計局は当初、共産党大会開催中の18日に予定され、直前に延期していた7~9月期GDPなど経済指標の発表を行いました。
GDPは市場予想の3.4%を上回る3.9%増だったのですけれども、市場は逆に触れた訳です。
確かに新たに選出された党指導部のメンバーからは、金融改革や市場開放への支持で知られる李克強首相、劉鶴副首相、中国人民銀行の易綱総裁らが外されていたのですから、当然といえば当然かもしれません。
今回の共産党大会では、「ゼロコロナ」政策が中国経済を圧迫しているにもかかわらず、こうした制限措置に変更がないことが示唆されたことから元安に拍車が掛かっているのですけれども、これに台湾有事となれば、東アジアは大混乱になることは必定です。
今年中か来年に台湾有事になるなんてことは考えたくありませんけれども、出来るだけの備えはしておいた方がよいかもしれませんね。
この記事へのコメント
深森
構成銘柄には、IT系、金融、テクノロジーが多かったかと…
マーケットからは、
「経済発展や科学技術に基づくテクノロジー進展よりも、権力固めのほうを優先している」
という風に見える(したがって、ダメージをこうむる前に、それ関連の資金を引き上げ)
…ということであろうと思われました。