四百万部を割った朝日新聞の黄昏

今日はこの話題です。
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1.朝日新聞の400万部割れ


2022年9月度のABC新聞発行部数レポートにおいて、朝日新聞の部数が399.38万部と、400万部を下回ったと話題になっています。

前年11月度で450万部を下回っていたことから、年内に400万部を割るのではないかと言われていたのですけれども、1年を待たずして50万部ほど減少したことになります。全盛期は800万部を超えていた朝日新聞の発行部数は、ここ10年間は減少が続き、ついに半分ほどの規模になりました。

ABC新聞発行部数レポートとは一般社団法人ABC協会が発行しているレポートで、ABCはそれぞれAudit=公査(監査)、Bureau=機構、Circulations=部数の頭文字を取ったものです。

朝日を含めた他の大手新聞の9月のABC発行部数は次の通りです。
朝日新聞:3,993,803(-626,041)
毎日新聞:1,871,693(-114,646)
読売新聞:6,677,823(-370,903)
日経新聞:1,702,222(-151,434)
産経新聞:1,008,642(-82,424)
朝日だけでなく、どの新聞社も発行部数を減らしています。これら五大紙がこの1年間に減らした部数は、総計で134万部。産経新聞が丸ごと無くなってまだお釣りがくるくらいの減少振りです。

しかも、ABC部数には「押し紙」が含まれていますから、実際に読者に届けられる部数は更に少なくなると思われます。


2.うまくいかない社内改革


大幅な発行部数減に見舞われている朝日新聞ですけれども、社の中で何が起きているのかについて、元朝日新聞社員のジャーナリストで、未来工学研究所のシニア研究員の谷田邦一氏は今年2月に次のように述べています。
・朝日新聞社に「エー・ダッシュ(A’)」という社内報がある。デジタル化の波に乗り遅れた朝日新聞が巻き返しに躍起なのは、社員なら誰もが知っている。それよりも多くの社員の目を引いたのは、社内報の末尾に載っている退職者のひと言コーナーだろう。ふだんは2ページほどなのに、この号は8ページもある。退職した社員たちの顔写真と短いコメントがずらりと並ぶ。数えてみると79人もいた。

・「大赤字、デジタル化、大量退職」。同じ社内報に収容された3つの話題は、今の朝日新聞が直面する厳しい現実をくっきりと浮き彫りにしている。

・長期的な発行部数の低落と大赤字で苦境に陥った朝日新聞は、21年1月、選択定年という名目で希望退職者の募集を始めた。経営部門の幹部は社内向けに何度かオンラインで説明会を開き、具体的な退職金の上積みや退職後の再就職先の斡旋(あっせん)などの条件を提示しつつ、繰り返し早期退職を促した。

・筆者が早期退職したのは21年5月末。記者を38年続けた末に、体を壊して激務に耐える自信がなくなったことが主な理由だ。社内報で知った顔ぶれに軽いショックを受けた。79人の多くは編集部門。かつて一緒に仕事をした論説委員が何人かおり、紙面を署名記事で飾ってきたベテラン記者も大勢いた。

・経営部門がオンライン説明会で強調していたのは、おおむね次のような理由だった。≪発行部数の低減とそれに連動する広告収入の落ち込みに歯止めがかからない。新聞社としての経営を維持できず、人事給与制度改革などの構造改革は一刻の猶予もない。何とか聞き入れてほしい≫ 

・ボーナスの4割カット、給与の1割削減、各種手当の廃止、福利厚生の縮小……。経営トップが次々と繰り出す厳しい通告に労働組合は抵抗したものの、ストライキを打つこともなく押し切られた。

・朝日新聞は47都道府県に漏れなく総局をおき、それぞれ地方版と呼ぶ紙面を作っている。ところが、昨年春から総局の下にある各地の支局を廃止したり、地方記者を削減したりして、47あった総局機能を18のブロックへと集約した。新人記者の採用数も減り、地方記者の高齢化が進み、1人あたりの業務や負担は格段に増したという。

・本来なら、本体の新聞発行事業を立て直し、さらに読まれる新聞をめざすべきではないか。ところが、そんな理想論が通用しないほど事態は深刻だった。

・潮流は大きく変わった。こうした急速な読者離れに伴って、朝日の業績もすさまじい勢いで悪化した。連結売上高が4000億円台を維持していたのは16年まで。20年3月期の3536億円から翌21年3月期には2938億円へと、1年で一気に600億円も売上高が激減した。

・むろん、じり貧は朝日だけの問題ではない。他の全国紙も地方紙も等しく同じ問題を抱えて苦しんでいる。なぜ既存メディアは時代の変化に適応できなかったのか。指摘されている要因は、スマホの普及と既存メディアのネット環境への乗り遅れだ。

・総務省の統計によると、16年には20代、30代の若者の90%がスマホを持っていたと報告されている。朝日新聞が「asahi.com(アサヒ・コム)《現・デジタル朝日》」を開設し、インターネットでニュース速報などを流し始めたのは1995年。以来、自前のウェブサイトを通じて無料でニュースを配信してきた。

・ところが購読者数が減少するのと反対に、ウェブのページビューは急増することに。それを知ってようやくニュースの有料サービスを並行して始めたものの、ネット利用者の間にはすでに「ニュースはタダ」という先入観が根付いてしまっていた。かくしてスマホで「タダのニュース」を見る読者が爆発的に拡大し、新聞離れに拍車をかける要因になった。

・新聞各社はそれぞれ自前のネットサイトだけでニュースを配信し、新聞業界が一体となって独自のポータルサイトを創設することができなかった。あるいは試みたものの失敗した。

・その結果、記事にひもづく広告を巨大ニュースプラットホームの「Yahoo!ニュース」などのニュースポータルに奪われてしまい、ネットニュースの配信からほとんど収益を得ることができなくなって現在に至る。

・日本の紙媒体がデジタルシフトを始めたのは1990年代後半。まず日経新聞が有料の電子新聞に取り組み始め、それを朝日新聞など他紙が追った。しかしダントツで成功しているニューヨークタイムズなど米国メディアに比べると出遅れ感が強く、コンテンツも見劣りすると専門家らは指摘する。

・少なくとも日経電子版は収益化に成功しているが、他社は多くの資源を投資している割に成功していないのが実情だ。

・かくして朝日新聞は窮余の一策として21年7月、27年ぶりに購読料の値上げに踏み切った。「ネット上にフェイクニュースが飛び交う今、新聞の役割は増している」と理解を求めた。しかし景気低迷のさなかの唐突な値上げを読者がどうとらえたかは、いずれ購読者数の変化で明らかになるだろう。

・値上げによって、収益の下落は一時的に収まった。しかし、社内では「現在の減紙率でいけば黒字が続くのは長くて2、3年」とささやかれている。いずれにせよ大胆な経営改革を敢行することなしにこの難局を乗り切ることはできない。

・朝日新聞は目下、デジタルシフトに起死回生の望みを託し業績回復に躍起になっている。モデルは、デジタル版の飛躍的な伸びで成功を収めたニューヨークタイムズ(NYT)など米国の先行組のメディアだ。

・ニューヨークタイムズの窮地を救ったのは、最高経営責任者(CEO)による大胆な変革だった。徹底したデジタル化の陣頭指揮を取りデジタル部門に多額の経営資源を集中させた。トランプ政権やコロナ危機、セクハラ問題など社会の関心が高いテーマを、優秀な記者たちが次々と調査報道の手法で掘り下げ、読み応えのあるコンテンツに仕立てて発信。着実に購読者を増やし、有料版の読者数は昨年、1000万を突破し業績のV字回復へとつながった。

・朝日は同じ道をたどれるか。今のところ、人減らしに加え、デジタル化も順調とは言えないようだ。社内にはバーティカルメディアと呼ばれる領域を絞った無料ニュースが乱立し、肝心の有料コンテンツが埋没しているように見える。

・「質の高い報道」と「安定した経営」は互いに矛盾するものではない。米国でも日本でも、有料であっても読者が飛び付きたくなるような報道とは何か。とことん考え抜いて結論を出せるかどうかに朝日新聞社の再生はかかっている。
このように谷田氏は朝日がデジタル化の波に乗り遅れ、社内の改革もうまくいってないと述べています。


3.リスクを恐れて誰もやりたがらない


朝日新聞は、目下の急場を凌ぐため、9月から過去最大級のリストラを始めています。

8月31日、朝日新聞社員に対し、会社側から一斉に退職勧奨のメールが配信されました、

メールは「希望退職制度の募集を開始します」というタイトルで、書き出しは「対象者のみなさま」。ワードとPDF、2つの退職届のひな型ファイルが添付され、ひな型にはあらかじめ、2023年3月31日の日付と「私は退職および希望退職制度適用を申請いたします」と記入されているのだそうです。

リストラ対象者は全社員の6割強に上る約2500人で、その対象者にこのメールが送られたとみられています。この日は、早期退職募集が始まる前日だったため、社内で「ついに大規模な退職勧奨が行われる」との声が広がったそうです。

ある40代記者は「『希望退職』と銘打ってはいますが、45歳以上の社員は全員が上長と面談しなければならない。今後のキャリアについての要求が提示され、納得できなければ、面談が複数回に及ぶ場合もあるといいます……去年の1月にも『選択定年』が実施されて110人ほど退職しましたが、これはあくまで希望者を募るものだった。しかし今回は、全ての中高年社員が辞めるか辞めないか選択を迫られる。対象の世代は、口には出さないけれど悩んでいますよ」とこぼしています。

これ以外にも朝日は「業務連携支援センター」なる部署も設置しました。これについて昨年5月に朝日新聞を退職し、著書『朝日新聞政治部』を上梓した元記者の鮫島浩氏は、「これは、扱いにくいベテラン記者にコピー取りなど単純作業を割り当て、プライドをくじく部署です。記者職ではないため、給料も下がります。社内では『上司に睨まれるとここへ送り込まれる』と、皆戦々恐々です」とコメントしています。

こうしたリストラの大ナタをふるっているのは、社会部出身の常務取締役・角田克氏といわれ、ある40代デスクは「このところ朝日のスクープが少ないのは、誤報を出したり世間の批判を浴びたりして、角田さんに睨まれたら終わりだから。統一教会問題なんてネタの宝庫なのに、リスクを恐れて誰もやりたがらない」と、社内の萎縮した雰囲気を伝えています。


4.お前が辞めろよ


現在、朝日は社内での退職勧奨面談を行っているようで、朝日新聞編集委員の大鹿靖明記者は、次のようにツイートしています。
・退職勧奨めく面談実施中の朝日新聞社の労務担当取締役の岡本順。どんな奴かと思って調べたら生涯署名記事本数がたった25本。社歴は俺と1年しか違わないのに、俺のたった2%だ。少なっ。そんなのに「会社に今後どう貢献するのか」なんて言われたくねーよな。お前が辞めろよ。

・労務のプロではないんだ。社会部出身なのに取材し記事を書くのが不得意な者が間違って経営陣になったということ。中村史郎社長への忠誠の証としての退職勧奨面談だろう。こういうのはおかしいと朝日紙面で追い出し部屋キャンペーンをやったが読んでいないようだ。

・辞めないと言っている人に3、4回も退職勧奨面談を強いるのはおかしい。不法行為となりうる。追い出し部屋告発報道をしてきたのに、朝日新聞は書いていることと経営陣のやっていることの乖離が大きすぎる。労務担当の岡本順がコンプラ担当も兼務とは!朝日新聞社の喜劇である。
この大鹿靖明記者がどのような人物なのか知りませんけれども、なんとも恨みの籠ったツイートです。

今回の朝日の発行部数400万部割れについて、日本テレビ報道局記者の清水潔氏は「権力と闘う事を止めた結果がこれでしょうね。かつては良い新聞でしたがまったく残念」とツイートしていますけれども、大鹿記者もこの忠告にならえば、朝日経営陣という"自社の権力"と闘わなければならないということになります。







5.根本の原因は経営のかじ取りの失敗だ


ただ、先述の大鹿靖明記者は、「朝日紙面で追い出し部屋キャンペーンをやった」とツイートしていたので、自社の経営陣を批判したのかと思って少し検索してみたのですけれども、2013年頃の大手メーカーの大リストラ時代の記事しか見つけられませんでした。

この当時は大リストラが吹き荒れこれら以外にも、リストラに関するいろんな記事が書かれたのですけれども、2014年7月に日経新聞が「日本の半導体失墜の教訓をくみ取れ」という記事を書いています。

その記事の最後には、日本の半導体が弱体化した理由について述べているのですけれども、該当部分を引用すると次の通りです。
なぜ日本の半導体はここまで弱体化したのか。円高など外からの逆風も響いたが、根本の原因は経営のかじ取りの失敗だ。

世界の半導体市場では今世紀に入って、受託生産専門のファウンドリーと呼ばれる企業が台湾を中心に台頭した。彼らは巨額の投資で新鋭工場を次々につくったが、生産の自前主義に固執した日本企業は小規模の古い工場をいくつも抱えたまま身動きがとれず、コスト競争力で大きく劣後した。

顧客基盤が国内の家電メーカーなどに偏り、世界的な広がりを欠いたのも痛かった。ソニーなどの顧客企業の競争力が低下するのに連動して、日本の半導体の活躍舞台も狭まった。

顧客の指示どおりに商品開発して、それで良しとする受け身の体質も事業の発展を妨げた。米インテルやクアルコムのように、自ら次世代技術の工程表を示し、IT(情報技術)の世界全体を前に引っ張っていこうという事業構想力や気概にも欠けた。

日の丸半導体を立て直そうと、経済産業省を中心に政府も数々のプロジェクトや政策を発動したが成功したとは言いがたい。個別企業や産業を育成・支援する、いわゆるターゲティング・ポリシーの限界を浮き彫りにするものだ。

過去四半世紀の半導体の歩みを反面教師とし、くみ取るべき教訓は他の産業にも多いはずだ。企業は足元の好調に浮かれず、謙虚な気持ちで改革を急いでほしい。
中々手厳しく批判した記事なのですけれども、これを新聞に当てはめてみると、なにか当てはまりそうに筆者には見えたので、上述の文面を活かしてマスコミ向けに書き直してみると、次の様になるのではないかと思います。
なぜ、新聞はここまで部数現象したのか。左翼の退潮など外からの逆風も響いたが、根本の原因は経営のかじ取りの失敗だ。

世界のマスコミは今世紀に入って、ネットメディアが台頭した。彼らは巨額の投資で新鋭コンテンツを次々につくったが、紙媒体に固執した朝日は小規模の古い販売店をいくつも抱えたまま身動きがとれず、コスト競争力で大きく劣後した。

顧客基盤が国内の団塊の世代などに偏り、世界的な広がりを欠いたのも痛かった。高齢者などの顧客人口が減少するのに連動して、日本の新聞の活躍舞台も狭まった。

会社の方針どおりに記事を書いて、それで良しとする受け身の体質も事業の発展を妨げた。ネットメディアのように、自ら次世代コンテンツの展望を示し、マスコミ全体を前に引っ張っていこうという事業構想力や気概にも欠けた。

新聞を立て直そうと、政府が軽減税率などを適用したが成功したとは言いがたい。コンテンツや記者を育成・支援する、いわゆるターゲティング・ポリシーの限界を浮き彫りにするものだ。

過去四半世紀のマスコミの歩みを反面教師とし、くみ取るべき教訓は他の産業にも多いはずだ。新聞はこれまでのやり方に捉われず、謙虚な気持ちで改革を急いでほしい。
まぁ「会社の方針どおりに記事を書いて、それで良しとする受け身の体質も事業の発展を妨げた」の部分が実際に当てはまるのかどうか分かりませんけれども、それ以外は結構当てはまっているように見えます。

少なくとも、日本テレビの清水潔記者がいう「権力と闘う事を止めた結果がこれ」よりは、こちらの方がまだ説得力があるように思えます。

もし、権力と闘うことが人気、部数増に繋がることがあるとすれば、それこそ、アベガーなんかやるよりも、中国のサイレントインベージョンなどと「闘う」ほうがまだニーズがあるのではないかと思いますね。


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