

1.魔女狩りされた山際経済再生担当相
10月24日、山際大志郎経済再生担当相が、辞任しました。事実上の更迭とする向きもありますけれども、後任には、後藤茂之衆院議員が任命されました。
山際氏は、旧統一教会のトップ・韓鶴子総裁との写真撮影にまで臨んでいたことが明らかになるなど、これまで旧統一教会との接点が多く取り沙汰されてきました。これらを国会で追及された山際氏は、「議員が記念写真を撮ることは普通に行われている。後藤議員だって毎日あるでしょ?」と反論するなどしていたのですけれども、接点の事実が指摘されるたび、答弁で「記憶にない」「記録に残っていない」を連発したことが問題視されていました。
こうした対応に、野党からは「瀬戸際大臣」「後出しじゃんけん」といった批判が相次ぎ、ヒートアップ。とうとうこの日の自民となりました。
25日、山際氏の辞任について、ジャーナリストの有本香はニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演し、次のように述べています。
飯田)各紙1面で「山際経済再生担当大臣が辞任」、あるいは「更迭」と書いている新聞もあります。「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」との関係が相次いで判明したため、責任を取って岸田総理に辞表を提出し、受理されたということです。一連の流れをどうご覧になりますか?「魔女狩り」さながら、いつまでも叩き続けるのには、正直辟易してしまいます。有本氏が指摘するとおり、もっと議論すべきことがある筈です。
有本)はたして「接点があっただけで大臣が辞任しなければいけないのだろうか?」ということです。もちろん旧統一教会は、霊感商法などで問題のある事例が多いところです。ただ、亡くなった安倍さんの政権のときに消費者契約法などを改正し、霊感商法と俗称されるものも事例としては少なくなっていたとされます。
飯田)消費者契約法などを改正して。
有本)しかも国としては、これを宗教団体として認めているわけではないですか。別に反社会的勢力であると言っているわけではないですから、接点があったというだけで「けしからん」と国会やメディアで攻め続けるのはいかがなものか。おそらく山際さんが耐えきれなくなったのでしょうね。
【中略】
有本)まるで罪人であるかのように叩き続けるというのは、適切なのでしょうか。魔女狩りのようなものですよね。
飯田)しかも国会で。
有本)延々とやるでしょう?
飯田)「あなたは信者ですか?」ということまで質問される。
有本)そういうことが続いて、とうとう大臣がお辞めになった。私が前回この番組に出たのは約1ヵ月近く前ですが、あるいはそれ以前からずっとこういうことを騒ぎとしてやっているわけですよね。その間にも、多くの日本を取り巻く環境、あるいは国難とも言える状況が日々深刻化しているわけですけれど、それを横に置いて国会でやるようなことなのかと思います。
【後略】
2.秋の山寺
「魔女狩り」は山際氏だけではありません。
野党は、山際氏の首を獲ったと見るや、「政治とカネ」の疑惑が取り沙汰される寺田稔総務相と秋葉賢也復興相を「次の標的」と見定め、国会で追及を始めています。
10月26日、立憲民主党の後藤祐一氏は衆院政治倫理確立・公職選挙法改正特別委員会で、文春オンラインが報じた新たな疑惑を取り上げ、寺田総務相に辞任を迫りました。
寺田総務相は、これまで妻が代表を務める政治団体の人件費を巡る脱税疑惑を追及されてきたのですけれども、文春オンラインは25日、寺田総務相の後援会が故人を会計責任者に政治資金の収支報告を行っていたとし、有印私文書偽造の疑いがあると指摘しました。
この日の委員会で事実関係をただされた寺田総務相は、故人が会計責任者になっていた点は認め、「ミスはおわびする」と陳謝した上で「私を代表とする政治団体ではないので、事務処理の詳細は承知していない」と詳しい説明は避けました。
秋葉復興相の方は、自身が代表を務める政治団体「秋葉けんや後援会」の2013~20年の政治資金収支報告書で、事務所の賃料として、彼の母親に計580万円を支払っていたのですけれども、それを確定申告していなかったと指摘。秋葉復興相は「父親が確定申告していると勘違いしていたようだ」として、直ちに申告すると釈明しました。
これに立憲民主党の議員から「脱税ではないか」との追及に、秋葉復興相は21日の閣議後記者会見で「『脱税』という決め付けは極めて遺憾だ」と反発しています。
20日の参院先議では、共産党の山添拓氏が、相次ぎ明らかになる旧統一教会と自民党議員の関係を報道などから引き、「個人まかせの点検はあてにならない。自民は党としてちゃんと調査をしていない」と関係者の証人喚問を要求しました。
これに対し、岸田総理は「過去にあっては接触があったかもしれないが、未来に向かって関係を断つことが大事だ……今現在で問題に関わっているのなら大臣や副大臣には辞めてもらう」と沈静化を図っていますけれども、野党はここぞとばかり「魔女狩り」を続けています。
これら一連の審議に、自民の閣僚経験者は「事務所賃料に親族がからむ疑惑。ましてや寺田氏は選挙事務の元締め省のトップだ。山際氏の案件よりも質が悪い……予算委を経て山際氏単独の閣僚辞任はもうない。更迭するなら寺田氏も秋葉氏もドミノ倒しになる」と述べていたのですけれども、辞任はないとした山際氏は結局辞任しました。ここから寺田総務相や秋葉復興相がドミノ倒しになるようであれば、岸田内閣はガタガタです。
3.民法違反22件は不十分
24日、衆院予算委員会の集中審議では、旧統一教会に対する、宗教法人法に基づく初の質問権行使について審議が行われました。
岸田総理は、「被害者、弁護士、関係団体の方々の話を聞くことは重要だ」と被害者らから直接話を聞く考えを表明する一方、解散命令請求の要件に関し、政府が確認した民法の法令違反22件では不十分との見解を示しました。
民法の法令違反の22件は、法の不法行為責任が認められた事案が2件と、指揮・監督する人物の責任を問う使用者責任が認められた事案が20件です。
岸田総理は「過去に解散を命令した事例と比較して十分に解散事由として認められるものではない。報告徴収・質問権を行使することでより事実を積み上げることが必要だ」と強調。これまでに解散命令が行われたオウム真理教など2団体の例は、いずれも刑法違反だと指摘し、訴訟外の案件についても情報収集に努める考えを示しています。
解散請求の要件については、18日に永岡桂子文科相が要件に民法も含むことについて「ハードルが低くなりすぎることにはならない」と述べ、法令の種類に関わらず、要件に当たる証拠があるかを、宗教法人法に基づく教団への調査で慎重に確認するとしていました。
これが背景にあって、岸田総理の「民法の法令違反22件では不十分」発言ですから、既にこの22件が、解散請求に値するかの検討はある程度済んでいるものと思われます。
となると、この状況で解散請求まで持っていくためには、旧統一教会に対する質問で、なにか爆弾級の新事実が出てこないと難しいのではないかと思えてきます。
これについて、政治ジャーナリストの野上忠興氏は「国民は今回の質問権の発動を『岸田首相は旧統一教会をつぶす覚悟を決めた』と受け止めたはずです。もし、解散させることができなければ、首相への信任はいよいよ失墜し、政権を維持できなくなるでしょう。首相は教団解散の成否にクビを賭けることになった」と指摘していますけれども、この通りであれば、岸田政権は結構瀬戸際にまで追い込まれているかもしれません。
4.次期総理を狙う河野太郎
こうした状況をチャンスと見ているかもしれないとされているの河野太郎・消費者担当相です。河野・消費者担当相は岸田政権内で教団解散の急先鋒と見られています。
河野・消費者担当相は、担当相就任2日後の会見で、岸田総理の指示がないまま消費者庁に旧統一教会問題をめぐる検討会の設置を表明するなど、独断専行。9月末にはこれまで非公表だった旧統一教会や霊感商法に関する消費生活相談の件数を公表するなど、教団追及に力を入れていました。そしてこの10月17日に提出した検討会の報告書で、「旧統一教会については、社会的に看過できない深刻な問題が指摘されているところ、解散命令請求も視野に入れ、宗教法人法第78条の2に基づく報告徴収及び質問の権限を行使する必要がある」と提言しています。
これについて、ジャーナリストの田中良紹氏は「岸田首相が今回の内閣改造で河野氏を取り込んだのは、総裁選で争った経緯もあり、入閣させて動きを封じる意図があったのでしょう。河野氏は消費者相という前回の外相と比べると降格に等しいポストを受け入れたが、それを逆手に取って旧統一教会追及の先陣を切ることで、岸田首相の実行力のなさを露わにしようとしているかのように見えます……河野氏のマイナンバーカードの事実上の義務化宣言でも、自身の発信力、実行力の強さを示し、岸田首相の力不足を露わにしました。岸田首相は旧統一教会問題への強硬姿勢で総裁選を争ったライバルの河野氏に負けたと思われないためにも、それまで慎重だった宗教法人法の質問権発動に動かざるを得なくなった」と指摘しています。
もしこれが本当であれば、岸田総理は旧統一教会の解散に躊躇して、結果解散請求できないということになれば、河野・消費者担当相が「総理は日和った。旧統一教会を解散させるつもりはないとわかった」とばかり、抗議の辞表を叩きつけることで、国民にアピールするのではという観測もあるようです。
もし、寺田総務相と秋葉復興相が辞任に追い込まれ、河野・消費者担当相が辞表を叩きつけるとなった場合、岸田政権は保つのでしょうか。
何やら党内政局の風が吹いてきたのかもしれませんね。
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