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1.経済対策には規模と内容がある
10月28日、岸田総理は記者会見を行い、総合経済対策について説明しました。
内容は総理官邸のサイトにアップされていますので、割愛させていただきますけれども、29兆円規模になったことについて、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は自身の動画チャンネルで次のように述べています。
・経済対策には規模と内容がある。高橋教授は岸田総理がGDPギャップを援用したことを評価していますけれども、GDPギャップについては、記者会見での質問でも飛び出しました。そのやり取りは次の通りです。
・重要なのは規模。規模がある程度ないと失業が発生する。従って規模から行くのが先。
・岸田総理としては珍しくGDPギャップを援用した。
・政府はGDPギャップは15兆円といっているが、下振れリスクを考慮して30兆円とした。これは私の説と同じ。
・羽生田政調会長はGDPギャップを理解していて、ここから経済対策を出している。規模はOK。
・いろんなテレビの解説は、財務省の人を使って、イギリスで積極財政して失敗したって話をずっとしている
・規模な話が先に出て、このまま放置すると、国債発行になってしまうかもしれないが埋蔵金の方がいい。
(記者)今年のGDPギャップは、9月22日に内閣府から年換算で約15兆円との推計が出ているのですけれども、岸田総理は下振れリスクに備える必要から積み上げたと説明しています。
テレビ朝日の山本です。よろしくお願いします。
今回、一般会計と特別会計を合わせて29.6兆円の大規模な対策となったわけですけれども、額については、当初の財務省の想定から自民党の要求で一夜にしておよそ4兆円が積み上がりました。党内からは積み上げではなくて規模ありきで財政の悪化を懸念する声も出ています。総理としてはこの財政規律の観点で今回の対策についてどのようにお考えでしょうか。よろしくお願いします。
(岸田総理)
従来から経済対策においては、内容も規模も大事だということを申し上げてきました。そして、内容については、先ほど御説明をさせていただきましたエネルギー価格対策を中心に様々な政策を用意いたしました。そして、規模につきましても、昨年の経済対策は32兆円ほどであったと記憶していますが、我が国の置かれている状況、昨年は新型コロナ(ウイルス)対策、給付金等が対策の半分以上を占めていた、こういった状況です。そして、今年はウィズコロナということで、経済を再び動かしていく方向に様々な政策が進んでいく、こうした状況です。こうした違いが去年と今年はある。一方で、物価高騰の状況は、去年と比べて今年は大変厳しい状況にあります。また、来年の前半にかけて、中国、米国あるいは欧州の景気減速の懸念もある、こういった状況です。こうした状況の変化に対応して中身も考えなければいけませんが、その額、規模についても慎重に考えなければならない。
昨年の景気対策を議論していたときは、たしかGDPギャップとの兼ね合いで金額を議論したと思いますが、その後、経済対策が施行される段階で経済が下振れして、GDPギャップが5兆円以上大きくなってしまった、こういった経験があります。今年も先ほど言いましたように去年とは事情が違うものの、様々な下振れリスクにも備えなければならない、こうした議論を行いました。今年のGDPギャップは確か15兆円という数字が上がっています。それに対して財務省等も一応対策の予算を積み上げたわけですが、やはり去年、経済対策をつくる段階から施行する段階で2割以上下振れをしたという経験があります。今年はどうなるか、これはなかなか予断を持って申し上げることは難しいですが、少なくとも去年の下振れリスクに対応できるだけの金額はしっかり用意しておかなければ、この不透明な状況においてしっかりと政策を進めることはできない、国民の安心につなげることはできない、こういったことから、こうした下振れリスクに備える意味からも金額をバランスしなければいけない、こういった議論を行いました。
先ほど言いましたように、内容だけではなく規模においても国民の安心を確保するためにどれだけの規模を用意しなければならないのか、こうした議論が行われた。今回の額についてはその結果であったと思います。よって、この経済対策の効果、国民の皆さんに安心してもらうために内容をまた今後も丁寧に説明するとともに、規模についても政治がどのように考えたのか、こうしたことについて丁寧に説明をし、これから不透明な時代にしっかり対応できる経済対策であるということを説明して、国民の皆さんの安心につなげていきたいと考えております。
以上です。
これは、高橋教授の見解と同じですし、それを理解している羽生田政調会長の意見を飲んだということなのだと思います。
2.そうか、ごめんな
10月29日のエントリー「新たな総合経済対策と姑息な財務省」で、経済対策額が一夜で4兆円積み増しされた経緯について触れましたけれども、マスコミからもぽつぽつと報じられています。
焦点となったのは10月26日なのですけれども、その日の岸田総理の動静は次の通りです。
首相動静(10月26日)この日、鈴木財務相と財務省の新川主計局長は、午後2時40分頃と午後9時10分頃の2回岸田総理と会っています。
午前8時現在、公邸。朝の来客なし。同9時10分、公邸発。同11分、官邸着。
午前9時14分から同10時8分まで、新しい資本主義実現会議。
午前10時9分から同36分まで、飯田祐二内閣官房GX実行推進室長、経済産業省の多田明弘事務次官、畠山陽二郎産業技術環境局長。
午前10時40分から同11時2分まで、石川正一郎内閣官房拉致問題対策本部事務局長。
午前11時39分から午後0時5分まで、超高齢社会の課題を解決する国際会議用などのビデオメッセージ収録。
午後2時5分から同10分まで、秋葉剛男国家安全保障局長。同11分から同38分まで、キッシンジャー元米国務長官。秋葉国家安全保障局長同席。
午後2時39分から同3時9分まで、鈴木俊一財務相、財務省の茶谷栄治事務次官、新川浩嗣主計局長。同18分から同28分まで、柳川忠広日本歯科医師会副会長。
午後3時29分、官邸発。
午後3時41分、東京・大手町の読売新聞東京本社着。渡辺恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆と懇談。
午後4時13分、同所発。
午後4時23分、東京・内幸町の帝国ホテル着。同ホテル内の宴会場「錦の間」で全国港湾知事協議会の湯崎英彦会長から要望書受け取り。同59分から同5時1分まで、同ホテル内の宴会場「富士の間」で日本港湾協会創立100周年記念式典に出席し、あいさつ。同4分、同ホテル発。同10分、官邸着。
午後5時32分から同6時19分まで、GX実行会議。
午後6時55分、リトアニアのシモニテ首相を出迎え。同56分から同7時4分まで、儀仗(ぎじょう)隊による栄誉礼、儀仗。
午後7時7分から同45分まで、シモニテ首相と首脳会談。
午後7時50分から同58分まで、共同記者発表。同8時、官邸発。同1分、公邸着。岸田文雄首相主催の夕食会。同9時9分から同11分まで、シモニテ首相を見送り。
午後9時12分から同25分まで、鈴木財務相、新川財務省主計局長。
午後10時現在、公邸。来客なし。
最初の打ち合わせで岸田総理は鈴木財務相から25兆1千億円の原案説明を受けたのですけれども、萩生田政調会長らが、昨年並みの「30兆円規模」を求めていたことから、彼らが納得する数字だとは思えず 「一度持ち帰らせてくれ」と即答を避けました。
岸田総理は萩生田政調会長に電話。次のようなやりとりがあったそうです。
「これで了承しているのか」自民党内での会議が白熱していることを把握していなかった岸田総理は思わず謝罪し、同時に「これでは足りない」と思ったのだそうです。
「今、議論しているところで、了承はしていません」
「そうか、ごめんな」
3.禁じ手には禁じ手で返した
一方、自民党本部で総合経済対策会議を仕切っていた萩生田政調会長は、岸田総理からの電話を終え、会議室に戻ると憮然とした表情でマイクを握り、居並ぶ国会議員や官僚らを前に、岸田総理との電話のやり取りを明かしました。
羽生田政調会長は「党で経済対策の中身について議論をしている最中に財務省はマナー違反だ」と抑えながらも明らかに怒気を含んだ言葉に会場は騒然となったそうです。
羽生田政調会長は「政策の責任をとるのは貴方達じゃない、国民に選挙で選ばれた我々なんだ。結果の責任は我々が問われるんだ」と財務官僚に詰め寄りました。参加者によると、出席していた財務官僚はみるみる顔色が青ざめていったそうです。
羽生田政調会長の発言に自民党政務調査会のメンバーからも「財政民主主義を破壊する行為だ」「財務省はおかしいぞ」などと批判の声が上がりました。
この時のことについて、羽生田政調会長は「首相とのやり取りを外に話すのは作法として望ましくない。会議で皆さんが日本の将来を心配して発言している中で財務相が官邸を訪問して具体的な話が始まった。『禁じ手だな』という思いがしたので、禁じ手には禁じ手で返した」と語っています。
岸田総理は会合後、茂木敏充幹事長、萩生田光一政調会長と協議し増額を決断。夜に再び鈴木財務相を官邸に呼び出し「世界経済の下振れリスクを考え、カバーできる金額にしてくれ」と指示しました。
元々財務省は「15兆円規模」の経済対策を目指していたのですけれども、羽生田政調会長の"禁じ手"返しに敗北。財務省幹部が政調会長室に駆けつけ、その日の内に、一気に約4兆円が積み増され、「29兆円規模」に予算額が拡大されたというのが今回の経済対策の裏側です。
4.あらぬ軋轢を生んでもいけない
この財務省の横暴に党内から批判の声が渦巻いているのですけれども、鈴木財務相は28日の臨時閣議後の記者会見で、「与党の議論を無視して財務省の考えを押し通すということは毛頭考えていない」と釈明しました。
鈴木財務相は党との調整が難航したことについて「議論の過程ではもちろんいろいろある。50兆円規模の提言も30兆円が発射台という有力な意見もあった……自民党は大変幅の広い政党で、議論が自由闊達になされる。政府の方におり、あらぬ軋轢を生んでもいけないのでコメントしない」と語る 一方、「財政出動で需要が喚起されて物価を押し上げると心配する向きもある。一般論としてはむしろじゃぶじゃぶ出すことの影響の方がある」と規模拡大に対し牽制することも忘れませんでした。
鈴木財務相は政府と党で「あらぬ軋轢を生んでもいけない」と述べていますけれども、党との軋轢を避けたのは岸田総理も同じです。
10月の時事通信の世論調査では内閣支持率が27.4%と低下。旧統一教会の調査に関する法解釈を1日で覆したり、山際前経済再生担当相の更迭判断で後手に回ったりと、指導力不足を指摘する声は党内外で広がっています。
官邸は「今、与党の要求を拒めば党との関係が壊れる。政権が沈みかねない」と緊張感が漂っているそうです。
岸田総理は、今回の経済対策で、目玉の光熱費支援でも与党への配慮に腐心しました。当初は電気料金の抑制のみを想定していたのが、ガス業界の不満を踏まえて公明党がいち早く支援を要請。電気に比べてガス料金の値上がりは小幅なため、官邸内は「激変緩和という趣旨にそぐわない」との慎重論が根強かったのを「政治判断」で盛り込みました。
9月の全国消費者物価指数は前年同月比で3.0%上昇。中でも電気代は21.5%増、都市ガス代も25.5%増となっています。北陸電力や東北電力などが相次いで料金の値上げを決め、来春以降に電気料金がさらに2~3割上がると経産省は見立てています。
総合経済対策では電気・ガス、ガソリン料金の支援に6兆円を投入。政府は、標準的な家庭で来年1~9月に計4万5千円の負担減になり、消費者物価指数の上昇を1.2%程度抑える効果があると説明しています。
これについて大和総研の小林若葉エコノミストは「将来の値上げ分の補填で足元の水準から大きく負担が減るわけではない。恩恵は感じにくく、消費活性化にはつながらない」と指摘。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「景気減速の懸念が広がる欧米と比べて日本経済は安定している。現時点で大型の景気対策が必要かは疑問だ……経済成長への期待は下がり、企業の投資にもマイナス」と警鐘を鳴らしています。
更に、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「中長期的な課題の議論を深めずに目先の対策に追われていては、日本経済の弱さは克服できない」とコメントしています。
5.現状維持への経済対策
このようにエコノミストは、今回の経済対策は消費活性化はせず、経済成長には結び付かないと批判していますけれども、こと支持率に限ってみれば、この対策は支持率を上向かせる可能性があると思います。
なぜなら、電気・ガス代の政府支援は、電気・ガス代の「現状維持」に繋がるからです。
筆者は、過去記事で何度か述べていますけれども、国民は岸田内閣を支持しているのではなく、「現状維持」を支持しています。
エコノミストは、日本経済は欧米と比べて安定しているとか、今回の経済対策は消費活性化にはつながらないなどと批判していますけれども、日本国民の「現状変更」に対する目線は厳しく、物価が1割上がるだけでも支持率に大きく跳ね返ると思います。ましてやイギリスのように電気・ガスの料金が8割値上げされようものなら、とんでもないことになる筈です。
その意味では、たとえ目先であったとしても、現状維持させるための経済対策は政権維持には有効だと思います。
10月19日、前述の高橋洋一教授は、自民党の青山参院議員とニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演し、経済対策について、次の様に述べています。
飯田)具体策の調整について、政府は10月18日に電気・ガス料金の激変緩和策を講じる他、中小企業向けの補助金の拡充などがメニューとして示されています。規模感や中身はいかがでしょうか?高橋教授は、外為で30兆円、債務償還費の組み換えで20兆円の計50兆円を財源として使えばよいとし、GDPギャップがあるうちは財政出動しても大幅なインフレにはならないと述べています。実にシンプルです。
高橋)内閣は「15兆円」と言っていますが、GDPギャップを普通に計算すると、おそらく30兆円ほどです。ですので、30兆円というのは1つのミニマムとしてあるのだと思います。
飯田)ミニマムとして。
高橋)今回の財源論は簡単です。外為でおそらく30兆円ほど出しますね。
飯田)外為で。
高橋)他にも「債務償還費」がありますが、これは組み替えできるので、20兆円は出せます。そうすると50兆円ほどあるのです。経済対策に30兆円を使い、残りの20兆円は防衛基金として組み替えるというのが最も簡単なやり方です。
飯田)20兆円は防衛基金として組み替える。
高橋)20兆円を防衛基金にあてれば、4年間~5年間はそこそこの水準になります。あとは経済成長に乗せていけば、恒久財源が入ってくるはずです。
飯田)経済成長に乗せれば。
高橋)当面のことを考えたら、防衛基金に20兆円を積んでおけばいいのです。いまのやり方は増税とはまったく関係ありません。これをやったところで財政には関係ないですから、「なぜやらないのか」という感じです。
【中略】
高橋)総理のときから、「円安になったら外為を使えます」ということは説明していました。そのときはならなかったのでやらなかっただけですが、いまはそのチャンスです。
飯田)いまは円安になって、1ドル=149円台の水準まできました。いままで1ドル=100円ぐらいで買っていた米国債などの含み益の部分を、財源として使えるということですよね。
高橋)日本では、民間も含めた純資産額があり、大体500兆円なのです。そのうち5分の2ぐらいは政府なので、政府が最も儲けているのは間違いない。民間の方々も海外投資をしている人は儲かっています。ただ、政府が最も儲けていて、円安で苦しんでいる庶民もいます。儲かっているのが政府なら、分け与えるのが当たり前ではないかと私は思います。
青山)私もそう思います。政府側で余っている部分は、まずそこに回さなければいけません。
飯田)円安で苦しんでいるということは、庶民の生活だと、エネルギーの値段や電気代、ガス代などもありますよね。
高橋)あとは輸入関連の人も大変です。苦しんでいる人がいるのは事実なのです。政府は儲けなくてもいいのだから、戻してくれればいいのです。
飯田)戻してくれないのでしょうか?
高橋)戻してもまだお釣りがあります。
【中略】
飯田)「財政出動をするとインフレになってしまう」と言う人もいますよね?
高橋)GDPギャップがあるうちは、それほどのことにはなりません。どちらかと言うとコストプッシュなので、少しインフレになり、それを財政資金で吸収するぐらいの方がいいのです。最終消費者にお金を渡しておいて、転嫁できた方が世の中はスッキリします。
飯田)一般庶民の人たちに少し余裕ができ、「値上げしても大丈夫だな」という環境をつくるということですね。
高橋)コストプッシュなので、いずれは誰かが負担しなくてはなりません。であれば、いま財政資金を使い、最終消費者のところで吸収した方が経済はうまく回ります。
高橋教授が指摘するように、先日の為替介入で、政府は大儲けしています。それを財源として国民に還元してGDPギャップを埋める。岸田内閣が政権維持を望むのであれば、国民が望む「現状維持」のための対策を積極的に進めるべきだと思いますね。
この記事へのコメント
Naga