台湾有事を見据えた防衛力強化

今日はこの話題です。
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1.台湾有事を懸念している


ロイター企業調査で、台湾有事や安全保障に関する懸念が持ち上がっていることが明らかになりました。

8月31日から9月9日に掛けて行われた9月のロイター企業調査で495社に調査書を発送したうち245社から回答があり、台湾有事を「懸念している」と回答した企業は74%と、「懸念していない」の26%を大きく上回りました。

中国が台湾に侵攻する事態になれば、「国際経済にもダメージが大きい」、「世界経済の低迷に拍車がかかることを懸念」などの意見が寄せられたのですけれども、台湾有事が発生した際の対応については、「特に対応の予定はない」と回答した企業は51%と半数を超え、「サプライチェーンの多様化」が27%、「現地従業員退避」と「BCP(事業存続化計画)実施」がそれぞれ19%でした。

また、9月28日から10月7日に掛けて行われた10月のロイター企業調査(発送社数495、回答社数250)では、政府が念頭に置く防衛費の国内総生産(GDP)比2%水準への予算倍増について、賛成が81%にのぼりました。

防衛費の増額に関しては、「現在の国際情勢を考えるとやむを得ない」、「地政学的な環境変化に対応していく必要がある」との声や、増額に当たっては「真に有効性のある使途に限るべき」という意見もあります。

また、財源については、「無駄な費用の見直し」、「国会から地方議会まで、議員定数の削減による不要経費の削減」など、既存政策の見直しが67%と最も多く、続いて、たばこ増税が25%、国債の追加発行も24%となる一方、「国防力整備に特化した無金利国債発行」や、「富裕層の資産課税強化」、「増額するのであれば中間層以下の所得者層が負担にならないようにすべき」などの意見も出ています。

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2.あらゆる選択肢を排除せず防衛力を強化していく


当然、台湾有事の懸念は政府も持っていて、10月25日の閣議後記者会見で浜田防衛相は、記者質問に次のように答えています。
Q:先日、習近平政権3期目が発足をしましたが、「武力行使の放棄を約束しない」というふうにですね、習首席は述べるなど、台湾有事の懸念が高まっているという見方もありますが、このことに対する受け止めとですね、日本の防衛政策に与える影響についてお聞かせください。

A:中国共産党において、習近平氏を党総書記とする新しい指導部が選出されたことから、中国の今後の動向について、さまざまな見方が出ていることは承知しておりますが、そうした見方の一つ一つについて、防衛省として予断を持ってコメントすることはいたしません。その上で台湾海峡について申し上げれば、台湾海峡の平和と安定は、わが国の安全保障はもとより、国際社会の安定にとっても重要であると考えており、引き続き、関連の動向を注視してまいりたいと思います。また、他国の政党の活動といった個別の事象が、わが国の防衛政策にどのように影響を与えるかについても、予断を持ってお答えすることはいたしません。いずれにせよ、防衛省としては、わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中で、あらゆる選択肢を排除せず、現実的に検討し、防衛力を抜本的に強化していく考えであります。
このように浜田防衛相は、台湾有事そのものに対するコメントは避けたものの「あらゆる選択肢を排除せず、現実的に検討し、防衛力を抜本的に強化していく」と答えています。


3.統合司令部新設


既に防衛省は、台湾有事を睨んで動き出しています。

具体的には、アメリカ軍との一体性を強化するため、陸自、海自、空自の部隊運用を一元的に担う常設の「統合司令部」と作戦を指揮する「統合司令官」を意思疎通と戦略の擦り合わせを担う組織として新設。2024年の設立を目指すとのことです。

現行制度では陸海空の各自衛隊を統合して動かす組織として「統合幕僚監部」があり、自衛隊制服組トップの「統合幕僚長」が総理や防衛相の軍事専門補佐、命令の執行、アメリカ軍との窓口を一人で担い、統合幕僚監部の運用部門が陸海空の各部隊に個別に指示を下ろしています。

けれども、2011年の東日本大震災では統幕長が首相官邸への報告やアメリカ軍との調整に追われ、災害派遣などの部隊指揮に十分な時間が割けない問題が浮き彫りとなっていました。台湾有事の際には自衛隊の指揮に関する政治決断が増える可能性が高いことから、統幕長には、総理や防衛相を支える業務に専念させるという観点から、体制の再構築が課題になっていました。

新たな仕組みは統幕長の下に統合司令官を置き、部隊運用の権限を統合司令官に移すことを想定。統合司令官は防衛相の直属となります。一方、アメリカ軍のカウンターパートはアジアに展開する陸海空海兵隊を束ねる「インド太平洋軍司令官」を見込んでいます。

常設の統合司令部を置けば、統合司令官が事態を網羅的に把握・分析し、部隊運用について首相や防衛相の判断を仰ぐことができ、迅速で的確な指揮が可能になると期待されています。


4.トマホーク購入


また、政府はアメリカの長距離巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討、アメリカと交渉に入っていると複数の政府関係者が明らかにしています。

購入が検討されているトマホークは、米国が1970年代から開発を始めた長射程巡航ミサイルで、射程は通常弾頭型で1300キロ以上。ジェットエンジンで低空を飛来するため、迎撃が困難とされています。艦艇発射が基本ですけれども、潜水艦発射や、地上発射の改良型もあります。

政府は、年末までに改定する国家安全保障戦略で、自衛目的で敵のミサイル発射基地などを破壊する反撃能力の保有を明記する方向で調整しているのですけれども、反撃能力の手段として進めている、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」の射程を1000キロに改良する計画は、量産化を経た実戦配備は2026年度となっていることから、まず国外からミサイルを導入して反撃能力を速やかに確保した後、国産ミサイルも含めた装備を整える方針としたようです。

日米関係筋によると、同盟国との協力などで抑止力を高める「統合抑止」を重視するアメリカ国防総省はおおむね了承し、アメリカ政府内での最終調整が行われている段階とのことです。

台湾有事とトマホーク購入について、軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「習氏は台湾侵攻をいつ決断してもおかしくない。トマホーク購入は『日本独自で攻撃能力を持つべき』という、アメリカ側の意思も背景にあるだろう。防衛省内でも、トマホークは日本が持つにふさわしいとみられてきた。性能は湾岸戦争などで証明されている。抑止力強化に期待できる」とコメントしています。


5.独裁国家の軍隊は強いのか


先日の第20期中央委員会第1回全体会議(1中全会)で、習近平主席が3期目を決めましたけれども、そこで胡錦濤前主席が退場させられ、人事でも共青団派が軒並み排除されたことが話題になりました。

ジャーナリストの鳴霞氏によると、これに胡錦濤前主席の出身派閥である共青団派幹部が激怒。解放軍内部からも反発され、胡錦濤前主席を退場させた真相を公表しろと声を上げているのだそうです。

習近平主席にとって、全国の地方政府幹部のみならず、軍からも反発を受けるのは想定外なのだそうです。

鳴霞氏は、これは台湾進攻にも影響を与えていて、軍内部の誰が胡錦濤派で誰が江沢民派なのか分からず、習近平主席はクーデターを恐れていると述べています。

これに関連して、地政学者の奥山真司氏は、自身のチャンネルで、独裁国家の軍隊について、ジョージタウン大学外交大学院のケイトリン・タルマッジ准教授の著書「THE DICTATOR'S ARMY」を取り上げ、独裁国家の軍隊は民主国家と比較して次のように対比されるのではないかと述べています。
〇独裁国家
・大胆な政策が取れる
・大失敗する    :悪い情報が上がってこないがために結果として大失敗するパターン
・クーデターを心配 
・強烈な腐敗

〇民主国家
・大胆な政策を取れない
・習性する可能性は高い
・政権交代を心配
・自浄作用がある(かも)
習近平主席は、前述の1中全会で自身の3期目を決め、最高指導部を自身に忠実な人物で固めるなど「大胆な人事」を取ってみせました。ところがそれが逆に、共青団派や軍の反発を買って、「クーデターを心配」しなければならなくなっているのだとしたら、タルマッジ准教授が指摘した独裁国家の特徴にピタリと当てはまってしまっていることになります。

果たしてこれが「大失敗する」ことに繋がるか分かりませんけれども、筆者のみるところ、毛沢東の頃とは時代が違っていることを習近平主席は見落としていたのではないかという気がしないでもありません。

鳴霞氏も指摘していますけれども、共青団派幹部は、若くして海外留学して、民主国家なども体験した、エリート中のエリートです。当然、情報感度も高く、他国の要人との人脈もあります。それが、あの胡錦濤前主席の退場劇を見せられ、体調不良だったとだけアナウンスされても、それで納得する筈がありません。考える頭があれば、あれがいかに異常な光景であったのか分かるからです。

これが毛沢東時代であれば、海外留学している幹部などごく稀れでしょうし、主席が「カラスは白い」といえば「白です」、と従順にしたがったかもしれません。けれども、現代の共青団派幹部はそうではない。そこを習近平主席は見落としていたのではないかということです。




6.台湾有事はないと考える人


では、当の台湾はどう考えているのか。

10月26日のエントリー「中国軍の台湾シフトと逃げ出す市場」で、台湾政府は有事に備えだしていることを取り上げましたけれども、台湾の全部が全部、有事が近いと考えている訳でもないようです。

今年9月下旬、一般社団法人台湾留学サポートセンターが「台湾有事は日本有事」というオンライン講演会を主催しました。

この講演会は「中国が武力で台湾を飲み込むのではないか」といった報道が日本でも多くなされ、台湾の状況に強い関心を持つ高校生が多く、また、台湾への留学を考えている高校生が抱える疑問や不安を、いちばんの当事者である台湾の人がどう考えているかを共有する場として企画されました。

講演会では、台湾でも著名な国際関係の専門家で、私立銘伝大学国際教育交流所長の劉廣華・准教授を講師に招き、米中対立、とくに台湾から見た「台湾有事」について解説する形となりました。

劉准教授は、中国やアメリカの戦略など最近の動きを紹介し、それについて台湾がどう見ているかを説明した後、「個人的には、台湾有事はないと考える」と述べました。

劉准教授は、その理由として次の点を挙げています。
・中国にとって台湾の問題は第1に優先すべきことではなく、その前に米国との貿易対立といった米国と直接関わる問題を解決すべきだと考えていること。
・有事が起きればまだまだ成長すべき中国経済に多大な悪影響を及ぼすこと。戦闘になるとその暴挙に世界が中国への経済制裁を実施するはずで、世界の工場といった役割を果たしている中国にとっていわば「カネがなくなってしまう」事態を招いてしまう。
・「産業のコメ」である半導体について、台湾が世界の3分の2を製造している。もし中国が台湾を攻撃すれば、半導体の生産が減速、もしくはストップする事態を招きかねない。となると、世界はもちろん中国にとっても半導体不足が生じ、これも経済に悪影響を与えてしまう。
・「仮に中国が台湾を占領すれば、台湾の人の対中意識、とくに悪意が生じ、中国は台湾をうまく統治できない」。もともと多くの台湾の人が「自らは中国ではない」と考えながらも「現状維持が好ましい」と考えている。そのため、仮に中国が台湾を支配するようになっても、中国への敵意を増大させる台湾の人を中国がうまく統制できるかは大いに疑問だ。
・台湾の地理的な位置も中国人民解放軍にとっては攻めにくい地形である。台湾海峡の水深は浅く、沿岸の防衛も台湾の軍隊がしっかりと守っているため、上陸作戦を中国人民解放軍が成功させる可能性は低い。となると、中国大陸からミサイルを発射する攻撃しかないが、それは必ずしも有効ではない。ミサイルで台湾側の資産や人命に損害を与えても、それで台湾を得ることにはならない。
これは詰まるところ、台湾占領は、中国にとっても経済的損失が大きいことと、台湾人の人心を得ることもできないからだ、ということだと思います。

けれども、習近平主席を相手にこの考えは甘いと思います。というのも、これまでの習近平主席の動きをみるかぎり、これらの前提を簡単に踏み越えてくる可能性があると思うからです。

経済的損失にしても、たとえば今の「ゼロコロナ」政策によって、既に中国経済はダメージを受けています。これまで中国の経済政策は首相の専任事項とされてきたのですけれども、1中全会では、上海をロックダウンし、「ゼロコロナ」政策を貫徹した李強氏が序列2位の首相候補として大抜擢されています。これは中国経済がどうなろうと構わないとうメッセージに見えます。

また、台湾の民心を得ることについても、別にウイグル、チベットのように、福建省やそこら近隣の省から5千万人や1億人を台湾に強制移住させてやれば、台湾の人口2300万など軽く凌駕します。そうなれば、"民主的な選挙"によって、共産党の息の掛かった手下をいくらでも台湾総統に出来てしまいます。

要するに、経済も民心も無視して、台湾を赤く塗りつぶしてしまえばよい訳です。

それを考えると台湾有事の危険は依然として存在し、その可能性は決して低くないと、備えておくべきではないかと思いますね。


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この記事へのコメント

  • 白なまず

    サプライチェーンの多様化と言っても、、、

    台湾から別の場所に移す時には台湾周辺の海域を経由しない方法を
    前提にしないとダメ。ベトナムは隣なのでNG、タイだと空輸でしかも台湾周辺を迂回する
    しかNG、インドネシア、フィリピンも輸送時に警戒が必要。。。。
    とどのつまり、海外生産を全て日本国内に戻すのが手っ取り早い。
    それこそ特区を作り税制面で海外と同じ条件の期間を設けるなり
    技術が無い場合は海外メーカの工場を日本に建設するなりしないと実現出来ない。

    年内にチャイナが台湾進攻する可能性を米軍が警戒している以上、
    サプライチェーンの再構築は従来どおりには進められないのではないか?
    2022年11月02日 15:51