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1.葉梨法相辞任
11月11日、葉梨康弘法相は、総理官邸で岸田総理に辞表を提出しました。葉梨氏は提出後、記者団に対し、「死刑という文言を軽率にも使ってしまった。国民に不快な思いをさせ、法務省の職員にも不快な思いをさせた。国会日程にも影響を与え、内閣にも迷惑をかけた」と辞任理由を語りました。
事の発端は9日夜、武井俊輔副外相が主催する会合に出席した際の挨拶した葉梨氏が「法務大臣になり三月(みつき)になりますが、だいたい法務大臣というのは、朝、死刑のハンコを押しまして、それで昼のニュースのトップになるというのはそういうときだけという地味な役職なんです」などと発言。
9日以外では東京都内での3件の会合、地元での複数回の会合で同様の発言をしたとのことですから、挨拶の"ツカミ"というか前振りとしていつも使う”ネタ”だったのかもしれません。
この発言に法務省関係者は「いま世界では死刑を廃止している国が多数派で、日本は国際社会の批判に晒されています。そんな中、法務省 は、法に従って粛々と執行していかねばならない立場。法相は『死刑賛成』を唱えてもいけない。死刑執行について余計な発言は、一言たりとも許されないんです。プライドが高いからだろうが、定例会見でもペーパーを棒読みすればいいところを自分の言葉で語りたがるところがあった。ただ、まさかこんな軽々しい失言をするとは……今年は7月に秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大元死刑囚(当時39)の執行がありました。執行命令書にサインしたのは古川禎久前法相で、就任して3カ月の葉梨氏はまだ一度もない。ただし今後、葉梨氏が死刑執行命令書を前にハンコを手にすることはないでしょう」と、葉梨氏が執行命令書にサインすると、“ハンコ発言“がぶり返され、厳粛に執行できないというのですね。
死刑執行は、国会が閉じた後の12月に行われることが多いらしいのですけれども、結果として辞任したことで、執行は新法相の下で行われることになると思われます。
2.大事な時に迷惑だ
葉梨法相は10日夜、岸田総理と出処進退を含めて相談したのですけれども、葉梨氏は、翌11日に衆院法務委員会の開催が決まっていたことから、「国民の代表者が集う場で説明責任を徹底するように指示があった」と明かしていますけれども、岸田総理は、「官邸に呼び厳重に注意した……くれぐれも職責の重みを感じ、丁寧に慎重に行ってほしい」とこの時は、更迭を否定していました。もっとも、総理は「大事な時に迷惑だ」と珍しく怒りをあらわにしたそうです。
岸田総理が更迭を避けようとしたのは、国会や外交への影響を危惧したからだとされています。
法律上の父親を決める「嫡出推定」を見直す民法改正案は葉梨氏が答弁を担当し、衆院で委員会採決まで終えていました。審議の途中で交代させれば今国会中の成立があやしくなります。法相が重要な役割を担う旧統一教会の被害者救済法案の策定もありましたし、11日からの外遊も控えていました。
岸田総理が”大事な時”と言ったのは、こうした事情が背景にあったからで、実際、岸田総理はこの問題で外遊の出発を10時間遅らせることになりましたから、確かに"迷惑"だったのかもしれません。
けれども、この更迭を避ける判断が裏目に出ました。野党は一斉に更迭を要求し、10日の衆院本会議で予定されていた民法改正案の採決を拒否。会期末まで1ヶ月を切った今国会では、法務省関連の法案審議に協力しない構えも見せたのですね。
それでも、葉梨氏は翌11日午前の参院本会議で、「今後は発言に慎重を期していく。その上で引き続き説明責任を果たし、国民のお役に立てるよう、職務に全力を尽くしていきたい」と、続投する考えを示していたのですけれども、結局、葉梨氏はその日のうちに辞表を提出することとなりました。
葉梨氏に対し、政府・与党内からは「職務を継続することは難しい」、「早期に辞任させるべきだ」などの声が出ていたのですけれども、結果として、早いうちに葉梨氏の更迭をやっておいたほうがまだ傷口は浅かったかもしれません。
3.政治資金規正法違反した寺田総務相
葉梨法相が辞任した今、次に辞任の際に立たされているのが寺田総務大臣です。
寺田総務大臣については、10月28日のエントリー「秋の山寺と河野太郎の野望」で取り上げましたけれども、国会では、故人が会計責任者とされていた問題が追及されました。
特に問題なのは、会計責任者が提出することになっている収支報告書を先月31日に訂正したのですが、それが政治資金規正法違反になっている点です。
10月31日の衆院・政治倫理・公選法改正特別委員会で共産党の塩川鉄也議員から「会計責任者が2019年10月に亡くなってから3年間も届け出事項を訂正しないままでいたと。このことは政治資金規正法の規定に反するということは明らかですよね」と問われた寺田総務相は「はい。罰則規定はないものの、7日以内の届け出という規定にはですね、反していると思います」と認めたのですね。
葉梨氏の過失が"失言"であるのに対し、寺田総務相のそれは、”政治資金規正法違反”です。質の悪さでは寺田総務相の方がずっと悪質です。
当然、葉梨氏が失言で辞任したのに、寺田総務相はそのままなのか、となります。
立憲民主党の安住淳国対委員長は「政治資金を所管する閣僚として不適切なのは明らかだ」と批判。共産党の穀田恵二国対委員長は「疑惑と不備は底なしだ。反省もなく、閣僚の資格もない」と非難しました。日本維新の会の藤田文武幹事長も「不正まがいのことがあれば、大変な問題だ」と指摘。国民民主党の舟山康江参院議員会長は「襟を正すべき立場の人に問題行為があった。辞めるべきだ」などと一斉に辞任を要求しています。
自民党中堅議員からも「実際に地元からも『大臣として恥ずかしい、辞任すべきだ』って声が出始めている」と述べ、岸田派の閣僚経験者も「答弁を聞いても、苦しさが伝わってくる。でも辞めさせるにしろ、それで支持率が回復するとは限らない。 山際大臣の時もあまり効果がなかった。進退ここに窮まれど動けずだね」と零しています。
また、連立与党を組む公明党の山口代表も「まずはご本人が判断することであり、また内閣としてどう取り組むかということにかかっておりますので、寺田総務相には、やはりこれまでのことをふまえて、しっかり対応するという、自らの姿勢を説明尽くしたうえで、はっきりさせていくべきだと思います」と突き放しています。
4.後手を踏む岸田政権
岸田内閣揺るがす「閣僚辞任ドミノ」わずか19日間で2閣僚更迭 負の連鎖さらに続く可能性も
こうした岸田総理の対応に自民党内からも不満が漏れているようです。
中堅議員は「ずるずると問題を引きずった感じは否めない」と指摘しているのですけれども、岸田総理は、野党が次のターゲットにしている寺田総務相や、事務所費問題が指摘される秋葉復興相について対応に動く気配は見えません。
先月の山際前経済再生相、今月の葉梨前法相と、ひと月と立たないうちに2人の閣僚が辞任しています。
更に気になるのは、辞任した2名の閣僚に寺田氏を加えた3名が岸田派だということです。
こうした岸田派の失言、不祥事に対し、ネットでは「宏池会なんて 解散した方が、世のため人のため でしょ!」、「岸田派は不祥事少なくて真面目とかいう幻想 実際は火薬庫やないかい」、「寺田、葉梨、武井の3氏はいずれも岸田派所属で、11日からの東南アジア歴訪を目前に岸田氏は身内から政権を揺さぶられている」などと批判の声が上がっています。
このままでは、内閣支持率もさることながら、党内の求心力にも陰りが出て来る可能性もあります。
11月12日、日本テレビ系「ウェークアップ」にVTR出演した政治ジャーナリストの田崎史郎氏は、相次ぐ閣僚の辞職が今後の政局に与える影響について「ずっと我慢が続くんですよ……転機が訪れるのは来年5月のG7サミット、広島で行われる。そこで岸田さんが外交の晴れ舞台で中心となるわけです。そこで来年5 、6月以降に衆院解散総選挙に打って出る可能性はあります……そうしないと再来年の自民党総選挙で岸田さんが再選されるのは難しいんじゃないかと思うんです」と述べていますけれども、確かにこのままズルズルいけば岸田政権は持たないかもしれませんね。
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