北大西洋条約機構は動かない

今日はこの話題です。
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1.不幸な事故


11月15日深夜、ポーランド外務省は、同日午後3時40分に「ロシア製のミサイル」が自国領内に着弾し、プシェヴォドフ村で2人が死亡したと発表しました。

NATO加盟国内にミサイルが撃ち込まれ、犠牲者が出たのは初めてのことで、これを受け、ポーランド政府は緊急会合を開き、軍の一部部隊の警戒態勢を強化しました。

翌16日午後、ポーランドのドゥダ大統領は記者会見を開き、ウクライナの防空システムが原因となった可能性が「かなり高い」と述べ、、ポシェヴォドフ村での爆発に意図的な攻撃の様子はなく、「不幸な事故」だったのだろうとコメント。着弾したのはウクライナ軍保有のロシア製地対空ミサイル「S300」だったとの見解を明らかにしています。

この日、ベルギーのルドヴィヌ・デドンデ国防相も「現在の情報によると、ポーランドでの着弾はウクライナによる防空の結果のようだ。ロシアのミサイルの破片とウクライナの迎撃ミサイルがポーランドに落下したとされている。今後の調査で確認される」とツイートしています。

ミサイルが着弾した15日には、ロシアがウクライナ各地で大量のミサイル攻撃を重ねており、ウクライナは防空システムで迎撃し続けていたことから、迎撃ミサイルの流れ弾がポーランドに着弾したという見方が有力なようです。


2.北大西洋条約機構は動かない


ポーランドへのミサイル着弾を受け、16日朝、インドネシア・バリで開かれていた主要20ヶ国・地域首脳会議(G20サミット)は予定を変更し、各国首脳はポーランド政府や自国の国防相や外相と電話協議を行いました。

またアメリカ、イギリス、欧州連合(EU)、スペイン、ドイツ、カナダ、フランス、日本、オランダの西側首脳が急遽集まり、情勢を協議しました。

会合後、アメリカのバイデン大統領は、「ウクライナ国境に近いポーランド農村部で起きた爆発について、ポーランドの調査を支持すると合意した。何が起きたのか、確実に正確に把握するようにする。亡くなった2人の遺族にはお悔やみを申し上げる。今後は現場の捜査が続くなか、集団的に次の対応をどうするのかを決める。今日の協議に参加した全員は、完全に一致していた。ほかにも、ロシアが新たに展開している攻撃について協議した。これは、この戦争を通じてロシアがウクライナの都市や民間インフラに示してきた非人間性をあらわにするものだ……世界がG20で集まり、緊張緩和を促した途端、ロシアはウクライナでのエスカレーションを選んだ。会談している最中に。ウクライナ西部に何十ものミサイル攻撃があった……今この時にウクライナを支援するため、我々はこの紛争の開始当初からそうしてきたように、自衛に必要な能力を与えるため、できる限りのことをする」とコメントしました。

その一方、ミサイルがロシアによって発射された可能性について記者団に質問されると、バイデン大統領は、慎重に言葉を選びながら「今得ている初期情報からは、それはありえなさそうだと思う。ロシアから発射された軌道ではなさそうだ」と答えました。

また、フランスのマクロン大統領、イギリスのスナク首相、カナダのトルドー首相もそれぞれ、事実関係を完全に理解するため十分に調査する必要性を強調するなど、抑制的な態度を見せています。

更に、16日、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も、着弾したミサイルについて「ウクライナの防空ミサイルによって引き起こされた可能性が高い……ロシアがNATOに対する攻撃的な軍事行動を計画している兆候はない……ウクライナではなく、違法な戦争を続けるロシアに最終的責任がある」と明言し、ロシアとの直接衝突につながる危機ではないとの認識を示しています。

実際、NATOはこの日、大使級会合を開いて対応を協議したのですけれども、加盟国の安全が脅かされた際に開く北大西洋条約第4条に基づく協議とは位置づけなかったことから、NATOとロシアの全面戦争はなんとか回避された形です。

これを受けてロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は16日午前、定例記者会見で、ポーランドをはじめ「たくさんの国が」「ヒステリック」に反応し、何の証拠もないままロシアを糾弾したと非難しながらも、「アメリカ側とアメリカ大統領の、抑制的ではるかにプロフェッショナルな反応は、特筆に値する」と称賛しました。

また、ロシア国防省のイーゴリ・コナシェンコフ報道官は、ウクライナでの直近の砲撃はウクライナ国内の標的のみを目標としたもので、ポーランド・ウクライナ国境からは少なくとも35キロは離れていたと説明。ポーランドの村に「『ロシアのミサイル』とされるものが落下したこと」は、「状況のエスカレーションをねらった意図的な挑発行為だ」と批判しました。


3.個人的な夜の報告


ロシアは「状況のエスカレーションをねらった意図的な挑発行為だ」と批判したのですれども、意図したのかは別として、エスカレーションさせようと疑われた国の一つがウクライナです。

15日夜、ウクライナのゼレンスキー大統領は「今日、私たちがずっと警告してきたことが起こった。私たちは、それについて話してきた。テロは、私たちの国境で制限されないし、すでにモルドバ領内に拡大しているし、今日はポーランド領にロシアのミサイルが着弾したのだ。私たちの友好国の領土に着弾したのであり、死者が出た……テロリストをあるべき場所に据えねばならないのだ。ロシアが無罪を感じれば感じるほど、ロシアのミサイルが届く人々皆にとっての脅威は大きくなる一方である。NATO領内へのミサイル攻撃はあり得るのだ。それは集団防衛へのロシアのミサイル攻撃である! それは非常に重大なエスカレーションだ。行動せねばならない」と述べ、ポーランドのドゥダ大統領に電話で哀悼の意を伝え、真相解明のためドゥダ大統領と情報を交換していると明かしました。

当事者のポーランドさえ、「不幸な事故」としてミサイル着弾を「欧州・大西洋地域の集団安全保障への攻撃」とし、行動が必要だと促すのは、要するにNATOに参戦しろということです。

ロシア対NATOとなれば、世界大戦になってしまいます。周囲がエスカレーションさせないように慎重になっているときに、ロシアのミサイルだと言い募ってNATOに参戦を促すのは、エスカレーションさせようと意図していると言われても仕方ない気もします。

もっとも、翌16日、ゼレンスキー大統領は、落下したミサイルはロシア軍が発射したものだとウクライナ軍が報告したとし、「私が空軍司令部からザルジュニー総司令官への個人的な夜の報告を疑うことはない。私は、それが私たちのミサイル、あるいは私たちのミサイル攻撃ではなかったということを疑っていない。私には、彼らを信頼しないということには、意味がないのだ。私は彼らと戦争を乗り越えてきた。私は、多くの首脳と話をした。私には、『ウクライナを現場に通してもらえないか?』というシンプルな立場がある。それが公正だ。私は、私たちにはその権利があると思っている。捜査が終わっていない間は、最終的な結論を口にしないでも良いだろうか? 私は、それが公正だと思っている」と前日の発言からトーンダウンしています。「個人的な夜の報告」などという辺り、内々ではウクライナ軍のミサイルであったことを知らされたのかもしれません。

ここは調査結果を待って、もし、ウクライナ軍のものであったらなら、ポーランドに速やかに謝罪すべきです。そうでなければ評判を落とすことになりますから、それは避けるべきかと思います。


4.交渉は自分が強い時に臨むものだ


11月16日、アメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻に関して「ロシアがウクライナ全土を征服するという戦略目標を実現できる可能性はゼロに近い。ただ、ウクライナが軍事的に勝利することも当面ないだろう……ロシア軍は大きなダメージを受けており、政治的判断で撤退する可能性はある」と攻勢に出ているウクライナにとっては交渉の好機だとの考えを示しました。

ミリー参謀本部議長は「防衛に関して、ウクライナは大成功を収めている。ただ、攻撃に関しては、9月以降にハリコフ州とヘルソン州で成功したが、全体から見れば小さな地域だ。ウクライナ全土の約20%を占領するロシア軍を軍事的に追い出すことは非常に難しい任務だ……ロシア軍は、多数の兵士が死傷し、戦車や歩兵戦闘車、第4、5世代戦闘機、ヘリコプターを大量に失い、非常に傷を負っている。交渉は、自分が強く、相手が弱い時に望むものだ。政治的解決は可能だ」と強調。秋の降雨で泥濘が増える季節を迎えたことで「戦術的な戦闘が鈍化すれば、政治解決に向けた対話の開始もあり得る」とコメントしています。

ミリー参謀本部議長が述べた「交渉は、自分が強く、相手が弱い時に臨むもの」は、筆者もこれまでなんどか述べてきたことですけれども、ロシアのプーチン大統領が交渉の用意があるといい、アメリカが中間選挙で下院が多数派を失った今は、何かを変える好機ととらえることもできるのではないかと思います。

それが、世界大戦への引き金ではなく、停戦への道であることを望みます。


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