オーストラリアが中国との戦争の可能性に備えている理由

今日はこの話題です。
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1.安全保障協力に関する新たな日豪共同宣言


10月22日、オーストラリアのパースを訪問した岸田総理は、およそ2時間にわたってアルバニージー首相との会談を行いました。

会談の概略は外務省のサイトで公開されていますけれども、両首脳は。日豪の「特別な戦略的パートナー」が新たな次元に入ったとの認識で一致しました。

会談後、両首脳により共同声明が出されましたけれども、その見出しだけ拾うと次の通りです。
・安全保障・防衛協力
・経済安全保障協力
・気候、エネルギー安全保障、エネルギー移行
・貿易・経済協力
・グローバル・地域協力
共同声明の先頭で「安全保障・防衛協力」が出ていますけれども、日豪間で連携した安全保障の重要性が高まっていることが窺えます。

実際、両首脳は、この日、中国などを念頭に日豪両国や周辺地域に影響を及ぼしうる緊急事態の際に相互に対応措置を検討することを明記した「安全保障協力に関する新たな日豪共同宣言」にも署名しています。

そこでは、今後10年にわたって、安全保障・防衛協力の方向性を示すものとしていますけれども、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進する上で、以下の6項目をその下支えとしています。
・ 国家が平和的に国際法に従い紛争を解決し、また、主権及び領土の一体性が尊重される、ルールに基づく秩序
・侵略並びに国際的なルール及び規範を損なう行動を抑止する、好ましい戦略バランス
・国家が航行及び上空飛行の自由を行使することができ、威圧的又は不安定化をもたらす行動を受けない、国連海洋法条約を始めとする国際法の遵守に支えられた、開かれ、安定的で安全な海洋
・サイバー、宇宙、重要・新興技術、電気通信などの領域における共通の課題に関する協力を導く、包摂的で透明性のある制度、規範及び標準
・侵略、威圧、偽情報、悪意のあるサイバー活動その他の形態による干渉及びパンデミック、自然災害及び気候変動などのグローバルな課題に対し、強靱な国家
・ルールに基づく市場志向型の貿易・投資システム及び多様で強靱なサプライチェーンに支えられた継続的な地域経済統合
また、冒頭の共同宣言では、日豪は「NATOアジア太平洋パートナー(AP4)のメンバー国として共に協力することも含め、欧州のパートナーとの協力を強化することの重要性を再確認。更に、日本は引き続きAUKUSを支持するとしていて、日豪のみならず、NATOやAUKUSも視野にいれた安全保障を構想していると思われます。


2.AUKUSに関する首脳共同声明


AUKUSについては、9月21日、アメリカのバイデン大統領は、イギリスのジョンソン首相、オーストラリアのモリソン首相と相次いで会談し、23日に共同声明を発表しています。

共同声明の内容は次の通りです。
AUKUSに関する首脳共同声明

オーストラリア、英国、米国の指導者として、我々は、不変の理想とルールに基づく国際秩序への共通のコミットメントに導かれ、21世紀の課題に対応するため、パートナーとの協力を含め、インド太平洋地域における外交・安全保障・防衛協力を深化させることを決意する。この努力の一環として、我々は、「AUKUS」と呼ばれるオーストラリア、英国、米国の3カ国による強化された安全保障パートナーシップを創設することを発表する。

AUKUSを通じて、両国政府は、長年にわたる二国間関係を基礎として、それぞれの安全保障と防衛上の利益を支援する能力を強化する。我々は、情報及び技術の共有の深化を促進する。我々は、安全保障及び防衛関連の科学技術、産業基盤、及びサプライチェーンのより深い統合を促進する。そして、特に、我々は、安全保障及び防衛に関する様々な能力について協力を大幅に深化させる。

AUKUSの下での最初のイニシアティブとして、海洋民主主義国家としての我々の共通の伝統を認識し、我々は、オーストラリア海軍のための原子力潜水艦の取得を支援するという共通の野心を持つことにコミットする。本日、我々は、この能力を実現するための最適な道筋を模索するため、1年半にわたる3ヵ国の取り組みに着手する。我々は、米国と英国の専門知識を活用し、両国の潜水艦計画を基に、オーストラリアの能力を実現可能な限り早い時期に就役させる予定である。

豪州の原子力潜水艦の開発は、相互運用性、共通性、および相互利益に重点を置いた、3カ国による共同努力となるであろう。オーストラリアは,核物質及び核技術の不拡散,安全及びセキュリティを確保するための保障措置, 透明性,検証及び会計措置に関する最高水準の基準を遵守することにコミットしている。オーストラリアは、国際原子力機関(IAEA)を含め、非核兵器国としての義務を全て果たすことに引き続きコミットしている。我々3カ国は、世界の核不拡散におけるリーダーシップを維持することに深くコミットしている。

数十年にわたって築かれた我々の深い防衛関係を認識し、我々は本日、共同能力と相互運用性を強化するため、AUKUSの下でさらなる三国間協力に着手する。これらの最初の取り組みは、サイバー能力、人工知能、量子技術、および追加の海中能力に重点を置くものである。

我々が本日開始する試みは、インド太平洋地域の平和と安定の維持に寄与するものである。オーストラリア、英国、米国は、70年以上にわたり、他の重要な同盟国やパートナーとともに、共通の価値を守り、安全と繁栄を促進するために協働してきました。今日、AUKUSの設立に伴い、我々はこのビジョンに再挑戦する。
AUKUSは、台湾や南シナ海などで覇権を目指し軍拡を図る中国を念頭とした安全保障協力の枠組みで、米英が非核保有国のオーストラリアに原潜を配備するための技術と能力を提供することにしていますけれども、原潜の就役を可能な限り早い時期に実現させるとしています。


3.豪海軍の英原潜訓練


実際、AUKUSは、オーストラリアの原潜配備に向けて動いています。

8月31日、イギリス海軍の最新鋭の攻撃潜水艦「HMSアンソン」の就役式に出席したウォレス英国防相は「インド太平洋を始めとする地域で自由民主主義秩序への脅威が高まるなか、今日はこれに対抗するイギリスとオーストリアの準備作業において重要な節目になった……AUKUSに基づき緊密な同盟国であるオーストラリアや米国などとの共同安全保障に貢献する英国の意欲を明確に示している」と、オーストラリア海軍の要員がイギリスの原潜で訓練を始めると発表しています。

オーストラリアはAUKUS協定に基づき、米英が技術協力して、オーストラリア国内で計8隻の原潜を建造・配備する予定ですけれども、9月24日、アメリカのウォールストリート・ジャーナル紙は、アメリカ政府がオーストラリア向けの原子力潜水艦数隻の建造を検討していると報じています。

これは、軍拡を続ける中国に対抗するため、一部をアメリカ製にして配備を早める狙いがあり、欧米の外交筋の話によると、米英豪3ヶ国の高官は、アメリカが建造する原潜数隻を2030年代中ごろまでにオーストラリアに提供する案について協議したとコメントしています。


4.英豪に工作する中国


当然ながら、AUKUSの動きに中国は反発しています。

8月1日から4週間にわたって国連本部で開かれていたNPTの再検討会議では、各国の代表からアメリカやロシアによる核軍縮が停滞していることへの懸念とともに、中国による核戦力の増強への非難が相次いだのですけれども、AUKUSの原潜配備計画をめぐり、アメリカのブリンケン国務長官が「潜水艦は核燃料を動力に用いるもので、核兵器を搭載するものではない。NPTのもとで最大限の安全性と核不拡散の基準を順守する」と釈明したのに対し、中国外務省の傅聡・軍縮局長は、「我々の核戦力は常に安全保障に必要な最低水準にとどめている」と述べ、各国の非難に反論。更に、オーストラリアの原潜配備計画に対し、「国際社会は核不拡散のダブルスタンダードを許してはならない。3ヶ国の原子力潜水艦の協力はNPTの目的と趣旨に反し、核拡散のリスクをもたらす」と批判しました。

けれども、動力に核を使うのと、核ミサイルとでは、そのリスクは天地ほども違います。そもそも、NPTの正式名称は「核兵器の不拡散に関する条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)」であり、核兵器保有国の増加を防ぐことが目的です。

従って、海底を走る"原発"と、大量破壊兵器である核ミサイルを同列に扱い、「NPTの目的と趣旨に反し、核拡散のリスクをもたらす」という中国の主張には無理があります。

もし、中国がAUKUS協定に基づく技術協力が怪しからんといっているのだとすると、それにはまず「鏡で自分で見てみろ」と反論されることになります。

というのも、中国は人民解放軍を訓練するためにイギリス軍の現役パイロットや元パイロットを採用しようとしているという問題が指摘されているからです。

10月18日、BBCは最大30人のイギリス軍元パイロットが中国人民解放軍の兵士を訓練するために中国に渡航したと報じました。

これについて、イギリス国防省報道官は「中国で人民解放軍兵士を訓練するために、英軍の現役パイロットや元パイロットをヘッドハンティングしようとする中国の動きを阻止するため、断固とした措置を取っている」と説明。ヒーピー国防担当閣外相は、こうした勧誘は省内で「何年も」懸念されており、情報機関も注視してきたと指摘し「中国は、世界の多くの場所で英国の利益を脅かす競争相手。われわれの機密にアクセスしようとする彼らの試みは明らかで、わが国の空軍の能力を理解するためにパイロットを採用することは懸念事項だ」とコメントしています。

また、中国は同じことをオーストラリアに対しても仕掛けています。

10月19日、オーストラリアのマールズ国防相は、「自国に尽くすより、外国から支払われる給料に魅力を感じる人がいると聞けば、私は深い衝撃を受け、動揺するだろう」と述べ、オーストラリア軍の元パイロットらが中国で訓練役を引き受けているとの報告を軍が調査していると発表しました。オーストラリア政府は、元オーストラリア軍パイロットが、中国で運営されている南アフリカの飛行学校に採用されているという報告の調査を国防省に要請したとのことです。


5.オーストラリアが中国との戦争の可能性に備えている理由


昨日のエントリーで取り上げたアメリカのジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院特別教授のハル・ブランズ氏は、日本だけでなく、オーストラリアに対しても、「オーストラリアが中国との戦争の可能性に備える理由(Why Australia Is Gearing Up for Possible War With China)」という論考をブルームバーグに寄稿しています。

その概要は次の通りです。
・日本はアメリカにとって唯一最も重要な同盟国だが、オーストラリアは歴史的に最も信頼できる同盟国だ。

・インド太平洋地域だけでなく、世界的に見ても、アメリカの同盟国の中で唯一、オーストラリアは第一次世界大戦以降のアメリカの主要な戦争すべてに参戦してきた。

・シドニーとキャンベラでの3日間の滞在で私が感じたのは、台湾海峡での戦争の見通しが、オーストラリア、日本、米国を、西太平洋における後世の三国同盟に作り上げつつあるということだ。この比較は、心強くもあり、同時に不穏でもある。

・10年前、オーストラリアは、米国と北京のどちらかを選ぶことを拒否する米国の同盟国の申し子だった。時代はどう変わるのだろうか。2017年から18年にかけて、オーストラリアの政治を腐敗させる中国の工作が蔓延していることが明らかになり、世論に軸足が生じた。

・2020年、キャンベラ政府がCOVID19の起源に関する国際調査を支持した後、中国はオーストラリアを経済的に罰した。南太平洋における北京の影響力拡大により、中国の船団がオーストラリアのシーレーンを脅かすのではないかという懸念が沸き起こった。

・今週、豪州のアナリストや政府関係者と話していて最もはっきり感じられたのは、中国が台湾に侵攻すれば、インド太平洋全体の安全保障が壊滅的に損なわれるのではないかという懸念であった。ある国防専門家は、「中国が支配する地域でオーストラリアが生き残ることはできない」と語った。ある防衛専門家は、「オーストラリアは、中国が支配する地域では生き残れないだろう」、と。

・シドニーの米国研究センターのマイケル・グリーンが指摘するように、オーストラリアは近年、華為技術(ファーウェイ)の影響力の抑制から、新しい安全保障グループ「AUKUS」の創設、古いグループ「Quad」の活性化まで、さまざまな問題でワシントンにスピードアップを迫っている。

・オーストラリア政府は最近、日本との共同宣言に署名したが、これは「同盟の灯火」のように見える。両国は「わが国の主権と地域の安全保障上の利益に影響を及ぼす可能性のある有事には、互いに協議し、協力する」ことを誓ったのだ。

・これは驚くべき歴史の転換だ。1942年、オーストラリア北部は日本軍の侵攻を恐れていたが、今では日本軍がオーストラリア軍と共に訓練を行う準備をしている。オーストラリアは、日本と同様、自国とその周辺地域を守る能力を強化しようと努力している。

・核兵器搭載可能な米国のB52爆撃機は、米国のオーストラリアにおけるプレゼンス拡大の一環として、まもなくオーストラリア北部で運用される予定だ。昨年発表された豪英米の安全保障協定「AUKUS」によって、原子力潜水艦、無人潜水機、その他の高度な能力を生産することになる。

・私がワシントンとキャンベラで行った会話によれば、豪州はAUKUS協定で建造される艦船が完成するまで、米国の攻撃型潜水艦を1隻以上リースする可能性もあるようだ。国防費の増加に伴い、サイバー戦争と諜報能力への投資も増えている。

・確かに、オーストラリアの軍事力は小さいし、台湾海峡までの距離も大きい。台湾との戦闘に貢献できるような膨大な火力はないだろう。

・しかし、豪州の関係者によれば、勝敗の差が極めて小さい紛争では、豪州の軍隊が重要な役割を果たすという。地理的な役割分担として、豪州が航空戦力と海上戦力で東南アジアの重要な動線を確保し、日本が北東アジアを抑え、米国が台湾への侵攻や封鎖を阻止することを想定している。

・台湾紛争では、米国の航空戦力と海兵隊は豪州の基地から出動することになるだろう。オーストラリアの宇宙、サイバー戦争、情報資産は極めて重要である。西太平洋の米軍基地から豪州製 F-35が飛来し、豪州の地上部隊が台湾の侵攻を阻止することも考えられる。(ただし、地理的条件から、これらの可能性はより遠くにある)。

・豪州が直面するジレンマは、距離だけではない。現在想定されている能力、特に攻撃型潜水艦を開発するには、大幅な歳出増が必要だ。同盟国やパートナーとの協力関係を深めることは、豪州の主権に対する長年の懸念の引き金となる。また、貿易額の31%を占める中国と対立すれば、経済的な打撃を受けるだろう。

・それでも、オーストラリアは傍観しているわけにはいかないだろう。世論調査によれば、国民の過半数が、米国が台湾防衛のために軍隊を派遣することを望んでいる。中道左派のアンソニー・アルバネーゼ首相は、オーストラリアの意向を明確にしようとしないが、最近のある国防相はオーストラリアが関与しないことは「ありえない」と判断している。

・西太平洋での戦争には、豪州、日本、米国が台湾防衛を支援する「3プラス1」連合が関与するという前提が、ここにきてますます強くなってきている。この3カ国は、フランス、ロシア、イギリスの3国同盟に似ている。3国同盟は、独裁的な挑戦者である帝政ドイツが力の均衡を崩すのを阻止しようとした緩やかな連合体だった。

・しかし、三国同盟は第一次世界大戦を防ぐことができなかった。その理由の一つは、三国同盟を拘束する正式な条約がなかったため、ドイツの指導者が危機に際して三国同盟が崩壊するかもしれないと考えたためである。今日、民主主義諸国は同じような課題を抱えている。

・オーストラリア、日本、米国はいずれも台湾に関して「戦略的曖昧さ」の政策をとっている。中国に台湾を奪わせないという姿勢を示しているが、台湾防衛に関する正式な約束はしていない。米国は日本と、米国はオーストラリアと、それぞれ別の同盟を結んでいるが、一方への攻撃がすべてへの攻撃となるような三国間のメカニズムは存在しないのである。また、3カ国が効果的に戦うために必要な統一的な指揮系統もない。

・戦略的な曖昧さを維持することには、海峡の現状を変化させることで危機を引き起こしたくないという正当な理由がある。しかし、第一次世界大戦が思い起こさせるように、紛争は侵略者が最終的に直面する抵抗を過小評価したときに始まったものでもあるのだ。

・豪州の政府関係者は、今後半世紀で膨大な軍事力を生み出すことは困難であり、抑止力を強化する一つの方法は、北京が台湾を攻撃すれば強力な民主連合に直面することをできるだけ明確にすることであると語っている。結局のところ、オーストラリアもワシントンや東京と同様に、そのような戦いを避けることは難しいと考えているようだ。キャンベラなどでは、このことを事前にどのように明示するかということが一つの重要な問題になっている。
この論考でハル・ブランズ教授は、「オーストラリアは、日本と同様、自国とその周辺地域を守る能力を強化しようと努力している」とする一方、オーストラリアの軍事力は小さく、今後半世紀で膨大な軍事力を生み出すことは困難だと指摘しています。

また、日米、米豪はそれぞれ別の同盟を結んでいるものの「一方への攻撃がすべてへの攻撃となるような三国間のメカニズムは存在せず、3ヶ国が効果的に戦うために必要な統一的な指揮系統もない」と述べています。

この構図は、ある意味、日米および米韓との同盟関係に似ているともいえ、日韓の関係が悪化すれば、対北朝鮮に対し、3ヶ国共同で対処するのが難しくなるのと同様に、日豪関係が悪化すれば、3ヶ国共同で中国に対することが難しくなることを意味します。

逆にいえば、中国はここをついて日豪離反させようと工作してくることも考えられます。

その意味では、今回、日豪間で、「安全保障協力に関する新たな共同宣言」が出されたことは大きいですし、できうるならば、日本も将来AUKUSに参加できるよう動き出すべきではないかと思いますね。


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