鄧小平の取引を反故にした習近平

今日はこの話題です。
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1.中国の海外警察に抗議


11月29日、林外相は会見で、中国共産党の「出先機関」として日本など海外に警察拠点を置いていると指摘される問題を巡り、外交ルートで中国側に申し入れを行ったと明らかにしました。

これは、記者質問に対する回答で明かされたのですけれども、その時のやり取りは次の通りです。
【産経新聞/岡田記者】 中国の「海外警察サービスセンター」について伺います。中国は、海外の警察拠点として、世界各地に「海外警察サービスセンター」というのを設置して、中国国外にいる反体制派の監視拠点としているという指摘があります。東京都内にも事務所があるというふうに言われています。欧米各国の政府は、中国側に対して、活動停止を求めるなどの警戒を強めています。日本政府としての現状認識と、これまで中国に対して抗議、または、その懸念の表明とか、そういったことを行ってきたかどうか教えてください。

【林外務大臣】御指摘の報告書及び関連報道について承知しております。
 本件については、中国側に対し、外交ルートを通じまして、仮に我が国の主権を侵害するような活動が行われていることであれば、断じて認められないという旨の申し入れを行っております。これ以上の詳細につきましては、外交上のやり取りであり、お答えを差し控えたいと思いますが、引き続き、国内の関係省庁とも連携して、適切に対応してまいりたいと考えております。

とまぁ、主権侵害は断じて認められない、適切に対処する、と、当たり前の回答をしています。

この日の会見では、例の中国各地で発生している抗議デモについても質疑があったのですけれども、それは次の通りでした。

【産経新聞/岡田記者】 中国のゼロコロナ政策に対する抗議活動について伺います。北京市を含めて、中国各地で、当局の新型コロナ対策に対するデモが広がっています。習近平国家主席の退陣を求める、そういった抗議もありまして、極めて異例な事態というふうに言われています。活動を取材する海外メディアの拘束事案も起きていますけれども、政府の受け止めを伺います。また、大臣訪中も、日中間で合意していると思うんですけれども、それも含めて、今後の日中関係の影響についてもお願いします。

【林外務大臣】 先日来、中国の複数の都市で、新型コロナに関する中国当局の措置等に対するデモ等の事案が発生していると承知しております。政府としては、関連の情報収集及び分析に努めるとともに、領事メール等を通じて、在留邦人への注意を呼びかけているところでございます。現時点で、邦人に危害が及んでいるという情報はございませんが、引き続き、情報収集及び分析に努めるとともに、在留邦人の保護に万全を期してまいりたいと考えております。また、後段の方につきましては、今まで同様に、調整しているという状況でございます。
質問にあった、海外メディアの拘束事案とは、おそらく上海で27日夜に行われた抗議デモを取材していたBBCのエド・ローレンス記者が、殴打され蹴られるなどし、中国当局に手錠をかけられ拘束された事案のことだと思われます。

ローレンス記者は取材許可を得た上で取材活動を行っていたとしていますけれども、中国当局は「ジャーナリストであることを告げず、取材許可証を自発的に提示しなかった」として拘束に及んだようです。

ローレンス記者は、数時間後に解放されたものの、BBCは当局から説明も謝罪もないとして、深い懸念を示しています。

これを考えると果たして、日本政府に「在留邦人の保護に万全を期す」ことが出来るのかどうか、不安が残ります。


2.白紙デモ


今、話題になっている中国各地での大規模デモは、10月の中国共産党第20回党大会直前、北京市内の四通橋で、ある男性がゼロコロナ政策と習近平の独裁に反対する横断幕を掲げたことが始まりだったとも言われています。

このスローガンは中国国内外で一定の広がりを見せていたのですけれども、11月24日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで火災が起き、少なくとも10人が死亡。現地は100日以上にわたってロックダウン下にあった影響で消火活動が充分におこなわれなかったのではないかとも指摘されています。

現場ではゼロコロナ政策のもと、マンションの扉が外から施錠されていたとする報道もあり、炎に巻かれた建物内で、「助けて! お願いだから開けて!」と叫ぶ女性の音声が入った動画も流出。騒然としました。

結果、25日からはゼロコロナ政策への反対やウルムチ火災の犠牲者の追悼を理由に、中国各地で住民が街頭に出て抗議したり、大学内で学生が抗議集会を開かれ、26日夜に上海市内で発生した街頭抗議デモでは「共産党下台!(中国共産党は政権を手放せ!)」「習近平下台!(習近平は辞めちまえ!)」というスローガンを群衆が叫ぶという、数ヶ月前までは絶対にあり得なかった事態が発生。習近平主席の母校である清華大学でも、1000人以上の規模の抗議集会が起きました。

これらを取材しているCNNの記者は「実際、習近平体制になってから前例のないことです。体制の転換も求める声もあり、ここまで大規模なデモは1989年の天安門事件以来です」とその異常さを伝えています。

もっとも、抗議活動は28日になって、当局が北京などの主要都市に警察を大量配備したことを受けて沈静化に向かったとも報じられています。北京、上海、杭州、南京などでは街頭で取り締まりが行われ、ショッピングモールは早い時間に閉まり、当局者は定期的に通行人を呼び止めて身分証明書の提示を求めるなどしました。

これを受け、市民や学生は法に抵触することなく不満と怒りを表明する静かな戦術にシフト。街角や地下鉄の駅などで、言論統制への抗議の意思を示す白紙を掲げる手法に切り替えています。その理由は、抗議のスローガンが書かれていれば逮捕後に大変なことになる危険があるのに対し、ただの紙だけなら処罰されにくいからなのですけれども、この行動さえも当局から攻撃的と見なされることが少なくないそうです。

この「白紙デモ」は、そもそも、香港で2020年に施行された「香港国家安全維持法」の取り締まりを逃れるため、白い紙を掲げて弾圧に抗議したことが切っ掛けとも言われています。


3.習近平下台!


この中国での抗議活動は世界にも飛び火しました。

11月28日、香港でも数十人規模のデモが行われ、参加者は香港中心部のオフィス街に集まり、白紙を掲げるなどしました。一部には、新疆ウイグル自治区での高層マンション火災の犠牲者に追悼の花を手向ける人もいたそうです。

また、一方、ロンドンやシドニー、ニューヨークなど世界の各都市では抗議への連帯を示すデモが行われました。

なんと、この火は日本にも飛んでいました。

11月27日、新宿駅西口の地下広場で、100人程の在日中国人の若者たちが、中国政府に抗議をしました、マスクや帽子、メガネなどで顔を隠している人が多いものの、、手に白い紙や、「ゼロコロナ政策反対」「自由を、さもなくば死を」「習近平くたばれ」などと書かれたプラカードを持ち、代わる代わる演説しました。

演説でも「共産党下台!(中国共産党は政権を手放せ!)」、「習近平下台!(習近平は辞めちまえ!)」といったスローガンを口々に叫びました。

参加者は、抗議活動を行った理由として「ウルムチの火災のことに腹が立ったし、痛みを感じました。自分はなにができるかはわからないですが、こんなにひどいことにはとにかく声を上げるべきだと思いました」とか「中国国内の同胞があんなに大変なことになっているのに、自分は安全な日本でのうのうと過ごしていていいのか。いま動かないと、きっとこれからずっと後悔すると考えたんです」と語ったのですけれども、「リスクを感じないのか」と水を向けると「感じますよ。もちろん、すごく怖いです。でも、中国国内にいる人たちはもっと怖い環境なのに、マスクだけの姿で街に出て抗議している。彼らに勇気をもらいました。海外にいるのに、国内にいる人たちよりも怯えてはいられないと思います」と答えたそうです。

冒頭で、中国共産党の「出先機関」として日本など海外に警察拠点を置いていることについて触れましたけれども、この警察拠点が存在・機能しているならば、新宿での抗議デモ参加者に中国海外警察の手が及ぶことも十分考えられます。

林外相はこの海外警察拠点について「我が国の主権を侵害するような活動が行われてのであれば、断じて認められらない。適切に対応する」と述べていますけれども、であれば、彼らに中国警察が干渉することがないように手配すべきではないかと思います。


4.鄧小平の取引を反故にした習近平


CNNは今回のデモについて、天安門以来だと報じていますけれども、当時、CNNは実況中継で現場の状況を伝えていました。

広場に掲げられた毛沢東・元主席の肖像画の前を、人民解放軍の装甲車が通過し、群衆が兵士から撃たれ、死者や負傷者が運ばれていく、そんな姿に世界中の視聴者がくぎ付けとなりました。

この人民解放軍の弾圧はその後、世界と中国との関係に、多大な影響を及ぼし、現在に至るまで、国際社会の中国に対するイメージを形作ってきました。

アメリカでは報道機関と世論、外交政策の関係が見直され、アメリカ議会が今年5月末に開いた天安門事件についての公聴会でも、与野党の議員がそろって「国民が持つ中国のイメージは事件当時のテレビニュースに影響された」とコメントしている程です。

当時の最高実力者、鄧小平氏は事件を受けて、学生たちに同情的な立場を示した改革派の幹部を排除し、保守派を後任に置いたのですけれども、この後、鄧小平氏は改革の動きを再開、加速させていく一方、国民の記憶から天安門事件を消し去ることに力を注ぎました。今では、事件について公の場で議論することは禁じられ、毎年天安門を口にする反体制活動家や法律家、犠牲者の遺族らは当局に抑え込まれています。

これらについてCNNは2014年6月の記事「天安門事件から25年 後世に与えた影響は」で、「共産党は、国民と取引をしたのだ。国民にはより大きな経済的チャンスと個人的自由を与えよう、その代わり党による権力独占には逆らうな、という取引だ」と実に興味深い指摘をしています。

つまり経済成長と個人の自由によって、政権打倒を回避してきた訳です。そして、それはこれまで比較的上手くいっていました。

ところが、それを根底から覆しつつあるのが、習近平主席の「ゼロコロナ政策」です。

ゼロコロナ政策は、経済成長も個人的自由のどちらにもストップをかけることになりました。つまり、人民にしてみれば、「取引違反だ」となる訳です。

ですから、たとえ表面上、抗議活動を鎮圧したとしても、それで人民の不満が収まる筈もなく、火種はずっと燻ることになります。しかも、先日の共産党大会で習主席はトップ人事から共青団系の有力者をすべて排除していますから、こちらにも火種が残っています。

つまり、排除された共青団が習近平主席の足を引っ張ろうと、自分達の息のかかった警察組織が管轄する街や省でのデモの取り締まりを緩めることで、抗議活動を過激化させることだって考えられなくもありません。たとえ、それを人民解放軍に武力鎮圧させたとしても、その動画が世界中に拡散するリスクだってあります。

また、逆に、鄧小平依頼の「取引」を守ろうとすると、ゼロコロナ政策を止めるしかないのですけれども、そうしたら、今度は人民の声に共産党政府が折れたことになります。これも共産党政府の独裁を揺るがすことにも繋がりかねません。

「習一強」独裁体制を敷いた結果、すべての判断が習近平の肩に掛かってくることになりました。果たして習近平主席はこれをどう治めていくのか。要注目です。


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