

1.東京オリンピック・パラリンピックの談合疑惑
11月25日、東京地検特捜部と公正取引委員会は合同で、独占禁止法違反の疑いで広告最大手「電通」の家宅捜索に入りました。また、豊島区にあるイベント制作会社「セレスポ」や組織委員会の元幹部の自宅などにも捜索に入りました。
更に28日には博報堂、さらに東急エージェンシー、フジテレビ系イベント会社富士クリエイティブコーポレーション、イベント会社のセイムトゥーにも家宅捜索が入りました。
談合疑惑が持たれているのは、2018年に大会組織委員会が発注し、電通など9社1団体が参加した東京オリンピック・パラリンピックのテスト大会に関する26件の入札です。
テスト大会とは、本番で実施される各競技について、出場選手の動線や観客の受け入れ、警備態勢などを事前に確認する目的で、2018~2021年にかけて計56回行われました。
けれども、人気のないスポーツをどうやって担当してもらうのか、どこも引き受ける業者がいなかったら困るという懸念が組織委員会にはあったようです。
2018年、大会組織委員会はテスト大会の計画立案などを担う業務計26件の入札を実施。その結果、電通など9社と共同事業体の1団体が落札しています。業務1件当たりの契約額は6000万~400万円で、総額は5億円を超えているのですけれども、特捜部は、その際、電通などの複数企業が受注の調整を行った疑いがあるとしているのですね。
2.国民の支持が重要
12月1日、東京オリンピック・パラリンピックでの大会組織委員会の会長を務めた橋本聖子参議院議員は、札幌市が招致を目指す2030年冬季五輪・パラリンピック招致について、「非常に厳しいと思ってます。一日も早く解明されて、そして新たな札幌誘致のスタートが切れるようにしなければいけないんではないかなと、現状は厳しいと思ってます……東京大会の意義と価値が問われている。最後まで捜査に協力をする」と述べました。
更に、翌2日、松野官房長官は閣議後の記者会見で、入札での不正行為が事実で、組織委員会のガバナンス体制に起因する問題があると考えられる場合には、大規模な国際大会の運営の透明化などを図るため、文部科学省に設置したプロジェクトチームで対応を検討していく考えを示しました。
その上で、札幌市への大会招致について、政府のスタンスを記者団から問われた松野長官は「「札幌市とJOCは、今後、プロジェクトチームが取りまとめる指針を参考にしながら機運醸成に努め札幌市民をはじめ国民の支持を得ていくことが大切だ。国としては招致活動を見守っていきたい」と述べました。
3.2016年の敗因と2020年の勝因
日本は過去夏季五輪で 1964年東京大会、冬季五輪では1972年札幌大会、1998年長野大会を開催してきたのですけれども、戦後では、夏季五輪で 1960年東京大会、1988年名古屋大会、2008年大阪大会、2016年東京大会、冬季五輪では 1968年札幌大会、1984年札幌大会の招致を目指し失敗しています。
これについて、日体大の松瀬学教授は、2016年大会招致の敗因と2020年大会招致の勝因について分析し、次の様に述べています。
(1)2016 年大会招致の敗因.松瀬教授によると、オリンピック招致に手を挙げた都市は、IOCに詳細な開催計画を示した「立候補ファイル」を提出するのですけれども、東京は 2016年大会招致の際、IOCから課題として「世論の支持率」を指摘されたのだそうです。
・アピールポイント「環境五輪」がリオの「南米初」というメッセージに劣ったこと.
・メインスタジアム,選手村計画の低評価.
・アイコンとなる建築物,国際貢献具体策の欠如.
・招致戦略の甘さ,ロビー活動の未熟さ.オリンピックファミリーに対するノウハウ不足.
・IOC 委員との信頼関係の希薄さ.
(2)2020 年大会招致の勝因.
・前回招致活動からの蓄積.
・アピールポイント「復興五輪」の分かりやすさ.
・開催計画 , ロビー活動の質の高さ.招致委リーダーの IOC委員就任.
・IOC 委員との信頼関係の深さ,人脈の拡大.
・運 . ネガティブ要因となったマドリッド報道.
IOCによる2009年の支持率調査で、東京が55.5%だったのに対し、対抗するリオデジャネイロが84.5%、マドリッドは84.9%、シカゴ67.3%で、東京は支持率で最下位となり、これが大きなウィークポイントだったと指摘しています。
これに対し、2020年大会招致では、IOCによる2013年の支持率調査で、東京は70%に上昇。対抗するマドリッドが86%、イスタンブールは83%となりました。
なぜIOCが都市の支持率を重視するのかについて、猪谷千春IOC名誉委員は、「IOCとしては人々に歓迎されないところにオリンピック選手たちを出したくないのです。アットフォームなフィーリングを持って、楽しく競技に臨めるような、そういう都市での開催を望んでいるのです。開催地の状況を見るためには支持率が一番わかりやすいのです」と述べています。
当然政府もこのことは知悉している訳で、であるが故に松野官房長官は、2030年の札幌オリンピック・パラリンピック招致には「国民の支持が重要」と述べたものと思われます。
既に、国際オリンピック委員会(IOC)は、2030年冬季オリンピック・パラリンピックの開催地を正式決定する総会を2023年5月か6月に予定していたのを、2023年秋に延期すると発表しています。
2030年の冬季オリンピック招致を目論む札幌市について「世論の支持率」がどれだけあるか分かりませんけれども、東京オリンピック・パラリンピックで発覚した談合事件を抱えたままでは、支持率の上昇など望むべくもありません。
政府がそれを望むのであれば、何より、東京オリンピック・パラリンピック談合事件を調査、解決することを優先すべきではないかと思いますね。
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