アメリカからの半導体対中輸出規制協力要請

今日はこの話題です。
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1.半導体対中輸出規制の協力要請


12月10日、半導体の対中輸出規制を巡り、アメリカ政府が日本政府に対して、足並みを揃えるよう要請したことが明らかになりました。

複数の関係者によると、アメリカのレモンド商務長官が9日に西村康稔経産相と電話会談した際に協力を求めたようです。

米国は10月に安全保障上の観点から、スーパーコンピューターや人工知能(AI)向けの高性能品の対中輸出を幅広く制限する規制案を発表。日本は米中対立の中で中国側との関係も保ってきたのですけれども、アメリカの要請の背景には、半導体製造装置などで世界トップレベルの企業がある日本やオランダの協力を得られなければ規制の抜け穴ができるとの危機感があり、日本とオランダがこれら半導体製造装置などの輸出を規制して、中国の先端半導体の開発を遅らせる狙いがあります。

今回の閣僚間での直接的な協力要請は初めてとみられていますけれども、具体的には日米を含む複数の国が国際協定に基づき参加する規制枠組み構想などが浮上しているようです。


2.我々は先を行っている


アメリカのこの要請は、前から始まっていました。

11月3日、レモンド商務長官はCNBCとのインタビューで「日本とオランダが我々の先例に従うことになるだろう」と述べています。

10月以降、バイデン政権は先端半導体技術や製造装置、関連人材などの対中貿易を事実上禁止しています。この規則には、外国企業がアメリカの技術を取り入れた半導体を輸出することを禁止する措置も含まれています。

アメリカ企業は、チップに使われるソフトウェアや、高度な半導体を作るために採用される設計ソフトウェアに強く、韓国や台湾の企業は、こうしたアメリカの技術を使った製品を多く扱っており、すでに一定の規制がかかっています。

これに対し、日本やオランダは、これまでアメリカの規制対象外としていた半導体製造装置に強みを持つことから、アメリカが注視していたのですね。

半導体製造装置の世界市場は3社がほぼ独占していて、その3社はアメリカのアプライド・マテリアルズ、次いでオランダのASML、そして日本の東京エレクトロンです。

東京エレクトロンは、半導体ウエハーに専用の薬品を塗布して回路を形成する装置で9割、ウエハー表面に薄膜を形成する装置で4割近い世界シェアを持っており、2022年3月期の連結売上高約2兆円のうち、4分の1が中国向けで、韓国や台湾を抑えて最大の顧客となっています。

これについて、半導体産業協会のジミー・グッドリッチ副会長は、ワシントン国際貿易協会のオンラインフォーラムで、「このルールが導入されたとき、同盟国が賛成しなかったことに失望しているのは確かだ……すぐに賛成して、アメリカ企業が海外の競争相手に市場シェアを奪われないようにしなければ」という切迫感がある、とコメントしています。

アメリカの半導体規制の狙いは安全保障です。先端半導体の優位性は、極超音速ミサイルや精密誘導兵器などの最先端軍事キットの開発競争に直結しているからです。

レモンド商務長官は、「我々は先を行っている。私たちは中国より先に進んでいる。そして、彼らの軍事的進歩に必要なこの技術を否定する必要がある……これは最も戦略的で、最も大胆な行動だ」と述べています。


3.外国貿易障壁報告書


西村経産相は11月1日の記者会見で、対中規制の影響について「アメリカとコミュニケーションを取っており、それを踏まえて国内企業にヒアリングしている」と語っていますから、既にこの時点で要請を受けていたことは間違いありません。

それらが背景にあって、12月9日の要請ですから、ある意味、尻を叩かれたといえるのかもしれません。

中国が他国の技術を自国に移転させていることについて、アメリカは前々から問題視していました。

アメリカ通商代表部が議会に提出している2022年度の「外国貿易障壁報告書」(National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers; 通称「NTEレポート」)では、中国の技術移転について、次のように指摘しています。
技術移転 (P.88)

長年にわたり、技術移転に関するアメリカの長年の深刻な懸念は、中国が問題のある政策や慣行を撤廃する、あるいは今後追求しないというハイレベルな二国間の約束を繰り返してきたにもかかわらず、未解決のままだった。

2017年8月、USTRはこれらの懸念に対処するため、301条に基づく調査を開始した。

技術移転、知的財産、イノベーションに関連する中国政府の政策と慣行に焦点を当てた301条に基づく調査を開始することで、これらの懸念に対処しようとした。具体的には、USTRは調査開始通知において、調査対象となる中国政府の行為として、以下を含むがこれに限定されない4つのカテゴリーが報告されていることを特定した。

(1)中国企業への技術・知的財産の移転を要求・圧力するための様々な手段の使用。
(2)中国企業との技術ライセンス交渉において、米国企業が市場ベースの条件を設定する能力を奪うこと
(3)中国企業による米国企業や資産の買収を指示または不当に促進し、最先端技術や知的財産を獲得することによる市場への介入
(4)商業的利益を得るために米国の商業コンピューターネットワークへのサイバー関連の窃盗や無許可侵入の実施または支援益を得ること。

2018年3月、USTRは、4つのカテゴリーの行為、政策、慣行が調査対象として不合理であるという所見を支持する報告書を発表した。

調査の対象となった行為、政策、慣行は不合理または差別的であり、負担および/または制限を与えているアメリカの通商を制限している。

2018年11月、USTRは更新報告書を発行し、中国が以下の事項を講じていないことを明らかにした。

問題のある政策と慣行を変更するためのいかなる措置も講じていない。米国は、中国からの輸入品に対する追加関税の賦課に加え、中国が維持する差別的な技術ライセンス供与措置に異議を申し立てるWTO提訴に成功するなど、さまざまな対応策を講じた。

2020年1月に署名された第一段階協定は、USTRが指摘した中国の不公正な貿易慣行の特定の側面に対処するものだ。2020年1月に締結されたフェーズ1協定は、USTRの301条報告書で指摘された中国の不公正貿易慣行の特定の側面に対処するものだ。この協定で、中国は以下のことをやめると約束した。

・中国は、市場アクセスを得るための条件として、外国企業に中国企業への技術移転を強制または圧力する長年の慣行を廃止する
・中国は、市場アクセスの取得、行政認可の確保、または中国政府から利益を得るための条件として、外国企業に中国企業への技術移転を強制または圧力をかけるという長年の慣行を廃止。
・中国は、行政手続きにおいて透明性、公平性、適正手続きを提供し、技術移転とライセンス供与が市場条件で行われることを保証する
を確保することも約束した。これとは別に、中国は、外国の技術を取得することを目的とした対外投資を指示または支援することを控える
・中国は歪曲的な産業計画に基づく外国技術の取得を目的とした対外投資を指示または支援しない。

2020年2月の第一段階協定の発効以来、米国は継続的に中国の非公式な不文律の行動に対して懸念を表明してきた米国経済界と継続的に関与してきた。

米国企業に中国企業への技術移転を強制・圧力する行為に懸念を表明している。米国は問題が発生するたびに中国に働きかけ、今後もその動向を注意深く見守っていく。
この2020年に結ばれた第一段階協定(フェーズ1協定)について、アメリカ通商代表部は同じレポートで「中国はフェーズ1協定のいくつかの条項を実施した一方で、より重要な約束のいくつかはまだ実施されておらず、2020年と2021年にアメリカの商品とサービスを購入するという約束に遠く及ばない。この協定が、中国にとって根本的な変化につながっていないことは明らかである。米国経済と米国の労働者・企業に対する有害な影響を根本的に変えていないことは明白だ」と指摘しています。

表向きは約束しても、実施しない。いかにもかの国がやりそうな手口です。


4.WTOは国家安全保障問題を議論する場ではない


このアメリカの対中輸出規制について、当然ながら中国は反発しました。

12月12日、中国商務省は、バイデン政権による半導体の対中輸出規制について「世界のサプライチェーンの安定を脅かし、国際経済と貿易を混乱させている……典型的な保護主義の手法だ……WTOの枠組みの中で、われわれの懸念に対処し、われわれの正当な利益を守るために必要な手段として法的措置を取る」として世界貿易機関(WTO)に提訴したと発表しました。

これに対し、アメリカ通商代表部(USTR)のアダム・ホッジ報道官は、中国から協議要請を受けたことを認めた上で「すでに中国に伝えたように、これらの的を絞った行動は国家安全保障に関連しており、WTOは国家安全保障に関連する問題を議論するのに適切な場ではない」とする声明を出しました。

要するに、安全保障の問題はWTOなど関係ないと突っぱねた訳です。

アメリカ通商代表部は、此の種の反論を他でも行っていて、たとえば12月9日の「鉄鋼およびアルミニウム製品に関する特定の措置に対する声明」では次のように述べています。
米国は、鉄鋼とアルミニウムに関する米国の第232条措置に対する中国などによる異議申し立てに関して、本日発表された世界貿易機関(WTO)パネル報告書の誤った解釈と結論を強く拒否する。米国は、70年以上にわたり、国家安全保障の問題はWTOの紛争解決で再検討することはできず、WTOにはWTO加盟国が幅広い問題に対応する能力を再推測する権限がないという明確かつ明確な立場を保持してきた。

これらの WTOのパネル報告は、WTO紛争解決システムを根本的に改革する必要性を強調するだけだ。WTOは、市場志向の鉄鋼およびアルミニウム部門に対する存続の脅威であり、米国の国家安全保障に対する脅威でもある、中国およびその他の国による深刻かつ持続的な非市場過剰生産能力を阻止するのに効果がないことを証明してきた。現在、WTOは米国も黙って待機しなければならないと示唆している。米国は、自国の重要な安全保障に関する意思決定を WTOパネルに委譲することはない。

バイデン政権は、鉄鋼およびアルミニウム産業の長期的な存続を確保することにより、米国の国家安全保障を維持することを約束しており、これらの紛争の結果として第232条の義務を削除するつもりはない。
国家安全保障の問題はWTOの紛争解決で再検討することはできない、と言い切っています。これは今回の半導体関連輸出規制のと同じロジックです。

アメリカは一切譲る気はありません。逆にいえば、日本が生温い対応をしようものなら纏めて制裁されることだってないとはいえません。日本の産業界もいよいよ腹を括るときがきたように思いますね。


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