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1.ゼレンスキーを拒否したFIFA
12月18日に行われたサッカー・ワールドカップ・カタール大会ですけれども、ウクライナのゼレンスキー大統領がその決勝戦の試合前に、世界平和のメッセージを共有したいと要請したものの、国際サッカー連盟(FIFA)から拒否されていたことが分かったとCNNが報じました。
CNNによると、ゼレンスキー大統領の事務所は、決勝の試合前にスタジアムのファンに向けた動画に出演したいと申し出たものの、否定的な反応に驚いたとしています。
もっとも、ウクライナ政府はこれまで、テーマを問わず様々な世界的イベントの場を活用してウクライナでの戦争に世界の関心をつなぎ留めようとこの種の要請をしてきましたから、今回のFIFAへの要請も特段珍しいものではありません。実際、その後もウクライナとFIFAとの協議は続けられたようです。
けれども、FIFAは今大会では、政治的なメッセージを極力排除しようと努めています。
実際、大会の数週間に、カタールによるLGBTQや出稼ぎ労働者の扱いへの批判の声が増大。欧州の7チームがLGBTQらに対する差別撲滅への連帯を示すため計画していた腕章着用を、FIFAは禁止しています。
それを考えると、ゼレンスキー大統領の演説を拒否するのも筋を通したことになります。
ゼレンスキー大統領とて、国内の士気を維持し、世界各国からの支援を取り付けるためにも、ワールドカップ決勝の場で演説したかったのでしょうけれども、それは叶いませんでした。
2.課題について提案を聞きたい
対するロシアも士気を維持しようと苦心しています。
12月17日、ロシア大統領府は、プーチン大統領がウクライナでの軍事作戦を指揮するロシア軍の作戦本部を訪問した映像を公開しました。
ロシア大統領府によると、プーチン大統領は16日に軍の合同作戦本部に終日とどまり、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長からウクライナでの軍事作戦の進捗について報告を受けたとのことで、映像では、軍幹部らが集まるなか、プーチン大統領が書類に目を通し説明を受ける様子が映されています。
映像には、ロシア軍参謀総長ヴァレリー・ゲラシモフ陸軍大将、ロシア国防大臣セルゲイ・ショイグ陸軍大将、ウクライナ軍統合グループ司令官セルゲイ・スロヴィキンが出席していたことが確認されたものの、軍管区司令官や軍司令官など他の注目すべき将校を識別することは不可能だったようです。
ロシア軍は夏以降、ウクライナ軍の反転攻勢による撤退が相次ぐ一方、ミサイルやドローンによるウクライナ全土への攻撃を激化させていて、この日、プーチン大統領は「当面の課題についての提案を聞きたい」と述べたということです。
長引くウクライナ侵攻の中、ロシア国内の戦争賛成派達からのプーチン大統領への批判を受けて、指揮を執り侵攻を続ける姿勢を示す意味でこの会議を公表したと見られています。
更に、ロシア大統領府は、プーチン大統領が国民とも向き合う指導者であることを示そうと腐心しています。
ロシアの独立系ニュースメディアの『モスクワ・タイムズ』は、クレムリンが特定の国有企業のリーダーや地方知事に対し、プーチン大統領が参加できるニュースやイベントの「ポジティブな議題」を準備するよう指示したと報じ、プーチン大統領のカレンダーには、七面鳥飼育センターのグランドオープン、国有企業の記念日、修理した高速道路の再開といった小さなイベントもあると指摘しています。
3.和平交渉の五条件と十の課題
9月の段階で、プーチン大統領は、ウクライナとの停戦交渉を呼びかけていましたけれども、現在に至ってもうまくいっていないようです。
11月にインドネシアで開かれたG20サミットでは、各国から戦争に対する批判の声が集まり、G20サミット首脳宣言では、ロシアの名指しこそ避けたものの「ほとんどの加盟国・地域が戦争を非難した」と侵攻を批判しました。
一応、首脳宣言には西側の対ロ制裁をめぐって「他の見解や異なる評価もあった」と、ロシアの立場を反映させた文言も入ったものの、早期の交渉開始の必要性に触れるような文言は入りませんでした。
そして、この文言スタイルはその後、バンコクで開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)の首脳会議でも、そのまま引き継がれています。
もっとも、この裏には、早期の交渉開始に向けた機運醸成を避けるため事前にアメリカなどが水面下で、議長国や各国に対し、説得工作を展開したこともあるとみられています。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は11月7日のビデオ演説で、ロシアとの和平交渉を開始する前提として、次の5項目を提示しました。
(1)ウクライナの領土保全の回復そして、更に11月15日、G20首脳会議でビデオ演説し、次の10項目の解決すべき課題次を提示しました。
(2)国連憲章の尊重
(3)戦争による全損害の賠償
(4)すべての戦争犯罪人の処罰
(5)二度と(侵略)しない保証
(1)放射線と原子力の安全これは、プーチン大統領がG20に対し何らかの交渉開始提案を示す可能性を事前に念頭に、ウクライナが和平追求に後ろ向きすぎるとの国際的批判をかわすために先手を打って和平案を提示したのではないかと言われています。
(2)食料安全保障
(3)エネルギー安全保障
(4)すべての捕虜と強制移住者の釈放
(5)国連憲章の履行と、ウクライナの領土保全と世界秩序の回復
(6)ロシア軍の撤退と敵対行為の停止
(7)正義(戦争犯罪を裁き正義を回復するための特別法廷の設置)
(8)環境破壊の防止
(9)ロシアによる再侵略の防止(キーウ安全保障協定(注)への署名)
(10)終戦の確認(戦争の終結を確認する文書への署名)
というのも、和平案というものの、その中身は、2014年のクリミア侵攻以来、ロシアが占領した全領土の返還や、ロシア軍のウクライナからの完全撤退など、ロシアからみて到底飲めるものではなく、事実上の交渉拒絶だと見られています。
4.停戦交渉はウクライナに委ねるべき
12月14日、アメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は、CNNの取材に対し、ウクライナでの戦闘を終結させるためにロシアのプーチン大統領と交渉する時期かどうかについての議論は、アメリカにではなく、ウクライナのゼレンスキー大統領に委ねるべきだと述べました。
カービー調整官は、年末を迎える前に戦争の終結を目撃したいとしながらも、「両者がドンバス地方で激しい戦闘を続けている。特に、バフムートやその周辺で。過去9ヶ月間のウクライナでの他の戦闘の一部と比べると小さな地域だが、戦闘は非常に激しい……今後来る冬に戦闘が止まるとは予想していない」とコメントしました。
11月18日のエントリー「北大西洋条約機構は動かない」で、アメリカ軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が記者会見で、秋の降雨で泥濘が増える季節を迎えたことで「戦術的な戦闘が鈍化すれば、政治解決に向けた対話の開始もあり得る」と述べたことを取り上げましたけれども、この見解を、カービー調整官は真っ向否定して見せた訳です。
現に当事者であるウクライナの大方は冬季には軍事作戦の実行が難しくなるとの見方はしていないようで、ウクライナの軍事専門家ミハイル・サムシ氏は「なぜ西側の軍事評論家が冬に軍事作戦ができなくなると考えるのだろう。21世紀の軍隊には何の問題もない。中断の必要性はない」と指摘しています。
このようにみていくと、現時点で停戦交渉が行われる可能性は限りなくゼロに近いのですけれども、そもそもプーチン大統領の停戦交渉の呼びかけにして、「時間稼ぎ」だという見方もあります。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、イギリスのエコノミスト誌との会見で、ロシアが新年の早い時期にウクライナに対し新たな攻勢を仕掛けるとの見解を示し、「ロシア軍は100%準備している」と断言。大規模な攻勢は「2月、せいぜい3月、まかり間違って1月末」に起きる可能性があると指摘し、「プーチンがまだ押さえていない領土の掌握を望んでいるドネツク州を含めたドンバス地方」や「南部ではドニプロ市へ向かい、さらに首都キーウであるかもしれない」と戦端はどの場所でも開かれるであろうと述べています。
また、同じくエコノミスト誌との会見に応じたゼレンスキー大統領も、新たな攻勢があったとしてもウクライナが最終的な目標で妥協することはあり得ないと言明。「ロシアが1991年時点の国境線まで撤退すれば外交手段の道はおそらく開ける」と述べ、ウクライナ国民の約95%は領土での妥協を欲してはいないと指摘しています。
10月3日のエントリー「ウクライナのNATO加盟申請とエスカレーション・ラダー」で、筆者はグラスルのエスカレーション・ラダーモデルを取り上げ、現在のウクライナ情勢は最早、ウクライナとロシアの当事者間で解決できる段階ではなく、「上からの介入」、すなわちアメリカが介入するくらいしか解決できないだろうと述べましたけれども、そのアメリカが停戦交渉はウクライナに委ねるべきだとした以上、現時点での解決は不可能ということになります。
先日、ウクライナがロシア領内の空軍基地をドローンで攻撃したと報じられましたけれども、エスカレーションの梯子を登り切らないうちに、どうにか解決点を見出していただきたいと思います。
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青紫
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