ドローンを撃墜するハイテクとローテク

今日はこの話題です。
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1.SAITOエンジン


終わりを見せないロシア・ウクライナ戦争で、大きな成果を見せた軍事ドローンについて、日本のメーカーの模型飛行機用エンジンが軍事転用されていることが、夏ごろに報じられました。

件のエンジンは、千葉県市川市にある従業員20人ほどの小さな町工場「斎藤製作所」が開発した小型エンジンで、斎藤製作所はドローン製造会社と取引はなく、ウクライナには輸出していないのですけれども、EU圏内の販売代理店がポーランドを経由してウクライナドローン製造会社と取引があったことを認めたことから、そこから軍事転用されのではないかと見られています。

斎藤製作所は、ロシア軍のウクライナ侵攻直後の3月から2度、避難民が多く押し寄せる隣国ポーランドにある代理店を通じて、毛布や衛生備品、こどものおもちゃなどの支援物資をウクライナの人々に届けていました。

斎藤製作所の創業者は太平洋戦争時、ゼロ戦などのエンジン製造に関わり、現在のSAITOエンジンの独特の形状とその性能は、当時の技術を継承して開発されたものなのだそうです。

斎藤製作所の社長は、ウクライナ軍の軍事転用ドローンについて、「ウクライナ軍ドローンのエンジンユニットの性能を見たけど、本当に素晴らしい技術開発だよ、あれは。真似ができない。うちのエンジンで5000mの高さまで飛べ、エンジンの冷却なども自動制御できる技術は、簡単なものではない。戦争でなければ、平和利用できれば素晴らしい製品だよ」ともコメントしています。

経済産業省によると、輸出規制のない「ホワイト国」であるEU圏内の複数の国を経由してエンジンが流入しているとなると、外為法の適用範囲外となる可能性もあるそうで、今後は、海外に輸出する前に、日本企業と密に連携をとりたいとしています。


2.ガソリン駆動でコンパクト


斎藤製作所のエンジンがドローンに軍事転用されたのはウクライナだけではありません。ロシアもそうです。

斎藤製作所は、ロシアの“ラジコンホビー関連”の代理店や、産業用ドローンを扱う商社と取引していた実績があり、産業用ドローンは「森林火災の防止、国境での密漁や密航監視」の用途で使われると説明され、軍事、兵器用途では使用を認めない旨、同意の上で取引をしていたのだそうです。

産業用ドローンを扱う商社とは、ロシアのサンクトペテルブルクに拠点があり、その取引先には「ロシア国営ガス会社」が含まれるなど、ロシア政府に近い会社もあるそうです。斎藤製作所によると、2011年からロシアへ産業用としてもエンジンを卸し始め、2014年にこの産業商社と代理店契約を結んでいました。

昨年、経済産業省は斎藤製作所のエンジンが軍事転用されている恐れがあるとして、「ロシア向けに輸出する際は許可が必要」との通知を、斎藤製作所側に出したことから、斎藤製作所は、輸出許可の取得はかなり難しいと判断して、2021年8月で契約を打ち切りました。ロシアには2011年〜2021年の10年間で約1000個のエンジンをロシアに産業用として卸していたそうです。

なぜここまで斎藤製作所のエンジンが求められたのかというと、燃料にあると指摘されています。

これまで模型飛行機のエンジンの主流はメタノール、ニトロメタン(ニトロ)、オイル、添加剤で構成されている「グロー燃料」が主流でした。メタノールを主成分として、ニトロを加えることで混合気を濃くすることができ、結果として多くの燃料をエンジンに注入することで、パワーを出せるようにしています。けれども、メタノールにニトロですから、一般ユーザーにとっては入手・管理が難しい混合燃料となっていました。

ところが、斎藤製作所は2006年に入手しやすい「ガソリン」を燃料にするエンジンを開発し、業界に衝撃を与えました。

斎藤製作所は、「いくつかのインターネット記事にあるロシア製偵察用ドローンの撃墜写真や動画の中で、弊社製品であろうと思われるものが散見されております……弊社製品に対し相当の改造が施された形跡が見られました」とコメントし、ロシア軍に軍事転用されていることを認めています。

斎藤製作所は、これらの動画について「エンジンの下の部分のバネ。うちのものにはついていない。エンジンの振動を吸収して、機体に影響を与えないためだろう……エンジンを冷やすための『冷却板』もつけられている。プロペラ側から入ってきた空気を効率的にエンジンに当てることで、長時間の飛行で熱を帯びるエンジンを一定の温度に保つのだろう…・…イグニッション(点火装置)の位置も自分たちで変えている。燃料を供給する黄色のケーブルも、うちは1本しか使わないけれど、ここには合わせて3本ある」と指摘。さらに「模型飛行機は、飛んでもせいぜい15分。でも、ロシアは偵察用ドローン。長時間、高い上空を飛ぶから、エンジンの熱問題と、燃料などの安全供給が必要になる。そのための改造だろう」と他にも様々な改造が加えられているとコメントしています。

斎藤製作所は、「コンパクトさ」と「ガソリンで動くこと」から軍事転用されたのではないかとし、「ガソリン駆動をこのコンパクトさで実現できているのは日本製の模型エンジンしかない」と述べています。

現在、日本国内で模型飛行機用エンジンを製造している主要メーカーは4社あるのですけれども、ロシアは斎藤製作所がロシアへのエンジン販売を停止したことを受け、ウクライナ侵攻が始まった直後の3月に他の会社に、同等のSPECを持つエンジンを大阪のある会社に発注していたことが分かっています。

その会社によると「通常は代理店からの発注はいろいろな種類のエンジンを数個ずつというのが普通だったが、このときは1種類のみ。しかも、斎藤さんとほぼ同じスペックのものをという指定に怪しいと感じた」とし、軍事転用される可能性を考え、取引を行わなかったのだそうです。


3.レーザーで撃墜


日本製模型飛行機のエンジンを軍事ドローンに転用することについて、関西を拠点にした模型飛行機の愛好家の集まりである「木津フライングクラブ」の大井高三会長は、「メイド・イン・ジャパンの品質は世界一や。アジアの他の国のメーカーでも同じようなものを作っているけど、不良品が含まれる。数回飛ばしたらダメになったこともあった。そんな不確定な商品を戦場で飛ばしますか?……大きくてパワーのあるエンジンはヨーロッパ製。コンパクトで安心安全なのは日本製。世界の模型飛行機マニアの間ではメイド・イン・ジャパンのエンジンは『最高品質』って意味や」と指摘し、「海外に住むマニア仲間には、各国軍の偵察ドローン開発にアドバイザーという形で参加している人が何人かいる。無人偵察ドローンの開発がはじまったのはここ10年ほど。我々、模型飛行機のマニアやメーカーは何十年も飛ばして改良を続けている。どっちのほうが『知見』があるかはわかるよね?……軍のドローンに模型用エンジンが軍事転用されているわけではなく、模型飛行機そのものが軍事用に作り替えられていると考えれば、エンジンは当然『模型用』になると思わないかい?」とコメントしています。

なるほど、模型飛行機のエンジンを軍事ドローンに転用したのではなく、模型飛行機そのものを軍事用に改造したと捉えるとこれまでとは大きく考え方を変える必要があるのではないかと思います。

つまり、たとえ、日本が自国製の模型飛行機の輸出規制をしたとしても、そのうち、他国から安価で高品質な軍事ドローンが今後大量に出てくることが、予想されるということです。

先述の「木津フライングクラブ」の大井会長はコンパクトで安心安全なのは日本製と述べていましたけれども、ドローンで攻撃される側にしてみれば、コンパクトであればあるほど、撃墜は難しくなります。的が小さくなるからです。

ウクライナへの攻撃にドローンが使われるなか、各国もドローンを打ち落とす技術の開発を進めています。

フランスではドローンを撃ち落とす技術の開発が進んでいます。

フランス海軍は上空からのドローン攻撃の対策のために、ドローン迎撃レーザー砲を導入することを明らかにしています。これは、フランスの軍事企業のCILASが開発した「HELMA-P」というレーザー砲で、光学センサーから入力を受け取り、範囲内のドローンの動きを追跡。 戦闘機に似たコントローラーを使用し、狙いを定めてレーザーを発射するというものです。

また、2020年5月にアメリカ海軍がドック揚陸艦「ポートランド」に試験搭載されていた海軍研究局(ONR)のレーザー兵器システム実証試験機「LWSD Mk2 Mod0」がドローンに対する試射を行い、撃墜に成功しています。

なんでも、レーザーを照射し、ドローンを引火させ墜落させたとのことで、レーザーは可視光ではないとのことから、遠赤外線レーザーではないかとみられています。

ただ、周りに遮蔽物の無い海上であればともかく、街中では建物などが邪魔になり、使えるポイントが限られますし、雨天、霧、埃、煙など気象条件にも左右されます。

フランスでは、2017年から2021年にかけて、国内のドローンの数は40万台から250万台にまで激増。価格も大幅に値下がりしました。ドローンは飛行の速度や高度が低く、反射率も弱いことから、発見するのが難しくなっているのが警察の悩みの種になっているのだそうです。

ウクライナ戦争をみても、ドローンが戦果を挙げているのは市街地であり、街中でのドローン対策の方が実際は急務だと思われます。


4.インド軍の対ドローン兵器「Arjun」


そんな中、インド軍はドローン対策として面白い試みをしています。鷲(eagle)です。

11月、インド軍は中国との国境が画定していない係争地のあるインド北部のウッタラカンド州でアメリカ軍と合同軍事演習を行ったのですけれども、その中で、インド陸軍は武器庫から対ドローン兵器”黒鷲”を投入しました。

インド陸軍が運用する再騎兵獣医隊(RVC:Remount Veterinary Corps)は、空中で無人航空機(UAV)やドローンを撃墜するためのクロワシやハヤブサを訓練しています。

これらの鳥は、「Arjun」と呼ばれ、演習では、数百機のドローン(クアッドコプター)を撃墜、または、完全に破壊した一方、鷲(eagle)達に怪我はなかったそうです。

再騎兵獣医隊はビデオを録画するために鳥の頭にカメラを取り付けて監視する訓練も実施。更に、ドローンの音を聞いた犬が兵士にそれを伝え、「Arjun」の鷲(eagle)がそれを迎撃にいくという犬と鷲(eagle)が連携してのドローン撃墜の計画もあるそうです。

確かに鷲(eagle)であれば、遮蔽物は関係ありませんし、天候にも左右されません。街中における低速のドローン対策としては、レーザー砲撃より優れているように思えます。レーザーは漫画のように曲折して撃つことはできませんからね。

もっとも、このインド軍の対ドローン兵器「Arjun」は訓練段階にあり、鷲(eagle)はまだどの作戦にも配備されていないそうです。

動物の軍事利用については賛否あるかと思いますけれども、街中でドローンによる犯罪や被害を防ぐ有効な手立てになるのなら、検討に値するのではないかと思いますね。




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