

1.より詳細な情報を必要としている
12月21日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は記者会見で、武漢ウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策が破綻した中国で重症患者が増加していることについて、「大きな懸念を抱いている……現地の状況を総合的に評価するため、重症度や入院患者数など、より詳細な情報を必要としている」と中国側に要求する一方、「中国の医療制度を守るための支援を続ける」と述べました。
また、前日の20日、アメリカ国務省のプライス報道官は中国に対し、アメリカ製ワクチンを供与する考えを示し、経済的・人的損失の観点から、中国の感染抑制が「世界の他の国々の利益にかなう」と説明しています。
けれども、12月3日に、アメリカヘインズ国家情報長官が。カリフォルニア州で開催されたレーガン国防フォーラムで、習近平主席が「より優れたワクチンを西側から導入することを望まず、オミクロン株にほとんど効果のない中国製ワクチンに頼っている」と指摘していることもあり、受け入れる可能性が低いと見られています。
2.感染していても出勤可能
そんな状況にあって、中国はゼロコロナ"放棄"を続けています。
中国各地の当局は20日までに、ウイルスに感染しても軽症であれば出勤するよう求めています。重慶市は、共産党・政府機関や企業で働く人は、無症状感染や軽症であれば「職場の必要に応じて」通常出勤できるとし、安徽省蕪湖市も同様の通知を出したようです。北京市でも、自宅療養から職場復帰する際に陰性証明は不要としており、早期の感染収束は難しいでしょう。
上海で働く日本人医師の友成暁子さんは「感染して有症状のスタッフが7割ぐらい。政府からは『医療者は感染していても出勤可能』という通達が来ているが、やはり症状がある状態で出勤はさせられない」と現状を語っていますけれども、中国政府は、死亡者の定義を変え、血栓による心筋梗塞や脳梗塞やもともと基礎疾患がある人が武漢ウイルスに罹って亡くなっても、それは“武漢ウイルスによる死亡“には入れず、肺炎や呼吸不全で亡くなった人だけをカウントするという隠蔽紛いの方針を出していることもあり、友成医師は、院内感染や地方への感染が拡大する恐れがあるものの、実態が掴みづらいと述べています。
これについて、明治大学の齋藤孝教授は、「政府の発表に対する不信感は増しているような感じがしますね。実態とかけ離れた発表をしている、そのことに国民が気付き始めている。政府の発表自体がもう信頼できないんじゃないかって流れですよね。集団心理でいうと、やっぱり正しい情報が与えられないと混乱していく。疑心暗鬼を生ずるってことが起きてるんじゃないかと思いますね」と指摘。
現地では深刻な薬不足を受け、人々は薬局だけでなく、薬の製造工場にまで直接並ぶという異常事態となっています。
3.発表は1万分の1
中国政府の発表では、無症状感染者の発表を取りやめた13日以降、新規感染者は1日に2000人から3000人程度。死者に関しては、ゼロコロナ政策撤回から21日までで、合わせて7人としていますけれども、当然ながら、中国のSNSでは、「政府が少なく見せかけている」、「実態と異なっている」などと批判する声が高まっています。
実際、イギリスを拠点とする医療系の調査会社エアフィニティは22日までに、中国で現在、1日当たりの武漢ウイルス感染者は100万人以上、死者数も5000人を超えている可能性があるとの推計を発表しています。
エアフィニティの疫学者らのチームは、中国の地方部のデータから感染状況の傾向を分析し、「感染者が過去1週間で1800人、死者もわずか7人だとする公式発表とは大きく食い違っている」と述べ、今後は、感染者数が現在増加している北京や広東省などを中心に、来年1月の最初のピーク時に1日の感染者数が370万人ほどに上る可能性があると予測しています。
また、評論家の石平氏も中国政府の発表について「中国政府の発表は最初から信じられるものではない。今、国家衛生健康委員会の内部会議の記録がネット上で漏れていて、それによると20日の新規感染者数は3700万人。21日は2966人ということだが、×1万で正しくなる可能性がある。死者7人というのも、ネット上ではみんなが『私の周りでも5人を超えている』と書き込んでいて、『政府が発表した5人、全員知っています』と冗談で言っている」とコメント。更に「軽症でも職場に行けば感染拡大につながるが、おそらく今の政府からすれば”感染拡大はもう避けられないから、早めにやったほうがいいんじゃないか“という気持ちはあるかもしれない」と推察しています。
またその一方で、春節を控えていることについても「一番の問題だ。中国政府のゼロコロナ政策転換のタイミングはあまりにも悪すぎる。春先解除ならわかるが、感染が広がりやすい冬の前だ。そして、1月に入ってから民族大移動が始まるが、中央政府がブレーキをかけるか移動禁止令を出さない限り、爆発的な感染拡大につながる。すでに感染拡大している都市部から大勢が田舎に帰り、田舎で広がる。さらに、田舎の人が都市部に戻って、また感染拡大が起こる。それを黙認していれば、信じられない状況が起こると思う」と指摘。更に「ゼロコロナ政策からの転換の中で、医療施設の充実や、その手前でかぜ薬を十分に用意するのは、政府がやる最低限のこと。今回、習近平政権、中央政府はそれすらやっていなかった。国民からすれば、以前の封じ込めは意味がなかったんじゃないか、今回の解放も無責任じゃないかということで、どちらも『バカなことしかやっていない』と批判される」と述べています。
石平氏が指摘した”国家衛生健康委員会の内部会議の記録”というのはどうやら、この委員会が21日に開いた内部会議の議事録だそうで、それによると12月1~20日の間に最大で中国の人口の18%近くに相当する2億4800万人が感染した模様だとしているようです。
これは、2022年1月に記録したこれまでの一日当たりの最多感染者数約400万人を遥かに超えるもので、衛生健康委員会は、四川省と首都北京では住民の半数以上が感染したと見積もっているようですけれども、今月になってから中国政府は各所にあったPCR検査会場を閉鎖していることから、どのようにしてこの推計値としてのかは明らかになっていません。
この状況に、香港メディアは、中国当局が「地方都市にいる医師や看護師数百人を北京に動員した……当局は政府・共産党の機能が集中する首都の防衛を優先したようだ」と伝えています。
石平氏は、春節で都市部から地方に移動した大勢の人達がまた都市に戻ってきて感染拡大させる懸念があると述べていますけれども、中国当局が首都防衛を優先したのが本当であれば、春節が終わって北京や各地方都市に戻る人達を厳しく制限する可能性があるのではないかと思います。
4.命か経済か
けれども、どんなに中国政府が隠蔽しようとも、有効な対策がなければ感染者は増えていきます。
中国での爆発的な感染拡大の原因について、元外務省医務官で関西福祉大学教授の勝田吉彰氏は「中国は寒い地域が多いのですが、そういうところの建物は、換気しにくい構造になっています。そうなると、エアロゾルで感染が一気に広がる恐れがあります。日本でも夏や冬の換気しにくい時期に“コロナ”が広まりますが、同じです」と指摘しています。
また、集団免疫についても「集団免疫は、まずはワクチンの免疫があって、その上に感染して、ハイブリッド免疫という状態になると強くなります。中国の場合、ワクチンの種類が『不活化ワクチン』という少し効果が落ちるものを使っていて、今までの“ゼロコロナ政策“のために人と触れ合う機会が少なく、感染による免疫を持っている人も少ないという状態です。日本の場合、献血のデータから4人に1人が感染によってできる抗体であるN抗体を持っているというのが分かっていて、ワクチン接種率も高いので、ハイブリッド抗体を持つ人も多いのですが、中国はそれと比べると免疫を持つ人が少ないので、爆発的に感染が広がるのは当然です」と述べています。
それでも、集団免疫の獲得そのものは早くできるとしながらも「その過程でかなりの犠牲者を出すはずです。イギリスがまさにそうでした。そして犠牲者に加えて後遺症の問題もあり、労働力が低下してしまいます。例えばアメリカでは一時期、後遺症のために400万人の労働者が働けないという問題が発生しました。中国でも、何か月か先には、人手不足の深刻化が大きな問題になると思います」とコメントしています。
では、今後中国政府はどのような対応をするのか。
先述の石平氏は「1つの可能性としては、またゼロコロナ政策に逆戻りすることも考えられる。逆に言えば、今の感染拡大はこれまでのゼロコロナ政策の正しさを証明しているからだ。ただ、ジレンマもあって、11月の輸出、消費の数字がマイナス成長になった。経済沈没に拍車をかけてきたのがゼロコロナ政策であって、逆戻りすればさらなる経済の悪化は避けられない。人の命をとるか、経済をとるのか、決心がついていない状況だ」と、命か金かの二者択一を迫られていると指摘しています。
ただ、関西福祉大学の勝田教授は中国のゼロコロナ政策について「中国は、2003年のSARSという“今回のコロナ“の先輩のコロナウイルスが流行ったときに、感染者をゼロにすることができたのです。今回の傲慢とも見える”ゼロコロナ政策”は、そのときの成功体験が原因だと思います。しかし今回の”コロナ”は、SARSと違い症状が出る前の感染者も他人を感染させてしまうので、封じ込めにくいのです」と述べています。
つまり、一旦、ゼロコロナを放棄した以上、症状が出る前の感染者が既に他の人に感染させ捲っている可能性が高く、今更ゼロコロナに戻したとしても、手遅れなのではないかと思います。
5.オミクロンとは別の強毒株
また、中国の激しい感染爆発と死者の増加に、これはオミクロン株ではなく、別の強毒株なのではないかという見方もネットでは出ているようです。
作家の百田尚樹氏は、強毒化を懸念し、日本政府は中国人の入国禁止措置を取るべきだと述べていますし、また、自民党の山田宏参院議員も「中国のパンデミックで多くの人々が国外に逃げ出し始めている。政府は速やかに中国からの入国規制措置をとらなければ、わが国での感染拡大が年末年始に飛躍的に広がりかねない」と懸念を示しています。
このオミクロン株の変異について、先述の勝田教授は「今あるオミクロン株の範囲内や、ちょっと変化するものであれば常識的に考えられますが、例えば、オミクロン株がある動物に感染して、その動物の中で変異して人間に戻ってきたりすると、人間を殺さない方向に進むとは限りません。SARSの時は、食用動物を売っているマーケットでハクビシンなどから人に感染しました。そういうことが起こりやすいのが中国です。中国以外でもリスやスカンク、鹿、ミンクなどがコロナウイルスに感染するという論文が出ています」と、動物とのピンポンで常識外の変異が在りうると述べています。
勝田教授は、対応について、「日本人の場合は、これまで何度かのリスクコミュニケーションがあって、どういう行動をすべきかを知っています。例えば、高齢者は重症化の危険が高いので、帰省をしても高齢者には合わないだとか、具合が悪い時は公共交通機関の利用を控えるだとか、いろんなことが知識としてあります。これまで我々が知って来た知識を思い出して、しっかり対処していくという事だと思います」と、政府が何もしない前提の対策を挙げていますけれども、今、中国で爆発している武漢ウイルスの脅威がどれくらいのものなのか、慎重にウォッチしていきたいと思います。
中国のコロナ新規感染者数、今週は1日当たり約3700万人か=報道 https://t.co/9oEwo9aOtq
— 山田宏 自民党参議院議員(全国比例) (@yamazogaikuzo) December 23, 2022
中国のパンデミックで多くの人々が国外に逃げ出し始めている。政府は速やかに中国からの入国規制措置をとらなければ、わが国での感染拡大が年末年始に飛躍的に広がりかねない。
この記事へのコメント
深森
筆者さまが、「新型コロナに対して、なにも対応する必要は無い」と明言しておられましたように、通常の外国人と同じ手続きで大丈夫ですし、大騒ぎするほどでは無いかと。
中国で流行しているのはオミクロン系統がほとんどです。
日本でも、感染者が大量に流入して来ても、特に大きなリスクはありません。
(他にも推測はありますが、おそらく平行線になるので此処では書きません。よろしくお願いいたします)
mony