過去最大級のサイバー攻撃を受けていた東京五輪

今日はこの話題です。
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1.我が国の経済安全保障上の重要課題と先端テクノロジーで切り拓く未来


2021年12月3日、経団連ホールで「我が国の経済安全保障上の重要課題と先端テクノロジーで切り拓く未来」と題するシンポジウムが行われました。

シンポジウムには、経済安全保障への対応に取り組まれている政府関係者、国会議員、官民等々合わせて1000人を超える参加者が集いました。

その中で岸田総理が挨拶に立ち、政府として経済安全保障に取り組むことについて述べました。

その内容は次の通りです。
御紹介にあずかりました内閣総理大臣の岸田文雄です。本日は第1回目の防衛・経済安全保障シンポジウムということで、こうして大勢の皆様が御出席の下、盛大に開催されますことを、心からお慶(よろこ)び申し上げます。

今、我が国をめぐる国際情勢は、急速に厳しさを増していると指摘されています。

北朝鮮は、国連安保理決議違反の弾道ミサイルの発射を繰り返し、また、技術ということを考えましても、極超音速滑空兵器、あるいは変則軌道ミサイルなど、この分野における技術の向上・進歩、これも見過ごすことができません。

また中国においては、十分な透明性を欠いたまま、軍事力の強化が進んでいる、また東シナ海や南シナ海においては、一方的な現状変更の試みが続けられている。こうした状況にあります。

こうした中で、我たちは、私たちの国の領土・領海・領空を守り、そして、国民の命と安全を守り抜いていかねばなりません。そして、その際に今日の大きなテーマであります経済安全保障は、喫緊の課題であると思います。もともと、5G基地局ですとか、あるいは洋上風力・海底ケーブル、こうした取組の際に、海外企業を通じて、我が国の安全保障に関わる情報が外国に渡るリスクがあるのではないか。これが、最初の頃の議論、問題意識でありました。

こうした議論は、極めて象徴的な議論でありますが、要は国の安全を守ることと、経済活動との間に密接不可分の関係が生まれつつあるということなんだと思います。このため、経済活動を、安全保障という観点から捉え直していくという経済安全保障の考え方、これが重要になってきているという問題意識、議論が高まっている、こうしたことであります。

しかし、こうしたことは、決して日本だけの問題意識、あるいは状況ではありません。世界の主要国において、半導体などの産業基盤強化に向けた支援ですとか、外国研究者の関与による機微技術の流出防止ですとか、サイバー攻撃への対応強化、輸出管理強化、こうした施策を各国とも強力に推進している状況にあります。

私は、我が国の安全保障においても国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画、こうした文書の見直しに取り組んでおりますが、こうした文書の改定、見直しにおいても経済安全保障という考え方を、しっかりと位置付けていくつもりです。

もう一つ強調したいことは、経済安全保障は、これからの時代の成長戦略という点においても、極めて重要であるということです。私は、『新たな資本主義』という経済政策を提唱していますが、1980年代以降、世界に広まった新自由主義的な考え方によって深刻化してしまった格差の問題、あるいは気候変動の問題、こうした課題をしっかり是正しながら、更なる力強い成長を実現していかなければなりません。

この新たな資本主義における成長戦略のポイント、これは官と民が役割分担をしながら、成長に向けた大胆な投資を行うということですが、この投資の対象、投資を行う分野として気候変動、あるいはデジタル化と併せてこの経済安全保障という分野も大変重要な分野になると考えています。

そうした考え方に基づいて先日取りまとめた、経済対策においても、半導体工場の国内立地を推進するための、6,600億円規模の支援など様々な取組を盛り込んだ、こうしたことであります。来年の通常国会においても、サプライチェーンの強靱(きょうじん)化、あるいは、基幹インフラの信頼性確保を進めるための新たな法案の提出を目指しています。

こうした取組によって、我が国の経済構造の自律性と、そして日本の技術の優位性、ひいては不可欠性、これをしっかり確保してまいりたいと思っています。基本的価値やルールに基づく国際秩序の維持・強化を目指し、こうした分野に民間投資をしっかりと呼び込んで、経済成長を実現していく、これが私の政権における基本的な方針です。

今日のセミナーが、経済安全保障に関する国民的議論の幕開けとして、有意義なものとなることを心から御期待申し上げます。最後にお集まりいただきました皆様方のそれぞれの御健勝、御活躍をお祈り申し上げて、私からの御挨拶とさせていただきます。本日は誠におめでとうございます。
岸田総理は「新しい資本主義」における投資対象の一つとして、経済安全保障を挙げています。


2.結構日本も頑張ったんです


岸田総理は挨拶の中で、サイバー攻撃への対応強化について触れていますけれども、昨年の東京五輪でも、サイバー攻撃がありました。

昨年10月21日、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は、運営に関わるネットワークシステムなどに大会期間中、計4億5000万回のサイバー攻撃があったと発表しています。いずれも攻撃を遮断し、運営に影響はなかったそうですけれども、これは2012年のロンドン大会での約2億回の倍以上になります。

これについては1月7日、自民党の甘利明・前幹事長が「北京冬季五輪がもうすぐです。経済安保に関し『東京オリパラはサイバー攻撃もなく無事済んで良かったね』との声を聞きます。『とんでもない』実は過去最大級のサイバー攻撃を受けたロンドン五輪を越える攻撃がありました。しかしNTTをはじめとする官民で防ぎ切りました。結構日本も頑張ったんです」とツイートしていて、多くのリツイートや「いいね」を集めています。

ただリツイートには「サイバー攻撃を受けていたなんで知らなかった」という書き込みが多く、まだまだサイバー攻撃というものが身近なものとして浸透していないことが窺えます。




3.東京五輪でのサイバー攻撃の実態


東京五輪へのサイバー攻撃については、NHKのニュースウェブ「サイカルジャーナル」がレポートしています。

このレポートに記されているサイバー攻撃を時系列に並べるとおおよそ次の通りです。
1)2019年:日本を含む世界中のスポーツ関連団体などに、同じ内容のメールが大量に届いた。差出人は、組織委の事務総長である武藤敏郎氏。メールは実際に武藤氏が送ったものではなく、差出人のアドレスを偽装した、巧妙なフィッシングメールだった。

2)開会式の2日前:監視に協力してもらっていた専門家からの情報で、大会運営の混乱を狙ったサイバー攻撃を示唆する「東京オリンピック開催に伴うサイバー攻撃の被害報告」という名前のファイルが見つかった。このファイルは、一旦開くとパソコンのフォルダに置いた、文書や画像、表計算といったファイルが次々と消えていく、「ワイパー」と呼ばれるマルウェアだった。

3) 開会直後:システム障害を引き起こしかねない攻撃が世界各国から寄せられた。ツイッター上には、東京をターゲットにサイバー攻撃を呼びかける投稿が、いくつも現れた。東京都や日本スポーツ振興センターなど標的とみられる組織のIPアドレスも記載され、開会式中、大会公式のショップサイトに接続できない状況が続いた。

4) 大会中:ネット上に競技のライブ配信を無料で見られるとうたうサイトが次々と登場した。情報を抜き取るために作られた詐欺サイトだった。
東京五輪・パラリンピック大会組織委員会が大会期間中攻撃されたという計4億5000万回のサイバー攻撃というのは、組織委が管理するシステムや公式サイトに対する不審なアクセスの総数で、アクセスを許可していないポートに対する不審な通信や、あらかじめ設定した値を超えるアクセスなどを検知して、通信を遮断した件数を集計したものなのだそうです。

組織委員会でサイバー攻撃の対処にあたった中西克彦担当部長によると、すべてがサイバー攻撃とは断定できないものの、一部はシステムに意図しない動作をさせようと試みる攻撃もあったと明かす一方「これくらいは来ると予測していた。想像の範囲内だった」と述べています。


4.時間をかけて準備をしてきた結果


組織委員会のサイバーセキュリティチームは、大会直前の7月からは24時間体制で対応にあたっていました。セキュリティーチームは、大会までに繰り返し訓練や監査を行うことはもちろん、特に重大な被害を及ぼすシステムの「管理者権限」は絶対に奪われないよう、防御を固めました。

高度なスキルを持つホワイトハッカーたちの集団、通称「レッドチーム」に、実際にシステムを攻撃してもらう訓練も行ったそうで、何重にも張り巡らされた防御網をかいくぐる最新かつ高度なサイバー攻撃を受け、その穴をひとつひとつ防ぎながら、万全の状態で本番に臨みました。

これについて、中西克彦担当部長は「どんな高度な攻撃でも、事前の偵察や調査が行われますが、そういったものはきっとあったんだろうと思います。ただ、最終的にシステムの根幹に入り込み、管理者権限のアカウントを取るところまでは至らなかった。これは、時間をかけて準備をしてきた結果だと受け止めています」と述べています。

実際、大会組織委員会には、様々な企業や組織から職員たちが集めらたことから、セキュリティーに対する考え方や、意識のレベルもバラバラだったそうで、セキュリティーチームは、過去の大会で発生したサイバー攻撃などの事例や、世の中を震撼させたサイバー攻撃などの事例を説明しながら、丁寧に協力を求めていったのだそうです。

中西克彦担当部長は今回の経験を受けて、「関係機関やパートナー企業と、時間をかけてサイバー攻撃のリスクという共通認識の物差しを作りました。組織委だけでなく、それぞれの組織が発見した問題を迅速に共有するプラットフォームをつくり、実際に訓練を通して対応を確認する。非常に多くの人たちが連携してセキュリティーの対応にあたる経験は、オリパラのような大きなイベントでなければ得られなかったと思います。将来、日本が大きなイベントを開催するとき、今回の経験はレガシーとして活用できるのではないかなと思っています」と述べていますけれども、確かにこの経験は次の大きな大会に生かせそうですし、政府としてもノウハウとして蓄えていただきたいと思います。


5.ドローンへのサイバー攻撃の危険性


今回公表された、東京五輪へのサイバー攻撃はネットワークに対するものですけれども、当然、それ以外に対するサイバー攻撃も有り得ます。

東京五輪の開会式では、1824機のドローンが東京の夜空を彩るパフォーマンスを行いましたけれども、例えば、これに妨害電波を送るなど、サイバー攻撃を行って墜落させるなんてことも出来る訳です。

実際、昨年10月1日夜、中国河南省鄭州市の万達広場と呼ばれるショッピングモールでショーを行っていた200機ほどのドローンのうち、約10機が離陸からわずか3分ほどで制御を失って墜落する事故が起きています。

事故の原因について、ショーを実施した施設の関係者は中国メディアに対し「競合他社による妨害があった」と話したそうですけれども、別の責任者は「操縦に問題があった。他社の妨害という説明には十分な根拠はない」と訂正しています。

本当のところは分かりませんけれども、ドローンは妨害されうるものであると考えてよいのではないかと思います。

その意味では、東京五輪の開会式で、ドローンへのサイバー攻撃は、あり得た話であり、これについて、嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、ドローンが軍事技術であることを指摘した上で、何か仕出かす人はいないかと心配して見ていたと述べています。

高橋教授は、水面下でプロとプロの戦いが行われていたのではないかとし、結果としてディフェンス側が勝利したとコメントしています。

高橋教授はドローンは軍事技術だと述べていますけれども、実際に、過去に勃発したイラク戦争などではドローンを爆撃用に使用しています。最近では、画像やセンサー技術の進歩により、偵察目的として使われることが多くなっています。

2019年5月に北京で軍事技術見本市「北京国際軍民用装備展覧会」が行われていますけれども、そこで公開された攻撃用ドローンには2㎏の爆弾を装着し、時速180㎞で標的に向かって飛行することができるそうです。

現在、トップレベルの技術を誇りながら安価である中国製の軍事用ドローンは、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、イラクなど中東の国々に輸出され、実際に戦地で利用されているとも言われています。

例えば、台湾有事において、中国軍が台湾を攻撃する手段としてドローンを使った飽和攻撃も在り得ます。ドローンを使えばピンポイントでの要人殺害も可能でしょうし、また、ドローンのような小さな無人機が大量にやってきた場合、それを防ぐのは簡単がことではないでしょう。

あるとすれば、それこそ妨害電波を出して、攻撃前に墜落、あるいは自爆させるくらいしかないかもしれません。

2月の北京冬季五輪のセレモニーでドローンによる演出があるのかどうか知りませんけれども、もし米軍か誰かがジャミングして、そのドローンを墜落させるようなことが出来れば、習近平の面子丸つぶれになることは勿論のこと、台湾軍事侵攻でドローンを使おうとしても駄目だぞ、という強烈な牽制になります。

東京五輪でサイバー攻撃があった以上、北京冬季五輪でもサイバー攻撃が行われる可能性はあると思います。それを考えると別の意味で注目すべきなのかもしれませんね。




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