日本を奪い合う米中

今日はこの話題です。
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1.先端技術の輸出規制


1月10日、日米両政府が、先端技術の輸出を規制する新たな枠組み作りを検討していると読売新聞が報じています。

これは中国が他国から輸入した製品などを自国の技術開発に生かし、経済力や軍事力を強化することを日米両政府が警戒していることを受けてのもので、価値観を共有する欧州の有志国と連携することを視野に入れているようです。

規制する具体的な対象は調整中だが、半導体製造装置や量子暗号、人工知能(AI)に関連する技術などが含まれるのではないかと見られています。

輸出管理の国際的な枠組みとしては、通常兵器と関連用品や技術の輸出を管理する「ワッセナー・アレンジメント」というものが既にあるのですけれども、日米やロシアなど40ヶ国以上が参加し、利害関係も異なることから、対象品目を決めるまでに時間がかかるという事情があります。

そうしたことから、日米両政府は、先端技術を抱える少数の有志国による新たな枠組みを設けて、輸出管理を迅速に進める体制を築きたい意図があると見られています。


2.日米相互防衛援助協定


1月7日、日米安全保障協議委員会(日米「2+2)が開催されましたけれども、このタイミングで、林芳正外相とアメリカのレイモンド・グリーン駐日米国臨時代理大使との間で、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」に基づく共同研究、共同開発、共同生産等に係る書簡の交換が行われました。

この書簡は、日米間の共同研究、共同開発、共同生産等の案件一般に共通する諸条件を規定する枠組みを設けるもので、政府は、安全保障上の課題となっている日本の防衛能力の効率的な強化と日米同盟の技術的優位性の確保に資するとしています。

日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」とは、アメリカが、相互安全保障法(MSA)に基づいて自由主義諸国と締結した防衛協定の一つで、日本は昭和29年(1954)に日米相互防衛援助協定を締結しています。

協定ではアメリカと日本の双方が互いに軍事的に支援することを定めていて、アメリカが地域における安全保障を維持する為、日本にアメリカ軍を配置することを可能にしています。

一方、日本も自らの防衛に責任を果たすよう義務付けられ、防衛の目的でのみ再軍備する事を認められました。日本はこの協定に基づいて防衛庁設置法・自衛隊法を制定し、保安隊を自衛隊に改組しています。


3.トラウマとなった東芝ココム事件


先端技術輸出規制はなにも今になってから始まった訳ではありません。

かつて、西側諸国は1949年に、旧ソ連など共産圏諸国の軍事力強化につながる技術の流出を防ぐため、「対共産圏輸出統制委員会(ココム)」を設立したことがありました。

ココムについては、日本では「東芝ココム事件」が有名です。これは、冷戦時代の1987年当時、アメリカが覇権を争っていた旧ソ連に、東芝機械(現・芝浦機械)が潜水艦の静音性を高める工作機械を輸出していたことが発覚し、これがココム協定に違反したとして、アメリカ国内で強烈なバッシングを浴びました。その結果、東芝機械は対米輸出が、親会社の東芝はアメリカ政府と取引が禁じられるなど、厳しい制裁を科せられました。この事件を受け、東芝は当時の社長・会長が辞任するという事態となったのですね。

そして、今回の新たな枠組みも、中国の台頭を踏まえた「現代版ココム」に発展する可能性もあるといわれています。

今回の規制の動きもトランプ政権当時から始まっていました。

2018年、アメリカは『輸出管理改革法(ECRA)』を制定し、輸出管理を強化しました。アメリカ原産品を組み込んだ場合、非アメリカ製品であっても、広範な分野において特定国への輸出・再輸出には商務省の許可を必要としました。

この貿易管理に関し、当時の日本企業は極めて敏感に反応しました。中国、香港に対する半導体輸出額は、2019年に前年比2.3%、2020年には同4.9%減少したのですね。

これも「東芝ココム事件」がトラウマになっているからだとも言われています。

既に昨年アメリカ商務省は、アメリカ国製品の輸出やアメリカ由来技術の移転などを原則輸出禁止する団体のリストである「エンティティリスト(EL)」を設けて中国企業などを指定、随時追加していっています。


4.日本を奪い合う米中


一方で、中国政府も昨年1月、アメリカの禁輸措置などに同調した外国企業を相手に、中国企業が損害賠償を請求できる新たな規則を施行しました。要するに報復できるようにした訳です。

「東芝ココム事件」のトラウマが残る日本の産業界には、アメリカの意向に背くという選択肢は事実上存在せず、かといってアメリカ側につけば、今度は中国政府から制裁を受けてしまう。日本企業は板挟みになっています。

こうしたことを背景に、日本企業は、相次いで経済安全保障関連の専門部署を立ち上げています。米中が次々と打ち出す新たな輸出規制の動向を正確につかみ、現場に周知するためです。これにより、米中双方の輸出規制に抵触するのを防ごうとしています。

三菱電機は2020年10月に経済安全保障統括室を立ち上げました。三菱電機はすでにアメリカの輸出規制に従い、半導体の対中輸出を止めています。経済安保統括室の佐藤智文リスク制御グループマネージャーは、「中国の顧客から『何で納入してくれないのか』と怒られるような事態を招かないようにしている」とのべ、そのためには、輸出規制で困っている顧客と、親身な姿勢でコミュニケーションを図ることが大事なのだと語っています。

また、デンソーは昨年1月に経済安全保障室を新設。経済安保を担当する横尾英博経営役員は、「米中ともに輸出規制を担う行政機関の裁量が広い。ルールを守っているつもりでも、政治的に目立ってしまっては、裁量でアウトと見なされるリスクがある。多方面に目配りして、米中双方の虎の尾を踏まないようにうまくビジネスを進める必要がある」と述べています。

それ以外にも経済安保の専門部署を立ち上げたにもかかわらず、その事実を公表していない大手電機メーカーもあるようです。

米中戦争はサプライチェーンの切断を巡る争いに突入しています。

1月2日のエントリー「2022年はどんな年になるか」で、筆者はエコノミスト紙の表紙について「米中対立が続き、日本をターゲットにして互いに奪い合う」との印象を述べましたけれども、実際にそれはもう始まっていると見てよいかもしれませんね。


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