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1.フンガ・トンガ フンガ・ハアパイの大噴火
1月15日午後1時10分ごろ、南太平洋のトンガ王国の首都ヌクアロファから北に65キロほど離れたところにある海底火山「フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ」で大規模な噴火が発生しました。
「フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ」は、過去の噴火によって陥没した海底カルデラの縁にある2つの火山島の名称で、このうち「フンガ・トンガ」は海抜およそ114メートルあります。
フンガ・トンガ フンガ・ハアパイは、去年12月から断続的に噴火が発生してたそうなのですけれども、今回の噴火は凄まじく、ニュージーランドのウェリントンにある航空路火山灰情報センターによると、噴煙は上空1万5000メートル余りに達していたということです。
また、気象庁の気象衛星「ひまわり」の画像では、午後1時すぎからトンガ付近で灰色の噴煙が立ち上り、その後、同心円状に広がっていく様子がみえ、この同心円は午後2時すぎにはすでに直径が200キロほどに達していました。
確かにネットに上がっている衛星画像をみると、衛星軌道からでもはっきりとそれと分かる噴煙で、地球規模ものだと思ってしまいます。
更に、この噴火でトンガでは1.2メートルの津波が観測したのを始め、バヌアツでおよそ1.4メートル、フランス領のニューカレドニアではおよそ1.1メートル、アメリカ領サモアで約0.6メートル、南米チリでも1メートルを超える津波がそれぞれ観測されたとのことですようです。
2.今後も火山活動がしばらく続く
フンガ・トンガ フンガ・ハアパイは過去にも度々噴火が起きていて、2014年12月から2015年1月にかけて発生した海底噴火では、2つの島の間に新たな島ができています。
トンガ諸島は日本列島と同じ環太平洋火山帯の一部で、多くの海底火山があるのですけれども、東京工業大学理学院教授で火山流体研究センターの野上健治氏は、今回噴火が発生したトンガの北の海域は、数年前にも噴火で新しい島ができるなど、海底火山による活動が活発な地域だということです。
今回の噴火について、野上教授は「人工衛星の画像を見ると、噴煙は非常に高い上、広がりは複数の島を覆ってしまうほどで海域で起こった火山の噴火では過去最大規模の噴火が起きているとみられる……噴火が発生した場所の周辺では変色水が広がっていることから今後も火山活動がしばらく続くおそれがある。津波の発生には今後も注意が必要で、特に、湾のように入り組んだ地形のところでは津波が高くなるおそれがあるので一層注意が必要だ。海域は障害物がないため、高温の火山灰や火山ガスが流れ下る『火砕サージ』が1キロかそれ以上到達するおそれがある。船舶などは絶対に近寄らないことが必要だ」と指摘しています。
海面下にある海底火山の火口の直上では、火山活動に伴い、海面が濁りますけれども、これは、火山から湧き出た酸性の熱水と弱アルカリ性の海水との"中和反応"により水溶液に含まれる元素が変化して沈澱するためで、変色海水とよばれています。
野上教授は、これまでの研究によって写真や現場を見ただけで活動の状態が判別できるとコメントしていますけれども、どうやら東工大独自の研究があってのもので、世界でみても海底火山の噴火状況を判断できる人材は希少なのだそうです。
3.現地被害は不明
噴火の規模もさることながら、心配なのは現地トンガです。
ロイター通信は、ツイッター上にトンガで撮影したとされる動画が投稿され、大きな波が海岸線に押し寄せ、人々が車で逃げようとしているなどと伝えています。
また、ニュージーランドのメディアはトンガの首都ヌクアロファでは押し寄せた波によって浸水した住宅があるほか、車が波に浮いているのを見た住民もいるなどと伝えています。
更に、噴火の際の爆発音は2300キロ離れたニュージーランドでも聞こえ、500キロ離れたフィジーでは大きな雷鳴のように聞こえたそうです。
今回の噴火と津波の影響で、トンガとの通信手段が遮断されたこともあり、発生から一夜明けた16日も怪我人の有無などトンガの詳しい被害状況は明らかになっていません。
トンガなどを所管する外務省の大洋州課によると、噴火と津波の発生を受けてトンガ在住の日本人の安否や現地の状況について情報収集を進めているということです。
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— Share News Japan (@sharenewsjapan1) January 15, 2022
4.15世紀の大津波
トンガでは噴火以外にも、15世紀に大津波被害があったことが明らかになっています。
昨年12月、神戸大学大学院海事科学研究科のクリストファー・ゴメス教授と、仏ソルボンヌ大学、英ケンブリッジ大学の共同調査で、15世紀のトンガが太平洋に落下した隕石による大津波で大損害を受けたことが分かりました。
神戸大学によると、研究チームがトンガ群島で現地調査をしたところ、津波による堆積物が広範囲に見つかり、過去に大津波が襲ってきたことが明らかになった。津波が運んだと考えられるサンゴの岩の下から堆積物や木炭を採取して放射線炭素年代測定をした結果、大津波の発生時期が15世紀ごろであることが分かりました。
また、付近の海底にクレーターが存在することから、大津波を引き起こしたのは太平洋に落下した隕石と推定されていて、隕石衝突時の影響についてシミュレーションしたところ、最大30メートルの高さを持つ大津波がトゥイ・トンガ島を襲ったと考えられるそうです。
当時、トゥイ・トンガ王国がトンガ群島を統一していたとされるのですけれども、15世紀中頃に重大な危機が発生して群島間の人々の移動が停止し、文化的にはっきりとした変化が起きています。
研究チームはこの変化を引き起こしたのが、これまで確認されていなかった大津波だと推定しています。この結論は赤い波(トンガ語で津波の意)によって多数の大きな岩が島に堆積したとする地元の伝承と一致しているのだそうです。
ただ、研究チームは、当時、殆どの人々は北海岸沿いのラグーンの周りに住んでいたのに対し、この津波が主に人口の少ない南海岸を襲ったことから、この津波がトゥイ・トンガ王国を滅亡させた可能は低いと見ているようです。
5.今までこういった現象は確認していない
勿論、現在でも大規模自然災害は人の生活に大きな影響を与えます。
2013年8月のエントリー「桜島の大噴火と火山灰の影響について」で、火山灰は割れた溶岩や鉱物の結晶であり、火山ガス成分も付着しているため、安易に触ったり吸い込んだりすることは危険であると述べたことがあります。
けれども、海底火山であっても危険は存在します。
先に紹介した東工大の野上教授は次の様に述べています。
海域火山の噴火は、陸地とは違ったデリケートな問題をはらんでいます。日本では14の火山島に約27,000人が住んでいます。ひとたび噴火すれば、人命を守る為に住民を避難させなければならない場合がありますが、一旦離島すると、帰島の判断は避難させるよりも遥かに難しいです。
また、タンカーや貨物船などの海上交通によって大量の物資が輸送されますが、航路付近には海底火山があるので、その活動を注視する必要があります。航路上に海底火山から噴出した軽石が漂流すれば、それが船舶エンジンの冷却システムに吸い込まれ、航行に重大な支障をきたします。大量の火山灰も運行に不可欠なレーダーやGNSSの障害となります。
一方、海底火山活動によって新たな陸地ができた場合は、その領有権問題が極めて重要です。その陸地からの200海里が排他的経済水域となるため、海域火山観測研究は国益に直結した海洋立国ニッポンにとって生命線とも言える重要なテーマです。だからこそ、海に目を配ることが重要なのです
今回の噴火による津波にしても、到達までの異常な速さや津波の高さなど、気象庁の予測を大きく外す結果となっています。
16日未明に緊急記者会見を開いた気象庁の宮岡一樹・地震情報企画官は「今回の潮位変化は通常の津波とは異なると考えている。私たちも今までこういった現象は確認していない」と述べ、この現象は津波と言えるのかどうか問われると「そう言ってよいか、ちょっとわからない」とお手上げであると吐露しています。
人類の科学といってもまだまだこんな段階なのです。
6.温暖化の休止
2014年、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所などの研究チームは衛星データを用いて、2000年以降に発生した火山噴火20回近くの影響と地表温度との間の関連性を調べた研究論文を発表しました。
論文は、火山から噴出される霧状の硫黄が太陽光を反射するため、下層大気の温度を僅かに下げ、1998年~2012年の期間で予想される気温と測定された気温との差の15%に相当する部分は、この微粒子の「エアロゾル」効果で説明できるとしています。
実際、1991年のフィリピン・ピナツボ山の噴火は、気温低下に関して認識可能な影響を地表に及ぼしたことが知られています。
論文の共同執筆者で、ローレンス・リバモア国立研究所のベン・サンター氏は、「1998年以降の『温暖化の休止』には多くのさまざまな原因がある……21世紀初めの火山噴火に起因する気温低下も、この原因の1つだ」と述べています。
論文は、気候変動のコンピューターモデルが不完全なままの状態にあるのは、この差が原因だとし、「火山性エアロゾルの噴火に特化した特性を対象とした観測の改善とともに、気候モデルシミュレーションにおけるこれらの特性の表現の改善が必要」としています。
ベン・サンター氏は「これまでは幸運なことに、自然的な気温低下の影響は、人為的な温暖化の影響を部分的に弱めてきた……火山活動が今後数十年にわたってどのようになるかは分からない。われわれの幸運もどの程度続くか分からない」と述べています。
今、SDGsだ脱炭素だと叫ばれ世界的に取り組みを進めていますけれども、人為で自然をどうこうしようとしたところで、結局は自然の力で調整されてしまうのではないかと思いますね。
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