たとえ話の利点と欠点(思考と伝達について その10)

ネットの世界では、表現者の自由度が高いために、自然と類は友を呼ぶようになる。同じ趣味思考の人たちだけで、コミュニケーションが盛んになって、「ネット魚群」を形成するようになる。

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文章は誰を対象にしているかで、その内容や表現は当然異なってくる。

既存メディアとの対抗メディアとして考えるのか。同好の士を求めるための書き込みなのか。それとも自分用のメモなのか。

誰を対象としているかというのは表現においては大切なこと。

何かを伝えるにしても、哲学のような抽象的概念を伝えるのは難しい。そんなとき威力を発揮するのがたとえ話。たとえ話はイメージを想起させる。

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[Asagi's photo]より


たとえ話で扱われる事象は、動植物や自然とか人間社会の営みとか、誰でも知っている事柄。

たとえ話って、伝えたい概念を広く一般に知られているコンテクストに置換すること。だから高度な抽象概念も分かりやすく伝えられる利点がある。

抽象概念をたとえ話に置換する場合に大切なことは、本当に伝えたいことは何かということを規定すること。哲学的抽象概念を、たとえ話にいつも100%置換できるとは限らない。

要するにこういうことなんだ、というくらい単純化して本質をつかみださないとうまく例えることはできない。たとえ話に限定条件なんて無いのが普通。

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哲学的概念を数式のように厳密に表現しようとすればするほど、思考の演算式を厳密に追いかけていって、ひとつひとつの項の定義と条件を明確にする修飾語をつけなくちゃいけない。

なになにが、これこれで、こうした場合に、云々かんぬん・・と思考の演算式をそのまま例えられても、たとえ話なのか何の話なのかさっぱり分からない。

だから、たとえ話を使うときには、その哲学概念の一般的部分をつかみだして、それを中心に据えて例えることになる。その代わり概念の減衰、変容は避けられなくなる。

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本シリーズエントリー記事一覧
思考と伝達について その1「知性と五感」
思考と伝達について その2「指向性と置換性」
思考と伝達について その3「文字記号」
思考と伝達について その4「日本語は論理的か」
思考と伝達について その5「日本語の表現」
思考と伝達について その6「会話におけるキャラ設定」
思考と伝達について その7「概念の伝達」
思考と伝達について その8「ソムリエの表現能力」
思考と伝達について その9「哲学の文章」
思考と伝達について その10「たとえ話の利点と欠点」
思考と伝達について 最終回「菩提と救済」