北京五輪が失敗するとき(チベットデモと弾圧について 最終回)

昨日までのエントリーでは、中国が五輪成功を第一に大切なものと位置付けていると仮定してみたけれど、もし北京五輪が第一でない場合はその扱いは変る。

もし、中国政府が五輪ではなくて、政権維持を第一目的に置いていた場合、特にまだ政権基盤が盤石でない胡錦涛総書記が自身の権力を揺るぎないものにしようとしたときのことを考えてみる。

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[Asagi's photo]より



中国共産党最高指導部は胡錦涛総書記含め全部で9名いて、そのうち上海閥は6人、北京閥は胡錦涛総書記を入れても3人しかいない。中国共産党最高指導部にはまだまだ上海閥である江沢民の影響力が強い。

もし、胡錦涛総書記が自身の権力基盤を強化しようと思ったら、上海閥を追い落とさなければならないのだけど、一番手っ取り早いのは、上海閥で最も力を持つ者を失脚させればいい。

中国共産党最高指導部として今回大抜擢されたのが、上海閥出身でポスト胡錦涛とも目される、習近平共産党政治局常務委員。

この習近平は先ごろ五輪指導責任者に就任している。

つまり五輪の成功の有無によって更に抜擢することもできれば、責を問うて失脚させることもできるということ。

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胡錦涛総書記の権力基盤強化という面から考えると、仮に北京五輪が中止になったとしても、巴投げ的に逆利用することが可能になる。

政敵を、いったん北京五輪の責任者に据えてさえしまえば、その中止如何に関わらず簡単に失脚させることができるから。

五輪が開催できたケースで考えてみると、運営の不手際を問えればいいから、ヤラセの事故かなにかを仕込めばいい。

たとえば、何人かの選手に事故に見せかけた、食中毒や怪我を負わせたりして、棄権させる。そしてその責任を取らせる形で失脚させるとかいくらでも手はある。

また、北京五輪が中止になった場合は無論、開催できなかった責任を問えばいい。対外的にはその責任を諸外国に擦り付けるだろうけれど。

中国の最高指導者は、軍、人民解放軍をコントロールできなければ権力を維持できないから、今後の権力基盤を考えると、チベットの武力鎮圧を黙認して、軍の不満が高まらないように配慮するのは彼らの論理からすれば当然ともいえる。

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[Asagi's photo]より


胡錦涛総書記は、チベット自治区党委書記を務めた1988年から1992年までの間、チベット弾圧の徹底で党内の評価を上げた張本人。なおのこと今回の事態で軍を静止するとは思えない。

中国にとって、チベットはどこまでいっても国内問題。外国がなんと言おうとあくまでも国内論理で動くのだろう。

だから、中国にとって、政権維持がオリンピックの成功より上位にくる場合は、五輪ボイコット自体は殆どダメージにならない。

たとえ、五輪中止による中国のイメージダウンの影響で、国内経済が停滞あるいは急降下したとしても、もともと加熱しすぎてコントロール不可能だったものを冷やすことができて丁度いいくらいに考えているかもしれない。人民の不満は、五輪を開催させなかった諸外国のせいで経済が停滞したのだ、と言って責任転換すればいい。

その裏には、世界は中国なしでは成り立たないのだ、という読みが隠れてる。

だから、先進諸国がこの問題で中国を非難したとしても、一時のことでやがて戻って来ざるを得ないのだ、と多寡を括ってる。そしてその読みは相当程度当たってる。

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[Asagi's photo]より


ここらあたりまで睨んだ上で日本も対応を考えないといけないのだけれど、それ以前にもっと大切な視点がある。それは、この問題の奥底に「命」と「金」を天秤に掛けている考えがあるということ。

中国が、たとえ世界が一時的に自分と距離をおいたとしても、いずれは自分のところに戻ってくるだろうと考える根底には、中国と付き合うことによる経済的見返りには勝てないだろうという考えがある。

いくら人権弾圧だとうたっていても食うに困れば、中国に頼らざるを得ないのだ、として人の命なんかいくらでも金で取り戻せると思っている。だから平気でいられる。

「命」と「金」を天秤に掛ける考えそのものについては、中国だけでなく、日本や諸外国にもおそらく自省すべき点はあるのだろうとは思う。だけど、それを克服しようという意思があるかないかで未来は大きく変わる。

未来をより良くしたいという意思は、未来を確かに変える。

だから、日本は現在および将来にわたってどのような国として世界の中で生きてゆくのかという選択と中国といかに付き合っていくか、または付き合わないのかを考える岐路に来ているといっていい。

私たちは、日本、ひいては世界の未来をかけた分水嶺に今立っている。

繰り返しになるけれど、中国のチベット弾圧を絶対に許してはいけない。金に目がくらんで未来を捨ててはいけない。

過去を振り返れば、戦争であるとか、植民地政策であるとか、悲しいことは沢山あった。それらの反省があってこそ、今の世界がある筈。彼らの命と涙と希望の上に今の世界が成り立っていることを忘れてはいけない。

日本の、世界の未来への切符は、私たちの手の中にある。


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