下位レイヤーの大切さ(相互信頼とは何か その10)

本当に注意しないといけないのは下位レイヤーの状態。地域共同体・知人レイヤーと血縁レイヤーがしっかりしているかどうか。

この下位レイヤーがほどけることは、国の歴史や民族のアイデンティティの喪失を意味する。上位レイヤーは、国家だとか会社だとか思想だとか抽象性・汎用性の高いものだけれど、下位レイヤーは、個人の生活そのものに根ざした個別的・具体的なもの。だからこの下位レイヤーに流れているものほど、アイデンティティの土台となりやすい。生活に根ざした風習や文化なんかはそう。普段意識なんかしないほど、いつも触れているもの。

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日本は上位レイヤーで輸入した思想を巧みに織り込んで十七色のより糸を紡いできたけれど、その十七色のより糸は長い時間をかけて下位レイヤーに浸透してゆく。縦糸で流れるものは国の歴史や民族のアイデンティティ。下位レイヤーはとても個人的属性が強い、生活に土着したものだから、いったん下位レイヤーにまで浸透した情報は上位レイヤーの状態に関わらず長く保持される。

故郷を失ったユダヤの民は2000年の長きに渡って、ユダヤ人としてのアイデンティティを失わなかった。上位レイヤーである国がなかったにも関わらず。

だから、下位レイヤーの、中でも縦糸の強靭さは民族的アイデンティティに大きな影響を与える。

その意味では、日本の下位レイヤーもひとつの危機を迎えているといえる。

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少年凶悪犯罪や幼児虐待や自殺は社会の抑圧や閉塞感を表していると良く言われるけれど、閉塞状況なんて昔も今もどこかしらでは存在するもの。鎖国の時期は文字どおり国ごと閉塞状態にしていた。

だから、抑圧されたり閉塞したから、これらの問題が起きたというよりは、抑圧や閉塞を自己解決できなかった結果として起こったとみるべき。ひらたくいえば、悩みを解決できなかったということ。

悩みっていうのは、要はどうすればいいか分からない状態のこと。出口が見えないことだけど、悩みの解決には、大きく分けて二つある。

ひとつは金で解決する方法ともうひとつは智慧を借りてくるという方法。


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