共同声明に潜む中国の領土的野心(胡錦濤主席の訪日について 後編)

これだけ日本の対中感情が悪化しているときに、胡錦濤主席は、よく日本にこれたものだと思うけれど、もしかしたら、中国はここまで対中感情が悪化しているとは認識できていなかった可能性もある。

記者会見で福田総理が、異例ともいえるマスコミへの、正しい報道をしろ、と注文したのは、日本の大手マスコミによる媚中報道のお陰で、長野聖火事件でも国民感情はたいして悪化していない、と中国は勘違いしたのではないか。

予想以上の抗議に驚き、福田総理に何故知らせなかったのだとクレームをいれたのかもしれない。でも、もうどうにもならない。今後の日程でも、胡錦濤主席は晒し者になる。面子も何もあったものじゃない。屈辱の訪日になるだろう。恨み骨髄に至る。

だけど、共同声明をよく読むと少し気になる点がある。とりあえず引き分けだといって安穏とはしていられない。

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今回の共同声明は、「日中共同声明」「日中平和友好条約」「日中共同宣言」の三つの政治文書に並ぶ四つ目の政治文書と位置づけられているから、それなりの重みを持つ筈。

それぞれの文書の要旨を以下に引用する。


「日中共同声明」要旨

 1.日中国交正常化の実現。
 2.中華人民共和国を中国の唯一の合法的政府であると承認。
 3.台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを日本は十分理解し、尊重する。
 4.中華人民共和国は日中両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する。
 5.日本と中華人民共和国は主権、領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政相互不干渉、恒久的な平和友好関係を確立する。
 6.日中間のすべての紛争については平和的に解決し、武力又は武力による威嚇に訴えない。
 7.日中両国はアジア・太平洋地域において覇権を求めない。覇権を確立しようとする他のいかなる国や集団に反対する。
 8.日中平和友好条約の締結を目指す。


「日中平和友好条約」要旨

 1.主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えない。
 2.アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対する。
 3.平等及び互恵並びに内政に対する相互不干渉の原則に従い、両国間の経済関係及び文化関係の一層の発展並びに両国民の交流の促進のために努力する。
 4.この条約は、第三国との関係に関する各締約国の立場に影響を及ぼすものではない。
 5.この条約は、十年間効力を有するものとし、その後は、いずれの一方の締約国も、一年前に他方の締約国に対して文書による予告を与えることにより、最初の十年の期間の満了の際又はその後いつでもこの条約を終了させることができる。


1998年の「日中共同宣言」要旨

1.主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵、平和共存の諸原則並びに国際連合憲章の原則が、国家間の関係を処理する基本準則であることを確認し、核兵器の究極的廃絶および関係国に一切の核実験と核軍備競争の停止を強く呼びかけるを主張。
2.アジア地域における覇権はこれを求めることなく、武力又は武力による威嚇に訴えず、すべての紛争は平和的手段により解決すべき。ASEAN地域フォーラム等に積極的に参画し、アジア太平洋地域の主要国間の安定的な関係に努力する。
3.過去の一時期の中国への侵略によって中国国民に多大な災難と損害を与えた責任を痛感し、これに対し深い反省。中国側は、日本側が歴史の教訓に学び、平和発展の道を堅持することを希望。
4.双方は、毎年いずれか一方の国の指導者が相手国を訪問。
5.引き続き中国の経済開発に対し協力と支援を行っていくとの方針を改めて表明。
6.日中共同声明の中で表明した台湾問題に関する立場を引き続き遵守し、改めて中国は一つであるとの認識を表明。



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これらに対して、今回の(戦略的互恵関係の包括的推進に関する)共同声明の要旨を下記に引用する。


 「戦略的互恵関係の包括的推進に関する共同声明」の要旨

 一、日中関係が双方にとり最も重要な2国間関係の1つとの認識で一致。「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、両国の平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展という崇高な目標を実現していくことを決意した。

 二、1972年の日中共同声明、78年の日中平和友好条約、98年の日中共同宣言の諸原則を引き続き順守することを確認。2006年10月、07年4月の日中共同プレス発表にある共通認識を堅持し全面的に実施する。

 三、歴史を直視し、未来に向かい、将来にわたり絶えず相互理解を深め、相互信頼を築き、協力を拡大、アジア太平洋、世界の良き未来をつくり上げていく。

 四、互いに協力のパートナーであり、脅威にならないことを確認。

 (一)日本側は、中国の改革開放以来の発展が国際社会に大きな好機をもたらしていることを積極的に評価。恒久平和と共同の繁栄をもたらす世界の構築に貢献していくとの中国の決意を支持。

 (二)中国側は、日本が戦後60年あまり平和国家としての歩みを堅持し、平和的手段により世界の平和と安定に貢献してきたことを積極的に評価。日本の国連における地位と役割を重視、国際社会で一層大きな建設的役割を果たすこと望む。

 (三)協議、交渉を通じ両国間の問題を解決

 五、台湾問題に関し、日本側は(72年の)共同声明で表明した立場を引き続き堅持する。

 六、以下の5つの柱での協力を決意した。

 (一)政治的相互信頼の増進
 (二)人的、文化的交流、友好感情の増進
 (三)互恵協力の強化
 (四)アジア太平洋地域への貢献
 (五)グローバルな課題への貢献


ずらりと比較して、一貫して貫かれているのは、

 1.中華人民共和国を中国の唯一の合法的政府であると承認。
 2.台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを日本は十分理解し、尊重する。

のふたつ

前回と比べて今回変わったのは、

 A.歴史認識に関して日本の「反省」の文字が消えた。
 B.主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵が消え、互いに脅威にならないに変化。また日中間の紛争解決手段として武力に訴えないから、協議、交渉を通じて解決に変化。
 

これまでの3つの政治文書では、相対的に国力(経済力)の劣る中国が歴史認識以外では極力下手に出ていたのに対して、今回は歴史認識を引っ込める代わりに大国になった、と自信を深めたような文章になっている。

特には危険。領土的野心を明らかにしてきている。


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スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃で、アナキン達が古代コロシアムの中で、まさに公開処刑されようとする寸前に、ジェダイの騎士達が助けに現れ、両軍入り乱れての大乱戦になるシーンがある。そこでこんな台詞のやりとりがあったことが記憶に残っている。


アナキン「これが君の言う外交的決着か?・・」
アミダラ「いいえ、あなたの言うどぎつい交渉よ」 


武力に訴えない」というのは、武力行使しないという意味にしかとれないけれど、「脅威にならない」とか「協議、交渉を通じて解決」なんてのは主観の問題。日本が武力攻撃を受けた後で約束が違うじゃないか、といっても「たんなる交渉だ」としれっと答えるだけ。

台湾、日本を占領してしまえば、ガス田なんて丸ごと自分のもの。

ただの文言じゃないか、というかもしれないけれど、政治文書での文章表現はとても重要。特に中国に対してはそう。「日中友好」が「日本と中国が互いにトモダチである」ことを意味しないのと同じように。

これで、中国が国連常任理事国である限り、日本も少なくとも常任理事国でないといけなくなったかもしれない。拒否権を持たない常任理事国は意味がないという意見もあるけれど、常任理事国という発言力は、多少なりとも、戦争にまで至る時間を遅らせる力くらいはある。

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なぜ、そんな文言になったのかを推測すれば、もちろん領土的野心もあるのだろうけれど、これがないと軍部、人民解放軍を到底抑えられないという国内事情があるのだろうと思う。日本にとってはたまったものではないのだけど。

この文言にするためにさぞかし激しいやり取りがあったのではないか。これまでの文書では「武力に訴えない」としていたのだから。やはり中国はこうした外交に長けていることは認めざるを得ない。長期的視野で戦略を練っている。

無論、こうしたことは福田総理も十分承知している筈。

私は、一緒に卓球しないでよかったと思いますよ。非常に戦略的な卓球でございまして、これはなかなか油断してはならないなと思いました。

胡錦濤主席と福原愛ちゃんとの卓球を見た後での、福田総理のこの発言は、今回の共同声明でうまくやったと思っているかもしれないが、中国の意図はこちらも十分承知しているぞ、と牽制したのではないか。

いずれにせよ今後の中国の動向には一定の警戒は必要だと思う。




※さらに気づいた点が出てきたので、さらに明日、補追エントリーします。

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