7月20日、毎日新聞は例の英文サイトwaiwai問題の内部調査結果を発表した。
●毎日新聞側が調査し、認めた点
1)waiwai記事が、日本についての誤った情報、品性を欠く性的な話題など国内外に発信すべきではない記事であったこと。(記者倫理の欠如)
2)該当記事が長期間に渡り、ほとんどチェックなしで掲載されていたこと。また、何度もあった外部からの警告も放置していたこと。(品質管理体制の不在)
●処分
・監督責任を問い、総合メディア事業局長だった渡辺良行常務らを20日付で追加処分。
※渡辺良行常務について役員報酬20%(1カ月)返上の追加処分(99年4月から04年6月まで総合メディア事業局長)
●再発防止策
a)海外に向け正しい日本理解の素材を発信するサイトを設立
b)新たな編集長には女性を置く。
c)記事内容に対する適切な助言を得るため、アドバイザリーグループの新設
d)「WaiWai」の過去の記事を転載しているサイトに訂正や削除の要請を続ける
これらの調査および再発防止については、外の有識者でつくる第三者機関「『開かれた新聞』委員会」の見解を受けた上で立てたという。
『開かれた新聞』委員会が本当に外部の有識者なのかという議論は一先ずおいておいて、『開かれた新聞』委員会から指摘された事項を整理してみる。
●ノンフィクション作家・吉永みち子氏
1-a) 「WaiWai」は、日本人なら「ありえない」と思って読むたぐいの記事に信ぴょう性を加えてしまった。まったくの誤報に近いものもあった。・・・ただの垂れ流しだ。
1-b) 執筆していた記者を、どういう評価をして責任ある立場にしたのか。ノーチェックで載せ続けたことも信じられない。
1-c) 毎日新聞社の対応にも疑問が残る。これまで何度も問題が指摘されていた。5月に抗議が来てから1カ月弱、何をしていたのか。また、まず謝罪すべき段階に、自分も被害者だと言ってしまうのでは納得を得られない。
●作家・柳田邦男氏
2-a) 新聞は毅然としたモラルを示さねばならない。倫理なき言いたい放題は守るべき表現の自由とは言えない。
2-b) 一番大事なことは読者からのクレームにきちんと対応しなかったことだ。誰もコラムを問題視しなかったのは無責任すぎた。意識のゆるみや心理的な問題も分析する必要がある。
2-c) 新聞本体と同様のレベルで、外国語を含む自社のすべてのメディアをチェックする体制作りをすることが必要だ。
2-d) 失敗に対する攻撃が、ネット・アジテーションによる暴動にも似た様相を呈しているのは、恐怖を感じる。この問題はマスコミのネットとのかかわり方の教訓にすべきであろう。
●フリージャーナリスト・玉木明氏
3-a) このような内容の記事が載ることは新聞本体ではありえない。
3-b) こうしたことをやってしまう記者個人の資質はどうなのか。訓練を受けたことのあるジャーナリストとは思えない。そもそも雑誌の記事を引き写して新聞メディアに載せる感覚は、普通の新聞記者ならば持ち合わせない。
3-c) 新聞社では記者を指導し記事をチェックするデスク機能が最も重要だ。その機能がないまま、なぜ長い間、放置されたのか、そういう組織の在り方を見直さねばならない。
●上智大教授・田島泰彦氏
4-a) 毎日新聞社がMDNをこれまでどのように位置づけてきたのか、その点を改めて問うべきだ。
4-b) もちろん執筆した記者個人にも責任はあるが、本来の編集に必要な最小限、最低限の体制が取られていなかった。
4-c) 国際社会の中でのジャーナリズムの役割、日本のあり方を毎日新聞の観点からどのように伝えていくのかを考えることはより重要だ。小手先ではなく説得力のある対応をすれば読者にも届き、道は開かれるのではないか。
これら『開かれた新聞』委員会が指摘した事項は大別して、
α)新聞として報道すべき記事内容ではないこと(1-a,2-a,3-a,4-a)
β)記者本人の資質および毎日新聞社としての報道姿勢への疑問(1-b,2-a,3-b,4-b)
γ)社内のチェックが機能しなかった事およびチェック体制そのものの不備(1-b,2-b,3-c,4-b)
δ)抗議に対する対応の不十分さの指摘と今後の対策への提言(1-c,2-c,3-c,4-c)
υ)その他 (2-d)
になるかと思う。
毎日新聞問題について考えるシリーズエントリーでは、
・毎日新聞社という企業としてのコンプライアンスの問題
・毎日新聞社の報道のフィルタリングに問題があった点
の2点を指摘したけれど、『開かれた新聞』委員会の指摘に引き当ててみても、前者がγ、δに、後者がα、βに対応していて、だいたい同じ点を指摘しているように思う。
2-dについては、ネット・アジテーションのように見える面もあるのだけれど、例の記事内容が日本のあるべき姿を攻撃したという面や、抗議に対する毎日新聞社側の初動の拙さも影響しているだろうし、なにより不二家や吉兆までも廃業に追い込んだのも、こうした執拗なアジテーションの結果だったという側面もあるから、それらの反動として顕れている可能性もあり、もう少し様子をみるべきだろう。
ここで、毎日新聞のお詫び記事と再発防止策がこれらの指摘に対して十分なものかどうかを確認してみる。
その前に、企業コンプライアンスとして真っ先に行うべきであるはずの、不良品の流出に対する周知と回収、すなわちwaiwai該当記事の訂正と謝罪があってしかるべきという点を指摘しておきたい。
その上で、追加処分および再発防止策として下記4点を挙げているけれど、それぞれについて、指摘事項のどれに対応しているか見てみる。
X)監督責任を問い、総合メディア事業局長だった渡辺良行常務らを20日付で追加処分。・・・δ
a)海外に向け正しい日本理解の素材を発信するサイトを設立 ・・・δ
b)新たな編集長には女性を置く。 ・・・α
c)記事内容に対する適切な助言を得るため、アドバイザリーグループの新設 ・・・γ
d)「WaiWai」の過去の記事を転載しているサイトに訂正や削除の要請を続ける ・・・δ
βで指摘された、記者本人の資質および毎日新聞社としての報道姿勢への疑問への対策が薄いように感じる。たとえ、女性編集者を置いて、アドバイザリーグループなるものを経由して、猥褻記事が減ったとしても、「誤報に近いもの」や「倫理なき言いたい放題」や「雑誌の記事を引き写して新聞メディアに載せる感覚」などはどうやって防止するのか。
a)でいうような、海外に向け正しい日本理解の素材を発信するサイトを設立したとしても、肝心の中身を各記者の価値観や教育において、「正しい日本」をどうやって保障するのかが良く分からない。かろうじてb)で猥褻記事は控えます、というように読めなくはないけれど、それ以上のことはわからない。
それ以前に「日本についての誤った情報、品性を欠く性的な話題など国内外に発信すべきではない記事」と自ら認めたならば、即座に訂正記事を出すべきではないか。
いくらd)のWaiWai」の過去の記事を転載しているサイトに訂正や削除の要請を続けたとしても、どれだけ転載されたかも分からないし、どれだけ時間がかかるかも知れない。相手が削除に応じないことだってある。そんなことよりはあれは間違いでした、と大々的に訂正をしなければ、誤解をされたままで終わる可能性は高い。
もしも同じことを二度やれば、今度こそ完全に立ち直れなくなる。
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