「一言で申しますと、「経済的繁栄と民主主義を通じて、平和と幸福を」という道を、多くの国が歩んでおります。これはいつも言いますように、戦後日本がたどった経路、そして最近では、ASEAN諸国が軽やかに通過しつつある道であります。けれども民主主義というのは、終わりのないマラソンであります。しかも最初の5キロくらいがとりわけ難所だと、相場は決まっております。
・・・我が日本は今後、北東アジアから、中央アジア・コーカサス、トルコ、それから中・東欧にバルト諸国までぐるっと延びる「自由と繁栄の弧」において、まさしく終わりのないマラソンを走り始めた民主主義各国の、伴走ランナーを務めてまいります。
・・・この広大な、帯状に弧を描くエリアで、自由と民主主義、市場経済と法の支配、そして人権を尊重する国々が、岩礁が島になり、やがて山脈をなすように、ひとつまたひとつ、伸びていくことでありましょう。その歩みを助け、世界秩序が穏やかな、平和なものになるのを目指すわけであります。」
麻生総理が、昨年上梓して話題となった「自由と繁栄の孤」からの抜粋。
日本がここまで日本としての国際戦略を明示したことはなく、世界も驚きを持って迎え入れた。
当時、2007年1月に谷内外務事務次官がロシアとの次官レベルの「日露戦略対話」を行った。事務次官が「自由と繁栄の孤」構想を伝え、こうした「大国」が国際秩序の安定に責任を負っているのだと述べたところ、「日本から『大国同士の関係』という言葉を聞こうとは」といって吃驚したという。
だけど今や、サブプライム問題から端を発して、プライム問題、金融危機にまで発展し、世界恐慌の一歩手前ではないかと言われている。肝心の「自由と繁栄」自身が足元から崩れ始めた。
既に、自由と民主を高く掲げていたアメリカ自身が、金融危機に対応しようとして、全上場銘柄に空売り規制をしてみたり、ヘッジファンドなどに対して、ショートポジションを公表するように働きかけたりしている。自由や市場経済からみれば、明らかに逆行している。なりふり構わぬ振る舞いをしてる。それだけの危機。
こんな状況で、「自由と繁栄の孤」構想に基づいて自由と民主主義、市場経済と法の支配、人権を繁栄の土台だとして広めようとしても、説得力に欠けるのは言うまでもない。世界もそんなのに従っていたら破滅するだけじゃないか、と疑念の目でみることになる。
もはや、単純に「自由と繁栄」を謳いあげるだけでは時代遅れになってしまったと言える。

この記事へのコメント
nanashi
生活における自由であり経済においてはむしろ積極財政で逆の立場だったような。
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世界は、アメリカを嘲笑し新世界の出現を渇望しているのが現実。
自由と繁栄の弧。
その実現を笑う者は、ただの愚か者。