理和利情の外交(国家の性格について考える その6)


理と和、そして利と情のそれぞれの行動理念を持つ国同士が外交交渉を行うとするとどういう関係になるかをそれぞれ6通りの組み合わせで考えるとこうなるのではないかと思う。

画像


①理の国vs和の国
 理の国は理念と合理を全面に押し立てて交渉に臨む。和の国はその要求に対して、どこまで譲歩すればいいか、あるいは、理の国の主張そのものに自ら掲げる理に反していないか、合理の理に矛盾していないかという部分を探り、突っ込みをいれつつ妥協できるポイントを探すことになる。無論どちらの言葉も真実を映すツールだから、言葉による交渉は成立する。


②理の国vs利の国
理の国には理念の理と利の理(合理の理)があるけれど、利の国には利しかない。理の国にとっては、理念と利をともに満たす結果が欲しいのだけれど、利の国は、理念を受け入れる素地に乏しくて、理の国の説く、理念そのものすら自らの利に叶うかどうかみてる。

よって交渉は互いの共通プラットフォームである利の部分で主に行われることになる。この場合の交渉結果は、利の国がちらつかせる利益という誘惑に、理の国がどこまで耐えられるかによる。その誘惑の利が莫大であればあるほど、理の国が自らの理念とする理を打ち捨てて、利の理(合理の理)を選ぶ可能性は高くなる。

この場合、理の国の言葉は真実を映すけれど、利の国の言葉は戦略兵器だから、言葉のみの交渉成立は難しく、利を伴った強制力をどう発揮するか、させるかという点がその交渉の成否を分けることになる。


③理の国vs情の国
情の国にとっては、自分が満足するかどうかだけが基準になるから、理の国がいくら、理念の理を説いても、利の理で誘導しても、合理の理で説得しようとしても受け付けてくれるとは限らない。

基本的にこの二国間の関係では、共通プラットフォームは存在しない。
だから、理の国からみれば自分の理や利に沿うように、情の国をある意味適当になだめつつ、かれらの情を満足させてやる形を取りながら、自分は実を取ってゆくという形になる。

この場合でも、情が満足している分には、言葉による交渉は成立するけれど、一旦情の国が臍を曲げれると、途端に過去の交渉は無効だと騒ぎだすから、そのときの罰則規定なり、条項を盛り込んでおいて、速やかに対処できる仕組みが必要となる。


画像



④和の国vs利の国
和の国と利の国が交渉する場合は、利の国がその利をちらつかせ、時には押してくるのを、和の国がそれを受け入れた上で、和を創り出すところの均衡点を見つける形が基本になる。利の国からみたら最初から受け入れると分かっているからどんどん要求できるし、拒絶したらその場で一歩引いて妥結するも良し、そのような拒絶の態度は和に反するのではないか、と殊更に攻め立てて恫喝するも良し。

利の国ははっきりと言葉を戦略兵器として使っていて、時と場合によって自由に駆使する。利の国からみたら、和の国は理の国と違って絶対基準を自身で持たない。その分、理の国と比べてずっとやり易い。

尤も和の国だって反撃方法がないわけじゃない。たとえば、理の国を相手にするときのように、相手の利の矛盾をつくやり方とか。以前、中国に対して、日本が知的財産権の処遇を求めたことがあったのだけど、そのとき、中国は漢字の使用料を真っ先に求めて来た。日本は、平然とその条件を呑む代わりに 日本由来の漢字・国字について、使用料を日本が求めると返し、話は無かった事に為ったという有名な逸話がある。



⑤和の国vs情の国
和の国と情の国が交渉する場合は、情の国の気分・要求をどこまで和の国が受け入れるかで成否が異なる。基本的に情の国はその時、自分の気が済むかという基準だから、理も利もなく、感情だけ。

和の国は、理も利も度外視して、情の国の要求を丸のみするだけで和の均衡点ができあがるから、譲れる範囲で譲ることになりがちだし、場合によっては形だけで譲って、自国の利益を計ることもできる。ただそうしたことが明らかになった場合には、情の国は更に憤慨し和の国に情のレベルでの是正を求めることもある。不毛なサイクルが繰り返される可能性すらある。


⑥利の国vs情の国

利の国と情の国での交渉は、互いに言いたいことを言い合うことになりがちになる。利の国はその利を武器として押してくるし、情の国はその情を満足するように要求する。互いに交渉における共通のプラットフォームがない上に、言葉は互いに戦略兵器としてしか考えていないから、その場その場で都合の良いように言うし、聞くほうも都合よく解釈する。

だから、理の国と情の国の間での交渉結果は互いの国力差に大きく依存する。ひらたくいうということを聞かないと酷い目に遭うぞという恫喝めいた交渉になることもある。ただ、こうした交渉のやり方を理の国や和の国相手にしてしまうと、言葉を介した交渉が出来ない上に信頼もおけない国だとして相手にしてもらえなくなる。


画像