迫りくる金融恐慌

 
いよいよ、金融恐慌の足音が近づいてきた。

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麻生総理は、アメリカに公的資金投入を促すために、G7で日本がバブル崩壊後に不良債権を処理した経験を説明するよう、中川財務・金融相と白川日銀総裁に指示をだした。

各国通貨が軒並み下落している。無事なのは円とドルだけ。そのドルもいつ崩れるのか分からない。日本以外全部沈没と揶揄されるくらいの事態。

そんな状況で、10月10日にワシントンでG7が行われる。そこで世界中から金を出せとたかられるのは火を見るより明らか。

中川財務・金融相は、テレビ番組出演後に、金融危機への日本からの貢献について「現時点で、米国は米国、欧州は欧州で、まずは自国の問題としてやれることはやってもらいたい。自分のところでやらないうちに奉加帳のようなものをまわされても困る」と述べているから、きっぱりと断る腹積もりなのだろう。

無論、そんなのに素直に引き下がる世界ではないだろうから、時には恫喝めいたやりとりになることだって十分考えられる。

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だけど、おそらく麻生総理は、それも見越した上で、G7と同期する形で解散総選挙を匂わせるのではないかと思う。無茶を言うなら、解散して政治空白を作るぞ、と。

今のような金融恐慌寸前のときに、日本にひと月もの政治空白を作られるのは痛い。ともすれば、日本に対して、工作活動を仕掛けてでも金を出させようとするかもしれない。

たとえば日本のマスコミを裏から操って、世界金融危機から救うために、日本は資金援助すべきだキャンペーンを張らせるなんてのも十分あり得る話。

近頃は新聞・テレビへの広告料が減少傾向にあるから、たとえ工作だとわかっていたとしても、スポンサーの言いなりになってしまうかもしれない。

この「日本は資金援助すべきだ」キャンペーンは、当然、政治的空白があっては実行されないから、これまでさんざん煽ってきた「解散総選挙だ」キャンペーンと真っ向から対立してしまう。

もしG7後に、マスコミが「日本は資金援助すべきだ」キャンペーンをやって、解散総選挙の話をぴたりとしなくなったとしたら、裏で何かあったのか、と勘繰ってもおかしくない。

もしかしたら、麻生総理はここまで読んだ上で、マスコミの解散総選挙キャンペーンを放置して、外圧をかわす駒として逆利用しているのかもしれない。

たとえ、「解散総選挙」キャンペーンを止めて、「日本は資金援助すべきだ」キャンペーンに変わったとしても、そうか、ならば解散はうんと先送りして、国内の景気対策を優先しよう、なんて何食わぬ顔で言うのだろう。

どっちに転んでも、すでにマスコミは麻生総理に掌の上で躍らされている。

国内・世界を相手にした、壮大な舞台が幕を開けようとしている。

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画像金融危機対応、日本の経験発信を=G7で米に資本注入促す-麻生首相指示

 麻生太郎首相は7日夜、中川昭一財務・金融相と白川方明日銀総裁を首相官邸に呼び、米国発の金融危機を打開するため、ワシントンで10日開かれる先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、日本がバブル崩壊後に不良債権を処理した経験を説明するよう指示した。公的資金注入で金融機関の自己資本を増強した成果を訴えることで、米国に同様の対応を促すのが狙いとみられる。
 首相は会談後に記者団に対し、日本のバブル後の対応について「あの時は13兆円もの資本投入をやって、結果として(金融危機を)くぐり抜けた」と説明。その上で「他国には全然迷惑を掛けずにくぐり抜けたというのは、堂々と日本の経験として語れることの一つだ」と語った。(2008/10/07-22:08)

URL:http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2008100700864



画像必要なら追加経済対策も=中川財務・金融相 2008年 10月 5日 16:02 JST

 [東京 5日 ロイター] 中川昭一財務相兼金融担当相は5日、民放テレビ番組で、景気対策について「第2弾の必要があるかもしれない」として、追加的な経済対策の必要性に言及した。ただ、第2次補正予算の財源については「赤字国債は考えていない」と述べた。 

 8月末にまとめた総合経済対策については「とりあえず緊急に国会で(補正予算の)審議をして一刻も早く成立してもらって、必要があれば、第2弾の追加的なものをやっていく必要があるかもしれないと思っている」と述べた。

 追加の経済対策で必要となる第2次の補正予算の財源としては、赤字国債の発行を否定した上で「公共投資ならぎりぎり建設国債になる。それ以外では、(追加対策は)臨時・特例的なものなので知恵を絞ってかき集める」と語った。 

 また、国内の中小企業への金融円滑化に関連し、貸し渋りの実態について「そういう声が日に日に強くなっている感じがする」との認識を示した。さらに、金融庁に対しては、中小企業庁とともに全国をまわって地域金融機関や中小企業の声を一緒に聞くように指示していると説明した。その上で「貸し渋りをされたという事例があれば、金融庁や私のところに言ってほしい」と呼びかけた。 

 世界的な金融危機については「米国と欧州の金融システムがぜい弱になりつつあるが、日本はシステムそのものはしっかりしている」との認識を示した。さらに、10日にワシントンで開かれる主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では「日本もこの事態に対処する責任を持っているつもりなので貢献はしたい」と語った。

 ただ、中川財務・金融相は、番組出演後に記者団に対し、金融危機への日本からの貢献について「現時点で、米国は米国、欧州は欧州で、まずは自国の問題としてやれることはやってもらいたい。自分のところでやらないうちに奉加帳のようなものをまわされても困る」と述べた。

URL:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-34099220081005



画像価格高騰を招く妖怪の正体:[対談]中川昭一・丹羽宇一郎 2008年8月11日(月)15:09

中川昭一(衆議院議員)、丹羽宇一郎(伊藤忠商事会長)


■世界はあまりにドル漬けになってしまった

丹羽 いま資源が大変な勢いで高騰して、企業収益も大きく圧迫され、日本経済も厳しい局面に立ち至っています。これまで原油価格は、100年間かけて40~50ドル価格が上昇してきたわけです。ところが、最近の4年で原油価格は100ドルも上昇した。ということは、直近の4年間で250年分も原油価格が上昇したということです。2000年から2008年春までの8年間で見ると、原油価格はおよそ4.4倍に跳ね上がりました。鉄鉱石が4.9倍、石炭も4.9倍、銅が5.2倍。一方、主要穀物では、とうもろこしが2.6倍、大豆が2.4倍、小麦が3.4倍、米が4.7倍。

なぜここまでの価格高騰が進んだのかといえば、1つはBRICsなど新興国の生活水準が先進国を追っかけており、またインフラ整備のために鉄やセメントなどの資源が必要になった。要するに資源の「爆食」が起きたということです。

それからもう1つは、投機資金が商品市場を蹂躙していることです。

まず1つ目のBRICsの成長ですが、なぜここまで急激に伸びることになったのかといえば、それこそまさにグローバリゼーションです。「小さな政府」「規制緩和」「市場原理」「民営化」を世界中に押し広げていこうという米国流の新古典派対外経済戦略である「ワシントン・コンセンサス」に基づいて大幅な規制緩和が行なわれ、すべてがオープン化されていきました。

それにより人と金と技術が国境を越えて自由に動き回るようになり、そこで生まれた余剰資金がどんどん発展途上国にも投下された。そうすると、当然、途上国の経済成長が始まるわけです。10年のあいだにこれだけ大成長するというのは、人類史上かつてないことでしょう。

中川 つまり、グローバル規模での資金、技術、人の移動でBRICsが発展したから、いまの実需部分が生まれたということですね。

丹羽 そうです。しかも急速に、です。グローバリゼーションは、儲かるところへ一気に資金が流れる。まさにアジア通貨危機の前後の動きも、同様でした。

中川 そうでなければ、インドのタタ・グループやミッタル・スチールがあれだけ急速に成長するはずがない。

丹羽 自分で儲けた金というより、要するに貨幣経済の力を活用して大きくなっていったんですね。時価総額が上がって、それをレバレッジにして資金を借り入れる。その資金で企業買収を行なえば、さらに時価総額が上がる。その後押しをしたのが、格付け会社です。企業の時価総額はどんどん上がり、まるで幽霊のようにドルが世界中を徘徊しはじめた。マルクスとエンゲルスの『共産党宣言』のなかで、「共産主義という妖怪が徘徊する」という有名な一文がありますね。いまは「ドルという妖怪が世界を徘徊している」といったところではないでしょうか。いまの世界経済は石油漬け、ドル漬けなんです。

ここ10年間で世界全体の実質GDPは、約30兆ドルから約50兆ドルに成長している。ところが、株式の時価総額と債券の発行残高とM2(現金通貨、預金通貨、準通貨)といわれる現預金、これら金融資産は約60兆ドルから約180兆ドルにまで膨らんでいるのです。そこまで実物経済と貨幣経済の乖離が大きくなった。実物経済に比べ、貨幣経済は3.6倍の規模に膨らんでいるわけです。それぐらい貨幣経済が広がって、マネーが世界中に溢れかえって、その挙げ句にサブプライムローンの問題が起きたのです。

中川 私の理解では、アメリカはフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)にしても、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)にしても、ジニーメイ(連邦政府抵当金庫)にしても、資産価値は上がるものだという前提のシステムをつくり、ドル中心の世界経済システムをつくっていきました。そして、頭のいい人たちが、そういうシステムに乗っかれば儲かるといってはダメになり、また新しいシステムをつくってはダメになるということを繰り返してきた。中南米危機やアジア通貨危機、エンロン問題などさまざまなことを経験してきたわけです。そしてそのあとに、とうとうサブプライム問題がやって来た。住宅は儲かるからといっていたけれど、実際は安全性、つまりリスクに大きな不安があった。そこに蓋をして世界中に証券をばらまいた。

丹羽 中川先生のおっしゃるとおりで、結局なぜこうなってしまったのかというと、サブプライムローンは担保なき債権だったわけです。現にアメリカでも訴訟が起きていますが、担保がないものに対して弁償の責任はないということになったのです。

中川 アメリカのサブプライムは、本来の住宅債務者が債務不履行を起こしても、償還返済権が担保不動産にしか及ばないノンリコース・ローンですから。

丹羽 だから結局、買った人間がすべて処理せざるをえないんですよ。「小さなリスクで大きなリターン」というのはおかしい。本当は「大きなリスク」だからこそ、サブプライムなわけです。そうでなければリスクの低い「シニアプライム」や「プライム」になるはずですから。「サブ」であるにもかかわらず、「小さなリスクで大きなリターン」と言い続けた。この一件でドルに対する信用、アメリカに対する信用が揺らぎはじめています。

中川 これはある意味「金融の毒ギョーザ」だと、私は思います。つまり「毒ギョーザ証券」を世界中にばらまいて、挙げ句にドルの信頼性まで失った。

丹羽 そこに大きな問題があるんですね。金融関係者はサブプライムだけで終わると思っていた。ところが、世界があまりにもドル漬けになっているために連鎖反応を起こしている。たとえばドル安元高もあり、中国の輸出高は減少しています。これも中国がドルを大量に保有しているからです。中国にしても結局ドル漬けになっているから、ドルに対する信用が失われはじめるとなす術がない。中近東がドルを信用してアメリカのシティバンクに投資したり、シンガポールの政府系ファンドのテマセクがメリルリンチに投資した。ところが、これらの企業の株式は暴落した。これからは彼らといえどもドルへの投資を躊躇すると思います。

■いかにドルを支えるか

丹羽 ドルの信用を回復するために、アメリカは躍起です。もしドルが暴落したら、日本が保有する外貨準備高やアメリカの債券、また中国やヨーロッパの保有する外貨や債券も連鎖的にすべて大暴落する。だからこそ、米財務長官のポールソンはサミット前に渡欧して金利の調整を図った。ユーロの金利が大幅に上がれば、ドルは暴落しますから。かといってヨーロッパとしてはインフレを抑制するためにも金利の引き上げは不可欠。このジレンマのなかで何とか影響をミニマムに抑えようとしたわけですね。

さらにアメリカ国内ではファニーメイやフレディマックに公的資金を注入してバックアップしようという動きもありますが、それでも、まだ足りないという声も大きい。しかも、公的資金を注入するといっても、その資金をいかにして調達するのか。

中川 赤字国債しかないでしょうね。

丹羽 しかし、そんな国債を誰が買うのかという問題があるのです。いくら公的資金注入のためといっても、国債を発行するからには誰かに買わせなければならないわけです。中近東などのソブリン・ウエルス・ファンド(政府系ファンド)などが出すのか、あるいは日本やヨーロッパなど各国が協調して買い支えるのか。

中川 つい最近までは、アメリカの調子が悪くても、BRICs等の消費が拡大しているかぎり世界的に経済が悪化することはないという、いわゆるデカップリング論が盛んに唱えられていました。しかし客観的に見れば、アメリカ経済と世界経済はカップリングしていることがすでに明白になっている。こうなると、これは恐ろしい話で、とくにドルにおんぶに抱っこの日本にはきわめて際どい話です。これからユーロかといえば、それも限界がある話ですし、中国の元にはいろいろな問題がある。では、最後は金や資源などの実物かといえば、それは無理ですね。

丹羽 そんな規模の資源はないですね。だいたい180兆ドルなんて目に見えるかたちで地球上に存在しないお金ですよ。もう2つぐらい地球がないと、実物経済との勘定が合わない。

中川 まるで架空の新植民地政策のような話になってしまいます(笑)。

丹羽 これは1929年の世界恐慌以来の危機的状況だと思います。1つ舵取りを間違えると大変なことになる。それがいまの資源高騰と世界経済の現状なんです。非常に難しいところに来ています。

だからこそ、いま日本が主導権をとって、アメリカに対して「ドルを支えましょう、日本は協力しますよ」と、もっと強く主張すべきだと思う。そしてG8もドルの後押しをする。そうして少しずつ「毒薬」を飲み込ませて中和していくように、ドルからほかの通貨へ分散を図っていくしかない。ドル漬けの世界を、ドルとユーロとアジア通貨の3つの通貨に薄めていく。それが世界経済を支える唯一の道だと私は思います。中国にはまだアメリカを支える力はないですから、やはり日本とヨーロッパが協力しないといけないでしょうね。これはアメリカだけでなく、日本を含め、世界をこの危機から救うためなのです。

しかも難しいのは、これは劇薬だから一気にやってはダメだし、やり方を間違えるとさらなるドル漬けになって、「お荷物」を先延ばしにするだけになる。

それにしても、60兆ドルの金融資産が180兆ドルになったときに、誰かが確実に120兆ドル儲けたわけです。主には欧米勢力でしょう。いま彼らが吐き出さないかぎり、この「妖怪」は消え去らないわけです。彼らがある程度損するのはやむをえないでしょう。

■最悪のシナリオ

中川 基本的なところをお聞きしたいと思います。1つ目はBRICsを中心に実需はたしかに増えています。2つ目に投機資金は潤沢にある。この2つは過去にもあったことです。ところがここに来て、サブプライム問題でドルの位置づけも不安定になり、ドルの信用低下という問題が出てきている。しかし、石油高や食糧高はサブプライム問題発生の前からあったことですね。サブプライムの問題でアメリカがおかしくなるという話と、石油などの資源や食糧が高騰していく問題とは、どのように整理して考えればいいのでしょうか。

丹羽 サブプライム問題を発火点としてドルが暴落し信用を失ったために、金融資産の行き場がなくなって担保のある商品相場に流れたと考えています。そのため商品市場が何倍にも上昇した。もちろん資源価格の高騰は、実物経済の影響も受けています。BRICs諸国を中心にものすごい勢いで買っていることは間違いありません。ところが、それに加えて投機筋の資金が流入している。投機筋というのは株式市場規模の、ほんの1%から5%くらいの資金です。しかし、商品市場では、それだけの資金が動けば大暴騰します。それほど底が浅い商品相場に、世界中で余っているドルが一気に流入したら、とんでもないことが起きる。これがいま、現実に起きているということです。

したがって、ドルが安いかぎり、商品相場は簡単には下がらない。もちろん、こういう投機的な動きも実需の伸びも、中川先生がおっしゃるように、全部過去にもあったことです。問題なのは急激にこれらが起きたことです。

中川 そのような投機資金は、結局どこから出ていると考えればいいのですか。

丹羽 株式時価総額が上昇し、世界がドル漬けになる過程で投資ファンドが活発に動きました。彼らは資金を集め、それで世界中の企業を買収する。そして、レバレッジを効かせて、さらに資金を投入する。彼らにとってもっとも大きな収益の源泉が時価総額のアップです。時価総額が上がればそれだけファンドが儲かる。そして、時価総額だけが実物経済とどんどん懸け離れて膨らんでいく。

かつて1971年にドルと金の交換が停止されました。もともとは輸出入のバランスで強くなったり弱くなったりし、実体経済と為替は関連していたわけです。ところが、金との交換をなくしてから、貿易の取引と懸け離れて、投資される金額だけが「紙切れ」だけの世界でどんどん増えていったわけです。

中川 丹羽さんのお仕事は、実物経済取引と金融と両方をやっていらっしゃるから両方ともわかっていらっしゃると思うのですが、つまり、時価会計の仕組みと、ドル交換停止とによって、架空のお金がたくさんできてしまったということですね。

丹羽 そのとおりです。その金額が10年間で120兆ドルも増えた。日本円にすれば1京2000兆円ですよ。この問題を解決しないかぎり、世界経済に発展はないと思います。もし、ドル不信がいま以上に進んで、ドルが信認を本当に失ってしまったら、世界経済が破滅することにもなりかねない。120兆ドルに上るバーチャルな紙幣が正真正銘の紙切れになってしまったら、もちろん実体経済まで大きな影響を受けます。だからこそ、これは時間をかけて解決しなければならないのです。

時間をかけて緩やかに対応すれば、人間は過去の経験を生かし、叡智を働かせて経済をうまくマネージしていくことはできるでしょう。ところが、あまり急速に「妖怪」が膨らみすぎて、世界がマネージできる枠を超えてしまえば、それに対処する妙薬はありません。

中川 そこに危機があったはずなのに、グリーンスパンもバーナンキもそれを否定しましたね。

丹羽 グリーンスパンはこの熱狂と長期低金利をして謎(コナンドラム)だといった。過去の経済システムではありえない話だといった。しか し、その答えは「謎」ではなかった。答えは「グローバリゼーション」だったわけです。先進国でワーキングプアの問題が出てきた理由も、まさにここにあっ た。先進国に安い商品が流入したので、それを迎え撃つ国内の中小企業は賃金を上げられなかった。そのしわ寄せが新たな問題を生んでいるのです。

中川 日本のバブル問題が、世界的規模で起こったようなものですね。

丹羽 まさに世界的規模で起きたんです。本来の経済の力以上に、大膨張していったんです。

中川 インドと中国合わせて24億人の国家が10%の経済成長でディマンドプルの世界に突入している。片方では実体経済と金融経済の乖離は大きくなり、実体のない資金が動きつづける。ここまでの状況がいままでになかったとすれば、落ちるところまで落ちて大恐慌あるいは大金融パニックにならなければ、経済学は現実を認識できないのではないかとまで私は思ってしまう。

丹羽 われわれの世界では禁句に近いのですが、それが真髄で、まさに「最悪のシナリオ」はそこになる。地球全体で富を急速に膨らませた始末を、どうやってつけるか、という話です。結局、皆で始末をつけるしかない。何度もいうように少しずつ時間をかけて。

これだけ大きく膨らみすぎた貨幣経済と実体経済の乖離をいかにマネージするかという理論など存在しません。しかし、少なくともアメリカ自身がドル帝国を建設して、そこで大きな恩恵に浴したわけですから、このツケは自分で払わなければなりません。しかし、払おうと思ったら、グローバリゼーションで己だけでは済まなくなっていた。そこが最大の問題です。

中川 私はあえてここでいいたい。サブプライムの負債は日本円で約100兆円、1兆ドル近くあります。日本の住専の不良債権も100兆円規模でした。あのときも散々バッシングを受けたけれど、結局政策的にはうまく処理を進められたと思います。1つアメリカにいいたいのは、日本は自力で解決したけれど、アメリカは世界中に迷惑をまき散らしているではないかということです。ヨーロッパも困るだろう、日本も困るだろう、ロシアも中国も困るだろう。おまえたちだって資金を出さないと困るだろう。「さぁ、何とかしてよ」と、尻ぬぐいまで世界中にさせている。

日本は住専処理を自ら解決したんです。バーナンキにしてもポールソンにしても、何も学んでいない。日本はアドバイスしたらいいのではないですか。むしろ、そうでなければ日本に奉加帳だけ回ってくるようなことにもなりかねない。

丹羽 いえいえ、彼らにとってみれば、日本の経験は結局他人事なんです。誰でも自分で実際に経験しないとわからないのではないでしょうか。

しかし、世界がドル帝国になって、その恩恵を日本はまったく受けていないかというと、そうでもありません。日本の輸出先のじつに4分の1がアメリカでした。ほかのアジア諸国も同様です。日本がアメリカに輸出して稼いだ金を元に、さらにアジアに輸出して稼いだ。日本の一部上場企業の売り上げの6割は輸出関連です。やはりドル帝国の恩恵という面もあります。そう考えると、多少の負担はしなければならない。

私は「失われた10年」というのは、けっして不良債権の処理の10年ではないと思います。時価総額の高騰で得た利益を日本が欧米と一緒に享受できなかったのが「失われた10年」だったのだと思います。あの10年間、日本は一生懸命不良債権処理を苦労してやった。ところが、その間に欧米は時価総額を上昇させて大儲けしていたのです。今後の損失について、日本もある程度は負う必要があるでしょうが、しかし、われわれが主役になって負う必要はありません。

中川 主役どころかその程度のペインすら負う必要はないと私は思います。

丹羽 いや、日本もドルをたくさん保有していますから、そういうわけにもいきません。

中川 そうなのですが、やはり恩は売らなければダメですよ(笑)。

丹羽 恩は売りましょう(笑)。しかし恩を売っても、実際として多少の損失はしかたがないということになるでしょうね。

■とにかく強い日本でなければならない

中川 ではこのような状況を考えて、日本はどうしたらよいのか、ということです。

丹羽 私は日本経済を再生するには、やはり「人と技術」しかないと思います。ソフトの分野では日本は強いし世界をリードする力もある。「これは」と決めた分野に思い切った開発投資をするべきだと思います。たしかに成果が出るには5年、10年かかります。そんなに簡単に人材というのは育ちませ んし、簡単に技術というのも開発できません。しかし、いまの日本の技術には大きな可能性があります。たとえば省エネ技術や、日本近海が最大の埋蔵量を誇る メタンハイドレートなどの新しい資源エネルギー開発です。こういう新しい技術開発にどんどん投資するべきです。

世界の粋を集めて、日本に「省エネ技術イノベーションセンター」を設立する。そして、世界中の優れた学者を誘致する。日本がリードして、イノベーションセンターをつくるわけです。

もう1つは、何といっても農業と中小企業の再生です。日本の企業のうち99.8%が従業員数300人以下の中小企業です。その活性化のためには官だけを 頼っていてはやっていけません。まず、中小企業にも自立の精神がなければならない。そのうえで、日本経済を立て直すために、官民一体となって中小企業を バックアップしなければならないと思います。中小企業を支えていかなければ、日本の再生は難しい。現に国内消費は三十数カ月連続前年比割れです。これを何 とかするためにも、ある程度の消費を支える層をもっと増やさなければいけません。しかも少子高齢化で人口が減少することが予想されるわけですから、なおさ らです。

中川 中小企業を積極的に支援する。たとえば中小企業のなかにも、従業員数は1桁でも世界のナンバーワン企業という会社がたくさんあるわけです。

丹羽 そういうことです。ただ、中小企業を活性化するために、官が一律にお金をばらまくというのは最悪です。ただ「魚」を渡すのではなく て、「釣り竿」を渡して「魚」は自分で釣るようにする。農水省はかつて、ただ農家にばらまくだけでしたが、それでは「魚」を食べたら終わりです。やはりタイガー・ウッズのように怪我してでも勝つといった気概、気力をもって中小企業は立ち上がっていくべきだと思います。

日本が生きる道は「人と技術」だと腹を固めて思い切った投資を行なうことです。いまの日本で、300億円、400億円投資しても中国、韓国に笑われるだけ です。投資の額が1桁違いますよ。とにかく、今後5年はみんなで耐えなければならないでしょう。その間に日本は選択的に集中的に投資を行なわなければなら ないということです。

中川 しかし、20年間耐えてきたんですよ、日本は。20年間「耐えろ耐えろ」で、耐えるばかりでは、共産主義時代のソ連みたいな話になってしまいます(笑)。これまで世界経済は成長を遂げましたが、日本は横ばいの状態で、輸出頼みの日本経済もうまくいかなくなっている。ですから私は財政出動も含めて緊急対策を考えなければならないときだと思います。ただ、日本には省エネ技術もあり、メタンハイドレートなどの資源もあるので、それらを有効活用することを考えながら、緊急かつ長期的に思い切った対策をするべきだというのが、私の基本的な考え方です。

丹羽 私は資源自立国家というのはありえないと思います。資源自立国家ではなくて、「省資源自立国家」をめざすべきでしょう。そのために基幹となるのが「人と技術」であり、ここに思い切った投資をする必要があるのです。

そして何より国際政治はパワーによって動きます。ですからたとえば日本が国連安全保障理事会の常任理事国になるか否かでは、大きな差があります。やはり強い日本でなければなりません。貧乏国・日本では誰も信用してくれません。そのことを考えながら、まず、資源の安定供給先を確保する。たとえば中近東や豪州と良好な関係を築く。それから省資源エネルギー、代替資源エネルギーの自主開発に力を注ぐ。

たとえば、先ほどのメタンハイドレートもそうですし、燃焼時の二酸化炭素や窒素酸化物を減らし環境負荷を抑えるクリーン・コール(石炭)です。いまだに世界では石炭が一次エネルギーの3分の1を占め、圧倒的です。アメリカも中国も石炭をどんどん消費しています。しかし、このままでは先が見えていますから、クリーン・コールの技術はきわめて有望です。それから資源の備蓄をしっかり行なうこと。これらが非常に重要です。

中川 資源の確保ということを考えれば、たとえば鉄鋼会社がこのまま世界で寡占化していけば、日本はそれこそ買い負けしてしまいます。私が経産大臣のときには、石油公団は分割していくことが正しいという考え方でしたが、これはとんでもないことでした。逆に大きな石油メジャーをつくらないと日本は確固とした資源確保政策ができなくなると思います。しかし、残念ながら受け入れられませんでした。何でもかんでも分割民営化すればいいというのは、大きな間違いです。

丹羽 まさにそのとおりです。この分野は民間企業では限界があります。国の政策として考えるべきです。たとえば中国の石油会社は次から次へと石油の確保に手を打ってきている。それに対して日本はまったく危機意識がない、鈍感な国だというしかありません。

中川 おっしゃるとおりです。アメリカの大手石油会社クラスの取扱量は日量約500万バレル、それに対して日本の大手は100万バレル以下です。このままでは日本は国際競争に負けてしまう。自動車会社も製薬会社も食品会社も、日本は数が多いですね。相手は超メジャーかナショナルカンパニーです。とにかく日本が国際競争力をもたなければ、国家としても企業としてもダメなのです。

丹羽 強い日本。元気を出して立ち上がりましょう。まだまだやることは山ほどあります。最後に意気投合しましたね(笑)。


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