ネットという地下水(メディアについての雑考 前編)

 
メディアについての雑考を。全2回でエントリーする。

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少し古いデータだけれど、MDBネットサーベイChinaが、2006年2月から3月にかけて、『日中若者のメディア接触実態調査』を実施した。

内容は、日本と中国の若者(23歳~28歳)を対象として、日常の情報入手におけるメディア利用実態の比較したもの。

やはりというか、既に、インターネットがテレビを凌駕している結果が出ている。

情報の個別領域毎での媒体利用頻度の日本の調査結果は以下のとおり(1,826票(有効回答数))

○ 政治経済(日本)
第1位「新聞」(60.9%)、第2位「インターネット」(59.2%)、第3位「テレビ」(47.0%)

○ 企業全般・産業全般(日本)
第1位「インターネット」(63.2%)、第2位「テレビ」(30.7%)、第3位「新聞」(30.2%)

○ 食生活・料理・外食(日本)
第1位「インターネット」(日本57.2%)、第2位「テレビ」(日本46.6%)、第3位「新聞」(28.7%)

○ 音楽(日本)
第1位「インターネット」(72.4%)、第2位「テレビ」(52.2%)、第3位「ラジオ」(34.4%)

○ 教育・学習・自己啓発(日本)
第一位「インターネット」(70.2%)、第2位「テレビ」(39.4%)、第3位「新聞」(26.3%)
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この中で興味深いのは、政治経済や食生活あたりはまだ、インターネットとテレビの比率は拮抗しているのだけれど、教育・学習・自己啓発といった分野に至っては、インターネットがダントツのトップ。2位のテレビにダブルスコアをつけている。

昨日のエントリーでは、マスコミによる解散風に乗せられた人がまだまだいるといったけれど、この結果を信じれば、マスコミは情報全般において力を持っているというわけではなくて、政治経済といった分野に特化しての影響力を持っているということになる。

これは明らかに、自分で取りに行く情報に至っては、テレビはインターネットに遠く及ばないことを示している。

確かに、情報の検索しやすさとか、情報の量を考えた場合、いつでも好きな時に、好きなだけ情報を取ってこれるという意味ではインターネットの利便性にテレビが敵うとは思えない。

だけど、もっと大切なことは、料理や自己啓発などのように、自分で興味を持って、情報を取りに行くときには、テレビなんかよりインターネットの方がずっと多く利用しているのだけれど、そうでない場合、自分の関心や興味のない分野に至っては、何も見ないか、テレビなどのマスコミから流されている情報を漫然と見ることになりがちであること。そして、その漫然と情報に接している分野のひとつに政治経済分野があるかもしれないということ。

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だから、今はまだ、政治経済にいたっては、マスコミは力を持っていて、情報操作やなにがしかのキャンペーンを張ったりできるのだけれど、ひとたび国民が政治経済に興味を持って、自分で情報を取りに行くようになれば、おそらくテレビよりインターネットが利用されるようになることは容易に予想できる。

ねつ造報道なんかでマスメディアへの信頼が揺らいでいる。昨今は報道で間違いや偏りがあれば、すぐさまネット上で指摘される。インターネットという地下水の水位は徐々に上がっている。

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画像「若者のテレビ離れ」に関する一考察 公開日時: 2006/10/20 01:34  著者: 中島聡

 ソニーの出井さんとは、彼が現役だった5年ほど前に何度かお会いしたことがあるのだが、一番印象に残っているのが、「ソニーの一番の敵はNTTドコモ」という彼の言葉。それまで若い人たちが、AV機器や音楽・映画に使っていたお金が、携帯電話の通話・通信料金にシフトしてしまっていることを嘆いてのことだ。

 そう考えると、そのころから始まったiモードを足がかりとする携帯電話の普及と、2003年のソニーショックには、確かに深い関連があるように思えてくる。

 では、5年後の今の時点でのソニーの(もしくは日本の家電・ゲーム業界の)一番の敵は誰だろう。もちろん個別の市場では、Samsung、Apple、Microsoftなどとと戦っているし、携帯電話の通話・通信料金は相変わらず高いが、もし出井さんがまだ現役だったら、「一番の問題は、若い人たちのテレビ離れ」と言うのではないだろうか。

 注目すべきなのは、今の若い人たちが、朝起きて、もしくは、学校や会社から帰って最初に触るのは、テレビやプレステなのか、それとも、パソコンやケイタイなのか、ということである。

 私のまわりにいる人たちを見ただけでも答えは明らかとも言えるのだが、念のためにそれなりの調査機関が調べたデータをネットで探したところ、以下の二つの資料が見つかった。

資料1.国民生活時間調査報告書

資料2.日中若者のメディア接触実態調査

・10代~20代という層を見る限り、テレビを見る時間は毎年減少している。平日で2時間強、土日で2時間半強である(資料1)。
・国民全体で仕事以外(つまり趣味・娯楽・教養など)の理由でのインターネットにアクセスする人はまだ15%しかいないが、その人たちの平均時間は、平日で1時間30分以上、土日だと2時間以上である(資料1)。
・インターネットにアクセスする人に限って言えば、すでに「毎日ネットにアクセスする」人たちの方が、「毎日テレビを見る」人たちを上回っている(資料2)。

 この二つの資料からだけでも、はっきりとした「若い人たちのテレビ離れ」のトレンドは見て取れる。つまり、テレビを見たり据え置き型のゲームマシンでゲームをするよりも、mixiで友達とのコミュニケーションを楽しんだり、YouTubeで話題になっているテレビ番組の面白い場面だけをつまみ食いする方がずっと楽しいと感じている人たちが増え続けているのである。

 問題は、ソニーに限らず、テレビやゲーム端末を作っている人たちが、このトレンドこそが彼らのビジネスにとって本当の脅威であることを感じているかどうかである。「敵はSamsungとMicrosoft」と感じているのか、「敵はMixiとYoutube」と感じているか、によって戦略は大きく変わってくる。

URL:http://japan.cnet.com/blog/nakajima/2006/10/20/entry_post_20/