所信表明が代表質問で、代表質問が所信表明で(麻生政権の国会戦略 その2)

 
麻生総理は9月29日午後、衆参両院本会議で所信表明演説を行った。これまでの所信表明の慣例を破って、民主党に質問攻勢に出たものとして注目を集めている。

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麻生総理からの民主党への質問は以下のとおり

(1)国会での合意形成 
(2)補正予算
(3)消費者庁創設
(4)日米同盟と国連
(5)インド洋での補給活動の継続

各種報道では、麻生対小沢の対決に持ち込みたいのだ、と報道されているけれど、総選挙を睨んだ与党戦略としては至極当然のこと。与党による民主党に政権を渡しては駄目だキャンペーンをしている。

その是非は兎も角、それをいきなり所信表明から持ってきたことには少々驚かされた。それだけ次の選挙が政権選択選挙であるということを自覚しているのだろう。危機感の表れだともいえる。

これを見る限り、与党としてはアピールできる機会は何でも使ってやるつもりなのだろう。国会発言しかり、ぶら下がり取材しかり。おそらくは何かにつけて、政策を分かりやすく説明して、国民に訴えかける筈。最後には民主党の政策には根拠がない、と締めくくりながら。

福田前政権とはガラリと変わって、国民に向かって政治の扉を開け放したという点において、好ましい流れだといえる。マスコミがどれほどネガティブキャンペーンを張ろうとも、それを意に介さず、国民に直接訴えるという手で押し出してくる。麻生総理ならではの手法。

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所信表明がまるで野党の代表質問であったのに対して、10月1日の民主党代表質問で小沢党首は、代表質問にも関わらず自身の所信表明を行った。その要旨は民主党のマニュフェスト(政権公約)に沿ったもの。

それは、柱として「五つの約束」をあげ、高速道路無料化も含めて、政策の目標年次を二〇〇九―一二年度として「工程表」を明示した。

A.税金の無駄遣いをなくす
B.年金・医療改革
C.子ども手当創設をはじめとする子育て支援
D.最低賃金の引き上げなど雇用対策
E.農業の戸別補償制度などの農林漁業保護

ここで、この民主党マニュフェストを、先の麻生総理の所信表明であげられた5つの質問と比較してみる。なんのことはない。ほとんど回答されていない。

唯一(4)の日米同盟と国連について民主党の外交・安全保障の基本方針の中で、日米同盟と国連中心主義とは矛盾しないと触れたくらい。肩透かしを食らわしたというのが正直なところ。

事実、細田自民党幹事長は自身の代表質問で、麻生総理の民主党への問いかけに答えていないと気色ばんだ。

政府中枢は一丸となって、政策論争に持ち込むように意思統一がなされているように思う。麻生総理の統率力の一旦が垣間見える。

麻生総理は組閣時、閣僚達に「役人を使いこなせ」と言ったそうだけれど、その言葉どおり麻生総理は閣僚をも使いこなしているようにさえみえる。


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画像経済対策、必要に応じさらなる対応も弾力的に=所信表明演説で麻生首相 2008年 09月 29日 15:06 JST

[東京 29日 ロイター] 麻生太郎首相は29日午後、衆院本会議で就任後初の所信表明演説を行い、日本経済の立て直しが「緊急な上にも緊急の課題」と位置づけ、当面は景気対策に取り組む考えを強調した。

 8月に策定した緊急経済対策の裏づけとなる2008年度補正予算案の成立は「焦眉の急」と述べ、臨時国会での成立を訴えた。さらに経済対策では「米国経済と国際金融市場の行方から目を離さず、実体経済への影響を見定め、必要に応じ、さらなる対応も弾力的に行う」と述べ、追加対策を前向きに検討することを示唆した。

 <経済立て直しは3段階で、当面は景気対策>

 麻生首相は「所信においてあえて喫緊の課題についてのみ主張する」とし、その第1に「経済の立て直し」を挙げた。「当面は景気対策、中期的には財政再建、改革による経済成長」の3段階で取り組むと表明。

 景気対策については、8月に策定した緊急経済対策の実現を挙げ、定額減税についても「今年度内に実施する」と明言。さらに「米国経済と国際金融市場の行方から目を離さず、実体経済への影響を見定め、必要に応じ、さらなる対応も弾力的に行う」と述べた。 

 <財政健全化目標、達成に努力> 

 第2段階は「財政再建」とし、「財政再建は当然の課題」」としながらも、2011年度までに国と地方を合わせた基礎的財政収支を黒字化する目標について「達成すべく努力する」と述べた。

 福田康夫前首相が1月の施政方針演説で「黒字化を確実に達成する」としたのに比べると、財政再建への姿勢の後退感は否めない。麻生首相は「目的と手段を混同してはならない。財政再建は手段。目的は日本の繁栄だ。経済成長なくして財政再建はない」とし、「麻生内閣の目的は日本経済の持続的で安定した繁栄こそにある。わが内閣はこれを基本線として踏み外さす、財政再建に取り組む」と述べた。

 所信表明では「消費税を含む抜本税制改革」についての考え方は示されず、「年金等の社会保障の財源をどう安定させるか、その道筋を明確化すべく、検討を急ぐ」とするにとどめた。

 第3段階として、「改革による成長」を追い求めるとし、新たな産業や技術を生み出すことによって、新規の需要と雇用を生み出す狙いで策定された「新経済成長戦略」を強力に推し進めるとした。

 <日本経済は全治3年、「後退局面」認める>

 足元の日本経済については「今、景気後退の上に米国発の金融不安が起きている」として、首相として初めて「景気後退」との現状認識を率直に認め、あらためて「全治3年」との厳しい認識を示した。ただ、3段階での経済立て直しに取り組むことで「3年で日本は脱皮できる。せねばならないと信じる」との決意を表明。「緊急総合経済対策を裏付ける補正予算、地方道路財源を補てんする関連法案を速やかに成立させることが、国民に対する政治の責任だ」と述べた。

 <長寿医療制度、1年めどに必要な見直しを検討>

 また、麻生首相は「消えた年金」問題のほか長寿医療制度など、暮らしの安心にかかわる諸問題に取り組む考えを表明。長寿医療制度問題では「この制度をなくせば解決するものではない」とし、「1年をめどに必要な見直しを検討する」と述べた。

 <民主党との対決を意識> 

 衆参のねじれ現象を受け、政策実現の要となる国会運営に関しては「民主党は、自らが勢力を握る参議院において、税制法案をたなざらしにした。その結果、2カ月も意思決定がなされなかった。政局を第一義とし、国民の生活を第二義、第三義とする姿勢に終始した」と民主党批判を展開。「合意形成のルールを打ち立てるべきだ。民主党にその用意はあるか。それとも国会での意思決定を否定し、再び、国民の暮らしを第二義とすることで自らの信条をすら裏切ろうとするのか。国民は目を凝らしている」とけん制。 

 麻生首相は所信表明の結びで再び国会運営に触れ「私が本院に求めるのは、与野党の政策をめぐる協議である。内外多事多難、時間を徒費することは、国民に対する責任の不履行を意味する」とし、「民主党をはじめ野党の諸君に、国会運営への協力を強く要請する」と結んだ。 

 所信表明では従来の官僚用語は姿を消し、麻生首相自らの言葉で語りかけたのが印象的だが、野党第一党の「民主党」を10回以上名指しし、迫る衆院解散・総選挙を意識した異例の対決型表明となった。

 河村建夫官房長官も午前の記者会見で「これまでの所信表明とはちょっと形が違う」と認め、「民主党との政策論争をしっかりしたいとの気持ちが表れている。麻生カラーを出した所信表明との印象だ」と述べている。

URL:http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-33983420080929



画像衆院代表質問:衆院本会議で1日に行われた代表質問と、麻生太郎首相の答弁の要旨は次の通り。


 ◇首相の所信は誹謗中傷--小沢一郎・民主党代表
 麻生首相の所信表明演説には明白な理念も具体的なビジョンも政策もない。唯一具体的なのは民主党への誹謗(ひぼう)中傷だけだ。私の所信を申し上げ、答弁としたい。近く行われるであろう総選挙は、自公政権を続けるか、民主党を中心とする政権に代えるか、国民生活の「仕組み」を選ぶ重要な機会だ。

 民主党のマニフェスト(政権公約)は「新しい生活をつくる五つの約束」が中心だ。

 第一に、国の総予算212兆円を全面的に組み替える。「埋蔵金」も活用し、特別会計、独立行政法人は原則廃止し、09年度8・4兆、10、11年度14兆、12年度20・5兆円の財源を生み出す。

 第二に、年金加入者全員に「年金通帳」を交付し、「消えない年金」「消されない年金」へ改める。後期高齢者医療制度は廃止し、被用者保険と国民健康保険を段階的に統合する。第三に、1人当たり月額2万6000円の「子ども手当」を中学卒業まで支給する。第四にパートや契約社員を正規社員と均等待遇にする。2カ月以下の派遣労働は禁止する。第五に、農業の戸別所得補償制度を創設し、林業、漁業でも所得補償を検討する。

 外交・安保の第一原則は日米同盟の維持・発展。米国の言うがままに追随するのではなく、対等のパートナーシップを確立し、より強固な関係を築く。アジア・太平洋諸国と信頼関係を構築。日本の安全保障は日米同盟を基軸としつつ、最終的には国連の平和活動により担保される。

 ◇強引な小沢政治、麻生氏と人気差--細田博之・自民党幹事長
 民主党の小沢一郎代表は自民党を離党し、新生党を作り、細川連立政権を樹立したが、わずか9カ月で崩壊させた。強引な政治をする小沢氏のイメージが、世論調査での首相と小沢氏の差として、表れている。本当に次の衆院選で、民主党に政権移譲していいのか、非常に疑問だ。

 国際金融問題が深刻化し、政治には一刻の猶予も許されない。首相は力の限り、突き進むことを期待する。首相は「日本経済全治3年」と診断し、まず景気対策や財政再建、成長政策が重要だと訴えたが、同感だ。まずは補正予算案を早急に成立させなければならない。

 インド洋での海上自衛隊の給油活動を継続する新テロ対策特別措置法改正案の延長実現に向けて、首相の決意をうかがう。後期高齢者医療制度については「うば捨て」などという短絡的議論をすべきではない。首相は所信表明演説で、必要な見直しを検討すると話したが、基本的な考え方をうかがいたい。

 ◇もう与野党が逆転したよう--鳩山由紀夫・民主党幹事長
 首相の所信と答弁は、小沢「首相」への代表質問のようで、「もう与野党が逆転したのか」と思った方々も多かったと思う。補正予算の賛否は予算委員会の審議を通して決めるのが当然だ。6日から審議しよう。自公議員の民主党批判は自由だが、自分たちの政策の財源をまず確かめるべきだ。自公政権の延長線上に明日はない。

 ◇民主、論戦を真正面から受けよ--麻生首相の答弁
 ◆衆院解散

 首相が任期半ばで2代続けて辞任し、国民に迷惑をかけたことは改めておわびする。しかし、そのことと自民党が政権担当能力を失ったかは別の話。確固たる政権担当能力を持ち日本の未来に責任を持てるのは我が自民党と固く信じている。昨年11月、福田(康夫前)首相との大連立の話が崩れた時、小沢代表は「民主党はいまださまざまな面で力量が不足している」と、政権担当能力がないと自ら認めたと記憶している。

 国会において、各党の主張を明確にし結論を導くことは全く異存はない。しかしいたずらに審議を長引かせ結論を先送りすることは、国民に対する責任の不履行ではないか。解散については私が決めさせていただく。

 ◆小沢氏の代表質問

 小沢代表が自らの所信を述べることで、一昨日の私の質問への答えとなったことは誠に残念。特に私が尋ねたいのは、今国会で実現しなければならない補正予算、消費者庁、インド洋での給油支援活動の継続への賛否だ。

 民主党の基本政策については、日を改め私どもの主張と競い合いたい。その時には論戦に真正面から当たるようお願い申し上げる。だが、先ほど提示した補正など3点は急を要するのでぜひ民主党の答えを頂きたい。

 ◇旧来型ばらまきではない
 ◆景気対策

 日本経済は厳しい局面に立っている。当面は景気対策、中期的には財政再建、改革による経済成長という3段階で臨む。3年で脱皮できるし、せねばならぬと信じている。

 緊急総合経済対策は国民生活に直結する具体的な施策を盛り込んでおり、補正予算を速やかに成立させることが必要だ。ばらまきとの指摘があったが、真に必要な対策に財源を集中するなど、旧来型の経済対策とは一線を画する。

 ◆財政再建

 プライマリーバランスについては、2011年度までの国、地方の基礎的財政収支の黒字化を達成すべく努力する。埋蔵金が特別会計の積立金などを指すなら、今後も財政健全化のために可能な限り活用していく。今後、社会保障制度を持続可能で安心できるものにすることは重要で、消費税引き上げは避けて通れないだろう。ただ、現在の経済状況においては困難で、経済動向などを注視して判断をしなければならない。

 ◇消費者庁3法成立に全力
 ◆後期高齢者医療制度

 廃止ではなく、高齢者に納得してもらえるように改める。1年を目途に幅広い議論を進める。

 ◆消費者庁

 事故米が転用されたことを見逃し、適切な対策を講じなかった行政の責任は誠に重大だ。

 事故米問題や食品の表示偽装に対する国民の不安と怒りを思えば悠長な議論はしておられない。消費者庁関連3法案の早期成立に全力を尽くす。

 ◆インド洋上の給油活動

 補給支援活動は、継続がぜひとも必要。わが国の国益をかけ、わが国自身のためにしてきた活動の一つだ。テロとの戦いは依然継続しており、多くの国が尊い犠牲を出しながら取り組みを強化している中で、国際社会の一員たる日本が手を引く選択はない。

 ◆北朝鮮問題

 拉致、核、ミサイルといった懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を図るとの基本方針は不変。拉致問題は、8月の日朝間の合意に従い、早期に全面的な調査のやり直しを開始するよう強く求める。

 ◆中山成彬前国土交通相の問題発言

 一連の発言は閣僚として誠に不適切で、関係者、国民に深くおわび申し上げる。任命責任は私にある。

 (05年の総務相当時、日本を「一言語、一文化、一民族の国」と発言したことについては)私の過去の不用意な発言で関係者に不快な思いをさせたことについても、おわびさせていただく。今後首相として言葉の重みをわきまえつつ発言してまいりたい。

毎日新聞 2008年10月2日 東京朝刊

URL:http://mainichi.jp/select/seiji/news/20081002ddm012010091000c.html