シビリアンコントロール (田母神論文問題について その1)


田母神論文について考えてみたい。全3回シリーズでエントリーする。

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『防衛相が「村山談話」と見解の相違があると判断して解任するのは政治的に当然だが、書いたものはいささかも間違っているとは思わないし、日本が正しい方向に行くために必要なことだと思っている。』

11月11日に行われた、参院外交防衛委員会の参考人質疑での田母神前航空幕僚長の答弁のひとこま。

田母神元空幕長は、アパグループによる懸賞論文に「日本は侵略国家であったのか」と題した論文を発表して、日本の侵略行為は濡れ衣だと政府見解と異なる主張を行い、更迭された。

当初、防衛省側は本人による辞表提出を求めたのだけれど、本人が拒否したこともあり更迭の止む無きに至った。

この問題について、マスコミやネット上で様々な意見が出されているけれど、例の論文の内容そのものはさておき、これをシビリアンコントロールと、政府見解の2つの側面から考えてみたい。

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シビリアン・コントロールの定義は以下のとおり(Wikipediaより)


 『文民統制・シビリアンコントロール(Civilian Control Over the Military)とは民主主義国における軍事に対する政治優先または軍事力に対する民主主義的統制をいう。すなわち、主権者である国民が、選挙により選出された国民の代表を通じ、軍事に対して、最終的判断・決定権を持つ、という国家安全保障政策における民主主義の基本原則』 



国民の代表たる、政府の文民の指揮下に軍が置かれるという原則。(厳密にいえば、自衛隊は正式な軍隊ではない)

もちろん、戦争の素人である文民が軍隊を実際に直接指揮できる訳はないから、武官のトップを、任命することによって間接的に統率している。つまり武官の人事権(任命・剥奪)と宣戦布告の判断の権限を文民が握ることで、軍をコントロールするという仕組み。

シビリアン・コントロールが成立しているということは、すべからく文官が武官を任意に任命または罷免できる権限を有していることに他ならない。

だから、田母神元空幕長の論文を問題視して文官である防衛大臣が、武官高位である空幕長を更迭し、田母神元空幕長もそれに従ったということは、シビリアン・コントロールがきちんと機能していることを示してる。


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画像前空幕長論文問題:田母神俊雄・前航空幕僚長参考人質疑 詳報--参院外交防衛委

 ◇論文応募は組織的か--民主・浅尾氏
 ◇指示すれば1000本可能--田母神氏

 浅尾慶一郎氏(民主) 論文応募を組織的に薦めたか。

 田母神俊雄・前航空幕僚長 航空幕僚監部教育課長に紹介した。指示したのではないかと言われるが、私が指示すれば1000を超える数が集まる。

 浅尾氏 論文を募集した「アパグループ」から資金や便宜を受けたことはないか。

 田母神氏 一切受けていない。

 浅尾氏 昨年5月に「鵬友」(空自の隊内誌)に同じ意見を発表している。内局から注意はあったか。

 田母神氏 ない。

 浜田靖一防衛相 チェックしていなかったのは事実。多くの隊員に影響を及ぼした可能性も否定しない。ダブルスタンダードのないようにしていきたい。

 浅尾氏 「政府解釈を変えたほうがいい」「憲法改正したほうがいい」と世論喚起しようと思ったのか。

 田母神氏 一般に話されていることを書いただけだ。これほど意見が割れるようなものは直したほうがいいと思う。

 浅尾氏 更迭された感想を。

 田母神氏 防衛相が「村山談話」と見解の相違があると判断して解任するのは政治的に当然だが、書いたものはいささかも間違っているとは思わないし、日本が正しい方向に行くために必要なことだと思っている。


 ◇懲戒手続きせず逃げ--民主・犬塚氏
 ◇審理で問題が分かる--田母神氏

 犬塚直史氏(民主) 政府の受け止めが軽すぎる。麻生太郎首相の答弁も非常に軽い。

 防衛相 大変憤慨している。方法論はいろいろあったが、一番早い形で辞めてもらうのが重要だと思ったので退職してもらった。

 犬塚氏 あいまいで、きちっとした対応をしていない。どうして懲戒手続きの対象としなかったのか。

 防衛相 来年1月に定年が確定すれば審理が終わる。徹底抗戦すれば時間がかかり、尻切れとんぼの可能性があると判断した。最善の判断と思っている。

 犬塚氏 軽い。

 防衛相 幕僚長を解いたという時点で、本人に自覚してほしかった。政府見解と異なる主張が表に出て自衛隊員の士気が落ちることは避けたかった。

 犬塚氏 逃げているという印象を持たれて当然だ。

 防衛相 そうは思っていない。

 田母神氏 私は「どこが悪かったのかを審理してもらったほうが問題の所在がはっきりする」と言った。


 ◇文民統制どう考える--自民・小池氏
 ◇いろんな段階で担保--浜田防衛相

 犬塚氏 審理に入ったら、政治的な意見を述べたか。

 田母神氏 「我々にも表現、言論の自由は許されている」と主張するつもりだった。

 犬塚氏 統合幕僚学校長という経歴を持ち純真な自衛隊員には雲の上のような存在だ。

 田母神氏 統幕学校の学生は1佐で40歳過ぎで、とても純真とは言えない。議論するのは学校の中だけ。それもできない日本は本当に民主主義国家か。どこかの国と同じになってしまう。

 小池正勝氏(自民) 04年9月15日の「日本を語るワインの会」に「アパグループ」の元谷外志雄代表夫妻、民主党の鳩山由紀夫幹事長夫妻とともに出席したか。

 田母神氏 はい。

 小池氏 文民統制をどう考えるか。

 防衛相 軍事力は使い方を誤ると国民への脅威にもなりうる。憲法で首相と閣僚は文民と定められているなど、さまざまなレベルで文民統制が制度的に担保されている。

 小池氏 「懲戒手続きをしたかったが、時間がかかり、その間ずっと給料を払うことが国民の理解を得られない」と考えたのか。

 防衛相 その通り。空将という身分を保有したまま政府見解と異なる意見を主張するようなら、自衛隊内外に与える影響が大きい。

 小池氏 一般公務員なら処分に時間がかからない。自衛隊員は審理手続きを取らなければ処分できず、時間がかかる。処分したくてもできないことをどう考えるか。

 防衛相 「できない」ではなく「審理の途中で定年となってできなくなる」と言っている。


 ◇退職金返還しないか--公明・浜田氏
 ◇ネットで58%が支持--田母神氏

 浜田昌良氏(公明) 教育課にどのような意図で論文応募の紹介をしたのか。

 田母神氏 日本が悪かったという論が多すぎる。「日本の国は良い国だった」と言ったら、解任されてびっくりした。

 浜田氏 国民にはシビリアンコントロールに関する不安がある。

 河村建夫官房長官 十分な担保があるが、さらに政府として文民統制確保に努力する。

 浜田氏 良心の痛みはないか。

 田母神氏 日本ほど文民統制が徹底した軍隊はない。論文を出すのに大臣の許可を得ている先進国はない。言論統制が徹底した軍には自衛隊をすべきではない。政府見解で言論を統制することになるのはおかしい。

 浜田氏 他省庁や民間との人事交流も必要ではないか。

 防衛相 幹部自衛官は他省庁への出向や民間企業での研修も行っている。広い視野に立った人材育成のための研修も行っている。

 浜田氏 退職金を返還しないのか。

 田母神氏 その意思はない。今朝9時時点で(インターネットの)ヤフーで、58%が私を支持している。


 ◇侵略戦争の視点持て--社民・山内氏
 ◇日本だけ批判間違い--田母神氏

 井上哲士氏(共産) アパグループの元谷代表は小松基地でF15に搭乗している。

 防衛相 部外者の体験搭乗は06年度に3回実施、08年度は3回。訓令に基づき、幕僚長または権限を委任された部隊等の長が承認している。

 田母神氏 元谷代表は98年から小松基地金沢友の会の会長として強力に支援してもらった。10年間の功績に対して、部隊の要請に基づいて許可をした。

 井上氏 自衛隊員のアパホテル利用に特別な契約はあるか。

 防衛相 防衛省共済組合の契約施設の一つにアパホテルが含まれている。結果として宿泊割引を受ける。

 井上氏 田母神氏は統幕学校で一般課程に国家観、歴史観という項目を設け、講義の計画を主導した。

 田母神氏 日本をいい国だと思わなければ、きちっとした国家観、歴史観を持たせなければ、国は守れないと思った。

 山内徳信氏(社民) 戦前の軍隊が暴走した状況に立ち至っているという危機感を感じている。

 防衛相 指摘の思いをしっかりと対処していきたい。

 山内氏 侵略戦争が問われ、平和憲法が生まれた。現職の自衛隊員もそういう視点に立たなければならないのではないか。

 田母神氏 日本だけがそんなに悪いと言われる筋合いもない。

 山内氏 集団的自衛権も行使し、武器を堂々と持とうというのがあなたの本音か。

 田母神氏 そうすべきだと思う。

毎日新聞 2008年11月12日 東京朝刊


URL:http://mainichi.jp/select/seiji/news/20081112ddm005010143000c.html



画像CIVILIAN CONTROL シビリアン・コントロール COLUMN 005
 
 文民統制(シビリアン・コントロール)は、一般的に政治が軍事を統制すること或いは政治の軍事に対する優位を定めた制度を指し、その本旨は国家が保有する軍事力或いはその武力組織である軍隊を国を代表する政治がしっかり管理し、必要な場合これをコントロールして合理的かつ適切に行使することにある。我が国においても第2次世界大戦の反省から、その概念や思想が国の政治や行政システムに組み込まれ、自衛隊はその統制下に置かれている。即ち、第2次世界大戦後に制定され、1946年11月に公布された現在の憲法では、内閣総理大臣はじめ国務大臣は「文民」でなければならないとされている。そして「文民」の解釈については、政府の国会答弁によると、「①旧陸海軍の職業軍人の経歴を有する者で、軍国主義思想に深く染まっていると考えられる者、②自衛官の職にある者、以外の者を言う」(昭48.12.7.衆議院予算委員会理事会)となっている。また我が国におけるシビリアン・コントロールの現状認識については、同じく「①内閣総理大臣及び国務大臣は憲法上すべて文民でなければならないこと、②国防に関する重要事項については国防会議の議を経ること、③国防組織である自衛隊も法律、予算等について国会の民主的コントロールの下に置かれていることにより、その原則は貫かれている」とされている。(昭55.10.14.衆議院)

 政治を実行に移す行政の分野においても行政府の長(大臣)に対する官僚による補佐機能も間接的にはこれに関わりをもつと一般に理解されている。防衛庁の場合、現行法制上(防衛庁設置法・自衛隊法)文民である防衛庁長官を庁の所掌事務に関して直接補佐するのは、文民の参事官である官房長や局長であり、自衛官の最上位にあって統合幕僚会議の会務総理を職責とする統合幕僚会議議長(将)はもとより、陸海空各自衛隊の実質的な最高責任者である幕僚長(陸・海・空将)も、それぞれが所掌する自衛隊の隊務に関する最高の助言者として長官を補佐することになっているものの、官房長等に課せられているような防衛庁の所掌事務全般に関して長官を補佐する立場には置かれていない。つまり日本の場合は諸外国とは異なって政治家の下に軍人が配置されるのではなく、間に文民官僚等で構成する「内局」が存在し防衛に関する政策、装備、人事、経理などを担当している。作戦運用等軍事専門事項を文民官僚が直接補佐する事に関して問題視するむきもある。

 民主主義国家において、軍事力(組織)の管理及び行使に対してシビリアン・コントロールが適正に機能することは、一国の安全保障及び国防上当然かつ基本的な要素である。そのため我が国では、先ず第一に自衛隊を組織し管理する、即ちコントロールする側の政治(家)が国際安全保障情勢等の適切な認識に基づき、リーダーシップを発揮することが重要であり、これを支える国民の安全保障や国防に対する関心と健全な理解がその基盤になる。また法治国家として、特に有事に政治による自衛隊のコントロールを良く機能させて自衛隊が適正かつ効果的に任務を遂行するため、平時にいわゆる「有事法制」を整備しておく必要がある。

URL:http://weaponsmanual.risu.com/civilian.htm