車という在庫(未来の車社会について考える その1)

 
未来の車社会について考えてみたい。全3回シリーズでエントリーする。

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金融恐慌がどんどん実体経済に悪影響を及ぼし始めている。09年3月期連結決算で1000億円規模の赤字を計上したトヨタは、国内外で211万台以上の減産を発表した。

金融恐慌の影響で、車が売れなくなっているのは勿論そうなのだけれど、国内に目を転じると、特に若者層において、車に対するニーズそのものが変化してる。

朝日大学マーケティング研究所の2008年2月の調査によると、首都圏在住の20歳~39歳男女で、車を持っている人の約7割は、週4日以上運転しないという。

その反面、「ちょっとした用事・買い物」の用途・目的で車を使う頻度が大きく増えているのに対して、「テーマパーク」や「ドライブ」といった非日常のイベント的な用途・目的で車を使う頻度は下がっていて、『自動車が単なる移動手段としての道具と位置付けられ、長距離の移動を楽しく過ごすという意識が以前ほど感じられない』と結論付けられている。

特に都会では、電車やバス網が発達しているから、無理して車を持つ必要まではない。だけど、有れば有るで便利だし、実際ちょっとした用事には使われているという調査結果がある。また、田舎のように交通網が十分に整備されていないところであれば、もっと車は必要とされる。

だから、自動車という存在自体が全く必要なくなるという事はない。小さな子供が沢山いる家族には大きなワゴンは欲しいだろうし、病院に行くのにいつも救急車を呼ぶ訳にもいかない。

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本来の車の機能を考えた場合、その役目は人を含めた物資の輸送手段。その輸送「手段」として個人の車のあり方を考えてみると、実に無駄が多いことに気づく。

普段の個人の生活で、365日、毎日24時間、物資の輸送手段を必要とする人は少ない。輸送業を生業としている人でも寝ながら運転はできないし、食事や休息だって必要。

車を単なる移動手段として考えた場合、必要なときに必要なだけあればそれで事足りる。だけど、先の調査結果でも分かるように、週の半分も運転しない人が大半を占める現状は、移動「手段」としての車が、普段の生活の中では僅かな時間しか必要とされていないことを示してる。駐車場で寝かされている時間のほうがずっと長い。

これを企業の商品に置き換えて考えてみると、めったに売れない商品を「在庫」として抱えていることと同じ。駐車場代という名の倉庫代は嵩むし、持ってるだけで税金も取られてゆく。企業経営的感覚からみれば、持っているほうがおかしい、レンタルで十分だと考えるのが普通。

だから、これからの社会は、車を必要とする状況、つまり車が欲しい時間と場所がより個人の要求に沿ったものになっていって、在庫は極力持たない方向にシフトしてゆく。

本当にその個人にとって、ピンポイントで必要な時間と場所に車が欲しい。そんなニーズが広がっていくことは疑いない。


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画像トヨタ、下期は営業赤字 1000億円規模の公算 '08/12/14


 トヨタ自動車が、二〇〇九年三月期連結決算の業績予想を再度下方修正し、下期(〇八年十月―〇九年三月)は営業赤字を計上する見通しとなったことが十三日、明らかになった。赤字幅は一千億円規模となる公算が大きい。

 円高と販売台数の低迷がこれまでの想定を超えるペースで進んでいるため。半期での営業赤字は、一九九九年に米国会計基準を導入して以来、初めてとなる。

トヨタも含めた自動車・トラック大手十二社が二〇〇八年度に世界で計二百十一万三千四百台以上の減産を決めたことが十三日までの共同通信社の集計で判明した。

 マツダが国内で十万台以上、ホンダも北米拠点で十一万九千台の追加減産を公表している。

 トヨタは十一月の中間決算発表時に、通期の連結営業利益予想を一兆円引き下げ六千億円としていたが、異例の再下方修正を迫られることとなった。

 通期での営業黒字も大幅に減少し、〇八年三月期と比べて八割程度の減益となる方向。修正の発表は来年一月以降とみられる。

 トヨタは「トヨタショック」と言われた中間決算発表で、〇九年三月期の連結販売台数(ダイハツ工業、日野自動車含む)を八百二十四万台と想定した。ただその後の販売低迷は大型車から小型車、先進国から新興国にも波及。「十一月の予想から百万台は下振れる」(トヨタ関係者)との見方も出ている。

 為替レートも下期は一ドル=一〇〇円と想定したが、その後、実際には九〇円台前半で推移。一円の円高で約四百億円の為替差損が発生し、対ユーロでも大幅な円高が続いている。

 米国をはじめとする主要国の新車需要がこのまま回復せず、円高が続いた場合、二〇一〇年三月期は通期でも営業赤字となる可能性さえある。

URL:http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200812140048.html



画像「若者のクルマ離れ」に関するマーケティングデータ~20代・30代の自家用車利用実態と興味の対象~ 2008年10月15日 掲載

1. 「保有者」の運転頻度と最近1ヶ月の運転の用途・目的

「保有者」の約2割は運転は週1回未満30代は「家族の送迎」「外食時の移動」が運転の用途・目的として多い

■自家用車を保有している層(以下「保有者」)の運転頻度は、「週2~3日」「週1日程度」が大きなボリュームを占めており、約半数の人がこれらに属する。

■保有者の約2割は「月2~3日」「月1日程度」「それ以下」の頻度でしか運転していない。

■男性30代の運転頻度が高い傾向にあり、女性20代は運転頻度が比較的低い。

■最近1ヶ月の運転の用途・目的では、「ちょっとした用事・買い物」「外食時の移動」「家族の送迎」「郊外のショッピングセンターに行く」といった日常用途が全体的に多い。

■また、男女ともに30代において「家族の送迎」「外食時の移動」が比較的に高い。一方で20代では男性において「デート」「アウトドア・スポーツ」が比較的高く、女性において「友人・知人の家に行く」「ドライブ」「テーマパーク・アミューズメント施設に行く」が比較的高い。


2. 「保有者」の用途・目的別運転頻度の変化

運転の用途・目的が日常的なものになっている

■20代、30代の「保有者」の運転頻度の変化(2~3年前と比べて)では、「変わらない」とする回答が多いながらも、多くの用途・目的で運転頻度が下がっている傾向がある。

■増減差でみると、「テーマパーク・アミューズメントパークに行く」「都心のデパートに行く」「デート」「帰省」「ドライブ」といった非日常の
イベント的な用途・目的で下がっている。

■一方で「ちょっとした用事・買い物」の用途・目的は大きく増えている。


3. 「非保有者」の自家用車に乗車する頻度、自家用車購入意向、その用途・目的

男性の「非保有者」は、ほとんど自家用車に乗らない乗っている女性も日常的な用途・目的がほとんど

■「非保有者」が他人の運転する自家用車に乗る頻度は、男性において顕著に低く7割強が「それ以下」としている。

■乗車している割合の多い女性では、「ちょっとした用事・買い物」「家族に送迎してもらう」などの日常的な用途・目的が多い。

■自家用車の購入予定がある「非保有者」は、男性20代、男性30代、女性20代で1割強。女性30代のみ顕著に低く4%である。

■購入予定がある「非保有者」の購入の用途・目的では、「旅行」が比較的高い。

■一方で「家族の送迎」「友人・知人の送迎」といった用途・目的は比較的低く、必要性に迫られた購入予定は少ないと考えられる。


4. 「保有者」と「非保有者」の意識・行動

一人でいることが多く、家に居がちな「非保有者」女性30代において自家用車保有は家族の影響が大きい

■「一人で過ごすことが多い」では、「非保有者」が全体的に「あてはまる」と答える割合が高い。また「休日は出かけるより家にいるほうだ」も同じく「非保有者」が全体的に「あてはまる」と答える割合が高い。「非保有者」は一人で過ごすことが多く、家に居がちである。

■「家族がいなかったら自動車は持たないと思う」では、「保有者」「非保有者」ともに女性30代において「あてはまる」が高い。「保有者」「非保有者」を比べると「あてはまらない」と答えた割合が、「非保有者」で低く、自分本位の自家用車保有に対する意識が低い。


5.「保有者」と「非保有者」の興味の変化

全体的に電気・電子機器と「国内旅行」の興味が増えている

■「保有者」「非保有者」ともに「パソコン」「生活家電」「録画再生機」「デジタルカメラ」といった電気・電子機器の興味が増えている。また、「国内旅行」も同様に両者において増えている。

■ 「保有者」「非保有者」ともに興味の傾向は似ているが「自動車」については、「非保有者」において「増えた」の割合が低く、「減った」の割合が大きくなっている。


6.「保有者」と「非保有者」の現在の興味

上位の項目ほど、「非保有者」のほうが興味を持っている

■全体として、「パソコン」「国内旅行」「海外旅行」「洋服・靴」「投資」「家庭用ゲーム機・携帯ゲーム機」は興味が持たれている。

■上位の項目では「保有者」より「非保有者」のほうが興味を持っている。

■「テレビ」「アウトドア・スポーツ」「自動車」「携帯電話」「住宅・不動産」では「保有者」のほうが興味が高い。

■「非保有者」に限れば「自動車」は「バイク」に次いで興味が持たれていない。


7.データの総括

■近年、「若者のクルマ離れ」が叫ばれている。「保有者」においては、日常的な用途での利用が増え、デート、帰省、娯楽などでの利用が減少している。自動車が単なる移動手段としての道具と位置付けられ、長距離の移動を楽しく過ごすという意識が以前ほど感じられない。20代・30代の若者が何人かで車の中でワイワイガヤガヤしてドライブするといったシーンは今は昔なのかもしれない。軽・小型自動車の人気もこうした背景の上にあると考えられる。このように利用用途が縮小していく中では、様々な用途に対応した自動車のラインナップよりも、限られた用途に適した自動車間での差別化が自動車販売において重要になるだろう。

■ 一方、「非保有者」は、一人で過ごすことが多く、休日は家に居がちである。また「家族がいなかったら自動車を持たない」と考える人が多い。逆にいえば、結婚して子供が産まれれば自動車の必要性が高まると期待できるが、非婚化・晩婚化が続く社会情勢では、自分としての自動車の利用に積極的でない若者が自動車を持つ可能性は低いままだろう。

■自家用車の保有には高額な維持費がかかるが、「非保有者」はこうした維持費を払う必要がなく、その分の金額を他の消費に回していると考えられる。具体的には「パソコン」「海外旅行」「洋服・靴」「投資」であり、これらは「保有者」においても興味を持たれており、自動車の地位低下の背景になっていると考えられる。

URL:http://www.reposen.jp/1479/14/66.html