
自然にはある共通したリズムが存在する。「1/fゆらぎ」と呼ばれるのがそれ。
1/fゆらぎとは、デタラメなリズムと規則正しいリズムをミックスした中間のリズムのこと。
「1/fゆらぎ」は人に快適感を与えると考えられていて、実際に人の心拍の間隔や、ろうそくの炎の揺れ方、電車の揺れ、小川のせせらぐ音や、木漏れ日、蛍の光り方、風鈴の音などに1/fゆらぎが発見されている。
最近では、わざわざ1/fゆらぎのリズムで風の強さを変えるエアコンや扇風機があるくらい。
文章の格調を考える上で、もうひとつの重要な要素になるのが聴覚的効果。日本語では、俳句のような五七五とか、和歌のように五七五七七でいえる言葉が響きが良く、美しいとされる。俗に言う美しいリズムの文章。
実は、日本語の美しい文章には「1/fゆらぎ」がある。
小林恒夫農学博士は、日本の古歌である万葉集や百人一首の歌を解析してそれらの殆どが1/fリズムを持っていることを発見した。
小林博士は、万葉集や百人一首の歌の文字を一文字づつ分解して、あいうえお順に番号を振って、それぞれの文字がどれ位の頻度で出現するかを解析した。その結果、百人一首100首のうち実に95首に1/fゆらぎが出現したという。また同様に万葉集短歌46首、長歌12首を調べた結果、短歌で42首、長歌で6首が1/fゆらぎを示すことがわかった。
古来からの名文や名歌と言われるものが長い年月に渡って語り継がれてきたのも、それらに内包する1/fという癒しのリズム、自然のリズムが多くの人々の心に染み渡っていったからなのだろう。
古典的教養を持っている人は、古典の持つ1/fゆらぎリズムの文章に馴染んでいる。だからそうした人が文章を書くと、ごく自然に1/fゆらぎのリズムの言葉を紡ぎだして、名調子の文章を書いてゆくことになる。
渡津海乃豊旗雲尓伊理比弥之今夜乃月夜清明己曾(巻1・15) 天智天皇
わたつみの 豊旗雲に 入日見し 今夜の月夜 さやけかりこそ
(わたつみの とよはたくもに いりひみし こよひのつくよ さやけかりこそ)

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