言葉のニュアンスと意味の圧縮(文章の格調について考える その10)


表意文字である漢字はその成り立ちから、大きく次の6つに区分される。

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1)象形文字:「山」、「川」といった、物の形を文字に適用したもの

2)指事文字:「上」、「下」などの抽象的なものを印で示したもの

3)会意文字:「林」、「見」などのように象形文字や指事文字などを組み合わせて一つの意味を表したもの

4)形声文字:「清」、「花」などのように、二つの字を組み合わせて半分は意味を、他の半分は音を表す文字のこと

5)転注文字:命令を意味する「令」という語が、やがて命令を出す人の意に転じて、「長」という語と同義になったようなもの

6)仮借文字:同音のあて字

これらの中で象形文字と指事文字の二種がすべての漢字の基本。これらは「文」(もん)と呼ばれ、原義では絵模様を表す。

漢字そのものには、語単独でも意味を持っていて、視覚的にそれが分かるようになっている。

たとえば、「しあわせ」という言葉は普通漢字で「幸せ」と書くけれど、「仕合わせ」とも書く。しあわせの語源は「しあわせる(為る+合わせる)」であって、 本来は「めぐり合わせ」の意味。時代が下るに従って、行為のめぐり合わせから、自分の気持ちに重点が移って「幸せ」と書くようになった。

だから、言葉の語源を良く知っている教養ある人ほど、同じ意味でも適切な言葉を使って微妙なニュアンスまで表現することができる。

それだけではなくて、日本語は聴覚的な要素でも複数の意味を持たせることができる。語呂合わせなんかがそれ。

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カードの暗証番号や円周率、元素周期表を覚えるときに、よく語呂あわせをして覚えたりするけれど、あれは、一つの文章に異なる別の意味を圧縮して持たせている。なぜ、そんなことができるかといえば、同音異義語が沢山あるから。

日本語は漢字に対して割り当てることができる音節の組み合わせが少ないから、同音異義語の数はどうしても多くなってしまうといわれている。

だけど、逆にその同音異義語の多さが、語呂合わせを容易にしている。いきおいそれを逆手にとって、落語のオチに使ったり、マンガのオチに使ったりする。

翻訳家のローラ・シャーノフさんは、ドラえもんの翻訳についての苦労をこう語っている。

『特に苦労したのは冗談について。そのまま訳しても意味が通らない場合が多く、自分で考えなければいけません。いちばんうまくいったと思うのは、「ニューヨーク」と「入浴」を、イギリスの観光地「バース(Bath)」と「bath(風呂)」に変えたもの。でも「貝が10個で怪獣」なんて例はどうにもお手上げでした。』


だから、日本語の文章においては、文章を綴る人が、言葉を知っていればいる程、教養があればあるほど、高密度に意味を圧縮してなお且つ微妙なニュアンスまで表現できる文章を綴ることができる。それがさらに文章に深みを与えることになる。

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文章の格調について考える その3 「集合知という市場」
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文章の格調について考える その11 「1/fゆらぎの文章」
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文章の格調について考える 最終回 「心を浄化する文章」