アスキーアート(文章の格調について考える その9)


アスキーアートというものがある。アスキーアートとは、記号などの文字を組み合わせて作成した絵のこと。画像を掲載する機能のない電子掲示板などにも使えるという特徴がある。古くはパソコン通信の時代から始まったとも言われ、今では2ちゃんねるや電子メールの署名(シグネチャ)などによく使われている。

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アスキーアート自体は、日本のみならず、欧米でも使われているけれど、特に日本のアスキーアートは、他国と比べても非常に発展していると言われている。その要因の一つとして、ひらがな、カタカナ、漢字、英字、数字、記号といった多彩な文字種類やW半角スペースの影響を受けない全角スペースの存在などがあるとされている。

表現できる文字種類が多いことが、アスキーアートの豊富さに繋がるのは勿論なのだけれど、それ以前に、文字を記号的要素と図形的要素の二つを同時に考えるという日本人の文字に対する特殊な感覚が生かされているのではないか。

アスキーアートの中には、「’(ダッシュ)」や「/(スラッシュ)」といった、細かい点や線を駆使して、絵を描く「ドット絵」に近い表現方法がある。このやり方は、どちらかといえば、文字という要素をどんどん無くしていって、文字というよりは絵画の一表現方法になってしまっている。今では、アスキーアートジェネレータなる写真から自動でアスキーアートを作ってくれるツールもあるという。

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だけど、単純な言葉をそのまま使って、かつ絵にみえるという優れたアスキーアートもまた同時に存在する。たとえば、少し昔に流行ったアスキーアートで「にしこり」というのがある。これは何を示しているかというと、実はニューヨークヤンキースの松井秀喜選手の顔を表している。

そう思ってもう一度見直してみると、確かに細めの目と頬骨のあたりの特徴が「に」と「こ」で見事に表現されていることが分かる。これは、文字としての「ニシコリ」という表音がそのまま保持されると同時に図形として松井選手の顔も表しているという優れたアスキーアートだといえる。

文字であると同時で絵でもあるというのは、それこそ象形文字に源流を持つ表意文字の特徴でもあるのだけれど、既存の言葉や文字を崩すことなく、こうした表現を可能にする感覚は、「漢字」という図像記号と「かな」という音声記号が混在した言語を母国語とする日本人の特質ではないかとさえ思えてくる。

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本シリーズエントリー記事一覧
文章の格調について考える その1 「ウェブ2.0革命」
文章の格調について考える その2 「「知の性能」が目に見えてくる社会」
文章の格調について考える その3 「集合知という市場」
文章の格調について考える その4 「集合知の構造」
文章の格調について考える その5 「集合知の二つの性質」
文章の格調について考える その6 「日本語文章の論理」
文章の格調について考える その7 「意味の多様性」
文章の格調について考える その8 「文章の効果とは何か」
文章の格調について考える その9 「アスキーアート」
文章の格調について考える その10 「言葉のニュアンスと意味の圧縮」
文章の格調について考える その11 「1/fゆらぎの文章」
文章の格調について考える その12 「詩人の言葉」
文章の格調について考える その13 「式神と言霊」
文章の格調について考える 最終回 「心を浄化する文章」