パックスアメリカーナとスマートパワー
「敵と話すことができるのが強い大統領だ」
2008年の米大統領選中にオバマが語った言葉。
イスラエルが一方的停戦を実施し、イスラム原理主義組織ハマスも即時停戦を発表したパレスチナのガザ地区。各国はガザ停戦の維持訴え、1月18日には、エジプトで首脳会議が行われた。だけど、肝心のイスラエル、ハマス両首脳は出席していない。
これに対してオバマはどう対応するのか。
オバマの言う強い大統領の定義の中には話し合いも含まれている。話し合うという姿勢自体に受け入れるかどうかは別として、相手の言い分を聞くという前提がある。だから話し合う相手は話し合いになった段階でそれなりの成果を期待する。
実際問題として、交渉事で片方の言い分だけが100%通るケースは少ない。多少なりとも相手の条件を飲むことになるのが普通。もしも全く相手の言い分を聞く気がないのに話し合いをするとするならば、それはただのポーズ。その場合パレスチナ側からみれば、オバマになっても何も変わらない、話す気なんて元から無かったんだ、とやがて見透かされるようになる。そしてどちらかが斃れるまで争いは続くことになる。
逆に、相手の言い分を少しでも聞いた場合はどうなるか。逆説的だけれど、このときは世界各地で紛争発生確率が跳ね上がることになる。
クラウゼヴィッツは「戦争は外交の延長である」と言っているけれど、双方の話し合いで決着が付かないとき、最後には殴りあいになる。
もちろん戦えば強い方が勝つことは当たり前なのだけれど、当事者同士の殴り合いの最中に止めに入るものがいることは往々にしてある。最初は口で、最後は力ずくで。
ただし、力で止めに入るには条件があって、その人は他の誰よりも強くなくちゃならない。今のところそんな存在はアメリカだけ。
ブッシュ政権でのアメリカは、自由と民主主義の普及の名の下に、世界中に干渉して圧力を掛けていたから、アメリカ以外の国は自分勝手なことはやりにくかった。アメリカに睨まれたら、イラクのように潰されてしまう。
アメリカが世界の警察官を自任している限り、他の諸国はアメリカの正義に公然と叛旗をひるがえすことはできなかった。歯向かえば問答無用でやっつけられてしまう。いい悪いは別としてパックス・アメリカーナは保たれていた。
だから逆に弱小国や、経済的に困窮した国ほど核を持ちたがった。アメリカ本土まで届く核を持てば、とたんにアメリカが折れて、交渉に乗ってくれると分かっていたから。北朝鮮の一連の瀬戸際外交を見ればよく分かる。
もし、オバマが世界各地の紛争に際して、最初から話し合う姿勢を示したらどうなるか。何かが欲しい弱小国は、どんどん紛争を起こして、話し合いに持ち込んで、何がしかの取引や成果を得ることを考えるようになる。わざわざ手間暇かけて核なんか持つ必要はない。当事者同士で解決できない程度の紛争さえ起こせばいい。
1月13日の米上院外交委員会でヒラリー・クリントンは、新政権の外交政策の基本理念として、「スマート(賢明な)パワー」を打ち出した。軍事力などの「ハードパワー」だけじゃなくて、外交力や文化発信力、経済力などの「ソフトパワー」も組み合わせた協調主義外交に転ずると宣言した。
確かに軍事力といったハードパワーだけじゃなくて、文化などのソフトパワーも組み合わせるというのは、ハードパワーに頼るだけよりはまだ平和的。だけどソフトパワーには弱点がある。それは、相手に浸透するまで時間がかかること。ソフトパワーはまず受け入れて、その良さを実感して、納得してからでなければ、なかなかその力を発揮することはできない。
経済恐慌の最中、世界中生きるのに必死なときに、それほど時間を待つ余裕があるとも思えない。スマートパワーが紛争を何処まで押さえ込むことができるのか注目したい。
各国がガザ停戦維持訴え エジプトで首脳会議
【カイロ18日共同】イスラエルが一方的停戦を実施し、イスラム原理主義組織ハマスも即時停戦を発表したパレスチナ自治区ガザ情勢を協議するため、中東や欧州各国による首脳会議が18日、エジプト東部シャルムエルシェイクで開かれた。各国首脳は停戦の維持を双方に呼び掛けるとともに、本格停戦の実現に協力を表明した。
会議は停戦調停を進めてきたエジプトのムバラク、フランスのサルコジ両大統領が主催。ムバラク氏は「イスラエル軍のガザ撤退や境界検問所の開放、封鎖解除を実現するため、行動しなければならない」と強調した。
サルコジ氏はガザへの武器密輸阻止に向け、イスラエルとエジプトに支援を行うと表明した。
会議には、潘基文国連事務総長のほか、英国やドイツ、イタリア、スペインなどの欧州首脳、中東からはトルコ、パレスチナ自治政府の首脳らが出席した。イスラエルのオルメルト首相やハマス幹部は参加していない。
URL:http://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2009011801000600_World.html
ガザ:停戦、双方に残る不満
【エルサレム前田英司】イスラム原理主義組織ハマスが18日、イスラエルに続いてパレスチナ自治区ガザ地区での停戦を「一方的」に宣言したことで、ガザ情勢は小康状態に入った。しかし双方とも戦いの目的を満足に果たすことはできておらず、脆弱(ぜいじゃく)な停戦状態の先行きは予断を許さない。
「ガザの停戦を我々の側から宣言する」。シリアのハマス幹部マルズーク氏は18日、イスラエル軍の攻撃停止から約12時間後に、他のパレスチナ武装勢力と合同で表明した。同氏らはイスラエル軍に1週間の撤退猶予を与えるとともに、ガザとイスラエル、エジプト両境界の検問所を再開して、ガザの封鎖を解除するよう要求した。
ハマス側のこれらの要求は、調停役のエジプトを介してイスラエルに伝えていた停戦条件と大差ない。イスラエルは「停戦が維持されるなら検問所は開き、膨大な人道支援物資が搬入される」(首相府報道官)としているが、ハマスがイスラエルへのロケット弾攻撃などの名目に挙げていた検問所の正常化からは程遠い。
一方、イスラエルの国内治安機関シャバクのディスキン長官は18日の閣議で、今回のガザ攻撃で集中的に空爆したエジプト境界の武器密輸用トンネルについて「完全には破壊できなかった」と認めた。停戦で平穏な状態が続けば、ハマスは数カ月後には武器密輸を再開するとの見通しを示し、米国などが約束した武器密輸防止策の早期実行を強調した。
ハマスが「停戦」を宣言した後もガザからのロケット弾攻撃は続いた。イスラエル軍は即反撃の構えを崩していない。停戦状態の持続は、ガザ境界の検問所開放や密輸トンネルの封鎖といった両者の要求がどこまで実現するかにかかっている。
URL:http://mainichi.jp/select/world/news/20090119k0000e030062000c.html
ガザ停戦 「必要な犠牲」なんてない 2009年1月20日 10:30 カテゴリー:コラム > 社説
イスラエルが、パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃停止を宣言した。ガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマスも即時停戦を表明した。
昨年末にイスラエル軍がハマスへの攻撃を始めてから、1300人以上の命が失われた。犠牲者の6割以上は、民間人だという。約4000戸の住宅が破壊され、約4万5000人の住民が国連施設などに避難したと報じられている。
こんな惨状は、直ちに止めなければならない。イスラエル、ハマス双方の停戦表明を歓迎する。
ただし、停戦が長続きする保証はない。どちらも一方的に停戦表明しただけだからだ。ハマスは、イスラエル軍の1週間以内の完全撤退を条件とした。一方、イスラエルは、ガザへの軍事物資密輸の阻止を撤退の前提としている。
イスラエル軍が駐留を続けたり、ハマス側がロケット弾攻撃を再開したりすれば、停戦は水泡に帰しかねない。
イスラエルが停戦に踏み切ったのは、「過剰な攻撃」に対する国際世論の強い批判があったからだ。
国際社会は、この機会を逃してはならない。仲介役のエジプトは、欧州や中東など関係国に呼び掛けて首脳会議を開き、対応を協議した。エジプトや国連による調停を強く後押しし、和平の動きを軌道に乗せたい。20日に発足する米国のオバマ新政権にも指導力を期待する。
まずは、イスラエル軍の早期撤退を求めたい。また、「天井のない監獄」と呼ばれ、住民に窮乏を強いているガザの境界封鎖を解除すべきだ。
停戦や治安維持、武器密輸を監視する国際部隊の派遣も必要だろう。
戦闘でがれきの野と化した町を再建し、住民が暮らしていけるようにすることも急務だ。日本も復興支援や医療・教育など、人道面での支援ならば少なからぬ貢献ができる。
「コラテラル・ダメージ」という政治用語がある。米カリフォルニア州知事のシュワルツェネッガー氏が主演した映画の題名にもなった。
直訳すれば「付随的な損失」。政治や外交の世界では「目的遂行のためのやむを得ない犠牲」という意味で使われる。人命すら「必要経費」のようにみなす、嫌な言葉だ。
ガザ攻撃を、イスラエル政府高官は「やむを得ない犠牲だ」と説明した。まさにこの考え方だ。テロを仕掛けるイスラム過激派の側も同じ理屈だろう。
だが、「必要な犠牲」などあってはならない。「私たちは人間扱いされていない」というガザ住民の叫びから、世界は目をそらしてはいけない。国家や組織の利益に基づく冷徹な論理がまかり通る限り、ガザの悲劇は繰り返される。
「コラテラル」には、「担保物件」という意味もある。ガザの停戦を、中東和平実現への担保として守り抜きたい。
=2009/01/20付 西日本新聞朝刊=
URL:http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/72126
クリントン米次期国務長官:「スマートパワー」提唱 軍事偏重と決別--上院公聴会
【ワシントン草野和彦】米上院外交委員会で13日開かれたヒラリー・クリントン上院議員の国務長官指名承認に関する公聴会で、クリントン氏は新政権の外交政策の基本理念として、「スマート(賢明な)パワー」を打ち出した。
軍事力などの「ハードパワー」のみに頼らず、外交力や文化発信力、経済力などの「ソフトパワー」を組み合わせて活用し、協調主義に基づいた米国の国際的指導力を刷新する姿勢を明示。ブッシュ政権の軍事偏重路線との決別を改めて強調した。
直面する課題の一部として、イラク戦争の責任ある終結と、アフガニスタン戦争へのシフトを挙げ、アフガン、パキスタン両政府や周辺国と協調した「包括的対策が重要」と語った。
イスラエル軍の攻撃が続くパレスチナ自治区ガザ地区情勢については、イスラエルの自衛権を認めつつ、民間人の被害増大にも強い懸念を表明。中東和平の実現に積極的に取り組む意向を示した。
イランや北朝鮮の核拡散問題への対処も表明。さらに、クリントン前政権下で署名した核実験全面禁止条約(CTBT)の批准を目指す方針も示した。
クリントン氏の承認は早ければ上院本会議で新政権発足日の20日に採決される。上院はクリントン氏の民主党が多数のため、承認される見通し。
毎日新聞 2009年1月14日 東京朝刊
URL:http://mainichi.jp/select/world/news/20090114ddm007030188000c.html
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