価値の本質(価値と貨幣について考える 最終回)


ゲゼルマネーや地域通貨のように、減価したり、特定の地域でしか使えない貨幣のように貨幣の持つ価値の保存機能や交換機能に一定の制約を加えるやり方は、財やサービスの対価は、貨幣そのものではなく、貨幣の額面に示されるところの財やサービスそのものなのだという原則、すなわち価値と価値の交換であるのだ、という考えに基づいている。

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価値はそれ自身に時間を内包していて、生生流転の法則に則って、生み出された瞬間から時間減衰を起こしてゆく。

また、価値同士の交換でも、その価値同士の距離が近ければ近いほど、交換する媒体は「貨幣」以外のものでも通用する。それこそ田植えの手伝いのように、お金を払う代わりに「労働」を交換するものとして使うことだってできる。相手がすぐ近くにいればこそ頻繁に催促もできるし、逃げ出そうものならその場でふん捕まえればいい。

売買行為というものをなんらかの価値同士の交換なのだと捉えた場合、その価値の交換対象が目に見え、確実に受け取れる保障さえあれば、その媒体は別に「貨幣」でなくても構わない。貝でも石でも手形でも。信用がそれを保障する。

だから、貨幣が価値交換の媒体として機能する範囲は、その貨幣価値を「保障」なり「補填」なりできる存在、元締めなり胴元なりの力が及ぶ範囲と殆ど同じになる。ひらたくいえば、国や政府といった強権を持つ存在の主権の及ぶ範囲がそれ。

価値交換の契約が取り交わされたとき、一方がそれを履行しなかった場合に懲らしめてやる存在があって、それを皆が信じるからこそ「交換」という行為が成立する。

ゆえに、ゲゼルマネーや地域通貨といった考えは、通貨を減価させたり、契約を結んだ対象者同士の距離を狭めることで、価値の交換契約を円滑に行って、できる限り価値交換を公平に行うための手段のひとつだと言っていい。

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なんらかの価値が市場に投入され、それらを人々が使うとき、その価値に内包された時間は開放されて価値は富に転換してゆく。その転換した富が、その社会や国家に堆積して溢れんばかりになってようやくその社会は豊かになる。

だけど、その豊かさというものは、その富を多くの人々が享受できて初めて成立するもの。その価値の価格がタダに等しいほど安く、皆の共有財産にまでなっている状態であってはじめて、その社会は豊かであるといえる。一部の富裕階級しか富に転換した価値を使えない社会は「富はある」けれど「豊か」ではない。

価値の本質は与えきり。

価値の本当の姿は慈悲そのもの。

破壊ではなくて創造してゆくものが価値の本質。

これを忘れたときに、戦争経済やら、金融マネーとやらが蔓延ることになる。

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永遠の価値は特定の誰かのものじゃなくて、みんなのもの。それはいつでもどこでも在って、最初から与えられているもの。

永遠の価値は必要十分以上に供給されるものであってこそ輝きを帯びる。

慈悲は天から広くあまねく地に降りそそぎ、決して終わることがない。

そういった何時でも何処でもふんだんにあって、簡単に手に入るものは、その労せず手に入れられるが故に値段がつかない。空気や太陽は誰にもなにも求めない。ただ与え続ける。

だけど、それらに価値がないわけじゃない。

光が届かない暗黒の土地には人は住めない。

空気がない星では人間は生きられない。

だけど太陽も空気も人間に対価を要求しない。価値の本当の姿はここにある。

だから、なんらかの有用な商品が市場に完全に広まって、類似商品も出たりして、極端に安くなって儲けが全然無くなってしまうことは、商品を売る側にとっては辛いことかもしれないけれど、それはその商品の価値が富という慈悲に姿を変えたということ。価値が本来の姿を取り戻したということ。

もしもプラスの金利に積極的意味を見出すとすれば、それは成長を促し、価値を創造し湧出させるドライブの役割。価値創造を促す存在。

人間の活動が、金利の負担を超えて、次々に価値を創造してゆくとき、その価値は富に姿をかえてゆく。その価値が見返りを求めなくなったとき、それは慈悲となって社会に満ち溢れてゆく。

価値が本来の姿を取り戻して地に満つるとき、豊かで祝福された世界が現れる。


本シリーズエントリー記事一覧
価値と貨幣について考える その1 「価値を規定するもの」
価値と貨幣について考える その2 「価値が内包する時間」 
価値と貨幣について考える その3 「価値の発見と経験」 
価値と貨幣について考える その4 「価値と値段」
価値と貨幣について考える その5 「時間を凍らせる」 
価値と貨幣について考える その6 「富の蓄積」 
価値と貨幣について考える その7 「市場が飽和するとき」
価値と貨幣について考える その8 「規制と流行」 
価値と貨幣について考える その9 「貨幣の持つ2つの機能」 
価値と貨幣について考える その10 「金利の特権」
価値と貨幣について考える その11 「ゲゼルマネー」 
価値と貨幣について考える その12 「地域通貨とスイカ」 
価値と貨幣について考える 最終回 「価値の本質」

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この記事へのコメント

  • Koyakei

    そういう心がけでももちろん通貨は良い物になっていくが、僕のように、具体的な方法を示したほうが人をより強く誘導できる。通貨が格差を生む原因はひとつの通貨が他の通貨に対して定量的な両替方法を持ちすぎていることにある。定量的に両替できない領域にまで市場が拡張することによって、人間は公正に評価されうる。
    2015年08月10日 16:51
  • サトシ

    自然通貨を検索していてこちらにたどり着きました。
    まだ全部は読めてないですが、時間を見つけてぜひ読ませていただきたいと思っています。
    2015年08月10日 16:51

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