地域通貨とスイカ(価値と貨幣について考える その12)
地域通貨には、その発行方式によって大きく次の4つに分類される。
①紙幣タイプ(スタンプ貨幣・エコマネー): 集中発行方式
②通帳タイプ : 分散発行・分散管理方式
③口座タイプ : 分散発行・集中管理方式
④借用証書タイプ : 個人発行方式
①のタイプは、管理事務局などが独自の目に見える地域通貨を発行するもので、供給量を管理できる利点がある。ゲゼルの提唱したスタンプ紙幣はこのタイプに属する。スタンプ紙幣は、減価するお金であり、手にした人は早く使おうとするため、地域の経済循環を加速する効果がある。また、エコマネーなどのように時間を単位としてサービスの取引に限定した紙幣を発行し、一定期間が過ぎたらリセットされ、スタート時の額に戻るタイプもある。こちらは、地域経済の活性化ではなくコミュニティの活性化を目的とするもの。
②のタイプは、別名LETS (Local Exchange Trading System:多角間バーター取引システム)とも呼ばれるもので、紙幣は発行せずに、通帳を使うもの。個人は自身がサービスできるものを提供し合ってそれらを相互に交換する。たとえば、英語が得意な人は英語を教えるサービスを、大工が得意な人は大工仕事を請け負うとかいった具合に提供できるサービスを登録してリスト化しておく、サービスを受けたい人はその中からサービスを選んで、サービスを受ける仕組み。もちろんサービスを受けた人は別の特技を提供する。交換された物やサービスは、個人それぞれが持つ通帳で管理して、トータルで貸し借りゼロにして帳尻を合わせるというもの。
こうした相互扶助的なサービス交換は、日本は江戸の昔から実際に行っていて、隣近所同士で田植えを手伝ってもらったら、そのお返しに田植えを手伝いにいくとかしていた。
LETSはいうなれば、日本の古き良き伝統の考え方を応用したようなもので、提供サービスを可視化し、その程度を数値化することで客観性を持たせたものだといえる。
③のタイプは、基本的に②と仕組みは同じだけど、各自に設けられた個人口座によって管理するもの。
④のタイプは、①とは似ているものの、管理が全て個人に委ねられている点が特徴で、個人間の物やサービスのやり取りを「無期限の約束手形」を発行して管理するもの。
こうした地域通貨の試みは徐々にではあるけれど、日本でも行われていてそれなりに効果を挙げつつある。
また、地域通貨なんて畏まって言わなくても、日本ではそれに近いものは昔から使っていたりする。地元の商店街で共通に使えるサービスクーポンであるとか、チェーン店のポイントカードとか、JRのスイカとか。
JRのスイカは、現金のいくらかをSuicaカードにチャージすることで、その範囲内で電車運賃を自動で支払う仕組みだけど、スイカはJR各駅に隣接しているキヨスクだとか、構内コンビニなんかでもスイカで支払うことができたりする。
これなんかは、仕組み的には地域通貨そのもの。スイカはJR全路線内で流通する地域通貨であるとも言っていい。
昨今定額給付金がどうのこうのと揉めているけれど、スイカのようなカードに1万円なり2万円チャージして国民に配ってやれば、簡単に地域通貨として流通させることができる。
カードで管理するから、チャージした日から起算して何ヶ月ごとに減価するようにもできるし、スイカの様にカードに現金をチャージできるようにしてもいい。そして、そのカードで支払うと消費税が3%になるとか何らかのインセンティブをつけてやれば、みんな買い物はそのカードでやるようになるに違いない。
こうしたカードに税のインセンティブをつけるやり方には多少のミソがあって、スイカのように1000円単位とか5000円単位でしか現金チャージできないようにしておけば、使い終わった後の半端な額が残るから、それを無理やり使うか、時間減価によって消費されることになる。結果少しだけど消費効果を押しあげることになる。
本シリーズエントリー記事一覧
価値と貨幣について考える その1 「価値を規定するもの」
価値と貨幣について考える その2 「価値が内包する時間」
価値と貨幣について考える その3 「価値の発見と経験」
価値と貨幣について考える その4 「価値と値段」
価値と貨幣について考える その5 「時間を凍らせる」
価値と貨幣について考える その6 「富の蓄積」
価値と貨幣について考える その7 「市場が飽和するとき」
価値と貨幣について考える その8 「規制と流行」
価値と貨幣について考える その9 「貨幣の持つ2つの機能」
価値と貨幣について考える その10 「金利の特権」
価値と貨幣について考える その11 「ゲゼルマネー」
価値と貨幣について考える その12 「地域通貨とスイカ」
価値と貨幣について考える 最終回 「価値の本質」
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