ゲゼルマネー(価値と貨幣について考える その11)

 
こうした貨幣の特権に対して警鐘を鳴らした人物がシルビオ・ゲゼル(1862 - 1930)だった。

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ドイツ経済学者であるゲゼルは、その著書「自然的経済秩序」において、通貨だけが減価しないために、ある程度以上の資産家が金利生活者としてのらりくらり生きている現状を指摘して、その解決手段として、自然通貨という概念を提唱した。

自然通貨というのは文字どおり、時間の経過と共に価値を減らしていく通貨のことで、具体的には、スタンプ貨幣のように、一定の期間ごとに紙幣にスタンプを貼らないと使えなくなる仕組みのこと。

たとえば、1万円があったとして、それを実際使うときには、一定の期間が経過するたびに収入印紙のようなスタンプを貼らないと使えないというもの。そのスタンプ(収入印紙)をたとえば100円とすると、1万円使うために100円払わなくちゃならないから、1万円だったものが差し引き9900円に減ってしまう。

当然減るのは嫌だから、持った人はスタンプを貼る時期がくる前にさっさと使ってしまうようになる。結果的にお金はどんどん流通するようになる。

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実際、1930年代にオーストリアのベルグルという町で、「労働証明書」と呼ばれるスタンプ紙幣が使われたことがある。町長はじめ、町職員の給料の半額をスタンプ紙幣で支払い、税金の支払いもスタンプ紙幣で行えるようにし、また公共事業を行ってその賃金もスタンプ紙幣で支払ったところ、町の人々は先を争ってお金を使い、税金を支払って、見事経済復興を遂げた。

地域通貨とも呼ばれるこのスタンプ紙幣は、今でも形をかえて一部地域で使われていて、素晴らしい効果を挙げている。

たとえば、1991年11月にアメリカのニューヨーク州イサカで導入された地域通貨「イサカアワーズ」は、人口27,000人ほどの田舎町だけれど、1991年から1998年までに行われた取引は1万件以上にのぼり、その経済効果は150万ドルにもなっているという。

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地域通貨のミソは、その地域だけにしか使えないこと。この地域限定性は、当然「価値交換機能」の適用可能範囲を限定することを意味してる。いきおい地域通貨はその「地域」だけで流通することになる。しかも時と共にその地域通貨は減価してゆくから、物凄い勢いで使われる。お金が死蔵しない。

こうした減価して、かつその地域でしか使えない、という通貨は、ある意味、昔の物々交換の考え方に近いものがある。モノ自身が持っている価値が減衰する性質をそのまま貨幣にも転写して持たせたもの。だから、従来の貨幣よりも、価値と貨幣の間のバランスが取りやすい利点がある。


本シリーズエントリー記事一覧
価値と貨幣について考える その1 「価値を規定するもの」
価値と貨幣について考える その2 「価値が内包する時間」 
価値と貨幣について考える その3 「価値の発見と経験」 
価値と貨幣について考える その4 「価値と値段」
価値と貨幣について考える その5 「時間を凍らせる」 
価値と貨幣について考える その6 「富の蓄積」 
価値と貨幣について考える その7 「市場が飽和するとき」
価値と貨幣について考える その8 「規制と流行」 
価値と貨幣について考える その9 「貨幣の持つ2つの機能」 
価値と貨幣について考える その10 「金利の特権」
価値と貨幣について考える その11 「ゲゼルマネー」 
価値と貨幣について考える その12 「地域通貨とスイカ」 
価値と貨幣について考える 最終回 「価値の本質」

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