市場が飽和するとき(価値と貨幣について考える その7)
価値は、それが供給され続ける限りにおいて、市場に普及してゆく過程で富に置換されてゆくけれど、ある商品が市場に完全に普及し尽くしてしまうと、それ以上の富への置換ができなくなる。
ぶっちゃけていえば、儲けられなくなってしまう。そうするとまた次の価値なり製品なりを市場に出して、次の儲けを考えなくちゃならない。そのためには、次に示すように大きく4つの方法がある。
1.普及しつくした商品を、全部捨てるかぶっ壊すかして、また同じ商品を売る乱暴な方法。
2.市場をよくよく調査して、今までお客さんとして考えていなかった購買層に売るか、または、今までの市場の外側に新しく市場を拡大・設定してそこに売る方法。
3.普及した商品の機能や目的を包含し、さらにそれを上回る新商品を開発して、従来のお客さんに買いなおして貰う方法。
4.3と少し似ているけれど、これまで全く考えも及ばなかったところにニーズを発見して、全く新しい市場を作り出して、そこへ売る方法。
1.の方法の代表的なものは、戦争経済。どこかでドンパチやって、建物を全部ぶっ壊してしまえば、また建て直すことで、需要を作り出す。普及した商品を無理矢理消費させてしまう乱暴なやり方。
2.の方法は、安売り競争および市場開拓なんかがそれに当たる。商品の値段が下がって手頃になれば、購買力の低い層にも買ってもらえる可能性が高まるし、マーケットを国内から海外に広げることで市場そのものを拡大してより広く買ってもらうことを狙う方法。
3.の方法は文字通り新製品開発。今では携帯電話なんかは特にそう。半年毎に新型機種を出して、同じお客さんに何度も何度も機種変更してもらっては売り続ける方法。一般的には新製品には、従来品より性能が上がったとか、新しい機能が付いたとかして、買い直したい気にさせて売る。
4.の方法は、いわゆるニッチ産業とか、イノベーションとか呼ばれるもの。今まで全く考えも及ばなかったところにニーズを発見して売り込んでゆくやり方。またイノベーションも3の新製品開発と似たところがあるのだけれど、こちらはもっとダイナミックに旧市場そのものを無効にするくらいのインパクトがあるものを指す。
3.の市場には、投入された新製品を買いなおす人もいる反面、旧製品を使い続ける人もいて新旧混在している。それはその商品の目的に対する機能として、旧製品でも間に合う部分があって、それが許容できるから。
だけど、4.の方法におけるイノベーションは、旧製品は全く役に立たなくなって、新製品に代えないとどうしようもない場合になる。
江戸や明治初期の昔であれば、移動手段といえば、馬車とか人力車とかだったけれど、自動車の発明によって、それらが無効になってしまった。今では人力車なんて観光地でないと見られない。
3.の方法は現在ある市場の拡大又は塗り直しになるのだけれど、4の方法は今ある市場の上に全く新しい市場を創造するという次元の違いがある。
また、新しい価値の創造という面からみれば、1と2は従来の価値をそのままなんとかして売ろうとする破壊または検地・開拓によるものだから、新しい価値を創造している訳ではないのに対して、3と4は従来価値とは違った価値でもう一度売ろうとする、改善・創造によるものだから、まがりなりにも新しい価値を創造している。
本シリーズエントリー記事一覧
価値と貨幣について考える その1 「価値を規定するもの」
価値と貨幣について考える その2 「価値が内包する時間」
価値と貨幣について考える その3 「価値の発見と経験」
価値と貨幣について考える その4 「価値と値段」
価値と貨幣について考える その5 「時間を凍らせる」
価値と貨幣について考える その6 「富の蓄積」
価値と貨幣について考える その7 「市場が飽和するとき」
価値と貨幣について考える その8 「規制と流行」
価値と貨幣について考える その9 「貨幣の持つ2つの機能」
価値と貨幣について考える その10 「金利の特権」
価値と貨幣について考える その11 「ゲゼルマネー」
価値と貨幣について考える その12 「地域通貨とスイカ」
価値と貨幣について考える 最終回 「価値の本質」
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