時間を凍らせる(価値と貨幣について考える その5)
「客観的時間」を支配する生生流転の法則って何かというと、物が腐るか、機能的に古くなって使えなくなるということ。人にとって有益な期間を超えてしまうこと。
そして、「主観的時間」を支配するニーズの変化というのは、人々が求め、欲しがるものが、その時代の要請や環境変化によって変わるということ。
だから、何かの商品を市場に出して売るということは、「客観的時間」と「主観的時間」の二つのパラメータで変動する価値を如何にして極大値に保つかとの戦いでもある。
生生流転の法則に対する戦いは昔から行なわれてきた。食べ物で言えば、塩漬けにして保存食にしてしまうとか、冷凍してしまうとか。
塩漬けは、食品の細胞中の水分を外に排出させて乾燥させたり、微生物の繁殖を防いだりすることで、長期保存を可能にしているし、冷凍も食品中の水分を凍らせることで腐敗を遅らせたりしてる。もちろん冷やせば微生物の活動も鈍くなる。
日本の消費者は結構眼が肥えていて、新鮮さに拘るところがある。日にちがたったものはだいたい何処のスーパーでも値引きしないと売れない。生生流転の法則に何処まで逆らえるかといった部分が売価になって現われる。
食料品の売値の時間変化を考えた場合、「客観的時間」と「主観的時間」のどちらのパラメータが支配的かと言うと、問題なく前者。後者の主観的時間はその商品の効果や目的に依拠する価値。
生命維持には、食料が必要であることは大昔から変わらない。食料品の主観的時間による価値は、新しい有効成分などが発見されて、上がることはあっても、下がるケースは殆ど考えられない。食料は人が食べるという行為を続ける限り必要とされるから、「たべもの」という価値そのものは無くなることはない。価値が変動するのは「新鮮さ」の部分。
ところが食料以外となると少し事情が違ってくる。たとえば、なにかの製品や洋服なんかは物が腐る度合いが食品と比べてずっと緩やかだから、1、2週間で腐ってしまって直ぐに使えなくなるということはない。だけど、新製品が出回ることによって、一気にその価値が減ってしまうことが多い。
型落ちであるとか旧式の製品なんかは、新製品が出るととたんに安売りされるし、洋服だって、春物が出回り始める頃には、前年の冬物なんかはバーゲンになる。
こうした型落ちによる価値の減衰というのは、食料品のように腐ることによる客観的時間による価値の減衰は殆どないのだけれど、その代わり、その製品や衣服に対するニーズの変化による価値の減衰が激しいことを示している。こちらは主観的時間のパラメータが圧倒的に効いてくる。
だから、商品は、食料品のように鮮度を保つ努力も然ることながら、流行やブームになっているうちに売り切ってしまう努力を求められることもある。
つまり、できるだけ短い時間で品物を生産地から市場に供給するといった輸送手段の工夫によって価値の減衰防止をする努力。
時間をうまく凍らせた商品は、その価値を減衰させる速度が最も小さくなる。
つまるところ、商品販売というものは、生ものであれ、そうでないものであれ、如何にモノが腐るのを遅らせて、また、如何にすばやく店頭に並べて、時間経過による価値の損失を可能な限り防ぎながら、ニーズのあるうちに売り切ってしまうかに知恵を絞る戦いだともいえる。
本シリーズエントリー記事一覧
価値と貨幣について考える その1 「価値を規定するもの」
価値と貨幣について考える その2 「価値が内包する時間」
価値と貨幣について考える その3 「価値の発見と経験」
価値と貨幣について考える その4 「価値と値段」
価値と貨幣について考える その5 「時間を凍らせる」
価値と貨幣について考える その6 「富の蓄積」
価値と貨幣について考える その7 「市場が飽和するとき」
価値と貨幣について考える その8 「規制と流行」
価値と貨幣について考える その9 「貨幣の持つ2つの機能」
価値と貨幣について考える その10 「金利の特権」
価値と貨幣について考える その11 「ゲゼルマネー」
価値と貨幣について考える その12 「地域通貨とスイカ」
価値と貨幣について考える 最終回 「価値の本質」
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