先端技術と取り残されるマスコミ
「こういうのは、あんた、こういうものがあると、多分、ここにいる人は誰も知らなかった人がほとんどなんだろうけども。知らないでみんな記事書いているんだろうけども。きちんと、こういうのを知って、こういうのを使えばということをやると、『これ、どんなことにも使えますよ』というのは、新聞記者じゃなく商売人が考えるんだから。」
麻生総理が5月9日に、千葉県の先端技術による植物栽培と冷凍保存技術を開発した企業を視察した際の記者団の質問に対するコメント。
麻生総理が視察したのは工場内で植物を栽培している「株式会社みらい」とCAS冷凍技術を開発した「東大柏ベンチャープラザ」の2社。
「株式会社みらい」の植物工場は、既存の建物をそのまま利用でき、多段の栽培ベッドで植物を栽培することから、狭い空間で多くの野菜を収穫できる。なんでも露地栽培と比較して、面積効率で50倍の生産性を持つという。
また、工場内栽培だから、無菌に近い状態での衛生管理が可能になり農薬も不要だそうだ。そんなストレスなしで育った野菜は、甘味が多くて食感が良いという。
また、「東大柏ベンチャープラザ」はCAS冷凍と呼ばれる細胞を破壊せずに凍結してしまう技術のことで、生鮮食料品などでも全体を新鮮なまま凍結することができる技術。
本ブログでも、植物工場やCAS冷凍技術などを数か月前に取り上げたことがある。
・「野菜工場普及へ」 2009.1.13
・「なくなる賞味期限」 2008.10.27
当然こういった技術は世間でも注目を集めていて、それなりに紹介もされていたから、ご存じの方も多かったと思う。そしてこうした技術の存在がきちんと総理にまで上がっていることが、日本の国家戦略を考える上でも重要になる。
だけど、冒頭の麻生総理の発言にもあったように、ぶらさがり記者がこれらの技術を本当に知らなかったとしたら、如何に専門外だからといっても問題。政治はすべての分野にかかってくることだから。不勉強を放置してもとやかく云われないのかもしれないけれど、その分総理への質問のレベルは落ちることになる。
またもうひとつ総理の発言で注目したいところがある。それは、農業とか漁業という1次産業を消費の多いところに持ってくる間に鮮度が落ちずに持ってこれれば価値が上がる、という部分。
以前「時間を凍らせる(価値と貨幣について考える その5)」のエントリーの中で、「商品販売というものは、生ものであれ、そうでないものであれ、如何にモノが腐るのを遅らせて、また、如何にすばやく店頭に並べて、時間経過による価値の損失を可能な限り防ぎながら、ニーズのあるうちに売り切ってしまうかに知恵を絞る戦いだともいえる。」と言ったことがあるけれど、麻生総理の発言はまさにこれを裏打ちしてる。
総理は、やはり実業界出身だけあって、商売感覚・経済観がしっかりしていることを証明してる。
政治部記者からも、もっとこうした部分を報道していくことも大切ではなかろうか。
【麻生首相ぶら下がり詳報】「(記者は)知らないで記事書いている」(9日午後)2009.5.9 19:11
麻生太郎首相は9日午後、千葉県松戸、柏両市で先端技術による植物栽培と冷凍保存技術を開発した企業2社を視察し、「うまくお見合いをアレンジするのは、政府がやるべきだ」と述べ、企業連携でビジネスチャンスを拡大させる支援策に前向きな考えを示した。視察先の千葉県柏市内で記者団の質問に答えた。ぶら下がり取材の詳細は以下の通り。
【新型インフルエンザ】
--新型インフルエンザで今日、国内初の感染者が確認された。受け止めと政府の対応は
「このインフルエンザは日本で発症したのではなくて、海外で発症した日本人が日本に帰ってきたときに、いわゆる空港、水際でそのちゃんと捕捉できたということだと思いますんで、水際対策がそれなりに効果を上げているということだと思いますね。ただ、機内の検疫、そういったものの効果が上がっているんだと思いますけども、それなりの効果を上げているんだと思いますが、問題はさらに広まった場合。これはアジアからの便にまだ(検疫する必要が)出てませんからね。アジアからの便が出てくるということになると、これは防疫態勢をするには、人の絶対量が不足してくると思いますね。そういうところも考えておかないかんかなと思います」
--水際対策の強化、警戒レベルの引き上げについての考えは
「今は飛行機の外でというより、あれは飛行機の中にうつった人が、飛行機の中で同じ人たちはうつった。早く出た人もいれば、遅く出た人もいるということなんで、基本的には近くにいた人たち、そういったものがきちんと捕捉できて、きちっと捕捉した人が出てますから、その意味では水際対策というものは、それなりの効果がきちんと上がっていると思っていますんで、今、この段階でさらにレベルを上げるということを考えているわけではありません」
【企業視察の感想】
--最先端の技術を持つ企業2社を視察しての感想は
「2つ見せてもらったんですが、これは農業とか漁業という1次産業といわれるものが、こういう技術を使うと、これは成長産業になるという可能性を秘めているということだと思いますね。少なくとも魚がとれた、貝がとれたというものがその現場で、(柏市の『東大柏ベンチャープラザ』が持つ生命体の細胞組織を壊さず鮮度を保つ冷凍保存技術)CAS使って加工して、そして、そのままこっちへ、消費地に持ってくるということなんですけども。持ってくる間に従来の技術だと鮮度が落ちるから価格が下がるわけですよ。だけど、現地で食べたらうまいんですけど、現地は逆に需要がない。消費の絶対量が少ないから、消費の多いところに持っていくわけですけども、持っていく間に鮮度が落ちずにそのままいけるということになれば、価値が上がります。その意味では農業者、漁業者の生産者側の実入りが増えるということを意味しますから、非常に大きい。また、現地で加工して送っても同様に品質が保てるということになれば、そういった意味からいくと大きい可能性を秘めているねえ」
「さっきもうひとつの方(松戸市のベンチャー企業「みらい」)も、あれもあっちは千葉大学だっけ? どっかの園芸(学)部の人がという話だったけども、ああいうもの出てくると、少なくとも外食産業の食材として使い始めるという話をしていたから。そういうことができるところまでコストができてということが品質が安定してくる、価格が安定してくるとなると、商売としてはきちんと使う側もそれで商売できるから。不安定は一番困るから、商売をしていると。その意味で納期にきちんと間に合って、きちんとしたステークのかかったものがあるということになると、いわゆる商売として、農業というものがいわゆる、あの人も農業を営んでいる人じゃない人が考え出したんだけど、農業と工業という農商工という農業と工業の連携ができたというひとつの実験的には成功している例かな。おもしろかったですよ、これは」
「こういうのは、あんた、こういうものがあると、多分、ここにいる人は誰も知らなかった人がほとんどなんだろうけども。知らないでみんな記事書いているんだろうけども。きちんと、こういうのを知って、こういうのを使えばということをやると、『これ、どんなことにも使えますよ』というのは、新聞記者じゃなく商売人が考えるんだから。こういうものがあるということを知って、それを『おれの商売には使えるかな』と。『お茶の葉っぱを凍らせて、そのまま使えるかもしれんと思えば、お茶の葉っぱはいちばんうまい』と言ってた。そういった意味じゃ、ものすごく波及効果が大きいと思う。こういったものがうまくお見合いをアレンジするなんていうのは、仕事だね、政府としてはやるべきところかな」
URL:http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090509/plc0905091920005-n1.htm
この記事へのコメント
美月
> 政治はすべての分野にかかってくる…
ことに現代政治&経済に関しては、情報発信したり受信したりする人にも、情報総合化のセンスを磨くことが必要になってきますね。
こういうセンスは、単純に言葉を追っているだけでは、なかなか身につかないもので、多分、知性の統合化プロセス…のような類なのだろう…と思われました。
(上手く言えなくて済みません^^;)
日比野
>情報総合化のセンスを磨くことが必要になってきますね。
おそらく、政治家の目でみえる世界と記者の目で見える世界(認識)が違うのでしょうね。政治家は国を背負ってますし、記者は真実を探り出したい。フォーカスをかけないで全体を見る目と絞りを掛けまくった目で深く見る目の違いと申しましょうか。もしそうだとすると、政治番記者は政治家経験がないと本当は務まるものではないのかもしれませんね。