プレ・パンデミック
新型(豚)インフルエンザが世界的大流行の兆しを見せている。世界保健機関(WHO)は、4月27日にフェーズ3からフェーズ4に、同29日にはフェーズ4から5にへの格上げを発表した。さらにはフェーズ6への格上げも検討しているという。
フェーズ(警戒段階)とは、WHOの事務局長が指定する、感染の広がり度合いを示す指標のこと。感染が世界的に大流行する危険性や、事前対策を実施する必要性について知らせることを目的として、警戒レベルを1から6の6段階に分類している。
フェーズ1:「ヒト感染のリスクが低い」
フェーズ2:「ヒト感染のリスクはより高い」
フェーズ3:「ヒトからヒトへの感染は無いか、極めて限定されている」
フェーズ4:「小規模な集団感染の発生」
フェーズ5:「より大きな集団感染の発生と、世界的大流行につながる危険性がある」
フェーズ6:「世界的大流行が発生し、急速に感染が拡大する状態」
フェーズ5といえば、世界的大流行につながる危険性だから、プレ・パンデミックと言っていい。
どうやらメキシコ政府は、4月13日の段階で最初の症例を確認して16日から警戒を初めていたらしい。だけど、政府が国民に発表したのはウイルスの型がほぼ確定した23日になってから。
メキシコ政府は5月1日の段階で新型インフルエンザによる死者数が176人に達したことを明らかにして、5月1日から5日まで政府業務を休業すると発表している。もうお手上げに近い。
このことからわかることは、プレ・パンデミックは10日もあれば引き起こせるということ。いかに初動での対処が重要か分かる。だけど、今となってはあとの祭り。
プレ・パンデミックがパンデミックに代わるのも時間の問題の様にも思える。
唯一の救いは、鳥インフレンザのような強毒性ではなく、より致死率の低い弱毒性と言われていること。尤も、人から人への二次感染が続けば、ウイルスが変異して、重症度が重くなるケースもあるというから、警戒を怠るわけにはいかない。
パンデミックでもそうでなくても、感染拡大を以下に抑えるかが重要な行動になることは間違いない。
豚インフルエンザ:公表は1週間後 メキシコ政府の対応混乱
豚インフルエンザとみられる感染で68人の死者が出たメキシコや、遺伝子構造が同じウイルスでの感染者が出た米国では、どう感染が発覚し、行政はどう対応したのか。メキシコのコルドバ保健相は24日、今月16日には警戒態勢に入っていたことを明らかにした。しかし、政府が国民に発表したのはウイルスの型がほぼ確定した23日になってからで、どの時点で国民に公表すべきかという問題を浮き上がらせた。
メキシコ市でのインフルエンザ流行が報じられたのは22日。国民は「季節はずれの流行」と考えていた。政府が、豚インフルエンザ発生を緊急発表したのは23日午後11時ごろ。翌朝まで知らない国民も少なくなかった。
24日会見した保健相によると、最初の症例が見つかったのは今月13日。同16日には疫学的警戒を始めた。23日午後4時ごろにウイルスがほぼ判明した。
警戒感が一気に広がった24日。カルデロン大統領とメキシコ市のエブラルド市長は同日の予定を急きょ変更し、対策に当たった。
24日午前、メキシコ市当局は予防接種のためワクチンをかき集めていた。ところが、同日午後、コルドバ保健相は会見で「ウイルスは新型で有効なワクチンはない」とし、接種はしないことに方針転換。インフルエンザ治療薬タミフル、リレンザで対処するとした。
政府が23日夜に発表した対策の第1弾は、メキシコ市・州の学校の24~27日の休校。だが、保健相は、24日午後には「新たな指示を出すまで授業の再開はしない」と期限設定しない方針を明らかにした。地元メディアに対し保健相は、警戒態勢が10日ほど続く可能性を指摘し、休校が長引く可能性を示唆した。
政府はインフルエンザ感染予防として、あいさつで握手やキスはしない▽食べ物や食器を他人と共有しない▽マスクをする▽人込みを避ける--ことを呼び掛けた。メキシコ国際空港では、チェックイン時に問診票を乗客に書かせ、感染の疑いのある乗客の搭乗を防ぐ措置をとっている。陸軍は市民にマスクを配った。
このほか、メキシコ市の公的行事なども取りやめになり、同市・州の博物館や図書館なども閉鎖になった。
メキシコ市在留の邦人は約3000人。同市の日本人学校も24日から休校になった。
保健相は23日夜の緊急発表で「現在のところコントロール可能」とし、24日の会見では「パンデミック(大流行)ではない」と強調した。【メキシコ市・庭田学】
◇米も同時期に感染 加州2郡、メキシコと隣接
米疾病対策センター(CDC)によると、せきや発熱、嘔吐(おうと)などの症状が出たカリフォルニア州サンディエゴ郡の少年(10)が、4月14日、今回の一連の感染で初めて豚インフルエンザと断定された。少年は3月30日に発症していた。
続いて4月17日に感染が判明したのは隣接するインペリアル郡の少女(9)。3月28日に発症し、40度の高熱を出していた。
その後の調べで4月24日に新たに6人の感染が確認された。内訳は、カリフォルニア州サンディエゴ郡の父(54)と娘(16)=9日に治療開始▽同郡の子供▽インペリアル郡の女性(41)=12日に発症▽テキサス州グアダループ郡の16歳の少年2人=10日以降発症。
インペリアル郡の女性は自己免疫疾患があり、熱、頭痛、下痢、嘔吐と筋肉痛を訴え15日から1週間入院した。米国の感染者8人のうち入院したのはこの女性だけで、現在は8人全員が回復した。
感染者の出たカリフォルニア州の2郡はメキシコと国境を接しており、テキサス州の郡も中南米系移民が3割を超える。豚と接触した患者はいない。患者同士が接触したケースは一部で、感染経路は今のところ不明だ。
米政府は、メキシコへの旅行規制はしていない。【ロサンゼルス吉富裕倫】
毎日新聞 2009年4月26日 東京朝刊
URL:http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090426ddm007040114000c.html
メキシコ、政府業務停止へ 新型インフル「民間も一時休業を」
【ニューヨーク=米州総局】メキシコ政府は29日夜(日本時間30日午前)、同国内での新型インフルエンザの感染拡大を受け、連邦政府の業務を国民生活に必要不可欠な部分を除いて原則5月1日から5日まで休業すると発表した。民間企業にも一部業種を除いて一時休業を呼び掛けた。ロイター通信によると、メキシコのカルデロン大統領は、政府が活動を休止する期間、国民に自宅での待機を求めた。
世界保健機関(WHO)が新型インフルエンザに対する警戒水準を引き上げたことを受けた措置。業務を停止するのは、保健関係や交通など生活基盤にかかわる部分を除く大部分の政府業務。政府関係機関や地方政府などにも同様の対応を求めている。企業には休業の対象外の業種として「金融やスーパー、マスコミ、ガソリンスタンド」などを例示。市民生活に支障が生じないように配慮する考えを示した。
メキシコ政府は同日、メキシコでの新型インフルエンザによる死者数が176人に達したことを明らかにした。(13:03)
URL:http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20090430AT2M3002W30042009.html
WHO、新型インフル警戒水準「6」検討も 2009.5.1 05:02
新型インフルエンザの感染拡大を受け、世界保健機関(WHO)は29日深夜(日本時間30日朝)、世界的大流行(パンデミック)が「差し迫っている」として警戒水準(フェーズ)を「4」から「5」へ引き上げた。感染国は30日夜時点で計13カ国に。パンデミックを示す「6」への再々引き上げも現実味を帯びてきた。
警戒水準を「3」から「4」へ引き上げてから、わずか2日。緊急会見したWHOのマーガレット・チャン事務局長は、「5」とした理由を「地域レベルで持続的な人から人への感染」が確認されたためと説明し、世界的大流行になれば「人類全体が危機にさらされる」と警告した。
「5」は、人から人への感染が2カ国以上で起きている状態。国際的に人の移動制限などが強化され、社会、経済への影響は大きいが、WHOは各国政府などに速やかな対応を呼び掛けた。
日本時間30日夜の時点で、新型インフルエンザ感染が確認されたのは、新たに判明したペルー、スイス、オランダを加え北中南米、欧州、中東、オセアニアの計13カ国に拡大した。死者は170人以上に及ぶ。
南北米大陸以外でメキシコや米国と同様に人から人への感染が確認されれば、WHOは最悪の「6」への再々引き上げを検討することになる。
URL:http://www.sanspo.com/shakai/news/090501/sha0905010503008-n1.htm
新型インフルエンザ、弱毒性か…WHO委員見解
【ジュネーブ=金子亨】世界的に感染が広がる新型インフルエンザは、鳥、人、豚由来の4種のウイルスが交雑した極めて珍しい型で、今のところ、感染しても比較的軽症で済む「弱毒性」であるとの見方が強まっている。
世界保健機関(WHO)緊急委員会の委員で、国立感染症研究所の田代真人インフルエンザウイルス研究センター長が28日、ジュネーブで記者会見し、明らかにした。
米疾病対策センター(CDC)の分析で、ウイルスは、鳥および北米とユーラシア大陸の豚にそれぞれ伝わる型と人の香港型が交雑した「新型」と判明したという。人には免疫がほとんどないが、「強毒性」鳥インフルエンザと異なり、重篤な全身感染を起こす遺伝子が欠ける。田代氏は、季節性インフルエンザ同様、呼吸器感染にとどまり、「大流行してもそれほど大きな健康被害は出ないのではないか」との見解を示した。
田代氏はまた、新型インフルエンザの警戒レベルについて、「二次感染の拡大が確認されてきており『フェーズ5』と判断する条件がそろってきている」とした。
(2009年4月30日 読売新聞)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090430-OYT8T00287.htm
人・人感染続けば毒性上がる恐れも 豚インフルエンザ 2009年4月30日3時1分
豚インフルエンザ感染がメキシコや米国のほか、欧州でもじわじわと広がっている。
世界全体での今後の被害の大きさをはかる上で重要なのは、感染の広がりと、豚インフルエンザウイルスが人にもたらす重症度だ。
広がりをみるには、世界保健機関(WHO)が出す警戒レベルが重要。WHOは27日、「人から人への感染が広がっている」としてレベルを「フェーズ3」から「4」に引き上げた。今後の焦点は「5」に上がるかどうかだ。
判断した27日時点では、メキシコでは人から人への感染が連続して起こっているが、その他の国では二次感染がなく散発的という評価だった。フェーズ5へは、こうした二次感染による集団感染が2カ国以上で起きていると判断された場合に引き上げられる。
また、どの程度感染者が死亡するのかが大きな問題だ。例えば、日本で毎年のように流行するインフルエンザと似た程度(0・1%以下)なら、あまり恐れる必要はない。
WHOの緊急委員会に委員として出席していた田代真人・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長は28日の会見で「今回のウイルスは強毒型になるような変化は起きていない」と話した。米疾病対策センター(CDC)の動物実験でも、今回の豚インフルエンザは弱毒型だと見られている。
ただ、インフルエンザのウイルスは変異しやすい。弱毒型であっても、人から人への感染が連続して起これば、人に免疫の乏しいタイプに変わり、重症度が高くなることもある。1918年のスペイン風邪も弱毒型。最初は軽い症状から始まり、次第に重くなったとされる。
インフルエンザに詳しい菅谷憲夫・けいゆう病院(横浜市)小児科部長は「今回のウイルスは今後、重い症状を起こすように変化する可能性がある。一方で、あまり広まらないで世界から消えてしまうこともありうる」と語る。
感染者の症状はメキシコ以外では軽いとされるが、米国での入院患者は5人。外岡(とのおか)立人・元北海道小樽市保健所長は、「発病者の数からみれば決して軽くない」と指摘する。
「東南アジアに広がれば、(強毒性の)鳥インフルエンザとまざりあったウイルスが出てこないか心配だ」と伊藤寿啓・鳥取大教授。「この先どうなるかは各国の水際対策によるのではないか」と話す。
URL:http://www.asahi.com/international/update/0430/TKY200904290182.html
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